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小さい頃に遊び場だった神社の境内で出会った子が実は神様の化身だった件 ~僕が神様の花嫁になるんですか~

作者: はるきK

TS百合物が書きたくて、なんとか連載にできないか、と冒頭5000だけ書いてその先が書けずに1年近く放置していた作品です。埋もれさせておくのも悔しいので、需要はないかも知れませんがおずおずと公開しておくことにしました。

 その神社は僕の住んでいた田舎町の外れ、自宅の窓からも良く見える、こんもりと盛り上がって昼でも薄暗いほどのうっそうとした木々に囲まれて、来る日も来る日も変わらない静かなたたずまいを見せていた。

 僕の家はその神社から歩いて三分ほどの場所にあって、夏も冬も毎日のように一人で遊びに出かけていた。


 夏休みのある日、その日も僕は一人虫取り網片手に神社の境内をうろついていた。元々いつも人のいる神社ではなくて、なにか行事やお祭りのあるときだけ町の大人たちが集まって仕事をするような小さな神社だったから、普段僕以外に人はいなかった。でもその日に限って、二つめの鳥居の脇に人影が立っていた。

 珍しく参拝の人かなと、人がいることにも特に疑問を持たず、いつも通り一つめの鳥居をくぐって二つめの鳥居に近づくと、その人影が僕の行く手を遮るように立ちはだかった。


「お前、ここによく遊びに来るな」


 いきなり声を掛けてきたのは白い着物を着た子どもだった。小学三年生の僕と同じくらいの背丈に黒いおかっぱ頭をしていて、一見女の子みたいに見えた。けど、声はどっちかっていうと男の子みたいに聞こえた。


「僕のこと、知ってるのか?」

「確か二町ほど向こうに住んでおる子よな。あきらとか言ったか」

「よく知ってるな、その通りだよ。君は?」

「我か? 我は……あまつと呼べ」

「あまつ……あまつちゃん?」

「ちゃんはちとこそばゆい。呼び捨てでよい」


 後から考えてみたら、どうしてなんの警戒も持たずにあまつと会話したのか不思議だった。とにかくその日から、僕が神社に遊びに行くと必ずあまつが鳥居の脇で待っているようになった。

 二人で遊ぶのはもっぱら境内の中だけ。そんなに広い敷地じゃなかったはずだけど、僕がどれだけ走り回ってもその外に飛び出してしまうことは一度もなかった。僕たちはいつも二の鳥居の脇で待ち合わせして、二の鳥居の脇で別れる。別れたあと一の鳥居を抜けて境内から出て振り返ると、あまつの姿はいつも既になかった。けれどその事についても僕は特に何も疑問を持たなかった。


 秋になって木々が色を付け始める頃、例祭でいつもより少し賑わう日にもあまつはそこにいた。今日は少しばかり忙しいのだが、あきらだけは特別だと言っていつものように遊んでくれた。

 冬が厳しくなって大晦日。二年参りに出向くと、人の集まるお焚き上げの炎から離れた灯籠の薄暗い明かりの下にあまつはいた。今夜はお参りに来ただけと言うと少し寂しそうな顔を見せたけど、すぐにいつもの明るい表情に戻ってくれた。


 そんな毎日が続いて季節は巡り、節分が過ぎた。いつものようにあまつと合流したけど、僕はあまつを誘って拝殿脇の礎石に腰を下ろす。


「ねえ、あまつ」

「どうしたあきらよ?」

「実はね、僕この町から引っ越すことになった」

「それでは……」

「うん。一緒に遊べるのももう少ししかない」


 あまつにとってそれはとてもショックだったらしく、言葉にならない様子だった。横顔でも分かるほどに落胆した表情が見て取れた。


「たぶん三月に学校が終わったら引っ越すことになると思う。あと一カ月半くらいかな」

「そうか。それは……口惜しいな」


 それきりあまつは喋らなくなった。遠くを見て何かを考えているようだった。


 その翌日からあまつは姿を見せなくなった。二の鳥居の脇で待ちぼうけをする日々が続いた。

 明日で小学校ともサヨナラする日、その日も僕は神社に来ていた。いなくなったあまつに会えるのも多分今日が最後。明日卒業式が終わると、僕はその足でこの町から離れることになっていた。


 いつものように一の鳥居を抜けると、今日は二の鳥居の陰に人影が佇んでいる。はやる脚を抑えて近づくと、あまつは後ろ向きに立っていた。


「あまつ」


 僕の少しうわずった声が木々に響く。その声が届いたのか、あまつはゆっくりと振り向いた。

 顔は、微笑んでいた。


「あきらか、よく来てくれた」

「当たり前だよ。毎日来てたんだし」

「わかっておったよ」

「じゃあなんで姿を見せてくれなかったのさ」


 僕の問いから目を逸らして、居づらそうな様子を見せるあまつ。

 目を逸らせたまま右手が伸びてきた。


「お前、ここに来れるのも今日が最後よな。これを持っていけ。肌身離さず持っておれ」


 その手に握られていたのは輪になったひも。ひもの先にはオタマジャクシみたいな形をした、濁った青い色のガラス玉が結わえられていた。


「これは守りよ。お前の身から悪しきものを遠ざけてくれる。首から提げておけ」


 あまつはそう言ってガラス玉の首輪を僕に押しつけるように手渡してきた。僕はそれを受け取ると、そのまま首に掛ける。


「ありがとう、あまつ」


 そこでようやくあまつは僕の方を向いて語りかけてきた。


「よく似合うぞ。

 お前の前に姿を現さなかったのは、その守りを用意しておったせいよ。間に合って良かった」

「そうなんだ。わざわざ僕のために」

「まだ最後の仕上げが残っておるがの。

 お前の名はあきらだが、苗字を聞いてなかった。本名はなんと呼ぶ?」

「なかじょう、あきら」

「字は何と書く」

「なかは人偏(にんべん)に真ん中の仲、じょうは人偏に縦一本と、ノ文(のぶん)……って言うのかな? の下に木で條。それからあきらは王偏(おうへん)に英語の英で瑛」

「そうか、分かった」


 あまつはそう言うとガラス玉を提げた僕の胸元に右手を伸ばし、なにやらつぶやき始めた。

 その言葉は日本語のようでいてそうではないような言葉で、僕の耳では意味を聞き取ることができなかった。そのうちに伸ばした指先を上下左右に数回動かしたかと思うと、そこで言葉が終わった。一拍ほど置いて、ガラス玉から『りん』と一度だけ音が聞こえた。


「これでよし。

 この勾玉はお前から悪しきものを遠ざけてくれる守り。先も言うたがくれぐれも肌身離さぬようにな」

「でもお風呂の時とか学校でプールの授業の時とかはどうしたら?」

「案ずるな。吊り紐も含めて勾玉は他人(ひと)には見えん。それにお前が外そうとせん限り、勢いで勝手に外れることもない」

「そうなんだ。不思議だね」

「我の特製だからな」


 そう言うとあまつが今日一番の笑顔を見せてくれた。


 あまつと最後の野遊び。以前と同じように境内を駆け回って遊ぶ。そのときの様子はいつもと全く変わりないように思えた。そして、最後の刻がやって来た。


「もうそろそろ帰らなきゃ」

「そうよな。短い間だったが、楽しいひとときだった」

「僕の方こそ」


 そうして二人どちらからともなく笑う。


「そういえば、お前の名は教わったが、我の名を伝えておらんかったな」

「いいよ、あまつはあまつでしょ?」

「良くはない。それは大事な事よ。

 我の名はアマツヒコネ。この神社に祀られた一柱」


 その名前をそれまで聞いた覚えはなかったけれど、でもなんだか特別な音として心に残った。


「あまつひこ……やっぱり、かみさまだったんだ」

「……そうよな。伝えてはおらなんだが……気づいておったか」

「場所が場所だし、よく考えてみると不思議なこともいくつかあったし」

「そうか。

 それでな、あきらよ。お前こちらに戻ってくることはあるのか」

「……それは、分からない」


 そうしてお互いが黙りこくる。


「よしわかった。いつか、我が逢いにゆこう」

「え? この神社にいなくて良いの?」

「そのくらいはどうとでもなる。それよりもお前のことが大事よ」

「え? 大事って」

「それはまだ分からずともよい。ともかく、お前が十六になるとき我が逢いにゆく。それでよいな?」

「う、うん。良いけど」

「よし!」


 あまつは力を込めてよしと言うと、柏手を一つ打ち鳴らした。

 その音は境内に反響して木々を揺らす。残響がおんおんと長く響き、それも天に昇っていった。


 音を追いかけて天を見上げているうちに、あまつの姿は消えていた。でも、最後に一言だけ耳元でささやいた。


「しばしの別れだが、いつでも見守っておるで寂しく思うなよ。達者でな」


 そのささやきもすぐに木々に吸い込まれ、そして僕は静寂の中独り残された。


§


(あきら)、四月から同居人が一人増えるから、よろしくね」


 高校受験の時期が終わってしばらく、突然母さんがそんなことを言い出した。


「なに? 同居人って」

「今度ね、いとこの子を預かることになったのよ。瑛と同じ高校に通うんだって。家がちょっと遠いからお願いしますって」

「いとこ? おれと同い年のいとこっていたっけ?」

「ママの方のいとこなんだけど、遠いところに住んでたから今まで会ったことはないわね」

「へえ。女の子?」

「うん、そうね。

 あ、瑛の隣のパパの部屋、その子に使うことになったから、片付け手伝ってね」

「なんで俺が」

「受験も終わって暇してるんだから手伝いなさい。部屋にこもってゲームばっかしてるの、ママ知ってるんだからね?」


 そんなことを指摘されてしまえばおとなしく従うしかない。

 俺は母さんから指示を受けて部屋の片付けに取りかかる。本棚の中身から机の中身まで、段ボール箱に丁寧に収めていく作業だ。父さんは長期出張中で家におらず、ほとんど全ての作業を俺一人でこなすはめになった。結局その日から丸三日を費やして段ボール詰めする作業は終焉を迎え、最後に掃除機を丁寧に掛け、さしあたり必要になる寝具なんかも運び込んで、いよいよ受け入れ準備も整った。


「それで、いとこの名前ってなんて言うの?」

「ええとね、ひこねちゃんって言うらしいわよ」

「ひこね……。

 なんか聞いたことあるな……あ、彦根か、滋賀県の」


 別に滋賀県に住んでたわけじゃないわよと、母さんのツッコミにもならない返事が返ってきた。後から思えばこの時点でいとことやらの正体に勘づいていても良かったはずなのだが。


 部屋がすっかり片付いた翌日の午後、そのひこねちゃんがやって来た。


天都(あまつ)ひこねです、このたびは無理を聞いていただいてありがとうございました。よろしくお願いします」


 そう言って俺たち親子の前で深々と頭を下げる女の子。

 そのフルネームが記憶に引っかかった。だが、その記憶がいつのものだったかもう一つ思い出せない。


 彼女の黒い髪はあご下のラインで切りそろえられて、前髪も眉毛のすぐ上で同じようにまっすぐ。一見するとおかっぱみたいだけれど、それよりもっと垢抜けた感じだ。そして白いセーターに包まれた上半身は出るところがそれなりに主張していて、俺という男子の好奇をくすぐるには十分だった。

 釈然としないものを抱えたまま挨拶は終わって、俺はひこねを二階に用意した個室に案内する。


「ここがひこねちゃんの部屋。隣は俺の部屋だから、何かあったら呼んでもらっていいから」

「わかった。ありがとう」


 一通り部屋の説明を終わらせた。でも何か心に引っかかりを感じていた。それはひこねの方にもあるようで、まだ何か言い足りないことがあるような素振りだ。

 思い切って俺の方から引っかかっていることを尋ねてみることにした。


「あの、さ。母さんは初対面だって言ってたけど……、なんか俺、君のことどこかで知っていた気がするんだよ。

 ただ、それ以上思い出せなくて……。いや、もしかしたら他人のそら似か俺の思い違いかもしれないんだけども」

「思い違いじゃないよ」

「え?」

「まったく。少し離れておればこのザマよ。前に我が約束したであろう? 逢いにゆくと」


 それまで鈴を転がすような音だったひこねの声が、一段低く、迫力を増す。そして変わってしまった口調とともに、その声には聞き覚えがあった。

 それと共に幼い頃の記憶が雪崩を打って蘇る。


 唾をゴクリと飲み込んで、俺は目の前にいる天都ひこねだった者におそるおそる続けた。


「もし、かして……あまつ、なのか?」

「そうよ。久しいな。

 しかし我のことを忘れてしまうとは、ちと(なげ)かしいの。名前まで同じというに」

「そうは言っても……。姿形が全然違うから分からないよ」

「まあ、それはそうよな。

 さて、そんなわけで今日から我はここで世話になるで、改めてよろしく頼むぞ、あきらよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。今日うちに来るのはいとこの子のはずだろ?

 その子はどうしたんだよ?」

「我がそのいとことやらよな」

「冗談はよしてくれよ。いとこの子をどこかに隠したとかじゃないのか?」

「元々そんなお前のいとこなど居らんよ。全ては我の用意した筋書きよな」


 事もなげにそう言い放つあまつを目の前に、俺はただ呆れるしかなかった。


「しかしこの部屋、あるのは寝床と机くらいのものか。このままでは我が生活するにも心許ないの。

 どれ、少し調度を整えるか。あきらよ、この部屋、好きに景色を変えても良いか?」

「景色ってどういう……」

「なに、ちょっと模様替えするだけよ」


 あまつはそう言うとセーターの裾に手を突っ込んで、どこに隠し持っていたのかメロンくらいの大きさをした木槌を出してきた。


「それ、()でよ出でよ」


 あまつは声を掛けながら木槌を振る。すると木槌を振った先から様々な物が現れて、部屋の窓へ、壁へ、本棚へと飛んでいき、それまでいくつかの家具があるだけでがらんどうだった部屋があっという間に生活感のある様子に一変した。


「すごい」


 思わず感嘆する。するとあまつは木槌を器用に指先でコマのように回転させながら得意げな表情になった。


「我にかかればこんなものよ。お前も打ち出の小槌くらいは知っておろう?」

「一寸法師の話に出てくるやつか?」

(しか)り」


 そうしてしばらくあまつは打ち出の小槌で無造作にお手玉をしていたけれど、なにかに気がついたのか小槌を元のようにセーターの中に隠すと。

 元のひこねの声に戻った。


「あきら、私が神さまなのは絶対に秘密だからね?」

「あ、ああ。分かってる」

「ホントに?」

「だいじょうぶ、漏らしたりしないから」

「それから、この姿の時は私のこと、ひこねと呼びなさい。ちゃんはいらない。呼び捨てでいい」

「あまつじゃダメなのか?」

「だめ」


 そう言い切った彼女(?)の表情は先ほどとは打って変わって真剣な面持ちになっていた。


§


 こうして始まった、僕と神さまの同棲生活。

 それがあんな展開になるなんて誰が予想できただろう。いや多分、その神さまだけは最初から分かっていたに違いないのだけれど。



 

 




 

本当はこの後あまつと一緒に高校に通うようになり、そのうち瑛の誕生日が近づくところで重大(TS)イベント発生、という流れで進行する予定だったのですが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとなくラブコメよりホラー感があってこの先が気になる [一言] 面白いけどここからTSする予定だったのかw
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