第17話 ポチ、更に切なさを胸に抱える
「マーねーちゃんは、私の恋人だよね」
陽葵に真っ直ぐな目でこう言われた私は二の句が継げなかった。
そんな私に陽葵は更に言葉を投げ付ける。
「パパとせっくすしたの?!!」
昨日の夜から、頭の中で刻み続けられていた“秒針”が止まった。
いえ!それは…
それはしていない
でも…
そんな言い訳は到底できない
色んな感情と欲望に
私は捉われていた。
その挙句
こんなにも大切な…大切なはずの陽葵の事を
いつの間にか忘れている…
だから私は
鼻の奥に涙の匂いを感じながらも
狡猾な嘘の衣を着せた言葉を吐いてしまう。
「オバサン 汚いから…」
「オバサンじゃないっ!! マーねーちゃんは大切な恋人!!
私のせいなんだ!! やっぱり私のせいなんだ!!
私がパパにお水掛けたから… 怒ったパパに命令されたんだ!! じゃなきゃ! マーねーちゃんがパパの言う事、聞く訳ないもん!」
陽葵のひと言ひと言が
心を抉る。
自分がどうしようもないオンナだという事を
思い知らされる。
「イヤだ!…イヤだ!イヤだ!イヤだっ!!!
死んじゃうの?!
死んじゃうの??!」
私を凝視したままの陽葵の目から涙が流れ落ちる。
「どうしよう! どうしよう! どうしよう!!
私のせいで、マーねえちゃんが死んだら
どうしよう!!!」
声をあげて泣き出してしまった陽葵を私は抱き締め、夢中でなだめる
「そんなことない!私、死なない。死んだりなんてしない」
なぜ陽葵は…これほど怯え嘆き悲しむのか
私の人間性にそんな価値はないはず…
「ママが言ってたもん。『パパはとせっくすすると、女の人は死んじゃうって!! だからママも死ぬんだ』って!!」
どのような成り行きなのかは分からない。
でも陽葵のお母様が亡くなられたのは紛れもない事実。
事の真相はどうであれ、これ以上陽葵を悲しませる事はできない。私なぞの為に…
この広い家に…陽葵ひとりを残すのは本当に忍びないけれど…下卑た私自身をここから引き離すのが、最善なのだろう。
私は陽葵を…抱いた事のない我が子をあやす様に揺すり抱く。
「陽葵! 私は…もうここへは来ない」
その言葉にビクン!と顔をあげたカノジョのおでこにキスをして、言葉を継ぐ。
「これからは…外で会いましょう ふつうの恋人たちのように」
「なら私が、マーねえちゃんの家へ行く!」
「それはダメ! お父様がお許しにはならないわ。どこの馬の骨か分からない恋人の元へ我が子を走らせる親を正しいと 陽葵は思うの?」
「マーねえちゃんはどこの馬の骨か分からない人じゃないもん!」
私はその言葉を取って、逆にカノジョを説き伏せる。
「そうね、確かにそう、私がどんな人間か、お父様はよくご存じ。 だから、なおさら、我が子を近付けたくはないと思ってらっしゃるはず」
「そんなのおかしい! 自分は“命令”するのに!」
私はきっちり頭を振って陽葵を諭す。
「お姫様と自分の奴隷が恋人同士になるのを許す王様がどこの世界に居て?」
「そんなの、お話の世界の事じゃん!」
「そう!現実はもっと厳しく オトナはそんな事を、決して許さない。陽葵だってわかっているでしょう」
陽葵は私の胸の中で、嗚咽に肩を震わせている。
私は…気づかれないように顔を背けて自分の肩口を涙で濡らす。
犬畜生にすらなれない…どうしようもない私のせいで
こんなにも優しい子を泣かせてしまっている。
それなのに
その罪の重さに沈み、溺れそうになっている私は
カノジョに縋って
とどまっているのだ…
早く早く
消えてあげなければと
思えば思うほど
カノジョを強く抱きしめてしまうのに
昨日、康雄さんが廊下に置いて行ったままの新聞に載っている
写真の中の女社長と目が合って
胸のどこかで
チリっと嫉妬を沸き起こさせている
どうしようもなく
愚かでクズな
私が居た。
好きになることを…
好きでいることを…
こんなのも罪深く思わなければいけないものなのでしょうか…
私自身
書いていて分からなくなってくる…
どなたか教えていただけませんか(/_;)
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