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魔王の淡い夢 破

序破急結でちゃんと終わるか不安になってきました。

ガブには帰りにまた乗せてもらう事にして、街の入口で別れた。


「気ィつけろよ!迷うんじゃねえぞ」


「分かった。ありがとう」


去り際にバンと背中を叩いて、ガブはあっという間に人混みにまぎれて行く。その背を見送ってから、改めて街の入口に建つ門に目をやった。


それほど大きな門ではない。

門番も居ないし、木製のこじんまりとしたものだな。

いつも見てはいるが、今日は門の上に掲げられた「リチャロ」の文字が輝いて見える。



リチャロは穏やかな草原に構えられた小さな街だ。


オレの住むリチャレ村はこの街の恩恵を大いに受けている。人口50人にも満たない村は他にもあるが、そういう所は大抵が貧しく食う物にも困っている。此処が無かったらリチャレもそうであっただろうし、何よりスキル使用なんかの許可も取れない。


「…さっそく行くとしようかな」


役所は入口を入って真っ直ぐ進み三つ目の角を曲がった処、赤い国旗が目印だ。うん、覚えている。

役所の前まで来ると、入口に立っていた受付嬢が愛想良く笑いかけた。


「ようこそリチャロへ!今日は何のご用向きでしょうか?」


「スキル会得使用及び戦闘術学習の許可」


「へ?」


「八になったからその許可を貰いに来たんだ。」


「…あ、ハイ!許可証ですね。あちらになるんですが、…えっと…」


建物の中、右の方を見た受付嬢が微妙な顔をしている。見ると、何やら人が集まって揉めているようだ。


…何かあったんだろうか?どうも中心にいる小柄な男が原因らしいが。


「…大型の魔獣が出たとかで…先程からずっとあの調子なんです。この辺りは今までノーマルの魔獣しか出たことがないので、何かの間違いだとは思うんですけど」


「へえ…魔獣なのは確かなのか?」


「さあ…そこまでは…」


受付嬢は再び微妙な顔で首を傾げた。まあどちらにせよ今のオレには関係ないか。

それより出来るだけ早く終わらせないとガブに待ちぼうけをくらわせる事になる。


「どれくらいかかるだろうか」


「そうですねー、もしかしたら夕方まで…あっ」


思案するように目を伏せていた受付嬢が、ふとオレの後ろに立った者に気付いて礼をした。


「おかえりなさいませ、カミーユ様」


ぽかんとしていると、オレを押し退けてカミーユと呼ばれた者が建物の中を覗きこんだ。

背の高い女だ。少しうねった茶色の長髪を一つに結い、意志の強そうな藍色の目をしている。


「…なんだ?あの騒ぎは」


「あ、あの、大型の魔獣が出たとかで…」


二度目の説明。ほう、とカミーユは目を細めた。


「何かの見間違いだろう…が、一応見張りを強化しておくか。一般人に害があっても困るからね」


「ありがとうございます。」


「坊主、ちょっとどいてくれ。…皆、元の位置に戻れ!あとは私が対処する」


人だかりが彼女の姿を見るなり、あっという間に離散した。ふむ、どうやらお偉いさんらしい。そういえば鎧を身にまとっているし、騎士団長と言ったところか。

ぽかんとしていると、同じくぽかんとしていた受付嬢がハッとしてオレを見た。


「…あっ。空きましたね。あちらで許可申請が可能になります」


「え?あっ、ハイ。」


そうだった、それを果たすために此処に来たんだった。

思わず素直に頷いてから、すっかり落ち着いたエントランスへ足を踏み入れた。教えられた場所に、簡素な机と椅子がある。軽い感じだがまあ田舎だし、何よりガブの言っていたように許可証を持たない内に勝手に戦闘術やスキルを使う者の方が多い。つまりそこまで重視されているものではないのだ。


担当らしい男が面倒そうに俺の方を見た。


「…ようこそリチャロへ。許可証の申請ですかね?」


「ああ。」


「じゃあー、えー…名前と年齢と…住んでる村の名前言えますか?」


「…フィアグル。ちょうど八になった。村の名はリチャレだ」


「へぇー、遠くからよく来ましたね。…名前もっかい言ってもらって良いですか?」


「…フィアグル」


「あー」


なんだろう、こいつに許可貰うの不安だ。いやいやこれでも役所の者だし大丈夫だとは思うけども…。バラバラと男の方はオレを気にも止めずに名簿を捲っていく。


「フィアグルさんね…あーあったあった。はい、確かに。じゃあこれ許可証です」


「…うん」


軽っ。良いのかこれで。


男の手から受け取ったそれは、ひし形のペンダントだった。中心に透き通った円盤型の石が付いている。


「えー、石の色で役職及びある程度の持ち主のランクが分かります。色のないあなたの今の役職は無所属。言い換えればビギナーです。あ、…首から下げてみて下さい」


明らかに説明書を読みながらの解説。

革製の紐を首から掛けてみる。ぴったり飾りの部分が胸の所へ収まった。うん、良いんじゃないか?銀縁なのも格好いい。


「石の色は役職によって変化します。まず騎士が青色。魔術師は赤色、召喚者が緑、…他にもありますが、ビギナーがなれる役職はこの三つですね。それぞれの役職を極めれば、更に強力な役職を取得することも可能です。」


「なるほど…役職はどうやったら取得できる?」


オレの場合騎士かな。前世の記憶でいけば、確か騎士を極めれば武闘家の役職が開放されたはずだ。今の体はまだ使ったことがないが、性格上、魔術やらややこしい事には向いていない。


「…学校に通うまでは無所属ですね。詳しいことはまたその歳になった時にでも聞いてください」


…ここから四年か…。まあ無所属だからと困るわけでもないし、良いか。とりあえず今は許可証を貰ったことを喜ぶとしよう。


「ペンダントの石は特別な魔石です。名称ちょっと書かれてないんですけど」


いや覚えておいてくれ。担当のはずじゃないか。


「えーと…石に触れて自分の魔力を流してください。」


とりあえず触れて、指先に魔力をまとわりつかせてみる。しゅるりと力が吸い込まれていく感じがした。…ん?これで良いのか。


思うか思わないかの内、ぱっと石が光を発した。


「うわっ!?」


「えー、今目の前に出てきたのが貴方の魔力数値、使用可能スキル、獲得可能スキル及びランクです。ランクは魔力数値に関わらず、ギルドか役所で認められたものが表示されます。右にあるEがそれですね。」


魔石から出た光が、目の前に文字を作り出している。便利な魔具だな。

…よし!スキルは生前のものとほとんど変わっていない。親から受け継いだのか、よく知らないスキルも幾つか混じっているが、まあ損はないだろう。


「今の貴方の魔力数値は10ですね。」


「10か…。大分低いな」


「貴方の年ならそれくらいですよ。で、スキルが…は?」




オレは素早く石に触れるのを止めた。



パッと光が消え失せる。

担当が俄に訝しげな顔でオレを覗きこんだ。


「…今なんか、変なスキルがいっぱい見えた気がするんだけど…」


「気のせいだな。」


「いやだってお前……。…まあ、ビギナーがそんなスキル持ってるはずもねえか」


納得してくれたようで何よりだ。今の内から注目されては此方としてもやりづらい。

あとどうでも良いけどとうとう敬語すら消えたな。


「じゃあこれで説明終わりだな。帰っていいぜ」


「…ありがとう。」


チラッと見た男の魔石は、緑色をしていた。




さて、ようやくスキル解放だ。


オレは街から一先ず草原まで出てきていた。

もう一度魔石に触れると、再び目の前に光の文字が現れる。

獲得可能スキルは置いておくとして、今はとりあえず使用可能スキルだ。


スキルには常用スキルと戦闘用スキルが分かれている。

文字通り、日常で使うスキルと戦闘に長けたスキル。

常用スキルの内、パッシブスキルは魔力をほとんど使わないので今のオレに向いている。

でもやっぱり魔力が少ないので併用は不可能かな。



…となれば候補は魔力源探知か未来予知。



魔力源探知は魔力を発するモノを探知するスキルだ。単純で扱いやすいスキルだが、基礎にして極意とも言える。

ただし魔力を発するのは敵だけではない。例えば味方だとか、そもそも生物でなく何がしかの魔具であるとか、そういう事は見抜けない。


一方の未来予知は前世のオレのユニークスキルだ。

これは世界の「真理」を利用したスキルである。


この世には十の真理があると言われている。現在解き明かされているのは四つ。その内の一つに、「この世生まれた時より定あり」というのがある。


この世界が創造された時から、曲げられない未来がある、という意味。人はこれを天命と呼ぶ。


未来予知は、その天命にオレが遭遇した場合、予めその一部を予告してくれるというものだ。


天命は変えられないが、選択肢はできる。


例えば極端な話、世界が滅びるという天命があったとして、オレはそれを予知してそのまま死を受け入れるか、転生して異世界に逃げるかという選択肢が得られるというわけだ。



…まあこう改めて考えればどちらを取るべきかは明白か。行き当たりばったりで魔物に出会うか天命に出会うかなど比べるまでもない。


オレは一度目を瞑り、魔石から手を離した。

初めてのスキル発動だ。身にある魔力を動かすのはこの体では初めてだが、妙に慣れ親しんだ感覚がある。


──未来予知。


途端、妙な景色が頭の中に流れ込んでくる。



どうやらさっそく天命にぶち当たるらしい。こっちを発動してつくづく良かったと思いながら、オレは頭に浮かぶ景色に身を委ねた。


村が燃えている。これはリチャレ村だ。


燃え盛る炎の中、逃げ惑う村人を何かがなぎ倒していく。


煙でそれが何かは見えない。…しかし大きい。今世で見るモノの中では格段にでかい。

オレの家も燃えていた。妙な咆哮が空気を震わせていく。



「───まずいな」


目を開けて、思わずぼやいた。ここまで見たことは既に天命、つまり村が襲われるのは避けられない。しかし見た限りで死んだ者は居なかった。

今なら死者は出さずに済むかもしれない。天命であるからにはそれ以上の何かが起こる可能性も大だが、とりあえずさっそくスキルの出番だ。


──身体強化及び魔力源探知発動。


併用は負荷も大きいが、この際仕方がない。

ガブは一先ず置いてけぼりにさせてもらう。あとで謝ろう。

身体強化の分の魔力を、足に集中させる。トンと軽く地を蹴ってから、オレは一気に村の方へと駆け出した。

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