第1話「ヒロイン それが現れたら終わり」
“だまされた”“だまされた”“だまされた”
日記帳にびっちりと殴り書きされた怨讐の言葉。
その日記帳は学園の図書室で読み物を探していた私の頭の上に突然落ちてきた。
「いてッ⁉︎」
手に取った本は紫色の背表紙に紋章のような模様が描かれた奇妙な日記帳。
タイトルに“未来日記”と書かれているんだからこの本は紛れもなく日記帳だ。
それにしてもここの図書室の管理はどうなっているのかしら。
公爵令嬢である私、ルテナ・ウォードの頭にコブでもできたらどうするつもりだったのですかまったく!
私の婚約者はこの王国の第2王子ティード・ディルザークと知っての狼藉? 万が一のことがあったら大事よ。
などと頭の中で当たり散らしている場合ではなかった。
「それより誰が書いた日記帳かしら。ついつい1ページ目をめくって読んでしまったけど⋯⋯」
いけないけない淑女である私が他人の日記帳を勝手に見るなんて!
いけません。あってはならないことです。
で、でも⋯⋯どこかで見覚えのある字だったような⋯⋯
「⁉︎ もしかして」
いけないとはわかっているつもりですけど、これは確かめなければならないのです。
だって私の名誉に関わることだか⋯⋯ら⋯⋯
「⋯⋯」
⁉︎ や、やっぱりだわ。
これはわ、私が書いた日記⋯⋯でもどうして私の日記が学園の図書室に?
てか、そもそも書いた覚えもないんですけど!
だけどたしかにコレは私が書いた日記⋯⋯
「しかも何コレ? 私がティードに婚約破棄された挙句、傾国の悪女として処刑されるって⋯⋯」
ありえない⋯⋯ティードが私を裏切るなんてありえない。
いったいどうして?
それより“シャロン”って女だれよ!
この女が登場してからですわ。私の悲劇がはじまるのわ。
“日記の3ページ目から記されているのは1ヶ月後の出来事“
日記にはこう書いてある。
それは1学期最期の日
学園の生徒たちが集まって催されるダンスパーティー。
パーティーの盛り上がりが最高潮となる中、全校生徒の前で突然、私はティードから”婚約破棄”を宣言される。
「ルテナ・ウォード! 貴様との婚約を破棄する!」
「ティード⋯⋯本気でおっしゃっているの? ど、どうしてそんな女なんかと⋯⋯」
ティードは隣に立つシャロンを抱き寄せて私に言い放った。
「俺はシャロンを愛している。こんな感情が芽生えたのは生まれてはじめてだ。シャロンの吸い込まれそうなほどの美しい瞳を見て思ったんだ。
これが恋というものかと。これが愛だと」
たしかにシャロンはショートの金髪に、宝石のような美しい碧眼、まるでお人形さんのよう。
女の私でも守りたくなるようなオーラを纏っているけど、それじゃあ私はどうなるの?
「ちょ、ちょっと待ってよ! 私のことはなんとも思っていなかったわけ?」
「何を言っているルテナ。俺たちの婚約は大人たちの政治的な事情だろ? そこに恋心を抱く要素がどこにある?
ルテナはまだ知らないだろうが、ウォード公爵は失脚した。もうお前たち一族におもねる必要はない!」
日記帳の次のページには1ページ目と同じように
“うらぎられた”“うらぎられた”“うらぎられた”
と、びっしりと殴り書きされていた。
さらに次のページをめくると私がシャロンを虐めていたという身に覚えのない行為で断罪され学園を追放されるとあった。
これはティードが国王陛下の許可なしに宣言してしまった婚約破棄を正当化するため。
そのあとも私に対するありとあらゆる醜聞をでっちあげ、世間に私が稀代の悪女だと認識をひろめた。
そして私はティードが見つめる中、断頭台にかけられたとある。
「ティード、私と別れるためにずいぶんと手の込んだことを⋯⋯しかも最後は物理的って。アレこれが衝撃的すぎて頭が追いつきませんわ。
私はティードの立派な妃になるために淑女たる振る舞いを身につけてきたというのに⋯⋯なんという仕打ち。
ティード⋯⋯親が勝手に決めた結婚でも私はあなたのことずっと愛してましてよ」
“ケーキ”
“クッキー”
“紅茶”
“本”
ティードと別れる運命を嘆いていたいたはずが、いつのまにか頭に浮かぶのは私が好きなものばかり。
「嫌ですわ。死ぬなんて。もっと甘いものを食べて楽しく過ごしたい」
ティードへの愛より生きることへの執着心が勝った瞬間だった。
「決めましたわ。こうなったら私から婚約破棄してあげますわ。
覚えてなさいあなたが吠え面かきながら私に土下座する瞬間を楽しみにしてますから」
***
私はさっそく図書室のカウンターに日記帳を持っていた。
「この本をお借りしたいのですけど」
するとーー
「この本は図書室で扱っている本ではありません」
「⁉︎」
応対してくださった女子生徒に思わず言葉を失いそうになりました。
「あなた⋯⋯」
「どうかしましたか?」
日記に書いてあったシャロンと特徴がよく似ている⋯⋯
「シャロン⋯⋯」
「はい。そうですが⋯⋯私になにか?」
「い、いえ。さっきそちらで拾ったんですけど、こちらの本じゃなかったのね。
失礼しますわ」
日記帳の内容を信じていたわけじゃないけど、どうしてシャロンが実在するのよ。
仕方ない!
こうなったら頼れるあの子に相談するしかない。
すぐ行きますから待っていなさい”オカ子“
つづく
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