第XX話 マールとみんなのお正月
みなさん、明けましておめでとうございます。
今回の話は外伝です
「ふぁぁぁ~」
私は街の役所からの帰りの馬車の中で、大きな欠伸をもらす。
それと言うもの、新年を迎える時には、領主は新年を祝う儀式と挨拶がある為である。それも、年が明けてから、朝なり昼なりにやってくれれば良いのだか、新年を迎える瞬間の真夜中に行われる。その後も関係各所との挨拶もあるので、日はすでに昇っている。
つまり、準備の為に前日である大晦日の昼から、役所に詰めて、戻れるのは正月の昼になるのである。だから、私は眠くて眠くて堪らない。
欠伸を噛み殺しながら目の前を見ると、お付きで来ているアメシャはすでに夢の世界の住人だ。なんだか前にも見たことのある光景であるが、微笑ましかった。
そうこうしているうちに馬車は舘の前に辿り着く。
『早く、自室に戻って寝よう』
私はそう思いながら、馬車を降りる。
「明けましておめでとうさん!」
カオリの新年の挨拶の言葉がかかる。
「カオリさん、明けましておめでとうございます」
私は儀式用ドレスのスカートを摘まみ、一礼する。
「いやぁ~ マールはんのお正月衣装綺麗やな~! そや、御勤めごくろうさんやで」
そう言ってカオリは私の手を引きながら、舘の中へ入っていく。私としてはすぐに眠りにつきたいが、こんなにカオリがはしゃいでいるので暫く付き合う事にする。
どこに連れていかれるのかと思えば、いつも食堂にしている会議室である。中に入った瞬間、舘の者たちの姿と挨拶の言葉が飛び込んでくる。
「明けましておめでとう。マールちゃん」
「明けましておめでとうございます。セクレタさん」
「明けましておめでとう。今年もよろしく頼むわ」
「明けましておめでとう。僕もよろしく頼むよ」
「明けましておめでとうございます。トーカさん、トーヤさん」
「明けましておめでとう!マールたん!」
「ハッピーニューイヤーだぜ!マールたん!」
「今年も、そしてこれからずっと先までよろしく!」
「転生者のみなさんも、明けましておめでとうございます」
その後も執事長のリソンや侍女のファルー、メイド達の挨拶もあり、舘の者たちと一通りの挨拶を交わしていった。
「マールはん! お腹空いてるやろ? 今日はうちがうちらの世界のお正月料理をご馳走してあげるわ」
カオリはそう言うと、私をいつもの指定席に座らせる。
「先ずはこれや! お雑煮や!」
カオリは丸い器に入った味噌のスープを私に差し出す。
「あれ?この味噌スープ、いつものとは違って色が白いですね」
「そやろ?今日のは特別な味噌や!」
私は器を口元に引き寄せ、味噌スープを少しすする。
「いつもの物とは違って、まろやかで、コクがあって美味しいですね」
「そやろぉ~美味しいやろ~」
次に中の具材も食べていく。ほくほくの大根に人参、何かの芋、牛蒡も入っている。後、なんだろう、白いやわらかい塊も入っている。どの具材も、暖かくて、汁が絡みついててすごく美味しい。
「これ、色々な物が入っていてすごく美味しいです!」
「うんうん、美味しいやろ~ 次はお餅やで」
そう言って、カオリは先程の白くてやわらかい塊が幾つも載った皿を差し出す。
「これ、さっきのにも入ってたものですね」
「そやで、それを色々な味付けにしたやつや。大きいとすぐにお腹一杯になってまうから、一口サイズやで、こっちが砂糖醤油、これがきな粉、この黒いのが磯辺焼き、これは溶き卵に醤油で食べて」
同じお餅を使っているのに、どれもこれも色々な味があってとても美味しかった。生卵を溶いたものは最初、驚いたが、想像以上に美味しくて驚いたぐらいだ。
「お腹一杯になったら、次は正月限定の遊びやで!! 先ずは福笑いや!」
カオリがそう言うと、会場の真ん中があけられて、絨毯が敷かれ、その上には目や鼻口の無いのっぺらぼうの顔の絵が描かれた紙があった。
「これはどうするのですか?」
「これは目隠ししながら、目や鼻を置いて行って、面白い顔をつくる遊びや」
「へぇーそうなんですか… あれ? この顔の輪郭… これ私ですか?」
「まぁまぁ、そないな細かい事は気にせんとはじめるで」
そう言って、私はカオリに目隠しされる。
「先ずは右目やで」
私はカオリに右目の部分を渡され、先程の顔の輪郭の場所を思い出しながら置いていく。
「次は左目や」
そうやって、次々と顔の部品を置いていく。
「マールはん、完成やで!」
そういって、カオリは私の目隠しを外し、私の目に完成した福笑いが見えてくる。
「な、なんですか!これ! 目がアメシャだし、口はセクレタさんじゃないですか! それに全体的に顔の中央によってますし… 私、こんな顔じゃありませんよ!」
私の言葉に皆がどっと笑いだす。
「あはは、おもろいやろ?マールはん!」
その後も皆で、独楽回しや、二人羽織り、かるた等を楽しんだ。時折、カオリの世界のお酒である日本酒と言う物も飲んだりした。
そして、気が付けば、皆で会場で雑魚寝をしていた。私も徹夜でそうとう眠たかったが、皆も今日の為、徹夜で準備してくれていたのである。
私は一人、目を覚まし、瞼をこすった後、再び絨毯の上に横になる。
そして、皆で楽しい日々がずっと続けばいいなと祈りながら眠ったのであった。




