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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
十周目 クズと決裂するあの子
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微妙に噛み合わない


 放課後の校舎裏にトンカチの音が響く。本格的に文化祭の準備期間へと移行しつつある学園では、あちこちから聴こえて来る音だ。


 一つだけ他と違う点があるとすれば、ここに集うメンバーはクラスメイトでも部活仲間でもないということ。


 通常業務もあるため三人ずつで交代しつつ作業に勤しむのは、生徒会役員たちだった。


 鳴乍なりさはノコギリを持つのと逆の手で額の汗を拭う。


 いつもはウルフカットに流している髪を今日は動きやすいように後ろでまとめている。労働でさすがに蒸したのか、日頃から着ている長袖のインナーやタイツを脱ぎ、体操着の上に羽織ったジャージも前を開けていた。それだけで普段の大人びた印象がやわらぎ、年相応に見える。


 少女は片足で押さえた木材を寸法通りに切断していく。少し行儀が悪いが、見ているのは生徒会役員みうちくらいだ。全員が木くずやペンキまみれなので気にする者もいない。


 切り終えた木片が敷いたビニールシートの上に落ちる。端に分類して並べていると、背後から聞きなれた後輩の声がした。


「あ、鳴乍なりさ先輩だ。お疲れ様です」


「莟ちゃ─────ひゃぁっ!?」


 笑みを作って振り向くとそこには血まみれの莟が居て、鳴乍は飛び上がった。


 一目で無事でないと分かる。制服は擦り切れと破れが目立ち、赤い飛沫があちこちにシミを作っている。顔面が腫れ上がり青あざになりかけ、見えるところにも打撲の痕が。特に拳は皮膚が裂けたらしく血液が多く付着していた。まるで硬い何かを繰り返し殴ってきたようだ。


 可愛い後輩の悲惨な姿に鳴乍はノコギリを置くのも忘れて駆け寄った。


「ど、どうしたの莟ちゃんっ。どこの抗争に巻き込まれたの!? そんなに怪我をしてっ。相手はどこの組!?」


「うーん、本気で言ってるのかいつものジョークなのか判別が難しい……。大丈夫ですよ。半分以上は返り血ですから」


「安心できる要素がないのよ! その半分は誰の血!?」


「オレのぉ」


 ぬるぅっと曲がり角から瀕死状態の十瑪岐が姿を現し、鳴乍はまた悲鳴を上げた。


「きゃあぁーっ!? と、十瑪岐くんまで? 二人とも満身創痍なんて、いったい何をやったのよ」


「ちょっと喧嘩しまして。殴り合いを」


「ちょっと!? 本当にちょっと? ちょっとでこのありさま?」


「あ、安心してください。現場は清掃済みです」


 椎衣しいが今頃血痕を消してくれているはず、とは口にしない莟だった。


「そこを心配したわけではないのだけれど。やっぱりというかなんと言うか……十瑪岐くんのほうがボロボロなのね……」


「このフィジカルモンスターと一戦交えりゃ誰でもこうなるっつうの! くそがっ、なんでコイツこんなつええんだよお。全身が痛えぇ。むしろ痛くないところがねえ。ところで鳴乍は何やってんだあ?」


「その状態で世間話に移行するの? 莟ちゃんのことあれこれ言うけど、十瑪岐くんも大概よ」


「や、だってなんかいつもと雰囲気違うしよお。そりゃ気になるだろ。ポニテ超かわいい」


「んぐっ。ぁりがとう。……これは文化祭の準備よ」


 手にしていたノコギリと、背後に積んである木材を示す。すると莟がぎょっと目をむいた。


「生徒会は肉体労働までやらされてるんですか? まさか体育祭とは別ベクトルの地獄に……?」


「くふふっ、違うよ。文化祭は生徒から募った実行委員会が運営するの。生徒会の仕事といえば、各種許可証に印を押すくらい。もちろん文化祭実行委員長は忙しいけれど、それ以外のメンバーは手が空いてるのよ」


「では、今やってるのは?」


「生徒会も毎年なにかしら出し物をやるの。今年は第一校舎を貸し切ってのホラーハウスなのよ」


「ああ、だから夏休みに……」


 十瑪岐が納得したようにしばたたく。鳴乍は脳裏に浮かぶ楽しい思い出に柔らかい笑みを浮かべた。


「あのときは付き合ってくれてありがとう、十瑪岐くん。おかげで参考になった」


 あの日のことを考えると自然と、叶わないと突き付けられた気持ちへ思考が行きついてしまう。鳴乍は二人を交互に見つめ、微かに痛む胸を撫でた。


「内容は私が監修しているの。最高のものにするから、ぜひ二人で来てね?」


 意識して優しく微笑み誘ってみる。上手く何でもないように言えただろうか。


 なぜか固まってしまった二人に早く保健室へ行くよう言い含め、鳴乍は作業に戻った。莟が呼び止めようとしていたのに気づいていたが、あえて振り向かずに。



      ◇   ◆   ◇



 取り残された二人はとぼとぼ保健室に向かいながら、どちらともなく口を開く。


「莟……」


「と、とめき先輩」


「鳴乍が監修したホラーハウスにわざわざ《《二人で》》って強調して呼ぶってこたあ……」


「やっぱり、そういうこと(・・・・・・)、ですよね……」


 視線が交差する。熱の籠ったその色に、二人は相手が自分と同じ想像をしていることを確信していっきに顔を青ざめさせた。


「全力で脅かしてくる気だああああっ!」


「絶対に悲鳴を搾り取りに来てますよ! やだぁーっ! もうほんのり怖いっ!」


「見てえオレなんかとっくに膝震えてる」


「それはわたしが殴りまくったからでは? でもわたしも眩暈めまいがしてきましたっ」


「それオレが殴りまくったからじゃあ? とにかく当日を想像するだけで怖いぃ」


「きっとトラウマをたくさん植え付けられるんだ……。でも行かなかったら鳴乍先輩、悲しみますよね」


「だな。つまりオレ達に断る選択肢はねえ。こうなりゃあ一蓮托生だ。見捨てんなよ?」


「こっちのセリフですよ怖気づいて逃げないでくださいね」


 共に恐怖に引きつった笑みで、さっきまで殴り合っていた拳を仲良く合わせるのだった。



  【十周目 フィニッシュ 十一周目へ】



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