第125話 商人組合との会食
商人組合の方々が到着し、カオリによる軽い説明が終わった後、私は温泉館で、商人組合の方々と会食をする時間となった。そこで、私は温泉館の会食が開かれる広間に行き、指定の席に着く。すると、商人組合の方々が次々と入室し、それぞれ席についていく。
私の隣には商人組合の代表の方と、セクレタさんがいる。カオリは下座の席で、司会や説明をする事になっている。
「本日は遠方の帝都よりお越しいただきまして、ありがとうございます。私がこちらの当主のマール・ラピラ・アープでございます」
私は、上座から商人組合の方々に挨拶する。前回、アンナ様が来られた時は、本人の希望もあって、畳の上に座布団で座ったが、今回は不慣れな方ばかりなので、カオリが低めの椅子を用意して、皆、その上に座っている。
食事の形式も、前回と同様、とりわけ式ではなく、一人一人に、『御膳』という形式で配られている。私やおじい様達は前回の形式に戸惑ったが、商人組合の人達はあまり戸惑っている様子がない。慣れているのか、それとも海千山千の商人なので動揺を見せないようにしているのであろうか。
「本日、皆様の前にお出ししている料理は、この領地産の食材を、この領地独特の方法で調理した物です。是非ともご賞味ください」
こうして、会食が始まったのであるが、自分で言った物の、私の目の前には、食べたことがない、フライの様な物がある。これはどうすればいいのであろう?
「今日、料理はてんぷらです。塩か天つゆつけて食べて下さい」
カオリがみんなに向かって説明する。なるほど、となりのスープみたいなのにつけて食べるのか…
サクッ
おぉ、結構良い歯ごたえ、それに程よく衣にスープがついて美味しい。しかも、中は今朝食べたちくわかな?
私は他の食材の天ぷらも食べていくと、鶏肉や野菜もあった。ただ、衣をまとって油で揚げただけなのに結構、美味しい。
自分が食べる事に少し、夢中になってしまったが、会食の場にいる商人たちを見回してみる。何方も満足なさっている様だ。いい感じではあるが、取引としてはどうであろう? 当家としては食材を売りたいのであって、料理を食べに来てもらうわけではない。かと言って、食材を買って、向こうで同じ料理をつくるのであろうか?この調理方法が普及しないと難しいかな?
私がそんな事を考えながら、食事をしていると、メイドゴーレム達が、飲み物の入れ物を持って会場に現れる。
「えっ!?」
そのメイド達の姿を見て、隣に座る商人組合の代表が驚きの声をあげる。
「えぇっと、先日の品評会でご好評を得ました、炭酸飲料割のお酒を御用意いたしました。まだ、日が高いので、少量ですが、夜の会食ではたっぷりとご賞味いただけます。今はほんの味見程度でお楽しみ下さい」
そう言って、カオリが説明する。
「夜はそう言う接待なのか?」
何処かから、商人の小声が聞こえてくる。そして、商人たちの顔が綻んでいくのが分かる。どうも皆さん、お酒好きのようですね。これなら、品評会の時の様に鶏肉や炭酸飲料が沢山注文が入るかも知れない。
こうして、程よくお酒が入ってご機嫌になった商人組合の方々と、午後から取引の話になったが、食べ物や飲み物に好感触を掴んでいた割には、そんなに注文が入らない。まぁ、こちらとしては、炭酸飲料については増産体制を立てやすいが、鶏肉については生き物であるので、直ぐには増産出来ない。だから、程々の注文で良かったのだが、その程々の注文しか入らなかった。ちょっと、高望みしすぎたのであろうか?
「それより、ここの宿泊についてお話したいのですが」
一人の商人が話を切り出す。
「その件は私も話したいです!」
別の商人も名乗りを上げる。
「ここの宿泊についてですか?」
商人たちは、ここの特産物よりも、この温泉館の宿泊について熱意を見せる。私は、たまに取引の話をする時に訪れる程度だと思っていたが、思った以上に感心を見せる。
「一体、どの様な事をお知りになりたいのでしょうか?」
「そうですな、例えばひと月の受け入れ可能件数とか」
「何部屋あるのかも知りたいですな」
商人の話しから察するに、取引の時だけ泊まるのではなく、それ以外にもここに泊まりたいようだ。どうしてだろ? 予定では商人の方々はまだ、温泉に入っていないはずなので、こんな田舎に泊まるなんて興味がないと思うのだが… 料理に関しても私が言うのもなんだが、そんなに遠方から足を運んでまで、食べる程ではないと思う。
「カオリさん、ここって宿泊できる部屋は何部屋ぐらいあるんですか?」
「ん~ 大きさは色々あるけど、25部屋ぐらいやな…」
私もある程度は見て回ったのだが、そんなに部屋を作っていたのか…
「なるほど…25部屋か…しかも、大きさが色々あると…」
そういって商人たちはうーんと唸り始める。
「何か問題でも?」
「いや、もしかすると商人組合か、またはそれぞれの商人で、一画かもしくは全部を一定期間借り上げる事が出来るのかと考えて… 何かもっと資料はございますか?」
私は想定外の言葉に、少し目を丸くしてしまう。まだ、来たばかりだというのに、ここに泊まる事をそんなに期待しているのであろうか?
「マールちゃん…」
後ろに控えていたセクレタさんが小声で呼びかけてくる。
「なんですか?セクレタさん」
私も小声で返す。
「マールちゃんには悪いんだけど、カオリと二人で、急いで資料作ってきてもらえるかしら?ここは私が話を進めておくから」
いつもなら、私が残って、セクレタさんが資料作りの役割分担だが、セクレタさんの顔を見ると何やら思惑があるようだ。
「分かりました。セクレタさんお願いしますね。私はカオリさんと資料作ってきます」
私が小声で返すと、セクレタさんは頷いて答える。
「皆様、今から資料をご用意して参りますので、私は少し失礼致します。その間の商談事についてはこちらのセクレタがご対応いたしますので、よろしくお願いします」
私は皆に向き直って告げる。
「カオリさん、資料作りお手伝い頂けますか?」
「うん、わかったわ」
カオリはこころ良く答え、私はセクレタさんに目礼しながら、席を立つが、セクレタさんの顔は何やら悪だくみを思いついた顔をしていた。




