第18話 ポチ、ひとり泣きする
陽葵からのLI●Eも電話も、素っ気無い塩対応に徹した。
私の事を…早く諦めて欲しかった。
愛想をつかして欲しかった。
子供らしく同世代の子達との日々を充実させて欲しかった。
散々カノジョをかき乱した私の身勝手な願いだけど
私にはこうするしかなかった。
そして今も
紺野さんから渡された陽葵からの手紙を…
本当は胸に抱いて持って帰りたかったけれど…
スーパーの休憩室のゴミ箱の上でビリビリと破いた。
「ちょっと!! いいの?」
紺野さんが心配そうに覗き込んでくれる。
「いいの もう」
「手紙には何て?」
「『母の日にお仏壇に飾るお花を一緒に選んで欲しい』って…」
「そんな! … 可哀想に…」
「私がお母様に捧げるお花を選ぶなんて! できるわけがない」
「そうかな…そんなことないと、思うけどなあ。だってそれができるための“恋人繋がり”でしょ?」
こう言って親身になってくれる紺野さんにも本当に申し訳ない…
「心配をお掛けして、本当に申し訳ございません」
こう返すと、紺野さんはとても悲しそうな顔をした。
「そんな水臭いこと言わないでよ… 確かに私は“外野”だけど… あなた達が…こんな風に離れていくのが やっぱり残念なの きっと…大変な事情があるんだろうけど…あなたの様子を見ても…陽葵ちゃんの様子を見ても 悲しいのよ うん、すっごく 悲しいのよ」
『他人の不幸は蜜の味』
私なぞはこの言葉通りの人間。
自分が不幸だったから、
たまに他人の不幸にブチ当たると
口では同情しながらも心は癒されていた。
でも紺野さんは違っていた。
見ていて分かった。
こんな同僚に巡り合えただけでも
今の私は幸せだ。
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母の日の日曜日。
私は開店から夕方5時までシフトを入れておいた。
業務が終わり、レジの過不足と金券の過不足をチェックしていると、次に入ってくれる紺野さんが肘で脇腹をつついた。
カノジョの視線の先を辿ると…
陽葵が俯き佇んでいた。
「これはもう、行ってあげなきゃね」
紺野さんは私の肩を掴んで、陽葵に向かって送り出した。
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陽葵とスーパーの駐車場で待ち合わせして
連れだって“グラモ”側へ出て来た。
コンコースの時計がまもなく6時を指そうとしているのに、外はまだまだ明るい。
“グラモ”へ向かうアーケードの一角が“母の日”の為の花屋の特設店になっていた。
私達は、そこで花を選ぶことにした。
並べられた花たち
花束、アレンジメント、鉢植え、ミニポット
やはりカーネーションがメインだが、もう時期なのか、晴れた日にも映える鮮やかな赤の紫陽花が目を惹いた。他にもガーベラ、胡蝶蘭などずいぶんと賑やかだ。
「やはり花束かしらね」
私はいつの間にか腕に縋っている陽葵に尋ねる。
「お母様…お好きな花はあったのかな?」
陽葵は私の腕を離れて、ずらりと並んだ花束たちに歩み寄った。
「それはカサブランカね 花言葉は確か…「純粋」とか「高貴」だったかな ただ花粉は結構落ちるから、先に摘んだほうがいいかも。花粉がくっつくとなかなか大変なの」
花束を抱えて店から離れようとした時、陽葵はふと立ち止まって足元を見た。
そこには丁度、マーガレットの鉢植えが並べてあって…
陽葵はしゃがみこんで、それらを眺め出した。
「可愛いわね…」
そんな様子に私はふと思い立って声を掛けた。
「気に入ったのを一つ選びなさい」
「えっ?」
「私からのプレゼント」
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陽葵は花束を抱え私は鉢植えを提げてプラムガーデンの家まで来た。
私は既に鍵を返しているので
ドアを開ける事はできない。
陽葵はドアを開けて
私を見る。
しかし私は頭を振る。
「まず花束を置いてらっしゃい。それまでここに居るから」
何を
どう考えていたのか
陽葵はしばらく戻って来なかった。
私はまた、鼻の奥に涙の匂いを感じながら、マーガレットを愛でる。
「どうか陽葵と仲良くね」と語り掛けながら
やがて、しずしずと戻って来た陽葵の手にマーガレットをゆだねる。
「可愛がってあげてね」と
「あの、また…」
言い掛けた陽葵に私は再び頭を振る。
「では、さようなら」
私は開け離れていたドアをパタリと閉め、背を向けると駅の反対側を目指しずんずん歩いて行った。
ポロポロと涙を落としながら。
。。。。。。。。。。
イラストです。
ラフ画を彩色しました。
陽葵ちゃん
伊麻利さん
書いていて、けっこう辛い。
ウケない内容だし…
でも、やっぱり書きます。
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