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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
十二周目 クズの矜持
124/132

期待されていなくとも


歌詞引用元

https://www.youtube.com/watch?v=00DPgfp7j3Y

─────────────────────


 スポットライトの下。十瑪岐が一歩下がり、まずは幸滉が前へ躍り出る。


〈初めましてお嬢さん 西の国から 愛のために貴女に 会いに来ました〉


 少年らしいテノールの爽やかな歌声に女子生徒からため息が漏れる。まるで本物の王子様のような圧倒的な存在感で観客の心を一瞬にして掴んだ幸滉は、そのまま片膝をついて架空の少女へ手を差し伸べた。


〈急な話ですがどうか驚かないで 僕のお姫様にね なってください〉


 そんな彼の後ろから十瑪岐が現れ、幸滉の肩に手を触れながら立ち位置を交代した。

 幸滉と同様に架空の少女を揶揄からかうようにその場でターンする。


〈悩んでるの? お嬢さん 浮かない顔は 似合わないよほらほら 耳を貸してよ〉


 腰を屈め耳元へ囁くように、甘ったるい低音で誘う。


〈もしも宜しければですが俺と一緒に 全て捨てて逃げよう 東の国へ〉


 二人はまた並び、幸滉から交互に歌声を響かせた。


〈寂しそうなその 紅い唇に〉

〈優しい魔法かけるよ〉


〈さあさ ドレスに着替えて 世界一のお姫様 踊りましょうか?〉


〈誰もが貴女を欲しがって〉

〈僕らを夢中にさせちゃって〉

〈奪うよ 愛のKiss〉


 十瑪岐が歌詞に合わせて幸滉の首筋を人差し指でつつくと、女子生徒が興奮のあまり数人倒れた。アドリブに驚く幸滉にニヤリと笑い十瑪岐は歌い続ける。


〈瞳閉じてプレゼント 空に光るあの星を 二人のものに〉


〈世界が貴女を欲しがって〉

〈俺たち本気にさせちゃって〉


〈〈その名は ジュリエッタ〉〉


 二人ではい! と拳を振り上げる。

 額を流れる汗が弾け、ライトに照らされ輝いた。




 会場の中ほどからステージを見上げる莟は、茫然と二人のパフォーマンスを見守っていた。


〈命に代えても 守り抜いてみせます さあおいで〉


 幸滉が優しく微笑むと自然と目が引き寄せられる。格好も相まって本物の王子様にしか見えない。これほどこの曲に相応しい男子高校生も珍しい。


 だが、様になっているのは幸滉だけではない。

 十瑪岐も負けていなかった。


〈後悔は させない 色褪せない景色へ さあおいで〉


 まるで愛おしい女性をいたずらに誘うような表情でウインクをする。


〈〈選んで?〉〉


 ダンスもウインクも、あれだけ下手クソだった十瑪岐がこうして表情まで作れている。それだけではない。歌もダンスも文句の付け所がない。


 予想以上の上達に、莟はひたすら度肝を抜かれて口を半開きにしていた。


〈渡したくない 他の誰かには〉


〈譲れないのさ誰にも〉


 最初に王子対決だと聞いて想像していた大差の敗北とは違う。

 これは紛れもなく、二人の(・・・)ステージだった。




 会場の最前列で二人を見上げる女子生徒は、幸滉に密かな憧れを抱いていた。一度も彼と言葉を交わしたことはないが、せめてと思って朝からこの位置に陣取って彼の出番を待っていたほどに。


 なのに少女は思ってもみなかった方向から衝撃を受けていた。


〈さあさ 裸足で駆けだせ 世界一のお姫様 夢の世界へ〉


 跳ねる黒髪がオレを見ろと叫ぶかのようだ。

 飯開のSNSで見たダンスは酷い有様だったというのに。


〈不安な想いは消し去って〉


 幸滉の格好良さは当然だ。幼い頃から幅広いダンスパフォーマンスに触れてきた少女の目からしても、幸滉のステージはもはや垂涎ものの完成度だ。その証拠にスマホの録画画面はずっと彼を追っている。


 だが視線は不思議と十瑪岐のほうにも引き寄せられていた。


〈ちょっぴりルール破っちゃって〉


〈〈狙うよ 愛のKiss〉〉


 幸滉を王道の優しい王子様とすれば、十瑪岐は型からはみ出た強引な王子。幸滉よりも大振りで大げさなフリにも愛嬌がある。


 伝え聞く葛和十瑪岐の人物評は王子様とは程遠い。だが今この時、ステージの上で“王子役”として輝く彼は間違いなく王子様だった。


〈手を繋いで連れてくよ 海に眠る宝石を 二人のものに〉


 かと思えば、幸滉がメインで歌っているときの十瑪岐はひたすら盛り上げ役に徹している。

 一歩引いて入れるコーラスは幸滉のそれよりも上手い。ゆえに幸滉がさらに引き立つ。


 あれだけ我が強く自分勝手な男が、他人を立てる立ち回りをするなんて。


 すごい、と素直にそう思った。この会場にそこまで気づく生徒がどれだけ居るか分からないが、少なくとも芸術に一家言ある少女には十瑪岐がどれだけの努力を積み重ねたか理解できてしまう。


 そのせいか、幸滉目当てで見に来たのに、いつの間にか十瑪岐からも目が離せないでいる。


〈世界が貴女を欲しがって〉

〈僕らを本気にさせちゃって〉


 ステージの熱に意識がどっぷり浸かって戻れない。


〈〈その名は ジュリエッタ〉〉


 少女はいまこの時、まさに二人の王子様から愛を囁かれるお姫様の気持ちを味わっていた。




 会場の後方。その少年は困惑と共にステージの大画面を見上げていた。


 おかしい、と。心中で毒づく。


 少年は自分を散々コケにし脅迫していた葛和くずわ十瑪岐とめきを笑いものにするために、コンテストを見に来たはずだった。


 なのに彼らのパフォーマンスに気分がどんどん高揚していくのを感じて、少年は自分でも説明できない感情の噴出に困惑してしまう。


 十瑪岐に突然呼び出されたのは一週間前のことだった。喫煙の証拠として脅しのネタに没収されていた吸い殻を返却されたのだ。しかも対価はいらないという。握った弱味を一度も活用しないまま手放すなどこの葛和十瑪岐にあってはありえない。何を企んでいるのか。


『そうか、これは返すからプリコンでお前に投票しろってことだな。飯開先生の上げてるやつちょっと見たけど、あれじゃ勝てるわけないからな』


 ふとした思い付きだったが、口にすればするほどそうとしか思えない。だが十瑪岐はため息混じりに首を横に振った。


『違えよ。集めたもんを返却して回ってんのは自分を追い詰めるためで、あくまでオレの事情だ。お前の意思は関係ねえしどうでもいい。コンテストの結果もお前とは無関係だ。投票したいってんなら、見て良いと思ったほうに入れればいいんじゃねえ?』


 少年のことなど本心から興味がないといった様子だった。

 本当なら安心すべきことだったのに、なぜか逆に癇に障った。


 だからわざわざクラスの屋台を抜け出してステージを見に来たのだ。

 無様な十瑪岐のステージをこき下ろすために。


 だというのに──


〈貴女のことしか見えなくて〉

〈僕らの本気を見せちゃって〉


 自分はなぜ、彼らに目を奪われているのか。


〈〈その名は ジュリエッタ〉〉


 はい! っと二人がジャンプする。

 思わずつられて身体が動きそうになって、少年は自分が純粋に楽しんでいる事実に気がついた。




 アウトロが収束し曲が終わってもまだ歓声が鳴りやまない。

 十瑪岐は息を切らせ大きく肩を上下させながら、幸滉に促されて共に頭を下げた。


 大量の汗を流しふらふらとした足取りでステージ袖にはけていく。十瑪岐の顔には、全てを出し切った満足気な笑みが浮かんでいた。


 そんな彼を、鳴乍は莟の隣でじっと見つめていた。


 司会者が出てきて何やら喋っているが耳に入らない。聴こえてくるのは自分の早くなった鼓動ばかり。心だけまださっきのステージに取り残されているかのようだ。


 まだ熱に浮かされているのだと、思考の隅で自覚する。


 一瞬たりとも目が離せなかった。最初から十瑪岐を見守るつもりではあったけれど、まさかこれほど惹き付けられるとは。


 普段の十瑪岐はどちらかと言えば、情けない。

 よく文句をわめくしすぐに泣く。他人をあざけるくせに不利になるととっとと逃げる。とても褒められた人種ではない。格好いいなんて口が裂けても言えないくらい。


 けれど、ステージ上の彼は──


「とめき先輩、かっこよかったですね!」


 隣の莟が満面の笑みで鳴乍を見上げて言う。それで我に返った鳴乍は、彼女の人懐こさが移ったみたいに笑った。


「そうね。すごく格好良かった。本当────なんだかえっちだったね」


「どこにそんなリビドーが!?」


「はだけた胸元とか乱れていく髪型とか。まさにエロティシズムの権化だったと思うの。そうでしょう?」


「えっ、共感を求められてる……? 何て言うのが正解なんですかこれ」


 つい気恥ずかしさで茶化してしまって、鳴乍はもう一度ステージへ目を向ける。そこにはとっくに十瑪岐はいなくて、すでに次の出場者の番になっていた。


 終わったのだと何度も繰り返し自分に言い聞かせるけど。

 まだ、心音は落ち着いてくれない。


 とりあえず生徒会権限を乱用して録画映像をぜんぶ貰って永久保存しようと決めた。


 【十ニ周目 フィニッシュ 十三周目へ】



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