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遠足で満足!!南極で難局!?

食欲の秋。

時は十一月上旬。

所は公星山。

晴天なりも、いささか寒し。


「みんなー!がんばれー!」


厚い上着のせいで松ぼっくりみたいなミヤは、秋に染まる樹木の続く登山道に沿ってぞろぞろと並ぶ同級生達だけでなく、先頭の犬っぽい顔した先生よりも前に立ち、さらに岩に登って高いところから誰よりも大きな声で元気いっぱいで皆を励ましている。

最後尾の方で絵音が思わず笑った。


「山の遠足のミヤは頼りになるね」


セテラは頷いた。

そして憧れの眼差しで先導するミヤを見上げる。


「一年生の時からずっと元気だよね。みんなのリーダーみたいで、私ちょっと憧れちゃう」


「今年は待望の栗拾いだからね。余計に元気なんだよ」


セテラは重いリュックを、よいせと揺らして背負い直した。

口をしっかり閉じたパンパンのリュックの中にはイヌリンが隠されている。

魔法で軽くなっているといっても、山の斜面を歩いているとどうしても重いように感じてしまう。

こういった他人の些細な変化を特に敏感に察するのが真理亜だった。

後ろをついて歩く真理亜は、セテラのリュックを然り気無く押し上げてやった。


「あ、真理亜ちゃん。平気だよ。ありがとう」


気付いたセテラが微笑んで遠慮すると、真理亜は首を横に振ってセテラの横に並んだ。


「まさかイヌリンちゃんを本当に持ってくるなんて、私びっくりしたよ」


「昨日、集まってオヤツを買いに行ったときに私が止めたのに」


絵音は苦笑しながら言った。

彼女の目はセテラが持つ手提げ鞄に向いている。


「わざわざ、お弁当とオヤツを手提げ鞄に入れてまで、先生に内緒で持ってくるなんてね」


「友達だもん!」


セテラは顔がくしゃっとなるほど笑うと、二人と腕を組んだ。

この楽しい気持ちがイヌリンちゃんに伝わりますように。


「絵音ー!セテラー!真ー理亜ー!!」


と、いきなりミヤが三人の名前を叫んだ。

そのせいで三人は皆の注目を浴びることになった。


「早く来いよー!」


言っておきながら、三人の下へバタバタと忙しく駆け下りてくる。

先生達の注意もお構いなしで、もう見慣れた光景でも他のクラスの子達はクスクスと笑っている。

リュックを激しく上下させながら転びそうで転ぶことなく、あっという間に三人のもとへ駆けつけた。


「遅い!」


「いや、そのハイテンションとハイペースにはついていけないって」


と言ったそばから絵音はミヤに手を引かれて先頭に連れていかれてしまった。

真理亜は眉を八の字にした。


「きっと寂しかったんだよ」


「うん。きっとそうだね」


セテラと真理亜は見交わして困ったような表情で笑った。

それから二十分ほど歩いて目的地の芽里栗園に到着した。

セテラは気持ちのいい散歩だったと満足して長く息を吐いた。

ところで、栗の旬は本来は十月なのだが、この芽里栗園では、子供達が遠足でやって来た時にたくさん収穫出来るようにと時期を少しずらして栽培している。

気温の低下が影響するのか、ここの栗は地元の人達から高い評価を得るくらい甘味が強く美味で、町の子供達はいつか訪れる栗拾いの機会をとても楽しみにしている。


その待ちに待った栗拾いが、いよいよ始まろうとしていた。

子供達一同は芽里栗園の農家さんを前に、草原に腰を下ろして注意とアドバイスを受けていた。

一見して大人しく聞いているように見えるが、その顔は早く早くと落ち着かない様子で肩を微妙に動かしたりして、やっぱりどこかそわそわしていた。


「良い栗はつやつやして綺麗です。そして大きくまん丸で、ズッシリしています。あ、虫食いには注意してくださいね。では、みなさん。籠いっぱい、楽しく、一つでもたくさん美味しい栗を拾ってください」


おじさんは優しい笑みを浮かべて伝え終えた。

子供達は利口にきちんと返事をしたが、先生が合図するよりも早く立ち上がる子が多かった。

もう今にも走り出したくてたまらない様子だ。

そして先生が合図するや、子供達はあっという間に散り散りになった。


「そらいくぞー!」


「待ってミヤ」


ミヤが一番に駆け出して真理亜が愉快に後を追う。

セテラは木の下に置いてきたイヌリン入りのリュックを気にして足踏みしていた。

絵音が肩を軽く叩いてくれて、セテラも遅れてパタパタと走り出した。

白い息を吐きながら、屈んで栗を選別するミヤの側に落ち着く。


「いったーい!」


ところがさっそく、栗を守るイガにやられてしまった。

軍手を貫いて鋭いトゲがセテラの親指に刺さった。

持ち上げて振ってみるも、そいつはしっかり食い付いて親指を離れようとしない。


「じっとしてセテラ」


「痛いよぅ……」


「取ってあげるから」


絵音がそっとトゲを摘まんでイガを抜いてくれた。

セテラは痛みをどこかへ飛ばすように親指にふーふーと息を吹き掛けた。


「何やってんだセテラ」


ケラケラ笑って馬鹿にするミヤのお尻に刺さっているイガをセテラは見逃さなかった。


「お尻に刺さってるよ」


セテラが指摘して初めて気付いたようだ。

それでもミヤは慌てることなくイガを外すと、中にグリグリと指を突っ込んで栗を強引に取り出し、それをわざわざ絵音の鼻先まで持っていって自慢した。


「見ろ!超特大!」


「あらら、私の妹みたいで可愛い」


澄ました顔で絵音は言うと、一回り大きな栗をミヤの鼻にちょんとくっつけた。

ミヤはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「真理亜は?」


「あんまり大きいのは見当たらないかな」


「仕方ない。ミヤが探すの手伝ってやるよ」


「ありがとう」


髪を後ろでキュッと束ね直してやる気満々の真理亜は、借り物の分厚い長靴でイガの両側を踏みながら、火バサミでもって中の栗を上手に取り出していた。


「そんな採り方があったのか!」


「真理亜ちゃんてば賢い!」


ミヤとセテラが続けて驚きの声を上げた。

絵音が呆れた調子で言う。


「いや、おじさんが前で説明して実践してたでしょう。ほら、二人の篭にも火バサミ入ってるよ」


「ミヤは栗の木を見てたから」


「このハサミが栗拾いの為だったなんて。バーベキューの時に使うのかと思ってた」


絵音はまるで怒ったみたいに目を細くして二人を見据える。


「二人とも。ぼーっとしてたら、またお尻にイガが刺さるよ」 


「私は」


セテラはそこまで言い掛けて飛びはねた。

お尻に手痛い一撃を食らったのだ。

痛いのはお尻だが。


「あはは!セテラってば」


「うぅー……」


セテラはお尻をさすりさすり、腰を落とさないように気を付けて慎重に栗拾いを再開した。

友達と協力して、時にふざけたりしながらも、嬉々としてコツコツ栗を集めていく。

やがて、小さな籠は大きな栗で一杯になった。

溢れんばかりの栗を手で押さえて、農家のおじさんのところへ四人で連れ立って持っていく。

おじさんに持ち帰り用の袋に収穫した栗を詰めてもらったら、これにて栗拾いは終わり。

リュックを背負うと、そこから少し歩いてキャンプ場へ向かい、そこで「ごはんを炊く」準備に参加した。


「今日のメニューは栗御飯と松茸御飯のおむすびに、鮎の塩焼きと豚汁だって。お漬け物に煮物まで用意してくれているらしいよ」


真理亜が猫の手で上手に米を研ぎながら教えてくれた。

セテラと真理亜は栗御飯を任された。

ミヤと絵音は豚汁の具材となる野菜を切る係だ。

真理亜が米を研ぎ終わると、そこへセテラが刻んだ栗を入れる。


「セテラ、切るの上手だね」


「ふふん、まあね。家でもお手伝いしてるから」


二人が用意した飯ごうはクラスの男の子たちに引き継がれた。

火を扱う仕事は男の子の担当になっていて、ひとまず役目を終えた二人は一休みすることにした。

穏やかな天気だけれど風が冷たくて、二人は丸太のテーブルに身を寄せ合って座った。

そこから、女の子達の和気あいあいとした様子や男の子達のヤンチャにはしゃぐ姿を眺める。


そのうちにちょっと、セテラがうとうとしてきた頃に声が掛かって、二人は他の女の子達と一緒に到着した軽トラックに集まった。

荷台に乗っているのは新鮮な鮎とお漬物、それと紙皿や紙コップなんかだった。

それを受け取り調理場へと運んで、お喋りしながら楽しんでお漬物や煮物を皿に移しては丸太のテーブルの一つ一つに配膳した。

鮎は農園で働く数人の大人たちが調理してくれた。

セテラが通り掛りにちらと覗くと、炭火を囲む鮎に秋らしい焼き目が付いていた。


「美味しかったー!」


それらを漏れなく残さず美味しく頂いたセテラは、もうお腹も心もいっぱいで、大きく伸びをした。


「さてと」


セテラは一息入れると、背中に置いた手提げ鞄からオヤツの入った袋を取り出した。

オヤツは別腹なのである。

向かいのミヤは早くもモンブラン味のアイスクリームをスプーンで忙しくすくって食べはじめていた。

わざわざ保冷バッグに保冷剤を五つも詰めて持ってきたようだ。

こちらも、セテラの件と同様に絵音が止めたのだが野暮というか無駄だった。

セテラはブルッと頭まで震わせて寒さを思い出した。

見ているだけでどんどん寒くなってくる。

視線を移してミヤの隣にいる絵音と目が合うと、彼女はチョコたっぷりの細長い菓子をくわえながら目を閉じて寒そうに両腕をさすった。

セテラは三度も頷いて真理亜にぎゅっと身を詰めた。


「セテラは最初に何を食べるの?」


真理亜がセテラの口にチョコを一粒食べさせながらきいた。

セテラは大好物を初めに食べることに決めた。

アーモンド入りのそれをよく味わって、飲み込んでから大好物を見せつける。


「ひもきゅん」


長い紐状のグミである。

それを、ちゅるちゅる、とすすりながらゆっくり味わうのが好きだった。

コーラ味、ラムネ味、メロンソーダ味と味の移り変わりを楽しむ。

他にはビスケット菓子も買った。

箱を開けると亀の形をした柔らかなビスケットが数匹いて、チョコのかかった背中の甲羅を取り外すと、中に記号の描かれたマーブルチョコが入っている。

それで占いが出来るという変わり種のお菓子である。

あとは薄塩とのりしおとコンソメのポテチの小袋が連なっているものを選んだ。

それと駄菓子を少々。

それらを半分くらい食べたところで、セテラは三人とアスレチック広場へ駆けた。

男の子達がひときわ大声を上げて楽しんでいた。

セテラ達も負けず劣らず元気はつらつに心ゆくまでアスレチックで遊んだ。


日が傾く頃になって下山となった。

峠道を下って走るバスに揺られていると睡魔に襲われた。

セテラは窓の外に見える神々しい光が注がれる夕暮れの町をぼんやりと見下ろしながら重くなった瞼を閉じた。

そのとき一瞬、窓の外を海亀がすうっと泳いで通り過ぎていったような気がした。

夢に落ちる前に思い出す。

亀のビスケットの占いによると、今日のセテラはウルトラC級ラッキーだった。


「楽しかったなあ」


そう寝言を呟いたセテラの手を、絵音が優しく握る。


「さ、起きて。学校に着いたよ」


絵音は体を軽く揺すって起こしてくれた。

セテラがアクビを小さくして周囲を窺うと、とうにバスは学校へ到着したところで、同級生達がのろのろと降車していた。

夢現に疲れた怠い体を起こしてイヌリン入りのリュックを背負うと、ふらふらと体が不安定に揺れた。

バスから降りて、外の冷えきった空気にさらされてようやく目を覚ました。

平たい紫煙の押し寄せる空模様を見上げている間に先生の話が終わって、列をなして並んでいた子供達はまばらに帰りはじめた。

一方でセテラは、校庭に佇んでまだ空を見上げていた。


「どした?」


ミヤが顔を覗き込む。

セテラは問いかけるように言う。


「魚がたくさん空を泳いでる」


「まだ寝ぼけてんのか」


セテラは確かに目を覚ましていた。

両手で頬を叩いてもう一度、天を仰ぎ見た。

緑色の体をした大きな鯨がセテラの頭上を通り過ぎた。


「あ、おっきなクジラだ」


ミヤは気味悪いものを見たような顔をして後ずさり、真理亜の背中に隠れてしまった。

真理亜はセテラの手を取って帰ろうと促した。

セテラは正気を取り戻して歩き出した。


「ひっく!」


道中、セテラがしゃっくりみたいな声を上げて息を呑んだのは、民家の塀から突然に大きな鮫が飛び出したからだった。

背の高い真理亜よりも、いや、両親よりも大きい鮫は悠々と宙を泳いで別の民家へ消えた。

やがて、ポツポツと金属製の沈没船を多く見かけるようになった。

どれも半透明、つまりディスオーダーの最中であるとやっと理解した。

セテラは今、平行世界の海底を歩いているらしい。

みんなと別れてからさらに苦労した。

巨大なヘビみたいな深海魚と目が合ったり、体をイカが突き抜けていったり、繁茂する海草に視界を遮られたり、なにより大きな裂け目が道を寸断していたのが困った。

深淵と呼べるほど真っ暗闇で、その上を歩いて渡るのは恐怖でしかなかった。

自転車にしがみついて立ち竦むセテラは他人からすればさぞ滑稽に見えただろう。


「大丈夫大丈夫。絶対に落ちることはないから。さあ、頑張って足を踏み出して」


イヌリンが心に直接エールを送ってくれても一歩踏み出すまでに時間がかかった。

日はどんどん沈み、深海は仄暗く、蛸墨なり烏賊墨なりを水に溶かしたように黒に染まってゆく。

やっと家に到着したときには海も深海らしく真っ黒になっていた。

顔だけ出して湯に沈み、セテラはそこでやっと安心を得た。

お風呂にも平行世界の生き物はあちこちから飛び出して現れた。

蟹はまだしもグロテスクな魚達は全く癒しにならなかったので見なかったことにした。


「ゆっくり休めないんだけど。あと何か息苦しい感じ」


「仕方ないよ」


「ここは海の世界なんだよね」


「もしかしたら、何もかも海に沈んじゃった世界かもね」


「でも、建物はどこにもなかったよ」


「海溝があったし、ここら辺りは元々が海なんでしょう」


セテラは思い出して肩と声を落とした。


「あれ怖かったー」


「にしても大袈裟よ」


「私の目を通して見たでしょう。真っ暗闇に赤い光がいーっぱいあったんだよ。たぶん怪物の目だと思う。うじゃうじゃいたからあそこは怪物の巣だよ」


イヌリンはまさか、と一瞬言いそうになったけど、この異常な現実からして居てもおかしくはないな、と考え直した。


「まあ、そうね。可能性はあるかも」


「ほら……あ……」


その時だった。

セテラは磨りガラスの窓の向こうに三つの赤い光の玉が三角形に浮いているのを見つけてしまった。

その大きさはどれもセテラの拳くらいある。

イヌリンもセテラの視線を追ってそれに気付いた。


「怪物かな?」


イヌリンにストレートにきかれて、セテラは三つ目の怪物を想像してしまい素早く背を向けた。

本当に怪物だとしたら絶対に見たくない。

イヌリンだけは目を逸らずに、その光の正体を見た。

窓を突き抜けて現れたその正体は、体を膨らませた発光する珍しいフグだった。

体内の発光気管が輝かせる光が薄い皮から漏れて丸い玉に見えたのだ。

恐らく身を守るために集団で暮らし、セテラが想像するような怪物の目に見せているのだろう。

しかしその姿はまるで提灯みたいで、なんとも可愛らしい。

膝を抱えて怯えるセテラにそれを教えてやると、彼女は今度こそ本当に心を休ませた。


上機嫌になってくれなくては困る。

パラドクスロボットとの戦いが待ち受けているのだから。

イヌリンはセテラと初めて出会ったあの日のように浴室をシャボン玉でいっぱいにして元気付けてあげた。

そして明くる朝。

早くもイヌリンがパラドクスロボットの気配を察知した。

セテラが朝御飯を食べて部屋に戻ったときのことだった。


「願いよ願いよ飛んでけ」


イヌリンの体から魔法の杖が飛び出すと、セテラはそれを受け取りながら呪文を唱えた。

くるっと回りながら華麗に魔法少女に変身する。


「慣れたものね」


「うん。この重い杖にも慣れてきたよ」


部屋に家族が入らないよう鍵を掛けて、セテラは決戦の地へとジャンプする。

まぶたの裏を景色が駆け抜けていく。

そして間もなく、海上に辿り着いた。


「うっそー!いやあー!」


目を開けるとやっぱり海の上だった。

それもかなりの高さだ。

なんと雲よりも高い。

当然にセテラは海へ向かって真っ逆さまに落下する。


「慌てない慌てない」


イヌリンは冷静に言うと、超合金ロボットはメクルメクアイを具現化した。

セテラは早口で呪文を唱えてブレインルームへと避難する。

セテラの体は見えないクッションに受け止められて難を逃れた。

体を丸めて固まるセテラの目は皿のようで息は絶え絶え、心臓はバクバクして破裂しそうだ。

イヌリンがその隣に、何事もなかったように現れた。


「前に自分から、高いところから飛んだじゃない」


メクルメクアイが海に落ちたようだ。

衝撃と共に派手な水没音があって、それからゴボゴボと沈んでいく音がする。


「あの時とは全然違うもん!いきなり空に、それぽい、だもん!」


「仕方ないでしょう。だって、パラドクスロボットはこの海の中にいるんだもの」


「ロボットに乗ってからジャンプしたかった!」


「分かりました。これからは気を付けます」


「もう!本当に怖かったし、それに寒かったんだからね!」


セテラは頬を膨らませたまま怪獣のように歩いて、やや乱暴に魔法の杖を台座に突き立てた。

スクリーンが展開して視界が広がる。

ズン……とくぐもった音を立て、メクルメクアイはちょうど海底に着地した。


「暗いなあ……」


暗いところはどうしても不安になる。

メクルメクアイは目を発光させると、ビームアイで薄暗い周囲を照らして見渡してみた。

その光を避けるように魚の群れが逃げていった。

逃げたのが現実の魚で、平気にしているのが平行世界の魚のようだ。

海の中はお魚パラダイスだった。


「水族館にいるみたい!」


「うん。綺麗ね。こんなの初めて」


セテラはすぐに機嫌を直して子供らしくはしゃいだ。

色々な形、様々な色、大きいのから小さいのまで。

個性的な魚たちを数えるように順々に目で追って楽しむ。

そうしているうちに、敵が密かに忍び寄っていた。

イヌリンとセテラが同時に感知して振り向くと、巨大な白いヒトガタが立ちはだかっていた。

のっぺりした白い全身、その上半身は人のようで下半身は魚のよう。

頭には赤い巨大な目が二つあるだけ。

まさに怪物と呼ぶにふさわしい風貌であった。


「きゃあー!」


セテラは反射的に悲鳴を上げた。

敵は大きな手でメクルメクアイの胴体をしっかりと掴んだ。


「やだ離して!」


抵抗のイヌリンパンチは水中では威力が不足していた。

水圧に阻まれて力が制限されてしまう。

なので敵は顔面に拳が直撃しても全く動じない。

気にすることもなくゆるりと泳ぎ出した。


「どこに連れていかれるの!やだやだやだ!」


「セテラ落ち着いて。あれはロボットよ」


「気にするよ!見た目がオバケみたいで怖いんだもん!」


と、メクルメクアイの体が凍結しているという警告がモニターに表示された。


「凍結?そんなまさか」


イヌリンは直感的に悪い想像をした。

敵に氷漬けにされて深い海の底に沈められるのではと。


「セテラ。この先は南極よ」


「南極!?イヌリンちゃんの世界にも南極はあるの?」


「世界で一番の大陸だった。て、そんなことは今どうでもいいの」


「南極って、一番寒いところだよね」


「そうよ。もしかしたら、私達をカチコチにするつもりかも知れない」


「メクルメクアイってカチコチになる?」


「普通はならない。けど、分かるでしょう」


「逃げなきゃ」


肩のマジカルロケットをフル稼働させ、足裏のマジカルジェットも最大限に利用する。

それでもって強引に斜めに上昇して海上へと飛び出した。

メクルメクアイと敵は抱き合ったまま弓なりに飛翔してついに氷の大地に激突した。

二人は氷をガリガリと砕きながら別れて激しく転がる。

氷上を滑るメクルメクアイは、やがて氷の壁にぶつかって止まった。

氷の壁は派手に崩れて、背中を預けて頭を垂れるメクルメクアイの巨体に氷塊をゴロゴロと被せた。


「ふぇ……クラクラするよぅ……」


見えないクッションに守られてもその衝撃は甚だしく、セテラはすっかり目を回した。

驚いた体は痺れているように微細に震えている。

おもむろに頭を上げて敵を確認する。

辺り一面、銀白の世界。

その宙を泳ぐ平行世界の生物たちは鮮やかに色濃くなっていた。


「セテラ、ディスオーダーの時間がすごく短くなってる」


「え?それは大変」


敵がヌルリと滑らかな動きで起き上がろうとしている。

セテラはまだ目を回していた。


「セテラ、しっかりして」


「はあい」


セテラは力なくフラフラと歩いて杖にもたれかかる。

メクルメクアイはセテラの指示を受け、順次に関節を駆動して体を起こした。

足下の氷がバリバリと踏み砕かれる。


「足下、大丈夫かな?」


「分厚いから平気平気」


確かめるように二度、軽く足踏みしてみて臨戦態勢に入った。

動きを窺う両者の間を長い一本角の鯨の群れが過った。

イヌリンが海に連れていかれないよう気を付けてと注意する。

セテラは頷いてメクルメクアイを走らせた。

白煙を散らして氷原を疾走する。

敵は両手を広げて待ち構える。

セテラは敵の不気味な目を直視しないようにして、敵の腹に狙いを定めた。


「イヌリンキーック!」


跳躍して、右足を思い切り伸ばして敵の腹を突いた。

敵の動きは予想より鈍く、避けるどころか防御もなく直撃した。

敵は軽く飛んで氷原に伏した。

そして、そのまま動かない。


「あれ?」


セテラが油断した、その一瞬の間の出来事。

敵の頭が不意に持ち上がったかと思うと、氷原に鋭い氷の針が瞬時に生えて一直線に迫ってきた。

セテラは危険を察知してそれをかわした。

ところが、初めの攻撃こそ囮で、出し抜けに背後からツララに襲われた。

直後、メクルメクアイの背部は一瞬にして氷つき、マジカルロケットは機能を失った。

体も動きが鈍って不自由になる。

幸いにも腕はよく動くし、足裏のマジカルジェットも無事だ。

氷結は魔法の仕業らしく、体を動かして剥がそうとしても生き物のように食らいついて離れない。


「前から思っていたけれど、魔法防護は通用しないみたいね」


「どういうこと?」


「メクルメクアイも私達も魔法に弱いってこと」


「え!そんな!」


「でも、それはお互い様。きっと何とかなる」


イヌリンは諦めていなかった。

セテラが教えてくれた気持ちだ。

セテラも、やっぱり諦めはしなかった。

と、そうこうしている間にも敵は続けてツララを無数に突き出してきた。

メクルメクアイはマジカルジェットで高く跳躍すると、前方に小さな魔法陣を幾つか展開して魔法弾を複数、敵目掛けて連続で撃ち放った。

直撃したようだ。

敵の攻撃が止んでメクルメクアイは無事に着地することが出来た。

爆煙が晴れると、敵の白い皮が所々に焼け剥がれて超合金の骨格を剥き出しにした敵の姿が現れた。

その見るも恐ろしい姿にセテラは肩を竦めて硬直する。


「きゃ!」


突然、どこか遠くで爆発音がして氷原が激しく揺れた。

セテラは身を縮めてキョロキョロと辺りを見回す。


「今の何の音?」


「真下で何か起こったみたい」


すると突然、足下の氷床に亀裂が走ったかと思うと、立ち所に崩壊してメクルメクアイは極寒の海に沈んだ。

青緑の海中に生きる小さな生物たちが巨大な来訪者に恐怖して慌てて逃げていく。


「イヌリンちゃん。やっぱりロボットが重すぎたんじゃない?」


「にしては少し異常ね。もっと他の原因が……」


そこへ、敵がメクルメクアイを追って海中へ飛び込んできた。

両手を広げて素早く迫る。

咄嗟にマジカルジェットを駆使して、メクルメクアイは体を翻して回避した。

敵はそのまま深く潜水していく。

地上とは違って機敏に泳いでいる。


「見えなくなっちゃった」


「セテラは潜らないように。さ、今のうちに上に戻ろう」


ここで不意に、背後に爆発の衝撃を感じた。


「何々!?」


驚きの連続で戸惑うセテラ。

振り向くも、泡ぶくがあるだけで敵影はない。

平行世界のものと思われる鋼鉄の基地のようなものが大陸棚から迫り出しているのを見つけた。

その大陸棚には美しい虹色の珊瑚礁が群生している。


「もしかして平行世界から何か飛んできたの?」


「そんなまさか」


そこへヒトガタの敵が戻ってきた。

メクルメクアイは高速の猛突進もかわしてみせた。

敵はそのまま頭上に浮かぶ氷原に、逆さまになって張り付いた。


「またくるよ」


「さっきの氷のトゲトゲはイヌリンバリアで防げる?」


「出来るけど、色んな方向からだと防ぎきれない」


「じゃあ何とか頑張って、あのロボットを早くやっつけなきゃ」


セテラは敵の周囲に次々と形成されるツララを睨む。

超氷結合金ブライクルニンゲンがいよいよ本領発揮する。

ツララがグングン伸びて、まるで蛇のように暴れだした。

前回の戦いでギフトホグウィードが見せた自由意思を持った触手を思い出させる。

それはこの世界の小さな命たちを捕らえては食い殺していく。

メクルメクアイはマジックアイテム、ソーイングビーニードルを取り出すとマジカルジェットで水を蹴り、敵の攻撃を苦労しながらも回避してツララを切断した。

死のツララは切っても切っても増殖して他方向からいやらしく迫る。

それによってメクルメクアイは深海へと追い込まれていく。


「あんまり深く潜っちゃダメだってば!」


「そう言われても、上は氷のトゲトゲだらけなんだもん」


ちらっとビームアイで照らしてみても海の底は見えない。

すぐ向き直りツララの回避に専念する。

なるべく横方向へと回避するが、前方を遮られては下に下に避けるしかない。

イヌリンは焦りを感じていた。

セテラはそれを振り払って何とか上に戻ろうと努める。

しかし真逆に、どんどん沈んで、メクルメクアイが落ちた穴が遥か遠くで小さな点になるまで沈んでしまった。

そこで攻撃がピタリと止んだ。


「終わった?」


「油断しないでセテラ」


「分かってます」


右方向の闇で明滅があった。

直後、闇を突き破って一つの魚雷がメクルメクアイ目掛けて飛んできた。

驚く間に魚雷はビームアイが作る光の道を駆けて、メクルメクアイの目前で起爆した。

強烈な衝撃波が広がって、爆心地は一瞬、真空状態になった。

刹那に元に戻ろうとする力が働いて強く引かれる。

そうして動きが制限された隙を狙って別方向からも魚雷は飛んできた。

絶え間なく魚雷が飛んできては、メクルメクアイは弄ばれるように水中を転がった。


「何事なのこれ!目が回るー!」


「センサーに反応がない。でも、でも何かいる!」


「またゴキブリ!?」


「それはないと思う。ただ、一体か、それとももっとたくさんか、別のパラドクスロボットがいるのは間違いない」


スクリーンに警告が表示された。

メクルメクアイの腹部が凍結した。

目に見えている。

長く白い帯、死のツララが腹に刺さったのだ。

それを手繰るようにブライクルニンゲンが潜水して迫るのを確認した。

想定外の魚雷による波状攻撃は続き、標的をうまく捉えられない。

セテラは逆に突っ込んでやることにした。

一か八か超合金の裁縫針の切っ先を敵に向けて急速上昇、真っ直ぐに突撃する。

針は見事に敵の胸を貫いた。

ところが、まったくダメージはないようだ。

手応えもほとんどない。

薄い鉄の板をすり抜けただけみたいだ。

敵の両手がメクルメクアイの両手を掴んで、ソーイングビーニードルもろとも凍結させた。


「セテラ!逃げて!」


「分かってるけど動かないの!」


グンと下に引かれた。

視線を向けると、いつの間にか下方から錨の付いた鎖が伸びていてメクルメクアイの両足に一つずつ絡んでいた。

そのまま底知れぬ深淵へと引きずり込まれていく。

一方で凍結はジワジワと進んで胸まで至っていた。

防護にエネルギーを回しても時間の問題だ。

内部までやられては全ての機能を失うだろう。

超合金が軋むイヤな音が聞こえてきた。

不安を煽る金属音、それは水圧によるもので、まずメクルメクアイの全身に付属するネオンが全て砕けた。

次いで左目が圧力に負けて粉砕した。

そこへ浸水する音が聞こえる。

イヌリンはいよいよ押し黙る。

窮地に達した。


「そうだ!」


パッとセテラが閃いた。

窮地を脱する方法が一つ浮かんで、さっそく実行に移す。

機能の低下による影響か、ブレインルームは凍えるほど冷たい空気で満たされている。

セテラは震える唇を動かして、喉が裂けそうなほど声を上げて呪文を叫んだ。


「ホップ!ステップ!ジャーンプ!!」


メクルメクアイを中心に淡い光が闇を照らした。

間もなく景色が一変、メクルメクアイは再び氷原に着地した。

敵も巻き込まれてそこに打ち上げられた。

同時に何かが遠くで落ちて重い音がした。

足に絡む鎖はそこへ繋がっている。

図らずも見えない敵も連れてくることに成功したらしい。


「セテラ!やるじゃない!」


「えへへ」


一安心したとろこで状況は芳しくない。

メクルメクアイは、今にもほとんどの機能を失おうとしていた。

身動きがほとんど取れない。

それでも、組み付くブライクルニンゲンを蹴り剥がして距離を取った。

足の鎖を剥がそうにも腕は変な形で凍結している。

まるで降参とお手上げしているみたいだ。


「まずは見えない方からやっつけようか」


「そうね。見えればいいんだけど」


メクルメクアイはマジカルジェットを最大限に利用して高く跳んだ。

鎖が引かれ、白煙が舞い何かが浮かんだ。

その何かは姿が見えない。不思議なことに影すらない。

ところが鎖は見えているし、その先は宙で突然に途切れている。


「きっとそこだ。見えなくてもやっちゃうよ」


「信じてる。やっちゃえセテラ!」


「うん!ショットプットディストラクション!」


超合金砲丸が具現化して鎖の先で落ちた。

グワァン!

と命中した轟音が響き、何かが氷原に叩きつけられる。

白煙のなか、朧気にその姿が露になっていく。

巨大な潜水艦が体をひしゃげて横たわっていた。

超隠密合金シークレットオルキヌスは姿が完全に露になると、陽光を受けて氷が溶けるみたいに消えてなくなった。


「潜水艦だったんだ」


「セテラ、潜水艦て何?」


「もしかして潜水艦を知らないの?」


「うん。私の世界にはないもの。あれは船なの?」


「そうだよ」


「へえ、海に潜るための船があるんだ」


「私も空を泳ぐ魚なんて初めて見たよ。ほら、あんなにおっきなタコさんだって初めて」


「それはまた別の平行世界の、そうだ、まだ敵が残っているじゃない!」


マイペースから先にイヌリンが脱した。

遅れて気を取り直したセテラは残る敵を振り返る。

敵は全身に鋭いツララを盛んに生やして獣のような姿になっていた。


「ハリネズミさんみたい。あれに触っちゃ大変だね」


「ショットプットディストラクションで倒そう」


「分かった!」


超合金砲丸を魔法で浮かせて敵に撃ち放つ。

が、敵は避けることなくそれを受け止めてみせた。

鈍い衝撃音が氷山にこだまする。

敵は微動だにせず受け止めてみせた。

セテラは今日何度目になろうか目も口も大きく開けて驚愕する。


「うっそー!」


しかも、超合金砲丸はそのまま氷原に氷付けにされてしまった。

魔法で引き寄せようとしても動かない。

セテラは腕を組んで目を閉じ口はへの字に曲げた。


「うーん。困ったね」


「困ったどころか大ピンチよ」


敵はおもむろに体を丸めて球体になると、メクルメクアイに向けて転がった。

回転は氷原をガリガリと削りながら加速していく。

動きの鈍ったメクルメクアイは回避が間に合わず、巨大な針の塊と激突した。

メクルメクアイが倒れると、敵はショットプットディストラクションを真似るみたいに宙に跳んでは、その凶器となった刺々しい球体をメクルメクアイに何度と叩きつけた。

そうして、あっという間にメクルメクアイの全身は完全凍結した。

穴が開いて傷だらけのメクルメクアイはツララの山の中に横たわり、静かに活動を停止した。


「大丈夫?」


魔法少女を保護する機能も失われ、セテラは背後の壁に叩きつけられていた。

超合金で編まれた魔法少女の衣装のお陰で体へのダメージはない。

それでも、セテラは白い息を吐いて沈黙していた。


「しっかりしてセテラ!」


イヌリンが側で必死に呼び掛ける。

セテラの口元が緩んだ。


「大丈夫。負けないよ」


セテラは呟くと、上半身を起こして横になった天井に背を預けた。


「ひゃっ!冷たい!」


反射的にそこから飛び退くと、イヌリンがクスッと笑った。


「そりゃあね。氷付けにされちゃったから」


「ううー寒いよぅ。お尻も冷やっこい」


セテラはかじかむ体を丸めて腕を擦りながら泣き言をこぼす。


「防寒仕様にしてあげる」


「ううん。それよりも魔法の杖をちょうだい」


「また何か閃いたの?」


「うん。まあね」


「まったく君は凄いよ。どんな状況でも諦めないし。でも私は……君に何もしてあげられなくてごめんね」


セテラはイヌリンを両手で掴むと太股の上に置いて、ぎゅっと抱き締めた。

イヌリンの超合金の体も冷たくなっていたけれど離しはしない。


「そんな寂しいこと言わないで。私が怪我してないのもイヌリンちゃんのおかげ。世界やみんなを守れるのもイヌリンちゃんのおかげ」


セテラはイヌリンの体を回して、その体に描いた瞳と目を合わせた。


「前に言ったの忘れたの?おあいこだよ」


にこやかに手の平をイヌリンに向ける。


「パーとパーで、ハイ」


イヌリンは、ぴょこんと跳ねて手の平に体を当てた。


「タッチ!」


セテラは嬉しそうに頷いた。

イヌリンは言う。


「セテラの閃きが分かったよ。このピンチを脱出する方法」


「自己修復?じゃないよ」


「分かってる。それじゃあ体に付いた氷はどうにか出来ない。その前にひとまず、どうやって脱出するか」


「言わなくても分かるの?」


セテラはちょっと意地悪にきいた。

対してイヌリンは自信満々に答える。


「分かるよ。これでも、みんなに天才って呼ばれてたんだから」


魔法の杖が浮いて移動してセテラの手に収まった。

セテラは呪文を唱えて、ブレインルームから姿を消した。


「何とかなるよね。ふたり一緒なら」


氷の山の中から忽然とメクルメクアイが消える。

佇んでいた敵は、ふとそれに気付いて不思議そうに中を覗く。

と、敵の背後で重い音がして地面が揺れた。

不気味な動きで振り向くと、そこに氷付けにしたはずのメクルメクアイが立っていた。

ブレインルームの中でセテラが胸を張って叫ぶ。


「どうだ!いないいないばあ作戦!」


「セテラ。恥ずかしいから何も言わないで」


「メクルメクアイをイヌリンちゃんの中に仕舞って、もう一度出す作戦です」


「説明しても伝わらない伝わらない」


セテラはお茶目にベロを出すと、メクルメクアイに念を送った。

それを受けたメクルメクアイは活動を再開。

魔法粒子加速器も雄叫びを上げて再稼働する。


「いけるよ!イヌリンちゃん!」


「ビームはエネルギー効率が悪いから丸く集めて」


「分かった!」


メクルメクアイの胸の前に四つの魔法陣を展開して、セテラは器用にミラクルエネルギーを球体に集める。

前にイヌリンちゃんが教えてくれた。


「ミラクルエネルギーを溜めれば、それなりの威力になる!だよね!」


「よく覚えてたね。その通り。魔法粒子加速器からミラクルエネルギーを継続して放出できない分は威力が劣るけど、限界まで集めれば倒せないことはないはず。あんなペラペラオバケなんてイチコロよ」


敵はエネルギーの上昇を感知して体を丸めた。

その場に留まって、激しく回転して勢いを加速していく。

一撃で決めるつもりらしい。

それは、こちらも同じだった。


「ラブバースト!今よ!」


イヌリンの合図を受けて球状のミラクルエネルギーを撃ち放つ。


「マジカミラクル!イヌリンボンバー!」


敵の方が僅かに早く動いた。

だが、それは問題にならない。

イヌリンボンバーは敵に衝突すると押し負けることなく食い止めて、瞬間、閃光して爆発した。

いささか遅れて内から発生した衝撃波が炎も白煙も吹き飛ばし、爆裂した敵は跡形もなく影すら残さなかった。

ただラグナクロックの針だけがおかしく氷を跳ねて、メクルメクアイの足下でパッと消えた。

また、メクルメクアイの全身に薄く残っていた死の氷も砕け散った。

間もなく宙を泳ぐ平行世界の生き物達もいなくなり、世界が救われたと実感する。

ほっとするイヌリンの傍らで、セテラは両手を上げて喜びに踊った。


「やった!やったあ!」

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