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隣人と少年 その2

 

 自分は人付き合いという面倒な作業が嫌いだ。

 心の中では人付き合いを面倒と思っているけれど、物事を潤滑に進める為、『八方美人』というスキルを使いこなしている。

 スキルと言うほどの能力ではないかもしれない。生まれついての特性なのか、自分以外の人間に好意をもたれる体質みたいだ。

 さらに、意識的にこの能力を発揮する事で誰とでも打ちとける。相手はこちらの事を信用し信頼する。

 そして自分の仕事は探偵だ。このスキルは探偵という仕事で大いに役に立っている。所属する探偵事務所では聴き込みからの情報収集は自分の役目だ。この能力に関して言えば自分の右に出る者はいない。これは自惚れではなく事実だ。


 それにしても……

 隣に眠っている少年を見る。

 保護したはいいが、これでは誘拐犯と間違われても言い訳できない。

 それに仕事に行くのにどうする?家に一人で置いておくわけにもいかない。最悪職場に連れて行くしかない。


「んっ……おはようお兄ちゃん」


 眠っていた少年が目を覚ました。昨夜はあまり調子が良くなかった為か、夕飯を食べた後すぐに眠ってしまった。


「おはよ。昨日はだいぶ疲れていたみたいだけど大丈夫かな?僕は仕事に行かないといけないのだけれど、えっと……」


 そういえばこの少年の名前をきいていなかった。


「お兄ちゃん、ぼくお留守番しているから大丈夫だよ。あとぼくの名前はユウキだよ」


 名前を言いよどんだ事に気がついたのか自分から自己紹介してくれた。なかなか察しがいい子供だ。


「ユウキ君だね。僕は根坂間薬師って言うんだ。よろしく。あと君を一人で留守番させるわけにはいかないから僕の仕事場に連れて行こうかと思っているんだけどいいかな」


「いいよ薬師お兄ちゃん。ぼくおとなしくしてるから大丈夫だよ」


 素直でいい子だ。

 正直言って子供に暴力振るえる親の心境というものには理解が困難だ。

 まぁ、子供を持たない自分が、とやかく言っても説得力がないので表立って行動を起こしたりはしないのだが。


「そっか。じゃあ一時間で出発するから準備しよっか。途中で朝ごはん買うから」


「うん!顔洗ってくるー」


 おいおい、そんな勢いで走ったら隣の……なんだっけ……出縄さんを起こしちまうぞ。

 ギシギシ

 その隣の出縄さん側の壁から何かきしむ様な音が聞こえた。

 シャリシャリ

 次は壁と何が擦れる様な音だ。

 自分はこの音を知っている。

 この一連の音は隣の部屋の様子を探ろうと壁に耳をつけて盗み聞きしようとしている音だ。

 最初にした音は壁に顔を付けた時の音。二回目のやつは体を固定する為に壁に手をつけ這わせた音だ。

 この辺りかな……

 音のした辺りに狙いをつけ、そこに囁くように言葉を発する。


「出縄さーん、朝からすみません。後日お詫びに伺いますので今日のところは大目に見てくださーい」


 バタン

 隣の部屋の扉が勢いよく開く音が聞こえた。 

 人が走る音がこちらの部屋に近づいてきてウチの前で止まる。そして鍵がかかっているはずの部屋の扉が勢いよく開いた。まぁ頻繁に起こるこのアパートの七不思議の一つだ。


「ご、ごめんなさい!盗み聞きするつもりはなかったんです!」


 盗み聞きしていた出縄さんが飛び込んできた。

 つか、この人自分から盗み聞きのことゲロっちゃってるし。


「そんな謝らないで下さい。騒々しくしたのウチですから」


 さっさと帰ってほしいから盗聴の件は水に流してやる事にする。


「うう……悪意はないんですよ。ただ一人暮らしと聞いていたのに子供の声が聞こえてきたからびっくりしちゃって」


 なにこの人……ほぼ最初から聞いてるじゃん。


「そ、そうですよー。どういう事ですかー?お子さんがいるなんて初耳ですよー」


 軽くパニックで論点がズレてきている。


「出縄さん。もう仕事に出なきゃいけないので、よかったら今夜お食事とかどうですか。あの子もきっと喜ぶと思います」


 視線の先にはユウキが洗面所のトビラの隙間からこちらを覗いている。


「えっ、あっ、はい。じゃあ私お部屋で待ってますね。これってデートのお誘い……」


 この人天然か。


「では今夜お伺いしますね」


 これ以上話が長引かない様、やや強引に彼女を自分の部屋に帰した。

 貴重な朝の時間を浪費してしまった。これ以上のロスは遅刻に関わってくる。


「ユウキーもう出発するよー」


 スーツのジャケットに腕を通しながら洗面所の少年に声をかけた。

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