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第124話 ツヴァイ

「えっと、商人組合の方々が来られるのは今日でしたっけ?」


私は、朝食の場で、セクレタさんやカオリやトーカに訊ねる。


「えぇ、そうよ。カオリが担当するのだったわね」


「せやで、うちが引き受けたんや、ここで作ったお酒とかも出したいし、温泉館の事もうちらの方がよく分かると思うから、任せて」


セクレタさんの言葉に、カオリが力強く答える。


「私は…人目があるから隠れた方がいいのよね」


「あぁ、済みませんね…トーカさん」


確かにトーカは誘拐中と言う事なので、人目に映るところには出せない。


「でも、商人組合の方々はいつまでいるの? あまり、長い間だと、温泉に入れないのは…」


「あぁ、安心してトーカはん、一泊二日やから、明日の晩には入れるで」


カオリの言葉に、ちょっと不安がっていたトーカの顔は安心する。


「よかったわ、では、一日だけ我慢ね」


 トーカは喜んでいうが、実の所、トーカの部屋にも個人風呂はあるので、今日でもお風呂に入る事は出来るのだが、すでにトーカの認識ではお風呂=温泉になっているのであろう。


「では、今日の私の予定は、先日話した通り、昼食を温泉館で、商人組合の方々と同席して、その後に会議。また、夕食に御一緒すると言う事で、その他の時間の案内はカオリさんにお任せしていいんですか?」


そう言って、私はカオリが提案したレシピで作った、味噌スープの器を手に取る。


「温泉館も、飲み物とかもうちの方が詳しいから任しとき」


「案内は兎も角、その他の接待はカオリ一人で大丈夫なの?」


トーカが心配してカオリに訊ねる。


「あぁ、その辺りは大丈夫やで、セクレタはんにお願いして、メイドゴーレム貸してもらうから」


カオリのその言葉に、口にしかけていた味噌スープを啜るのを止める。


「あの… セクレタさん…大丈夫なんですか?」


私は、カオリではなくセクレタさんに訊ねる。


「え? あぁ、大丈夫よ。今回はお披露目だから、見せるだけだし、安売りはしないわよ」


「だ、大丈夫なのですね…」


 私はセクレタさんの言葉にそう返し、再び、味噌スープをすする。何か違和感を感じる…でも、セクレタさんは大丈夫だと言っているし、あれ?この味噌スープ、前に飲んだのと味が違うな… この中に入っている具の真ん中に穴が空いたのは何だろうか? 結構、美味しいな… でも、やはり違和感が…


「マールはん、今日の味噌汁はどや?」


私が考え込みながら味噌スープを味わっているとカオリが声をかけてくる。


「あぁ、今日のは一味違いますね。この穴の開いたのも、美味しいです!」


「口におおて良かったわぁ~ ちくわ作りに挑戦してみたんやけど、マールはんの口にもあいそうやな」


「これ、ちくわっていうんですか?」


私は味噌スープの中の穴の空いた物をみる。


「そやそや、お客さんが来るんで、干物みたいな臭いのあるものを作れへんから、ちくわ作ってみたんや、それ、魚からできてるんやで」


「へぇ~ これ、魚からできているんですか。これなら内陸部の人間でも好き嫌いはなさそうですね」


私はそう言ってちくわを口に入れ、もぐもぐしながら口の中でちくわを味わう。


「マールはんの様子やったら、ちくわも売り物になりそうやな…」


 そう言って、カオリはにんまりするのだが、沿岸部からかなり離れた私の領地で、魚の加工品を特産物にするのはどうであろうかと考える。


そこへ、おじい様とおばあ様、そしてラジルが朝食にやって来る。


「おはようございます。おじい様、おばあ様、そしてラジル」


「おはようマール」


おじい様たちが挨拶を返してくる。


「ところで、マール」


おじい様が私に訊ねてくる。


「はい、おじい様なんでしょう?」


「今日、商人組合のものが来ると聞いていたが」


「えぇ、お昼前に、転移魔法陣を使ってこちらにこられますよ」


「誰が来るのか分かるか?」


おじい様の話から察するに商人組合に知り合いでもおられるのであろう。


「えっと、名簿が御座いますから、後でお届け致します。お部屋でよろしいですか?」


「いや、午前中は醸造所におるから、そちらに頼めるか?」


「分かりました。そちらにお届けいたします」


 おじい様は醸造所か… お酒作りに関して提案したのはおじい様で、人材を用意したのはおばあ様で、実際、担当しているのはカオリであるが、おじい様もお酒造りにかなり本腰を入れて協力していると聞いている。なんでも、こちらの人間の好む味、貴族が好む味を、カオリに教えているそうだ。後、こちらの世界のお酒に関する、知識や所作なども教えていると聞いている。


 まぁ、実際の所は、カオリと一緒に味見をしまくっていると思うのだが…、その気がカオリに無いのは知っていても、時々おばあ様が何とも言えない顔をしている事があるので、程々にして頂きたい。




 そんなこんなで、私は朝食を終え、執務室に向かう。そして、ノブに手をかけ、溜息をつき、一呼吸おいてから扉を開ける。


「おはようございます! マールさまぁ!」


私の同じ声、姿、形のメイドが私がしないような、はちきれんばかりの笑顔で挨拶をしてくる。


「お、おはよう…ツヴァイ…」


 私は、カオリに付けてもらったメイドの名前を呼ぶ。なんでも向こうの世界で数字の2という意味らしい。1でなく2なのは一体目が制作中の事故で消失したためだ。しかし、跡形も残らないのは謎である… 本当に一体目が消失したのか心配である。


 とりあえず、四六時中、あのべたべたした接し方と痛い言動を見なくて済むように、ツヴァイには執務室に待機するように命令している。


 前に私の自室に待機するように伝えた時には、下着姿でベッドの中におり、『ベッドをあたためてお・き・ま・し・た☆』と言われたときは、全身にサブいぼが出来た。こんな行動をするので、絶対に人手には渡せない…


そして、執務室には遅れて、セクレタさんやトーカ、午前の勉強をするラジルもやって来る。


「みなさま! おはようございますぅ~」


 ツヴァイが皆に挨拶する。最近では少し慣れてきたが、やはり自分の姿で痛い言動をされるのは精神的に来るものがある。


「私は、これから先ずっと、これに我慢しなくてはならないのでしょうか… これは何かの精神的な修行ですかね…」


私は乾いた声でつぶやく。


 ツヴァイの事で色々思う所はあるが、さっさと午前中の仕事を終わらせないと、商人組合との昼食会やその後の会議に響く。私は我慢して仕事のペンを走らせる。


 私たちの仕事やラジルの勉強が始まると、皆が集中して取り組むので、ツヴァイが口を挟むことが無くなる。…そのため意外とスムーズに物事が進んでいくのだが、やはりいろいろと問題が発生してしまうものだ。


「できました!!」


計算問題をやっていたラジルが答案用紙を持って声を上げる。


「すごいですぅ~! ラジルさまぁ~!」


暇をしていたツヴァイがラジルの所に行き、ラジルの顔を胸に埋めるように抱き締める。


「えっと、褒めて伸ばすという言葉がありますが…あれはそれの一環として見てもいい物でしょうか…」


その光景を見て口を漏らすと、トーカが答える。


「えっと、マールの姿のメイドだから、姉弟扱いならいいんじゃない? 私も小さい頃、お兄様に頭を撫でてもらったから」


えっ?いいのか?


「駄目よ、マールちゃん。そんな事をさせていたら、あの転生者達の様な人間になるわよ」


すかさず、セクレタさんが訂正をいれてくれる。


「ちょっと! ツヴァイ! そこまでしなくていいです! ラジルを放しなさい!」


「分かりましたぁ~ マールさまぁ」


 ツヴァイがラジルを放すと、ラジルの顔は真っ赤になっていた。そして、一瞬、私と目が合うが、気まずそうに赤面して目を反らす。


ほんと、ラジルもツヴァイもこれからどう扱っていこうか…ほんと悩む…



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