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魔王の淡い夢 序

多分更新ペースはバラバラです。こういうタイプの小説は初心者ですがよろしくお願いします!

あるとき親に見捨てられた孤児が一人、魔物の洞窟に迷い込んだ。



名をヴェネッタ。暗い光のない世界に彼女を見つけた魔物─洞窟の主は哀れんで、その人間の子を己の息子と共に育てることにした。

二人は共に学び、遊び、育ち、やがて恋をした。


人間と魔物は本来相入れるものじゃない。まして異類婚など以ての外。



それは時代の偏見などではなく、この世界の真理だった。


父親である洞窟の主の反対を押し切って二人は手を取り、満月の夜に住み慣れた住処を抜け出した。ヴェネッタはその胎に既に命を宿していた。


まもなく、一人の子が生まれた。

二人は喜んだが、それから幾らも経たないうちに、彼等の後を洞窟の主が怒り狂って追ってきた。



──恩を忘れた哀れな子よ!汝その命をもって世の理を外るるを償え!


ヴェネッタは殺されてしまった。息子は幼い我が子を抱いて、遠く父から逃げた。

遠く洞窟の主から逃れ、やがて国の外れにある人の村へとたどり着いた。

息子は人に化けてその村に住み着き、そして赤子にフィアグルと名付けた。


赤子の瞳と髪は母譲りの燃えるような赤色で、その髪の毛は鳥の羽毛のようにふわふわと舞った。




──それが今から八年前の話。当のフィアグルはすくすくと成長し、今や親子共々すっかり村に溶け込んでいる。


村と言ってもせいぜい三十人規模の集落だ。ほぼ自給自足、稼ぎはたまに麓の街に森で取った木の実や狩った魔獣を売りに行くくらい。

街までは少々遠いので、荷馬車で麓まで送ってもらわなきゃいけない。


…それにしてもさっきからゴトゴト揺れるのはどうにかならないのか?

荷馬車を引いている男がちらりと此方を振り返った。


「酔ったか、フィー坊。もうちょいで着くから我慢してくれな」


「まだ大丈夫だ。ただ出来るだけ早く…」


ガタンと石につまづいて馬車が大きく揺れた。


「…うぇえ…」


「ふははっフィー坊、頑張れ!もう少しだからよ」


「ちょ、ちょっと…!もう少しこの揺れどうにかならないか!?ガブは運転が荒すぎる!」


思わず必死で荷台から身を乗り出したオレを、髭面の男は豪快に笑い飛ばした。ガブはうちの村で唯一の荷馬車引きだ。が、乗り物に弱いオレには少しこの髭面男の運転はキツい。正直もう視界が揺れて口の中に妙な味がする。


「無理な相談だ。街に行きてぇなら我慢するんだな。パズさんに頼まれてんだろ?」


「…そうだよ…」


あんまり豪快に笑われるとそれも響くから黙ってて貰えないだろうか。

パズは先程のオレの回想に出てきた洞窟の主の息子であり、オレの父親。


つまりこのオレがフィアグルである。

恐らく他には存在しないであろう人間と魔物の混血の子供。これだけでも充分すぎる程の設定だが、オレにはもう一つ秘密があった。


荷台で力なくへたりこむ此方を知ってか知らずか、前を見たままガブが繊細な奴だな、と笑う。まあ内容はともかく、余所見しないのはいい事だ。


「それにしてもほぼ毎週乗ってるんだからそろそろ慣れても良い頃だろうによぉ。」


「無理だ。こればかりは体が変わったところで…げほっ」


「は?なにが変わるって?」


「いや…忘れてくれて良いよ…」


「なんだ?…死んだような目しやがって」


それはお前の荒い運転のせいだよ。


「まあ大人びてんのも悪くはねえけどな。フィー坊ももうすぐ働く時期だしよ」


ガブはそう言ってうんうんと一人頷いていた。

前述から分かるようにオレは今ようやく八歳。


お坊ちゃまとなれば話も違うだろうが、小さな村の平民はみんな八歳から仕事を始め、十二歳で親元を離れる。その後は寮制の街の学校でこの世界に存在する「真理」についてを中心に色々学び、早ければ十六で卒業。


青々とした空を眺めていると、少し心地が落ち着いてきた。


「ほら、フィー坊、見えてきたぜ」


顔を上げると、なだらかな勾配が続く道のはるか下、穏やかな街並みが広がっていた。

草原の爽やかな香りが鼻を掠める。…うん、変わっていない。色々違うところもあるが、この世界は変わっていない。


人間と魔物の混血の子──プラスアルファで、オレにはもう一つ秘密があった。




それは前世の記憶を有しているということ。




と言っても全て覚えているわけじゃない。


覚えているのは、かつてこの地を支配していた魔王であったということ。当たり前だが凄まじい魔力を持っていたこと、いわゆる最強の存在であったこと。

見た目のせいで、あんまり恐れられなかったこと…。


オレにとってこれは甚だ不本意な話だった。前世の姿はもう覚えていないが、やたらと可愛いだの言われていた記憶はある。

今回こうして曲がりなりにも人間として生まれ変わったからには、恐れられる存在になりたい。今のところ今世での最大の目標だ。


八歳からは学校に行った時のために、独学での戦闘術やスキル会得が許されている。

今回は役所にその許しを得る為にも街に繰り出したのだ。


「フィー坊、道は分かるか?なんなら俺が付いてってやるぜ?」


「平気だ。場所は今までも何度も確認していたからな。これでやっとオレもスキルが使えるようになるわけだし」


「…普通みんな許しもらう前から勝手にこっそりやってるけどな。妙なとこで律儀なやつだな」


「何を言ってるんだガブ。ルールは破ったら駄目だろう」


「…うん、まあそうだな、忘れてくれ。お前はいい子だよ」


いい子か。前世魔王だけどな。

ガラガラと木製の車輪が回る。話に没頭していたからか、さっきより少し気分も楽だ。立ち上がって見ると、街はいよいよ近く、人々が往来しているのもよく分かる。


八年間、律儀にスキル戦闘禁止の言いつけを守ってきた。それも今日で終わりだ。

今世に生まれ変わったのだから、やる事は一つ。もう一度我が手にこの世界を収めてやる。


そりゃそうだ、オレは魔王だ。野望はあの時から少しも変わってはいない。

勿論少し苦労はするかもしれないが、やってみれば意外と簡単な事だ。


青く壮大な空に、大地も広いことこの上ないが。


「…フィー坊、何してんだ?体が鈍ってたか」


「…そうだな。随分鈍っているさ」


目を細めたオレを、ガブが訝しげに見た。


世界なんて小さいものだ。オレがこうして手をいっぱいに広げれば、収まってしまうようなものなのだから。


ぐっと両の手を広げて、大きく伸びをする。

暖かく心地よい風が草原を吹き抜け、街の方へと流れていった。

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