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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
二周目 クズと元恋人な会計
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こんなん部屋の角にいたら泣く


 日を改め、昼休みのチャイムが鳴った直後のことだった。


 つぼみが今日はどこのグループと一緒にお昼を食べようかと考えながら腰を上げると、廊下から悲鳴が響いてきた。悲痛な声がどんどん近づいてきて教室も騒然としだす。


 何事かと窓から身を乗り出すと、全力疾走してきた悲鳴の主がつぼみに気づいた。


「居たあつぼみいー! つぼみヘルプ!」


「とめき先輩!? どうしたんですか良いフォームですね! なんで半裸!?」


 目の前に滑り込み停止した十瑪岐とめきは夏服のシャツがはだけ、チャックも開いてズボンがずり落ちそうになっていた。


 つぼみは窓を乗り越え横につき、生徒たちの視線から十瑪岐とめきを隠す。が、つぼみの体が小さいので隠し切れない。


「うぅっ……もうやだあ。十瑪岐とめきをイジメるのはトメキハラスメントに抵触するんだぞお」


「トメハラ? それ使い方あってます?」


 十瑪岐とめきは乱暴されかけた乙女のようにしくしく泣いている。デカい体を折り畳んで横座りになった姿は同情を誘うものだった。


「なんと哀れなお姿になって。上半身のフォームの良さに比べてまだ下半身とピッチへの意識がおろそかです。ちょっとももの振り上げ方を指導していいですか」


「もっと別のとこ気にしてえ」


「ごめんなさい、つい。それで何があったんですか? 早く左乳首を仕舞しまってください」


 落ちていたベルトを渡して服装を整えさせる。あられもない格好だが、親戚の集まりですぐ全裸になって踊りだす酔っ払い達に比べればマシだ。

 十瑪岐とめきは涙を拭って鼻をすすった。


「情報もらうためにアポ取って部室へ行ったら、待ち構えてたヤツ(・・)にひん剥かれそうになって。やっぱ藪蛇やぶへびだったあ……」


「ヤツ……? 昨日言ってた情報通の人ですか」


 もっと聞き出そうとすると、十瑪岐とめきが何かの気配を感じて顔が真っ青になる。


「来たぞつぼみ! オレをかくまええっ」


「どわっ、躊躇ちゅうちょなく後輩の女子を盾にするとかこの人ホント!」


 しかし肩を掴む手が本気で震えているので突き出す気にもならない。十瑪岐とめきがこれほど怯えるとは。いったいどんな化け物が来るかのと身構えると、人込みから現れたのは予想外にも華奢きゃしゃ体躯たいく


「ふっふっふふふふふ……。ようやっと追いついたわ十瑪岐とめき君」


 這い寄るような声で方言を話すのは、不健康そうな少女だった。重たいほどの黒髪長髪で、印象に反して銀縁ぎんぶちのシャープなメガネをかけている。目元には濃いクマが刻まれその上には小さな黒目が覗いていた。頬はもはや痩せこけて見え、腕も足も見ていて不安になるほどに細い。


 彼女の周りには不思議とおどろおどろしいオーラが漂っている。事故物件ばかり三か所ほど内見してきましたみたいな雰囲気だ。


 やけに表情が掴めないと思ったら、っているのか眉がなかった。それが余計に少女から生気を遠ざけている。


 セーラーの袖には『取材中』と書かれた黄色い腕章が。つぼみはその腕章に見覚えがあった。というか、学園内で生活していれば一日に一度は必ず見かける。


 少女が幽鬼を思わせる足取りで近づいてきた。


「さあ……神妙にお縄について洗いざらい吐くんや」


「オレ悪いことはみんなバレてるから新しいネタなんて絞っても出ねえすよ!」


「ろくでもないなこの先輩っ。あの、新聞部の人ですよね、ごめんなさい。とめき先輩すごく怯えてて、このままだと廊下がいろんな汁で汚れそうなので一旦落ち着きませんか。というか何方どなたです?」


「ありゃ……こりゃすんまへん」


 つぼみの問いかけに首だけのお辞儀で不気味に笑う。十瑪岐とめき下卑げびた笑みとは違う意味で背筋が冷たくなった。


「あんたのインタビューの時はちょうど休んどったから……始めましてになるかいな。自分は新聞部部長……三年の芹尾せりおれい。三度の飯をないがしろにし真偽不明のゴシップ執筆に徹夜で励むタイプの……ジャーナリズム糞くらえ女や。以後お見知りおきを」


「雰囲気と自己紹介がいろいろと濃いのですが!」


「流されるなつぼみ。この人のそれは全部計算づくだ」


「ネタバラし早いわぁ……。ジャーナリストは取材対象の印象に残ってなんぼ。濃い味付けにするんは……当然やね? ちなみになぜか幽霊部員と間違われることがあるけど……ちゃんと活動しとるわ。失礼しちゃう」


「あ、そこは無自覚なんですね」


 幽霊部員は幽霊部員でも、霊障を起こすほうの幽霊と間違われている気がする。れいは生気のない目で首を傾げた。


「? 新聞部はむしろ……兎二得とにえ一勤勉な部活やで。週二回のペースで壁新聞を発行して……売り上げも上々なんやから。最新号買う? 一部五百円。各種カード払いにも……対応しとるよ」


「すごく気になるけど結構です。今月ピンチなので」


「そうかいな。そんでな……今日は十瑪岐とめき君のインタビューやったんや。でも逃げられてもうて……。さあ……部室へ帰ろうや?」


 おいでおいでと手を差し伸ばしてくる。その手を取ったら何処か得体のしれない場所へ連れていかれそうだ。十瑪岐とめきも涙目で叫ぶだけで近づこうともしない。


「入室直後に人の服をきだすののどこがインタビューなんすかねえ!」


「なんか隠し持っとらんかな思うて。それに記事の写真を……撮るだけやないの。今月の記事……テーマが『ありのままの自分』なんやから」


「ありのままイコールではねえ!」


「中途半端にまともな倫理観しよってからに……なんや疲れたわ。しゃあない、インタビューの続きは放課後にな。情報欲しいんやったら……今度は逃げずに来るこっちゃな」


 れいはにちゃっと陰険な笑みを残して去っていった。

 廊下に取り残された二人は、どちらからともなく顔を見合わせる。


「え~っと、ではわたしはこれで」


「待ってえ放課後ついてきてえ……」


 逃げようとして、泣きべそをかく男子高校生にすがりつかれた。




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