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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
十一周目 踏み出すクズと足踏みしたままの彼
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イメチェンしてみてどうでした?


 文化祭二日目のプリコンステージまで、残り二十一日と迫った金曜日。ミスコンもプリコンも出場者推薦の受付が締め切られ、広報活動は本格的に動き出す。


 校内に貼り出される出場者紹介のチラシを作製するため、今日は朝から順に新聞部による各個人への簡易インタビューと写真撮影が行われることになっていた。


 十瑪岐の順番はちょうど折り返しで、昼休みの後半になったわけだが。


「なあ、本当にここまでやんなきゃなんねえの? 選挙ポスターじゃねえんだからさあ」


「こら、じっとしてて十瑪岐くん。まぶた挟んで拷問みたいになっちゃうよ」


「ワックスありましたー!」


「莟ちゃん……ありがたいわぁ……。いやぁ……手伝ってもろうて……スケジュール押してるさかい、手が足りんで……困っとったんよ」


 椅子に押さえつけられるように座らされ、三人がかりでメイクを施されていた。


 細かな装飾は新聞部の部長、芹尾せりおれいが。そして顔を鳴乍、髪を莟が担当しているらしい。

 らしい、というのは十瑪岐が化粧に詳しくないせいだ。


 頭やら顔やらをわちゃわちゃ弄られ、十瑪岐には何が何だか分からない。顔じゅうに粉を叩きつけられ眉や目元を整えられる。自分は化粧などまったくしないし、一緒に住んでいる家政婦さんも常にすっぴんだ。十瑪岐からすれば未知の行為である。ひたすら受け身でされるがままになるほかない。


「我ながら会心の出来ね。十瑪岐くん、こっちよ」


 鳴乍に促される。羽織らされていたケープを取って席から腰を上げれば、そこにはかつてないほどに着飾った自分がいた。


 着ている衣装は演劇部からの貸し出しだ。

 青みがかった濃いグレーが基調の肋骨服。細かな意匠にもこだわりを感じる。生地も良い布を使っているのだろう。威圧感があり、コスプレをしている感覚はない。


 普通に授業を受けて過ごしていると忘れがちだが、さすがは金持ち学校の兎二得学園だ。備品一つをとっても高級感がある。なぜかサイズもピッタリだ。しかし問題が一つ。


「肋骨服って確か軍服じゃねえの。王子じゃなくねえすか」


「細かいことは……気にしない。似合ってて格好良ければ……女子はテンション上がるもんや。十瑪岐君にはそれが一番、似合におうとるよ」


 衣装を用意したれいが満足顔で腕を組む。十瑪岐はもう一度、鏡で自分の姿を見直した。


 確かに幸滉のような純白のマントがヒラヒラしている衣装なんかよりはよっぽど、十瑪岐に似合っていた。化粧も気の強さを助長させるよう意識されているようだ。うねる黒髪は横髪を掻き上げ生え際を出している。


 悪役の将校っぽいなと十瑪岐は心中でごちた。最初は味方のふりをして登場するが途中で裏切り、最終戦で主人公と一騎打ちするタイプの堂の入った悪役。いっそ仮面でも付けてみようかという気になってくる。


 この姿なら確かに強いインパクトはあるだろう。受ける印象が良いものかどうかは人それぞれだろうが。


 十瑪岐は白手袋をはめ、思わず目にかかった前髪をつまんだ。


 髪をストレートから本来のゆるめなパーマに戻したのは、パフォーマンスの練習を始めた頃からだ。イメージ戦略担当の由利ゆりから、視覚的な印象を変えたいと提案されたからなのだが。


 十瑪岐としてはこの髪型に苦い思い出があるので気が重かった。

 だが印象を一新するこの作戦は功を奏しているようで、周囲の十瑪岐を見る目は以前とどこか温度が違う。特に女子生徒たちの視線には熱が籠るようになった。


(髪型程度でこうも変わんだな)


 十瑪岐自身はなにも変わっていないというのに。


「十瑪岐君……やっぱ顔ええなぁ。んじゃはよ……隣の部屋で写真撮ってきてもらえるやろか。インタビューの時間……残ってないさかい……後日また、時間頂戴な」


「うっす」


 なんにせよ、求められた働きをしなくては。



      ◇   ◆   ◇



「お、撮影はやっぱ裕子ゆうこちゃん担当かあ。良かったあ。緊張ほぐれたわ」


「しとけ緊張」


「互いのパンツの色まで知ってる仲なのに冷たぁい」


「いい加減に法に訴えるぞクズ男。こっちはさっさと終わらせたいの。こっち来て。言われた通りにやってよ」


「はいはあい」


 二三言のじゃれ合いののちに十瑪岐の撮影が始まる。


 それを後ろで見学する莟はハッとひらめいた。これは鳴乍に十瑪岐をアピールするチャンスではと。


「鳴乍先輩、どうですかあのとめき先輩。すごいキマってますよね。大ゴマの連投で最期を迎える敵将って感じ。これはとめき先輩が実はイケメンってバレちゃいますよ。さしものわたしも、やや心持ち若干ちょびっと見惚れちゃいましたもん」


「ええ。あれなら並みいる参加者なんて目じゃない。勝ったも同然じゃないかしら」


 自分なりに十瑪岐を持ち上げてみると返って来たのは同意だった。お? っと思って見上げると、鳴乍は自慢げにほくそ笑んでいる。


(あ、駄目だこれ)


 自分でメイクを施したからなのか、見る目が完全に親バカ方面のソレになってしまっている。我が子の発表会の動画を延々と見せて来る親戚のお姉さんと同じ表情だ。


(どうしようもないや。ごめんなさいとめき先輩。不甲斐ないわたしを許して……)


 莟はこういう時だけ諦めるのが早かった。


 同情の視線を向ければ、撮影のほうも順調とは行っていないようで。


「だぁーっ! その汚物みたいな目付きをやめろ! もっとキリッとしなさいキリッと」


「これでも精いっぱいなんだけどお? もっと具体的な指示ちょうだいよお裕子ちゃん」


「クソが。あ、昨日の晩御飯はなんだった?」


「なにい急に。カレイの煮つけだけど」


「その前日は?」


「えっと……鶏肉のソテー」


「その前」


「その前!? あー…………なんだったか」


「魚、肉、と来てるから野菜? もしくは麺とか?」


「あ、それだわ! ペペロンチーノ作ったあ」


「──っし! 自然なの撮れた!」


「えっ、ずっと撮影してたのお? 見ぃせえてぇ。……うっそだろすげえ。オレがちゃんとキリッとしてるぅ。まさに奇跡の一瞬って感じ。さすが裕子ちゃん。もうプロじゃねえか」


「ふんっ、このくらい当然。まぁ褒められて悪い気はしないけど。あと三分で何パターンか取ってしまうよ。今度はそっちの高そうな椅子持ってきて。ふんぞり返ってて」


「任せろお、そおいうのは得意だぜ」


 苦戦していたようだが、どうにか撮影は終わりそうだ。



      ◇   ◆   ◇



 隣室で撮影が進むなか、芹尾せりおれいは手の中でアクセサリーを弄んでいた。


 それは紛れもなく、十瑪岐がいつも耳に付けているイヤーカフだ。化粧のどさくさに紛れて取っておいたのだ。


「手荷物にも……服の中にも目ぼしいネタはあらへんかったもんなぁ。さぁて、やっと手に入れたこれは…………ビンゴや」


 イヤーカフにはなぜかGPS機能も付いている。怖っとなりながらもさらに弄ると、つなぎ目から割れることに気づいた。


 丁寧にずらすと、中からマイクロSDが出てきた。さっそくデータを確認するために読み込みを始める。迅速な手際だ。


 起動を待ちながら、れいは視線だけ一瞬、隣室へ向けた。その先にいるはずの後輩のことを思い出す。


 かつての自分との交渉において、十瑪岐が何か切り札を持っている気配はしていた。


 情報戦において後手に回る気はない。だからその切り札が何かずっと探っていたのだが、これといったモノが見つからなかったのだ。


 最初から切り札などなかったのか、それとも巧妙に隠しているのか。


 外部から探れるものでないのなら、彼が保持している可能性が高い。十瑪岐の性格ならそれを常に身に着けていてもおかしくないだろう。


 そう目星をつけて近づいて、やっと見つけた。今まで服を剥いだりベタベタまさぐったりした甲斐があった。十瑪岐がすり替えに気づく前に中身を確かめなければ。


 マウスを素早く滑らせる。SDの中は予想に反して、データが一つ入っているのみ。ウイルスは検出されていない。隠しデータも無いようだ。念のために回線から端末を切り離し、無題のそれをダブルクリック。


 画面に表示されたのは軽量のpdfデータだった。内容はとある診断書──いや、証明書だ。


 隅々にまで目を走らせ、れいは拍子抜けして背もたれに身を預けた。

 データの内容は想像していたようなものではなかった。間違っても切り札などではない。それどころか──。


 れいは首を傾げながらも、イヤーカフを元通りに組み立ててしまう。純粋な疑問が口をつくのを止められないままに。


「十瑪岐君はどうして……こんな当たり前(・・・・)のもん(・・・)……後生大事に身に着けとるんやろ?」



  【十一周目 フィニッシュ 十二周目へ】

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