表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
十一周目 踏み出すクズと足踏みしたままの彼
113/132

イメージ戦略は万華鏡めいて


「陸上部の新條しんじょう由利さん……だったかしら。ごめんなさい、私も少し置いていかれてて。どうして歌って踊る結論になったの? 急に理論が飛躍した気がするのだけれど」


 困惑する十瑪岐と莟のためだろう、鳴乍が軽く手を上げて質問してくれる。由利はまた自信満々に答えた。


「『葛和十瑪岐』への好感度はすぐには変えようがない。だから視点を変えるんです。王子様にはなれなくとも、王子様役にならなれるのです」


 ふふんと胸を張る由利に、莟は首を傾げる。


「由利ちゃん、私生活がただれてる舞台俳優が好きなキャラのキャストに決まったとき、荒れてなかった?」


「いやほら、あのニ.五次元俳優がどれだけクソナンパ野郎でも、舞台の上だとやっぱりカッコいいんだよねー」


「それはキャラのイメージが乗り移ってるだけじゃ?」


 思わず言うと、由利が「そう、それ」と指を鳴らした。


「その人の内面がどうでも、舞台の上でなら別人になることを許される。そして舞台という非日常の中では、観客は現実を忘れ、その役にのめり込めるってわけ」


 この三つ編み少女、どや顔である。完全に自分の好きな分野の話で盛り上がってしまっている。十瑪岐は苦々しい表情でストップをかけた。


「待て待て、方向性を変えるのは良い方法だと思う。だがよお、オレにゃあ爽やかな王子様の演技なんて出来ねえよ」


 周囲からもそりゃそうだろうなと無言の同意がある。だが由利は薄くため息を付き、ろくろを回すように手をまごつかせた。


「いやいや、だから皆さん勘違いしてますって。王子って立場を示す言葉であって、属性を示すわけじゃないでしょう。悪役だろうとクズだろうと王子として存在するなら何があろうと王子です。十瑪岐先輩には『ヒール王子』を目指してもらいます」


「悪役は正義ヒーローに負けるもんだろ。それであの正統派王子に勝てるのかあ?」


「少年誌とかの人気投票見たことないんですか? 悪役が主人公より人気取るなんて珍しくもないですよ。ていうか女子って意外と悪役も大好きだし」


 十瑪岐にはピンとこない理論だったが、聞いた何人かが納得しているので十瑪岐も引き下がるしかない。


「だがそれって、キャラの積み上げがあるからこその人気じゃねえのお? この案だとオレぽっと出のエセ王子にしかなんねんだけどお」


「ふふん、そこも考えてますとも。エセにならないためには、王子属性を強めるためには、他から借りてくればいい。ちょうどめっちゃ王子っぽい人がいるでしょ? 広報のためには敵も利用する。コンテストの個別アピールタイムを幸滉ゆきひろ先輩と合同にしてもらうのって可能ですか?」


「ああ、詳細はこっちで決めるって言ってあるから、まぁ可能とは思うが」


「じゃあおーけー。幸滉先輩と対等にパフォーマンスできれば、観客は自然と二人のうち(・・・・・)から好みの(・・・・・)ほうに(・・・)投票(・・)するって意識になります。お手軽に仲間入り。同パーティーに入ることでメンバーに王子属性を付与するパッシブを強制発動」


「それ……比べられて終わりだろ。残酷な比較を受けてオレ惨敗の流れじゃあ」


「だから対等に扱われるよう持っていきます。別々ではなく、コンビとして認識してもらうんですよ。いるでしょう、男性アイドルグループでもそんな顔良くないのに人気ある奴。あれ箱推し効果の相乗効果ですから。相互に好感度を補い合ってるんです。底上げの下駄履かせに過ぎないってこと」


「大丈夫ぅ? その発言はいろんな方向から怒られて株価が下落しねえ?」


「そもそも二人は兄弟だし、セットで語られがちだから大丈夫。当日の舞台演出は爽やか正統派王子とニヒルな悪役王子の対比で魅せましょう。うーんこれは胸が高鳴る。演出のし甲斐がある! 十瑪岐先輩には当日までに、この役柄に相応しくなってもらわなくちゃ」


 どんどん話が進んでいく。反論する者も無く、もう決定らしい。どこまでも押しが強引な少女だ。十瑪岐は半ば涙目になって机に上体を転がす。


「らしくつってもよお。どうすりゃいいのお? コスプレして校内でも練り歩いてくりゃあいいのか?」


「はあぁ? 愛のないコスプレなんてファンの逆鱗に触れるだけだから駄目絶対地雷言ってるでしょ死ね」


「お、おぅ……すまんです」


 濁った眼で詰め寄られて恐怖のまま謝罪が口をついた。この子に何があったんだと戦慄する。逆に涙が引っ込んだ。


 由利はすぐ上機嫌に戻って話を続ける。


「あとは舞台だからこそできる魔法をかけます。十瑪岐先輩にはその練習にひたすら打ち込んでもらいましょう」


「まさか、その魔法というのが……」


「そう! ライブです! 歌って踊るんです!」


「それがなんでえっ!? なんだオレの理解力の問題なんか!?」


「いえ、わたしもよく分からないから大丈夫です」


 莟も十瑪岐に賛同する。コンテストでライブをする意味とは。


「音楽の力を馬鹿にしちゃいけないよ莟ちゃん。古今東西、集団生活に音楽は必要不可欠。音は興奮を、歌詞は共感を刺激する。心理的距離を近づけるんだよ。新興宗教だって集会で信者に歌唱とかさせるんだし。あれだってちゃんと求心の意味があるんだから。ていうか、十瑪岐先輩って声がめっちゃエロい。活用しない手はない。広告の大原則、強みは生かす。普通にトークしたり特技を披露するよりは効果があるのは間違いなし」


「オレ、歌はまだしもダンスなんてできねえぞ。見るぅ? ブレイクダンスがのたうち回るトドにしか見えねえ地獄の光景」


「とめき先輩、身体硬いですもんね。わたしはブレイクダンスはもちろんムーン・ウォークだってできますけど」


「そこー、張り合わなーい。じゃあ莟ちゃんが教えてあげればいいんじゃない?」


「いや……わたし人にモノを教えるの苦手で……」


 莟がさっと目を逸らす。莟は運動においてどちらかと言えば天才肌のフィーリングタイプで言語化は不得手だ。十瑪岐は言葉で説明されたほうが納得のいくことが多いから、相性はよろしくない。


 肝心のパフォーマンスが上手く行かなければ、作戦は失敗も同然だ。対戦相手と同じ舞台で同じものを披露するなら、負けたほうはより惨めさが際立つ。票を得られるわけがない。


 また会議が行き詰まる。すると勝手にお茶のお代わりを用意していた冥華がこともなげに告げた。


「そこは飯開はんがい先生に協力してもらえないの? あの人、大学までダンススクール通ってたって、体育の授業のときに臨時講師してたらしいよ」


佐上さがみさん、それは本当なの?」


「生徒会役員でも知らないの? ……あ、そっか。受け持ちだった三年生しか知らないことかも。メイカも火苅かがりから聞いただけだから」


「おお、情報ありがてえ。駄目もとで頼んでみるか。足元見られるだろうなあ……」


 予期せぬ助け舟に光明が差す。

 一区切りがついて、鳴乍がここまでの流れを総括した。


「方向性は決まったね。十瑪岐くんには最終的に王子役としてステージに立ってもらう。観客には、その演技を評価してもらうよう誘導する。問題はどうプロデュースしていくかだけれど」


「メイカの素人意見だけど、こういう時、本人があれこれ進めても逆効果じゃない? さっきも出てたでしょ、坊主憎けりゃって」


 冥華の言葉に由利が同意する。


「ご指摘の通りなんです。この人発のアピールは見向きもされずにシャットアウトされる可能性が高いです。だから情報源は、できるだけ十瑪岐先輩から遠いところがいい。近しいとこからじゃ擁護にしか見えないから。その点で言うとまず本人は論外」


「またオレ論外……。だから余計なことすんなって言われたのか」


「あと体育祭で絡みが全生徒に周知されちゃった莟ちゃんと久米くめ先輩もアウトです。そうなると頼れるのは第三者。もしくは中立の報道機関になるわけですが……」


「ぼ、僕ら新聞部の出番、だね。ちょうどプリコン関連の記事をとと、特集するから」


「はい。あとは、十瑪岐先輩の評判が一番悪い三年生での宣伝をどうにか別にひとルート確保したいとこなんですが」


「だったらメイカ達がやるよ。体育祭での協力体制は周知されてないし、家業だって葛和とは全く接点ない。条件には当てはまってる。なにより火苅かがりは嘘をつかないって信頼されてるから」


「体育祭の団長副団長コンビが味方に!? 莟ちゃんの交友関係ヤバっ。ていうか信頼されてるのは佐上さがみ先輩もですよね。相談すると変に同情されない中立な意見が訊けるって評判、一年生にまで聴こえてますからね」


「は? それは本当に同情してないから冷たい反応になるってだけで」


 由利に褒められちょっと顔が赤くなる。照れているらしい。ここに火苅が居たら黄色い悲鳴のあとに即、写真撮影が始まっていただろう。呼ばなくて良かったと十瑪岐は自分の判断の正しさを実感する。


「というわけで広報戦略練りまーす。そこの三人は戦力外。どっか行っててくださーい」


「「「えっ?」」」


 議題の中心人物だったはずなのに、ポイっと部屋から追い出される十瑪岐、莟、鳴乍の三人だった。



      ◇   ◆   ◇



 文化祭の準備期間であろうと、噂好きの兎二得生は今日も新しい話に飢えている。理事会の不祥事、第一校舎の怪談、隣のクラスの恋愛模様。話題は目まぐるしく飛び交う。

 そんな彼らにピッタリのコンテンツがお届けされた。


 インパクトがあり、斬新であり、興味を引かれるエンターテイメント。話題の中心はすっかり葛和兄弟だ。


「ねぇ壁新聞もう見た?」

「もっちろん。有料版買った」


 廊下で女子生徒たちが華やいで立ち話をする。


 新聞部が定期的に発行する壁新聞は、校内のゴシップや噂を扱うために読者が多い。今週はミスターコンテストに関する特集記事だ。現時点で出場が決まっている面々の紹介が載っているのだが。


 踊る見出しは、『信念をかけ、葛和兄弟ここに世紀の一騎打ち!』である。


 もちろん他にも出場者は十数名いるのだが、話題作りのためだろう。幸滉ゆきひろ十瑪岐とめきの扱いが一番大きいのは言うまでもない。


 二人の詳しいパーソナルデータだけでなく、この勝負が互いへの命令権を賭けていることまで書かれている。


 兎二得学園は話の広まる速さが凄まじい。たった半日で兄弟の勝負は全校公認のものとなっていた。


「ってかクズのほうが勝つわけなくね?」

「勝負見えてるわぁ」

「なんか当日は二人でパフォーマンスするらしいぜ。歌って踊る飛び跳ねる! 葛和十瑪岐、練習ですらめっちゃ苦戦してんの」

「それどこ情報よ」

「それが、さっき三年生がさ……」


 三年生の教室は、角度が少し違う話題で持ち切りだった。


「ねぇ! ずっと更新止まってた飯開はんがい先生のインスタ、投稿再開してんだけど! ていうかSNS系全部稼働してないこれ?」

「とっくに知ってる。先生、元気そうで良かったよね」

「ていうかこっち見て。飯開はんがい先生、葛和兄弟のインストラクター引き受けたんだって。さっき動画上がってた」


 画面をタップすると自動で動画が再生される。

 映っていたのは、飯開の手拍子に合わせてステップを練習するTシャツ姿の幸滉と十瑪岐だった。昨日の放課後の様子らしい。


 難所も危なげなくこなす幸滉とは対照的に、十瑪岐は足をもつれさせ、どういう原理かきりもみ回転で転げ散らかしている。


 飯開教諭を追い出した憎しみの対象が無様を晒している動画は、三年生達の心を掴んだらしい。あっという間に拡散され再生回数が伸びていく。


「くっそウケる! こいつ不器用すぎだろ! 本番まともに踊れるのか?」

「てか飯開はんがい先生と葛和くずわ十瑪岐とめきって本当に仲直りしてたんだな」

飯開はんがい先生優しいからなぁ。あんなクズでも許しちゃうんだろうなぁ」


「つうかさ」


 誰ともなく気づいて首を傾げる。


「こいつ、こんな髪だったっけ?」

「根性だけじゃなくて毛根までねじ曲がってんじゃね?」


 動画に映る十瑪岐の黒髪は縮毛のようにちぢれてうねって、どこか別人のようだった。


 飯開はんがいのSNSには、これから毎日、練習風景を投稿する旨が書かれている。



      ◇   ◆   ◇



 昼休みになって、広報担当の三人がこっそり集まった。学年もバラバラで普段は接点のないメンバーだが、顔を合わせた途端、全員がにやりと相好を崩す。


「良かった~。上手く話が広まってくれた。特に三年生の情報伝達、ありがとうございます。やっぱり信頼されてる窓口があると楽ちんですね」


「別に。ほとんど火苅かがりにやらせたし。それにこんな勢いついたのは新聞部の広報あってこそ。というか本番はここから」


「だ、だね。策は一つじゃな、ない。大きいのも、ち、小さいのも。どど同時進行していかない、と」


「まぁ、第一段階はクリアってとこでよくないですか? 十瑪岐先輩はレッスンで体力使い果たして余計なことできないよう誘導できたし」


「あそれ大事。自作自演が結局は一番嫌われる」


「た、叩かれないようにが、一番大事、だね」


 深く頷き合う三人である。


 三人の中で一番落ち着いているからか、自然と冥華が話の進行をしていた。


「周知は成功。印象操作もじきに機能するはず。あとは実益が欲しい。票を確実に入れさせるもう一手。何かアイデアは?」


「「それなら」」


 由利と楠間田くすまだ同時に口を開く。互いに一瞥を交わし、交互に言った。


「女子票を集める策をつぼみちゃんから」


「だ、男子票をあつ、集める策を、十瑪岐とめきくんから」


「「預かってます」」


 二人の眼は友人への信頼で輝いている。


「ふっ、優秀」


 やはり自分で考えて先んじて動く相手とだと楽できていいなと、冥華はここにはいない相方を思って笑うのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ