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初恋トレッドミル(応用) プロローグ 若き少年の懊悩
それはたぶん五歳ごろの記憶。榎本十瑪岐がいつものように母親に連れられて、葛和の本邸を訪れていた日。その日はたまたま初めて、あの子も本邸に来ていた。
一緒に遊んでいたはずの少女を見失って探していると、彼女は息を切らして僕のもとへ駆け寄って来た。
「はしごからおちそうになったところを、しらない男の子がたすけてくれたんです」
赤毛を揺らして彼女は無邪気に報告してくれる。
「まっくろなうねうねしたかみの毛で。絵本にあったおうじさまみたいでした!」
その笑みに対して湧きだした黒い感情こそ、自分の源流なのだと。そう自覚した瞬間から僕の中に芽生えた独占欲と対抗意識。生まれた瞬間から運命を定められていた僕が唯一、自分の意思で求めた願い。
だからだろう。
いつか葛和を根底から壊してしまう葛和幸滉という愚者は、それでも狛左椎衣を手放せない。




