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三人の令嬢

三人の令嬢〜モブ令嬢誕生秘話〜チートだなんて大げさな物じゃないです

作者: 猫本屋

三人の令嬢〜賢姫?いいえただのモブです〜 の前日譚です。シリーズを先に読まれた方が楽しめると思います。よろしくお願いします。

これは三人の令嬢がまだモブ令嬢になる前、出会った頃の話。


公爵令嬢のお茶会から数ヶ月後、オウル伯爵の屋敷に集合した。

もちろん令嬢の皮を被って、きちんと先触れを出し手土産持参で。

同じ席で意気投合したと聞かされたそれぞれの親達は皆、新たな繋がりにほくほくしていた。

パール伯爵領は港町を有しており、国内の海産物を一手に取り仕切っている。

オウル伯爵領は牧草地が広がっている為、乳製品や毛織物で有名だ。

そしてジュゴン伯爵家。実はあまり知られていないが現在宰相補佐に任命されている。

一代限りの役職ではあるが、かなりの権力者だ。

もっとも本人にはその自覚は無く、娘がどこからか仕入れてきた情報を宰相に伝えていたらいつの間にか補佐に任命されていた。

それでも娘の友人の為なら多少の手心を加えることも考えていた。

二家とも真面目に領地運営していた為その必要も無かったが。


「じゃあすり合わせしようか」


紅茶を一口飲みながら令嬢らしからぬ口調のオウル伯爵令嬢が口火を切る。


「懐かしくもぞんざいな言葉…ですけど令嬢らしくした方が良いのではなくて?」

「でも侍女もおりませんし、私は構いませんわ〜」

「そう言いながら口調は完璧に令嬢だけど」


にこにこと出された焼き菓子を口にするジュゴン伯爵令嬢。


「そう言えば、二人ともどの時代にいたのかしら」

「パール伯爵令嬢は」

「名前で良いわよ」

「ファティナさんは平安が良かったって」

「『時を越えて君を思う』ですわね〜確か10作目が出るとかっていうところまでは覚えてますわ〜」

「え?!私7作目くらいまでしか知らない」

「人気がありましたわよね〜。私はタイトルしか知らないけど、SNSの相互さんに好きな方がいらして…毎日思いを綴ってましたわ〜」

「私の相互さんにもいた!情熱がすごかった」

「わ、私も…書いてましたわ…」


少し恥ずかしそうに手を上げて告白するパール伯爵令嬢。

三人とも(((ん?)))となったが何も言わなかった。


「結構近い時代にいたのね」

「オウル伯爵令嬢は〜」

「私も名前でいいよ」

「えーと、じゃあ…クロウだからクーでいいかしら〜。パール伯爵令嬢はファティナだから…ティーで」

「あー…私の相互さんにも一人いたなぁ、なんか名前とかあだ名つけるのが好きな子」

「私の相互さんにもいましたわね」


(((んん??)))


「クーは御前試合の時に前世の記憶が戻ったのよね?」

「う、うん」

「私も騎士団の制服姿が似ていると思ってましたのよ〜」

「マっ、マー…ニャさん!」


慌てて口を塞ごうとするも間に合わず。


「『庭球の騎士団』も人気ありましたわよね〜」


己の性癖を暴露され、床に突っ伏すオウル伯爵令嬢。


「あらあら…はしたないわよクー」

「…いいよ…三人しかいないし…」

「私の相互さんにもいましたわ〜、テニナイのファン。良く二次創作板に小説書いてましたわ〜」

「私の相互さんにもいましたわね…」


(((んんん???)))


「懐かしいですわ〜。二人ともSNSでしかやり取りしてなかったけど、良くお土産とか頂きましたのよ〜」

「私も!良く送ってくれてたなぁ」

「私もよ。ふふっ、自分の故郷のお気に入りを『推し』って呼んで…布教だから気にしないでって言っていろんな物を送ってくれたわ」


(((んんんん????)))


さすがにここまで偶然の一致も考えられない。


「まさか…○○ちゃん?」

「うっそ、○○さんと○○さん?」

「ええ〜?!」

「「「そんな事ってある???」」」


そこからさらに話し合った結果、それぞれおそらく死亡した時期は違う事。死因は覚えていない事が判明した。


「トラックでの異世界転生とかじゃ無いのね」

「あのゲームはどうなったのかしら〜」

「サ終はしてなかったと思う」

「なら良いですわ〜。推しの皆が生きてたら」

「突然の闇ムーヴ止めて」


きゃっきゃと笑い合う二人。それを眺めていたパール伯爵令嬢はふと疑問に思った。


「そう言えば…マーニャさん…マーはいつ前世の記憶が戻りましたの?」

「それ、私も思ってた!あと席離れてたのになんで私の呟き知ってるのか」

「それは…」


ゴクリ、と誰かが唾を飲み込む。


「生まれたときからですわ〜」

「普通に答えるんかい!」


思わず突っ込むオウル伯爵令嬢。


「驚きましたわ〜、目が覚めたら彫りの深いイケメンが顔を覗き込んでおりましたもの」

「あー、確かにみんな顔濃いよね」

「それがお父様?」

「いいえ、お兄様ですわ〜。とても優秀な方なので、お家の跡継ぎとして将来有望ですのよ〜」

「ブラコンか」

「あら、私の弟達も優秀でしてよ?うちも弟が継いでくれるから、私は自由でいられますの」

「えー、二人とも良いなぁ。私は一人っ子だから婿養子取らないと…」


顔を曇らせるオウル伯爵令嬢の肩に手を置く二人。


「ですが今はまだ子供ですもの、楽しみませんと〜」


と子供らしくないことを言う。


「あ、まだ聞いてない。なんで私の呟き知ってるのか」

「ああ、それは…」


一瞬の間の後


「精霊さんですわ〜」

「そこも普通に答えるんかい!」


再び突っ込むオウル伯爵令嬢。

後に彼女自身が誰も突っ込まないモブ令嬢と言い出すが、本人は割りと突っ込み属性である。


「精霊さんに『この世界で聞いたことのない言葉を話す人がいたら教えて』ってお願いしてありましたのよ〜」

「マーは精霊が見えるの?」

「生まれたばかりの頃から見えてましたの〜、ふわふわしたナニカ」

「え、じゃあ…」

「もしかしてマーが『精霊王の愛し子』ですの?」

「違いますわ〜」

「違うんかい!!」


とうとうパール伯爵令嬢まで突っ込んだ。

元々三人の中では一番の突っ込み属性である。

その懐かしさに思わず顔を綻ばせる二人に、「んんっ」と咳払いをすると


「精霊が見えるのに精霊王の愛し子では無いの?」

「見えるのは関係ありませんのよ〜。精霊王の愛し子はクーですもの〜」


その言葉に思わず飲んでいたお茶を吹き出す。


「げほっ…え?だって私精霊なんて見えない…」

「見える見えないは関係ありませんのよ〜。精霊王様が好きな娘に勝手に加護を与えているだけですもの〜」

「それって…断れないの?」

「無理ですわね〜」


がっくりと肩を落とすオウル伯爵令嬢。

この世界の精霊王は神にも等しい存在とされている。

愛し子がいる国は精霊王の祝福により栄えるとされている為、もし露見すれば王城に囲われるか教会に囲われるか…どちらにせよあまり良い未来は無い。


「このことは…」

「もちろん内密にしますわ〜。光の魔法が使えることも」

「そこまでわかるの?」

「なんとなくですけど〜」

「精霊王の愛し子で光の魔法が使えるなんて…一生飼い殺し確定の役満ですわ…」


せっかく出会えた前世の友人の未来を慮って少し考える。


「そうだわ!独自の術式を組んだ魔法を使えばよろしいのよ!」

「はい?」

「ティー、思考が飛んでますわ〜」

「あら…ごめんあそばせ?思考が飛ぶのはクーの専売特許でしたわ」

「違うし!」

「ふふっ、光の魔法単体で使えば目立ちますでしょ?だったらオリジナルで誤魔化せばよろしいんですわ」

「なるほど…ってそれは魔法の理論を理解してないと無理じゃん」

「ファイトですわ〜」


気の抜けるようなジュゴン伯爵令嬢の掛け声に肩の力が抜けていく。


「まあ、学園に通う頃にはなんとかなるでしょ」

「二人ともチートですわね〜」

「いやいやいや、精霊を見て話せるマーもかなりのチートでしょ?!」

「ええ…この中では私が一番普通ですわ」

(絶対知識チートだよね)

(最近海産物が出回りだしたのもティーが考えた保存法のおかげと聞きましたわ〜)

「使えそうな知識があったから試してみただけよ」


ほほ…と令嬢らしく微笑うパール伯爵令嬢。


「と、ところでこの世界の事はどう思う?」

「そ、そうですわね〜。ありがちな乙女ゲーム転生かとも思ったんですけど」

「わからないの?」

「割と定番の乙女ゲームはやってたんですけど、思い当たりませんのよ〜」


頬に手を当てこてりと首を傾げるジュゴン伯爵令嬢。


「私も有名所は嗜みましたけど…あの後主要貴族を確認しましたが覚えのある名前はありませんでしたわ」

「多分カモミール公爵令嬢が悪役令嬢よね?王太子と婚約したし」


先日のお茶会は王太子妃、ゆくゆくは王妃となった際に自分を諌めることのできる友人を見極め選ぶ為に開催された物だった。


「ならいつかヒロインが現れますのね」

「まあ、私達には関係ないよね。だって私どう見てもモブだし」

「私もモブですわ〜」

「二人がモブなら当然私もモブですわ」


こうして誰も突っ込まないまま、ここに三人のモブ令嬢が誕生した。


「もしかしたら小説のざまぁ系かもしれませんわね〜」


というジュゴン伯爵令嬢の予言めいた言葉でこの日のお茶会は幕を閉じた。

この数年後、本当にざまぁが…それも自分達がざまぁする側だとはまだ誰も知らない。

クー(クロウ)…オウル伯爵令嬢。精霊王の愛し子で光の属性持ち。世に知られれば飼い殺し確定の役満。下手したら王太子の婚約者か聖女として悪役令嬢かヒロインになっていたかもしれない。本人いわくモブその一。


マー(マーニャ)…ジュゴン伯爵令嬢。父親に精霊から聞いた貴族たちの悪巧みを話していたらいつの間にか宰相補佐になっていた。父親と宰相は学生時代の友人だったので、こちらも下手したら宰相次男の婚約者になっていたかもしれない。本人いわくモブその二。


ティー(ファティナ)…パール伯爵令嬢。いわゆる知識チート。魚食べたい、日本人だもの。せっかく港町があるのに…みんな干物食べようぜ!と王都に一大干物ブームを巻き起こした。今はお米を捜索中。本人いわくモブその三。

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