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第33話 戻らないマール

 現在、私達一行は帝都のかなり近いところまで進んでいた。窓越しに見える景色は、草原や麦畑から、町でもない場所においても、街道の横には段々建物が増えてくる。


 あれから一週間程、私達は旅を続けている訳であるが、初日の問題以外の事は何も起きてはいない。何故なら町についてからの自由行動を禁止したからである。そもそも何がどうなったかと言うと、転生者の一人が館にいる感覚で、町の女性に付き纏い、衛兵から注意を受けたのである。衛兵に関しては、実質的な被害が出ていなかった事と、私とセクレタさんが腰が疲労骨折しそうな勢いで頭を下げたので、なんとか事なきを得た。

 他の自由行動の制限を受けた転生者達はとばっちりであるが、その分、夕食を豪華にして納得してもらった。まぁ、私も夕食代ぐらいで安心が買えるなら安い物である。


「ようやくここまで来たわね。マールちゃん」


向かいに座るセクレタさんも、本を読み終えたようで本を閉じて窓の外を眺めている。


「でも、帰りも一週間程あるんですよね…私の領地にも転移門があれば…」


「ものすごくお金が掛かるわよ。マールちゃん」


「ですよねぇ~」


 転移門、転移魔法陣さえあれば、例え離れている帝都であっても一瞬で往き来ができる。しかしながら、その設置費用や使用するごとに必要とされる魔力のせいで、物凄い金額がかかる。母の倒れた知らせを受けた時ですら、その金額の為使用することが出来なかった。だから、容易く使えるのは国の機関か上級貴族か富豪ぐらいであろう。


「その転移門ってのは何?」


 急に外から声が掛かる。外で私達の話を聞いていた転生者の声だ。


「一瞬で離れた場所へ行ける門ですよ。魔法陣もありますが」


 私は突然の声に驚きもせず答える。というもの、この一週間、何も起きない平凡な行程に、お互い暇を持て余して、会話をすることが増えた為だ。館では色々アレな行動が多い転生者ではあるが、こうして一対一で会話を行うと、時々怪しい時もあるが、普通に会話が成立する。それどころかお互いの世界の事はあまり分からないので、興味に惹かれて会話が弾むこともあった。


「へぇーなんでそれを使わなかったの?」


「すごいお金がかかるんですよ」


「なんで?」


「設置の時とか使用する度にすごい魔力が必要なので、その手数料ですね」


転生者は私の言葉にしばし考え込んだ後、尋ねてくる。


「その転移門や魔法陣は見る事できる?」


「できますよ。用事が済んだ後の観光案内の時にお見せしましょうか?」


「是非とも頼むよ。マールたん」


この『たん』というのも、この一週間で完全に慣れてしまった。慣れと言うものは恐ろしい。


 そうこう言っているうちに、帝都の入口に当たる、ユーラ川に掛かる大橋の検問が見えてくる。検問と言っても通行手形を見せて、幾つか質問に答えるだけなので大したことはないが、みな一時停止を行う為、道が混んできて、私達一行もそれに巻き込まれる。ただ、少しづつ進んでいるのでイラつきもしない。そして、順当に私達の順番になる。


「すみませんが通行手形をお願いします」


 衛兵が御者に声を掛ける。御者が手形を見せている間に別の衛兵が馬車の中を覗き込んできて、私達や転生者達を確認する。


「帝都への目的をお聞かせいただけますか?」


窓越しに衛兵が問いかけてくる。


「私の爵位継承の手続きに参りました」


 私は簡潔に答える。衛兵は私の応答にうんうんと頷きながら、チラチラと転生者たちを窺う。確かに同じ髪形をしたものばかりなので、質疑応答よりも気になるのは確かだろう。別の衛兵達もチラチラと転生者達を窺っている。


「分かりました。行政区画の検問にも話は通しておくので、そちらにお進み下さい。場所は分かりますか?」


「えぇ、大丈夫です。ありがとうございます」


 そう礼を返した後、馬車は進み始め橋を渡っていく。私は窓から顔を出し、帝都の様子を窺う。一か月ほど前に離れたばかりであるが、少し懐かしさを感じる。


「ここが帝都なんですね」


近くの転生者から声が掛かる。


「えぇ、ここがアシラロ帝国の首都ナンタンです」


 私はそういってなだらかな登坂となっている帝都の方を指差す。帝都の構造は帝都周辺に庶民の住宅街や商店が広い道を覆いかぶさるように建ち並び、その少し奥には城壁があり、その向こう側には行政区画。そして、もう一枚の城壁の向こう側には貴族街。最後の城壁の奥には皇帝が住まう城がある。

 私が学生時代に滞在していた学院とその寮は行政区画の中にある。行政区画といっても、本当に行政機関の建物だけがあるのではなく。そこで勤める人々の為の商店等もあるので、これと言った苦労はしないが、やはり賑やかさに於いては城壁の外側の方が上であった。


 馬車はどんどん街中を進んでいき、私の見慣れた街の景色がみえてくる。


「ほんと、懐かしいなぁ~ ほんの一か月程前なのに」


「マールたん。マールたん」


顔を出して辺りを懐かしむ私に転生者が声を掛けてくる。


「なんですか?」


「色々見て回りたいんだけど…へんな事しないからもういいよね?」


 初日の件で今まで我慢をしていたが、やはり帝都の様子を見て、好奇心が抑えられないらしい。もちろん私も滞在中、ずっと彼らを軟禁するつもりもない。


「えぇ、もちろんですよ。でも、宿について、馬車を乗り換えて受付をすませてから、ゆっくりとみんなで見て回りましょう。ここははぐれると大変ですから」


「直接この馬車じゃダメなの?」


「城壁の向こう側は、警備上の問題で、上級貴族等以外は直接乗り込みは出来ないんですよ。徒歩で行くか、指定の交通機関でないと入れません。ゆっくり見るのは受付が終わってからか、爵位継承が終わった後になりますね。でも、宿について馬車を乗り換える間にも少し見て回る事はできますよ」


私の言葉に転生者たちは小さくガッツポーズをとる。



☆☆☆☆☆



 そういう訳で私達は予定していた宿に辿り着き、さっさと荷物と馬車を預け、皆で街並みを楽しみながら徒歩で行政区画に向かう駅馬車の所へ向かったのだが…


「あの… みなさん。なんでそんな物をお持ちなのですか?」


行政区画に向かう駅馬車の中、私は耳を赤くしながら、女の子の絵が描かれた袋を持つ転生者達に尋ねる。


「だって、こっちの世界で綿菓子あるとは思わなかったから」

「しかも、ちゃんと袋にキャラの絵が掛かれた物だし」

「やっぱ、俺たち以外に日本の転生者来ているんだな。ちゃんと壺を押さえている」

「これ見たら買うしかないっしょ」

「歴代のキャラ全部あったな…」

「コンプリートしたくなってくる」


転生者達は思い思いの感想を述べる。


「でも、これから行政区画に向かい、私の爵位継承の受付をするので、そういうものをお持ち頂くのはどうかと… それと、セクレタさんも他人の振りしてないで、一緒に言ってもらえますか?」


 話を振られたセクレタさんの身体がぴくりと動く。そして諦めたかのようにはぁと溜息をついて読むふりをしていた本を下ろす。


「もう早く食べてしまって、袋をしまったらどうかしら?」


「えー最初は美味しいんだけど、直ぐに飽きてくるし」

「こんなに食べきれんよ」

「ぶっちゃけ、欲しかったのは袋だけだしな」


「だそうよ。マールちゃん」


セクレタさんに振った話がそのまま撃ち返されてきた。


「はぁ~ もういいですよ。どうせ今日は受付だけですから」


私も諦めて溜息をつく。



☆☆☆☆☆



 暫くして後に駅馬車は行政区画の駅に留まり、私達は受付の場所に向かう。

受付で私の名前と要件を告げた後、別室の控室に案内される。そして、暫くしてから係員が姿を表す。


「マール・ラピラ・アープ様」


「はい。私です」


私は返事をして立ち上がる。


「こちらで手続きを行いますので来ていただけますか?」


その言葉にセクレタさんも付き添う為に立ち上がるが、係員に制止される。


「不正防止の為、ご本人お一人でお願い致します」


「あら、そうなの。ではマールちゃん頑張ってね」


私はセクレタさんの言葉に小さく手を振って別れ、係員の後に続いた。



☆☆☆☆☆



「なんか遅くね?」

「だよな。かれこれもう2時間ぐらい経つぞ」

「こんなに時間の掛かるもんなの?」


「そうね…確かに時間が掛かり過ぎるわね」


「おい!なんだこれ!」


「どうした?」


「扉に鍵が掛かってんぞ!」


「え?なにそれ?」


「もしかして、俺たち軟禁されてんの?」




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