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ぼっちポチ  作者: 四宮楓
12/25

第12話 稲城康雄の想い人

今回は“第三者”視点です。

「飲みたければ、あなたは飲めばいい。ここにはP●rrierしか、私の好みの物はないから」


いつだったか、そんな風な会話を交わした女がリクエストしていたアイスワインを彼は用意した。


「なら、これならどうだ “Dr.L●●SEN”  キミの好みだろ?」


女は、ふっと笑った

「情事の前のアペリティフには甘過ぎるわ」


取り立てて…“具合”がいいわけではない。


でも、こんな“塩対応”とは裏腹に“彼の動き”に…忠実と言ってもいいくらいに()()するのが、心地よかった。


それより何より彼を魅了したのは、女とのピロートークだった。


いわゆる“賢者タイム”に彼の脳を刺激する理知的で“付け焼刃”でないビジネストークは、今まで付き合った他のどの女からも交わされた事の無いものだった。


お互いバツイチで、その他は… 女には子供は無く、男には娘が一人… ふたりが共有した“お互い”はその程度…



ピロートークが一段落して、男はベットを出てワインの栓を抜く。


「口移ししてやろうか?」


「そんな事しなくても あなたのキスは十分 甘いわ」


その時、男のスマホがメッセージの着信音を鳴らした。


「出なさいな」


「いいよ」


女は胸のあたりにコンフォーターを残したまま身を起こした。

「だめよ 私を思うなら スマートに出て」


男は軽くため息をついて画面をタップする。


見ると…絹さやと花ニンジンの色鮮やかな筑前煮の画像にメッセが付いている。


『陽葵ちゃん、ニンジンの飾り切りも頑張っています。褒めてあげて下さい』


『けっ!』

男は発語した。


少し物憂げな視線を寄越す女にその画像を見せる。

「こういうのを“鼻につく女”って言うんだろ?」


一瞥するだけかと思いきや、女は画面をピンチインさせてしげしげと見ている。

「ここの端っこ。ピンクのトレーナーの袖口。娘ちゃんでしょ?かわいい…」


「そうかな…」


女に触れたくて、男は女に寄り添い、顔を寄せて髪に軽くキスする。


女はそれをふわりと払いのけて男を斜に見る。

「自分の娘の着ている物にも見覚えが無いの?」


「どうかな…妻の実家からもう不必要になった妻の服を大量に送り付けられたからな…有難二分の迷惑八分だよ」


「そうね、あなたはそういう人」


女は裸のままベッドから抜け出て、自分でワインをグラスに注いでスイっと呷った。

「分かるの。私も似たようなものだから」


「なんだよ、それ?」


女はまだ注がれていない男のグラスにワインを注ぎ入れながら、うっすらと微笑んだ。


「私もあなたも“器”が無ければ勝負できないひと… 自分からドブに手を突っ込むこともできないし、ドロをこねて器を作ることもできない。出来合いの殻に体を合わせるヤドカリなの」


「なんで、そんな事が言える?」


女はグラスを男に手渡してウィンクする。

「あなたの事、つぶさに調べたから… そんな怒った顔しないでよ。あなたの娘さんも含めて、欲しいなと思ったのよ 一時はね… あなたは賢いし、人としても魅力的だし、きっと私のところへ来ても上手くやってくれる」


こんな風に言われた男はかなりプライドを傷つけられた。


女はそんな男の表情を読み取って彼の胸をキスなめする。

「別に気にすることは無いのよ…あなただってこの話を『ヘッドハンティング』としてオファーされれば悪い気はしなかったでしょう」


「ずいぶんな言いようだな」


「ええ、私と私の家にはそれだけの価値があるから。それに…私、あなたの事、好きよ」



男は両手で女の頬を包んで自分の胸から剥がし、代わりに深いキスをした。


「じゃあ何が不満なんだ?」


キスを味わった女は微かにため息をついた。

「あなたには必然が足りない。『ナマでいいよ』って言っても聞かなかったでしょ?」


「それは…」


「聞かなくても理由は分かってる。それにね、これは私の理由なのだけど…私は『ドブに手を突っ込んで“器”を作れる男の遺伝子が欲しいの。これからも私と私の家を支えるためにね』


「それが俺には無いと言うのか?!!」


「無い無い…あなたの娘さんの方が、よほどその“強さ”を持っている。 いい事! もっと自分を知りなさい。 私がいい例。 つまらない意地とプライドで、そのチャンスをふいにしたの。 初めからきちんと向き合えば、私は愛も願いも手に入れることができたのに…」


いつしか強がっていた女の目にうっすらと涙が滲んでいた。


「そのオトコと…ヨリ、戻せないのか?」


そう言われて女は吹き出した。

「やっぱり…ね いい加減、悪ぶるのは止めなさい。あなたには似合わない」


「いや、俺は別に…」


「私と私の家が散々使い倒して棄てた…“ためらいなくドブに手を突っ込める元ダンナ”は人を棄てないから…今では切れ者の新しい伴侶も得て、会社も一枚岩。手広くやってるわ。正直、こちらの業界に来られたらと思うとぞっとするくらいにね。私たちの事は歯牙にもかけないのか、まったく手出しはして来ないのだけど…」


女は何か複雑な顔をしている男の鼻をつまんで笑った。

「あなたは子供を作らないつもりなんでしょ? それも一度、よく話し合ってみたら。そのメッセの送り主に」


「何をバカな!!」


女はきっちりと(かぶり)を振ってグっ!と男を見つめた。


「稲城康雄さん、あなたの素敵な娘さんが見つけ出した人よ。だから決してさっきのような態度はとらないで!! その人と一度はきちんと向き合って! 私が好きだったあなたに私と同じ轍を踏んで欲しくないから…」


そう言って女は男のグラスに自分のグラスをカチリと当てた。


「ありがとう。“別れ”の宴に相応しいワインを持ってきてくれて」







。。。。。。。


イラストです。



“女”の後ろ姿



挿絵(By みてみん)



いつか、この“女”の話も書いてみたいです。


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