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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
十一周目 踏み出すクズと足踏みしたままの彼
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うかうかしてても羽化


 幸滉ゆきひろに勝利するためには、十瑪岐とめきが彼よりも王子様っぽくならねばならない。そんな不可能としか言えない条件を前に、十瑪岐はすっかり心が折れていた。


 机の下に小さくうずくまっている。心なしか周囲の空気もじめじめしていた。


 莟は呆れながらも、少年の様子を見て覚悟を決める。


(落ち込んだときのわたしみたいだ……。頑張って励まさないと!)


「とめき先輩、大丈夫ですよ。なんとかなりますって」


「なんとかってなんだよお。こと『王子様』ってくくりで幸滉よりオレを選ぶ人間がいるってのかあ? んな奴いねえよ」


「分かりませんよ。この世にはカレーも唐揚げもオムライスも嫌いっていう人間がいるし、パクチーを本気で美味しいと感じて注文する人種もいるんです。だったら幸滉先輩よりとめき先輩を選ぶ人がいてもおかしくない。母数がゼロじゃなければ戦えます」


 キレのあるシャドーボクシングを披露すると、十瑪岐がもぞもぞ動いてちょっと顔を上げる。


「じゃあオレの王子っぽさってなに」


「それは……」


「ほらなあ。オレの顔見て王子を連想すんのは無理だ」


「造形は悪くないし、どっちかっていうと格好いいんじゃないですかね」


「王子にしちゃあオレは言動が後ろ向き過ぎる」


「それに救われてるわたしみたいな人もいますよ」


「何より人の上に立つのに必要な誠実さが見て取れねえ!」


「それはそう! ────あっ」


 やべぇと口をつぐむが遅い。十瑪岐はまた塩をかけられたナメクジみたいに縮こまってしまった。



      ◇   ◆   ◇



「……というわけで、情緒不安定というかもう超々不安定って感じで手に負えないんです。どうかアレを全肯定で叱咤激励してあげてください。わたしじゃ無理です」


 第一助っ人として鳴乍を引っ張って来た。とにかく十瑪岐にやる気を出させねば勝てる勝負も惨敗になる。


 叱られた大型犬みたいに物陰に縮こまっている十瑪岐を見て、鳴乍はショックを受けたように口を手で覆った。瞳にほの暗い輝きが宿っている。


「弱ってる十瑪岐くん、可愛い……」


「その方向性は駄目です。しまった人選ミス。この人は甘やかす派の人だった」


「甘やかすだなんてそんな。本人のためにならないことはしないよ。無遠慮にわがままを受け入れて好意に依存させて飼い殺したいなんてちっとも思ってないもの」


「その口ぶりで本当にちっともてんで欠片も思ってない人には出会ったことないんですが」


「それに十瑪岐くんの良い所を一番知っているのは莟ちゃんじゃないの? 両想いなんだから」


 鳴乍はどこか寂しげに微笑み、莟の手を取る。焦りに苛まれている莟は意味を取り違えた。


「確かに同レベルというか、見ているものは似てるんですよね。だからとめき先輩の価値観に共感してしまって、だからこそ打開できないんです。別の視点でいてくれる鳴乍先輩みたいな人がいないと、たぶんわたし達みたいな人種はどっかで駄目になるんですよ」


 手を握り返して鳴乍を見上げる。じっと見つめると、彼女の眉間のしわが溶けていった。


「そうね。二人が私を必要としてくれているのは分かった。体育祭では助けられてばかりだったものね。私にできることならなんでも協力する。私は二人が大好きだもの」


 鳴乍は十瑪岐にそっと近寄り、いじけた少年に囁きかけた。


「ほら、十瑪岐くん。いつまでも現実から目を背けていないで、作戦を練るのよ」


「……練ったところで消しカスは練り消しじゃねえカスなんだよお」


「そうね。クズはどこまで行ってもクズだもの。けど、ねぇ十瑪岐くん」


 柔らかに頭を撫でる。十瑪岐が微かに震えて顔を上げる。鳴乍は慈愛に満ちた表情で、いたずらっぽく舌を出した。


「貴方が変わる必要がいったいどこにあるというの? 変えるべきはアプローチでしょう」



      ◇   ◆   ◇



 放課後の生徒会棟に人が集められた。莟が新しく作ったグループラインで連絡をとる。招待したのは六人だ。


 十瑪岐と椎衣、それと鳴乍に加えてあと三名。


「事情は分かった、よ。そ、そそれで僕らをあつ、集めたんだね」


「『損得勘定なしに協力してくれそうな人に声をかけた』って誘われたけど、まさかメイカとこいつの二人だけ? どんだけ味方少ないの葛和くずわ十瑪岐とめき


 下着窃盗犯捜査のときに使っていた部屋に、彼らは来てくれた。


 新聞部部員、楠間田くすまだ想示そうじ

 元体育祭黄団副団長、佐上さがみ冥華めいか


 前者は苦笑しつつ、後者は面倒くさげに席に着いた。

 二人とも背が低いほうなので威圧感はないが、頼もしい助っ人だ。


「いやあ、二人ともわざわざありがとねえ。特に冥華ちゃん、来てくれるとは思わなかったぜ」


 鳴乍による怒涛の褒め殺しタイムを経てふてぶてしさが回復した十瑪岐がニヤついて握手を求める。メイカはそれを見下ろすだけで鼻を鳴らした。


「言ったでしょ。受けた恩の分は協力するって。ていうか、なんで誘ったのメイカだけ? 本命は火苅かがりでしょ。連れて来る?」


「いやあ、まだいい。コミュニケーションとるなら話の通じる相手とがいい。あと情報漏洩が心配」


「あぁ……。火苅はメイカのこと以外はどうでもいいから、大事な話も口からとめどないもんね。賢明な判断かな。家に置いてきて正解だった」


 冥華めいかが納得した様子でお茶請けのチョコレートをつまむ。彼女が腰を落ち着けたのを見て、十瑪岐は今度は楠間田へ視線を向けた。


楠間田くすまだ君も来てくれて助かるわぁ。体育祭のときから迷惑ばっかかけてごめんねえ」


「それはおた、お互い様だから。ち、力になれるなら、よ、喜んで手を貸すよ。ところで、ぐグルチャだともう一人、いたよね。あ、あああれはどなた?」


「ああ、オレもよく知らねえんだが。莟が呼んだんだよなあ」


 視線が莟に集まる。莟が説明をしようと腰を上げた時だった。太い三つ編みを勢いになびかせた少女が部屋に飛び込んで来た。


「莟ちゃんおまたせー。悪だくみ会場はここで合ってる?」


 楽しそうに笑って部屋の中ほどまで入って来る。陸上部で見た顔だなと十瑪岐はすぐ思い出した。莟の友人の新條しんじょう由利ゆりだ。


 由利ゆりは目を輝かせて集まっていたメンバーを見渡した。


「なんでも悪役ヴィラン専を王子様キャラとして売り出したいらしいね。いいよ。そういう無茶なノリ大好き。仕方ないから、この自称日本一過激な広告代理店、株式会社エマジェントルの一人娘が力になるよん」


 バチンと華麗にウインク。


 お前そんなキャラだったっけか? 浮かぶ疑問をぶつけると機嫌を損ねられそうなので発言をぐっと我慢する十瑪岐である。


「では全員そろったところでさっそく始めましょう」


 号令を出すのは莟だ。転がしてきたホワイトボードに青色のペンで大きく議題を記していく。


 意外と整った楷書が整然と並び、少女は告げた。


「目指すは打倒、幸滉ゆきひろ先輩。わたしたちがこれからやるのは文化祭一夜のプリンス計画です。……自分で言ってて頭痛くなってきた。意味分からん」



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