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プギャーは暗躍するようです。勇者編

「プギャー様、春麗です」

「うむ。で、城の様子はどうだった。」


ア・ジニアでの皇子生誕祭の最中、白い髭を蓄えた中年男性に扮していた悪魔――――

山田と鈴木の最初の敵であったプギャーはとあるちゃんこ屋台の親父に扮して王国に潜入していた。

春麗(チュンリー)は茶色いマントを脱ぐと、その中身の少女は中華服を纏っていた。セミロングの頭―――――その横にある二つ別れた髪の毛は三つ編みでスタイル抜群の美少女であった。


「昼間の警備は通常よりかなり手薄となっていましたね。また今夜は宮廷で晩餐会が広かれるようです。うわ…」


春麗は屋台に入ると、目の前にある紫色のスープの中身が蜥蜴や蛙といった物である事に気がつき顔をしかめた。


「ふむ……では予定通り今夜後宮に潜入し、皇子を拐う。私は指揮に回るので貴様に皇子の事を任せる」

「私は単なる情報屋ですよ?プギャー様」

「ふん。嘘を付け、なんでも屋。貴様の"カメレオン"のマントがあれば容易い事だ。前払いで金貨50枚だ。」

※1金貨 100万円

「私のマントを高く勝って頂いているようですが、割に合わないですね。晩餐会にはあの"勇者"も来るようですし、お断りさせて頂きますよ」

「貴様ッ…!」

春麗とプギャーの間に沈黙が流れる。

プギャーの作戦は春麗が必要不可欠―――

「…前払いで金貨100、後払いで100出そう」

「前払いは今渡してもらいましょう」

「守銭奴が…!」

目の前に投げ出された皮袋の中身を確める。

「毎度あり」

「言っておくが逃げたら殺す。わかっているだろうな?」

「フフ…わかってますよプギャー様しかし、この店繁盛はしてないようですね」

「私はこの地獄蛙は利益度外視で出しているのだが、何故か客が寄り付かん。地獄蛙の串焼き屋でも良かったかもしれんな。しかしまぁ売れてない店と言う意味では―――目の前にある、千本くじ屋見たいな的屋はもっと酷い」

「千本くじ屋…ですか」


春麗は屋台の暖簾を上げて向かいの千本くじ屋を覗くと二人の女性の客が店主と何やら言い争いをしている。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

「ち、違います!聖霊の加護を受けてれば見えるはずなんです!」

「加護ねぇ…やっぱこれ」

「インチキですな」

「違ーーう!」

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

春麗はいかにも怪しげな店に引っかけられた二人の女性を見て苦笑した。看板にはホンモノ!と書かれているのだが、こんな怪しげな店に引っかかるやついるのかと思った。


「世の中、騙されるやつが悪いんです。フフ。しかしあんなあからさまに詐欺をしている店もあるとはね。やはり王国は面白いです」

「私を裏切ったら…わかっているな?」

「えぇ。この仕事、受けさせてもらいますよ。」


春麗は暖簾をくぐり、宿屋へと歩き出す。

的屋の店主が汚ならしい白い薔薇を"聖女の使用済みティッシュ"等と言っているのが見えたが、春麗は馬鹿馬鹿しいと頭を振り、宿屋で今夜の事について作戦を考えておこうと思ったのであった。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::



王国の宮庭では満月の照らす明かりの中で剣を振りかざす者がいた。衛士達が固唾を呑んで見守っている。


「くっ…!今宵は我が妖刀が騒いで仕方ない!満月の光を浴びて妖力を増したのか?ちぃっ!体を乗っ取ろうと言うのかッ!?」

「あ、あの勇者様、大丈夫ですか?」


女性は刀をにらめつけ、苦悶の表情を浮かべた。衛士達は心配そうな顔を浮かべながら、その魔剣を振るう女性に向けて小声で感想を口に出すのであった。


「あ…あれが伝説の剣か…天を裂き、大地を割る魔剣!!」

「先代魔王も相当な深手を負わせたとか!」

「俺は次元をも切り裂く魔剣って聞いたぞ!」


剣士は眉をピクリと動かし背後にいる衛士に向けて叫ぶ。


「くっ…!私はこの刀を御すのに集中しているのですっ!刀が暴走したらどうする!あなた方はどこかに行きなさい!」

「は!分かりました!勇者様!」

「早くするんだ!」

「は、はい!」


衛士達が慌てて走り出すと、その者はため息を漏らした。


「はぁ、祭り上げられるのは大変だわ!」


チンと刀を鞘に戻すと彼女は衛士達がいなくなった事を確めるように振り返った。

黒髪長髪の長身の美少女であった。白と薄水色が交互に入った模様の袴を着て佇む彼女を月明かりが照らした。


彼女の名前はツバメ・ムラサキ。勇者である。

曰く6年前その剣で1000の悪魔を葬った八連槍の所属するパーティーのリーダー―――勇者と呼ばれる称号を得た彼女だが、彼女自身は全く強くない普通の少女である。彼女が行ったとされる勧善懲悪の数々は仲間が解決した物である。彼女は鞘に収めた刀を触り呟く。


「大体、しーちゃん達が強いのになんで私が最強みたいに言われてるんですか!」


しーちゃんと言うのはシズナ・ソラである。

ツバメの仲間であり、彼女よりず~っと強いのであるが、何故か仲間にはツバメが最強と認定され――何故かツバメがリーダーになっていた。6年前に旅をしていたら何故か魔族に襲われた。なんとか助かったツバメは残党処理を滅茶苦茶強いシズナ・ソラに全部丸投げした。1000人もの魔族を倒したと聞いた時はひっくり返って驚いた。それで王様に褒美を与えられ、王国唯一プラチナランクのパーティーになった。

そしてなんやかんやあってリーダーのツバメは最強の勇者となった。


「大体、5小銅貨で売られた剣が魔剣の訳ないでしょ!!!みんな馬鹿!!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!」


※1小銅貨…10円


「始めの頃は勇者ごっこで遊んでただけなのに…それから駄菓子屋にあったガラクタの中にあった剣を買って、仲間が出来て、自分は勇者だって言ってたら本当に勇者に勘違いされちゃった…ぐすん」


ツバメは己のしでかしてしまった取り返しのつかない失態を呪った。気を取り直し、賑やかな後宮に目を向ける


「はぁ…晩餐会のご飯、美味しいんだろうなー行っちゃ駄目かなー」


ツバメはヨダレをだらしなく垂らし首を振った。今日は皇子様の生誕祭と言う事で各国貴族が多く城に来ている。そんな中、警備が薄いのは最強の勇者が来ているからと言う理由である。

ツバメ一人入れば警備は万全と言う王国の武力の誇示なのである。ツバメは王の見栄に付き合わされていた。


「デへへ…ちょっと抜け出してもいいよね!」


ツバメが後宮に歩き出すと、だらしなく垂れた目付きをしゃんとさせ、勇者らしく振る舞う練習をする。


そう…貴族達に名乗る練習をしなければ!


「私の名前はツバメ・ムラサキ!お初にお目にかかる!貴殿のお召し物、私にはよく分かる。中々の一品であるな。貴殿は正体を隠しているが、武人であるのであろう?是非手合わせ願いたいものだ!」


ツバメは勇者ジョークで貴族達の輪に入っていく様を思い浮かべる。勇者は脳筋と言うイメージなんだろうし、こんな感じで行けばいいかな?と思い練習する。


「遠い所からはるばるとご苦労様であった!しかし…それは美味しそうな一物ですな。私も一口頂きましょう!」


ツバメはそれとなく貴族達が食べる美味しいものを頂くセリフを考える。脳裏にはどうぞどうぞと貴族達の食事の輪に入っていく自分が見えた!

ツバメはひらりひらりと貴族の輪をかぎ分けていく練習をした。幻の肉を堪能した。


「まだ串(焼き)が足りませんな!いやね、妖刀を御すのには集中力――――体力が必要なんですよ。体力を付けるのには肉が一番重要なんですよ。焼き方はレアが好きなんですがね―――」


ツバメはジューシーな肉の空想にヨダレを垂らし、他にもたくさん色々な物を食べるためのセリフを考える。むふふ。


「中華ダックはなにせ妖刀と相性が良いんです。何故か中華ダックを食べると集中力が増しましてね――妖刀に力がつくようなんですよ」


そしてツバメは脳内で満腹にかり貴族達からおいとまして帰る事を考える。


「今度は私から貴殿の館に参りましょう。なに、美味しい食事なんて必要ないですよ、本当に。」


ツバメはこれで大丈夫!と拳を握り締め、るんるんとスキップしてその場を去った。



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


「ばぁぶー!」


闇夜に紛れ、後宮から出てきた人影があった。


「黙りなさい!」

「ばぁぶー!」


茶色いマントから出てきた人物は春麗である。

"カメレオン"のマントは周囲に溶け込む事の出来る物である。皇子の口を抑え抱えながら小走りする。庭のような場所まで来ると、剣士が剣を振っているのが見えた。衛士か!と壁に隠れる。壁からそちらを確認する。


「ちっ!勇者がここにいるとは!?」


剣士は勇者であった。一人なにやら呟いているが、魔剣と呼ばれる剣を御しているようだ。

マントをかぶっていればバレル事は無いだろうが、早く城を抜け出さなければならない。

春麗は物音に注意しながら歩き出す。

すると勇者がこちらを向いた。



「私の名前はツバメ・ムラサキ!お初にお目にかかる!貴殿のお召し物、私にはよく分かる。中々の一品であるな。貴殿は正体を隠しているが、武人であるのであろう?是非手合わせ願いたいものだ!」


春麗の心臓が飛び上がる。な、なんでバレた?カメレオンマントは不可視なはず!い、いや見えては絶対いない。声を出さなければ大丈夫だ!赤んぼうの口をぎゅっと抑える。


「遠い所からはるばるとご苦労様であった!しかし…それは美味しそうな一物ですな。私も一口頂きましょう!」


は!?姿が見えているのか!?な、何を言ってるんだ!?美味しそう!?皇子を食べると言うのか!?そ、そうだ、見えていないはずだ!毒針だ!毒針なら殺れるはずだ!出所の分からない毒針を避けられるはずがない!


しかし、勇者はひらりひらりと毒針を回避した。


「まだ串(焼き)が足りませんな!いやね、妖刀を御すのには集中力――――体力が必要なんですよ。体力を付けるのには肉が一番重要なんですよ。焼き方はレアが好きなんですがね―――中華ダックはなにせ妖刀と相性が良いんです。何故か中華ダックを食べると集中力が増しましてね――妖刀に力がつくようなんですよ」


毒針をもっとくれだと!?え!?中華ダックとは私の事である。ひええっ!

春麗は皇子を抱えて走り出す。は、早く化け物から逃げ出さなければ、勇者に皇子も私も食べられてしまう!背後で勇者が呟いた。


「今度は私から貴殿の館に参りましょう。なに、美味しい食事なんて必要ないですよ、本当に。」



闇夜を疾走する春麗は、プギャーに皇子を渡して勇者から隠れる事を決心した。


「あれが勇者……カメレオンマントを見破り、人の肉を生で喰らおうとは!?あんなの化け物じゃないか!?」


春麗は今回の仕事を後悔したのであった。

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