オタク達は屋台でくじをやるようです。
シユガ王国首都ア・ジニアに来た山田、鈴木、シズナ・ソラの一向は物見遊山真っ只中であった。
何故ならア・ジニアでは皇子生誕祭が催されていたのである。
城に近すぐにつれ、鳥と思われる衣装や、ゴブリンに似た着ぐるみをした子供が駆け回り、わたがしや、リンゴ飴、そして何故かちゃんこの屋台があったりし―――色々と見て回る事にしたのである。
「だぁっこの千本くじ、絶対ぇ~に当たらないでござる!」
そう言うのは、レッドトロール、レッドオーガの耳で得た討伐報酬をスッた山田である。
千本くじとはヒモが商品につけられていて、引いてその商品が浮けば当たりである。ちなみに山田が狙っていたのは聖女の衣(2等)、聖女の靴(2等)、聖女の胸当て(2等)、聖女の下着(1等)聖女の使用済みティッシュ(特等)である。特賞は割れ物注意!と書かれた箱に入っている。
「大体、聖女の装備品って…はぁ。こんな場所にある時点で眉唾物なんですぞ?昔、コミケで騙されたでしょ山猫氏。オークションなんかで出されてるアイドルのサインなんて8割が偽物だって言われてるんですぞ。やれやれ」
そう言うのは同じく財布の中身を全部スッた鈴木である。シズナ・ソラはギルドに用事あるとの事でその間街を散策していたのが、山田と鈴木は討伐報酬を得てから数分後には二人ともオケラのぷーさんに舞い戻っていた。
「そ、そんな事はありません!これを見て下さい!」
的屋の店主は全身に黒色のローブを羽織っており、いかにも胡散臭い。ホンモノ!と書かれた板が店主の座る横に掲げてある。店主は指を指しながら、憤慨する。
「これは私が身につけて……ぐふんぐふん。私が信頼出来る筋から手に入れた正真正銘のホンモノですよ!ほら!見て下さい!この武器に宿った聖霊もホンモノだって言ってますよ!!」
「聖霊って…どこでござるか?」
「ほ、ほらここにいます!」
「詐欺ですな。聖霊なんて見えませんな」
「ち、違います!聖霊の加護を受けてれば見えるはずなんです!」
「加護ねぇ…やっぱこれ」
「インチキですな」
「違ーーう!」
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聖女ビアンカは孤児院の出身である。ピンクブロンドの髪は腰まで伸びており、垂れた目は柔和な印象を与え、ふくよかな二つの双丘は男達を釘付けにさせる。ビアンカは優れた容姿を持ち、教会のみならず国民に愛される存在であるのだが――
彼女はアホな子である。
自分の生まれ育った孤児院への仕送りにほとんどの給金を宛て、毎日の食事はもやしになる事が多い。そのもやし生活も昨今の豆の高騰により、もやし農家がやってらんねーよ!と廃業していった。
「もやしが食べられなくなるなんて!死んでしまうわ!」
ビアンカはもやしが手に入らなくなっても給金には手をつけず、そして飢えた彼女は自らの食費を稼ぐ事を決意する。
聖女と言う肩書きがあるビアンカは一目につかないようにまず身なりを黒いローブで隠した。そしてお金儲けの手段だが―――知り合いの商会で聞いた話によると、男性は女性の下着や使用済みティッシュ―――これらは芸術品として高額で購入するとかなんとかを耳に挟んだ。そして彼女は閃いた!
「ちーーーん!」
「これで"使用済みティッシュ"の完成っと!」
なかなか良い感じでティッシュをくるめられなかったので部屋中におぞましい量のティッシュが散乱していた。芸術品として彼女は妥協せず、よりよい形を求めた結果であった。ティッシュで作られた薔薇―――のような物に巻きつく形で鼻水がついていた。これぞ、芸術である。
「下着はシスターのお古があったわね」
シスターとは聖女がお世話になっていた孤児院のご婦人である。シスターは使用済みでいらないものが欲しいと言うビアンカに、「これがいいさね」と渡した。自分が長年はいた下着は几帳面な性格からとても綺麗であり、齢50半ばのシスターの勝負下着(豹柄)であった。しかし、最近はそっちもご無沙汰になったため処分する事にした。
シスターは幼い女児達の黄ばんだ下着も「これもいらないさね」とビアンカに渡したのだが、「商品にこのような物は出せません!」とビアンカが固辞した。
「そして場所だけど…そうだ、来週の皇子生誕祭で、屋台をやりましょう!あっそうだ」
ビアンカは屋台の看板…………ホンモノと書かれた木の板を作り始める。
「またもやしが食べたいなぁ」
そう言って彼女は木彫りをするのであった。
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「ホンモノ、と言うなら特等を見せて欲しいでござる。その木箱に入ってるんでござろう?」
「分かりました。特別にお見せ致します。
そうして出されたのはカピカピになった謎の薔薇であった!
「ヴぉえっ!ばっちい!な、なんでござるかそれ!やっぱこれインチキでござる!」
「違いますってば!」
「一等もインチキでござるか?」
「もう!分かりました、特別に触らせて上げます!」
インチキと大声で叫ばれたビアンカは周囲の目を気にしながら特別ですよ?と下着(豹柄)を山田に渡す。
「くんかくんか………こ、これは!?」
山田の脳裏には悠久の時を経て溶けだした謎の匂いがした―――ティラノサウルスがトリケラトプスに闘いを挑み、その頭上には彗星が降り注いでいた。プテラノドンがその彗星の礫に打ち落とされ、ティラノサウルスとトリケラトプスは闘いを辞めて走り去る。猿は怯え、洞窟に潜んだ。
猛烈な吹雪が舞う世界の中で、猿は道具を作る事を覚える。猿は石器を作りだし、火を操る文化を作りだした。猿はある日、石器を使って毛皮で服を作る事を覚えた。やがて猿は人となった。毛皮は布となり、彼らの大事な部分を守る衣服を作りだした―――――――――
そして"パンティ"と呼ばれるようになった。
「大丈夫ですか!?山猫氏!?」
「ハッ!?………なんかすげえ景色が見えたでござるよ!?」
「ね!ホンモノだったでしょ!?」
「ぐっ、た、確かに雰囲気ある一物ではあるようでござるな」
「でももうくじは引けないですぞ!」
「残り1小銅貨でござるし、もう無理でござるな。」
※1小銅貨……10円
「インチキ呼ばわりされて怒ってますけど、ホンモノだって宣伝してくれるなら、それであと一回だけ引いて頂いても良いですよ?」
「ま、まじでござるか!?」
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「いやー師匠、お待たせしました。あれ、なんか良いことありました!?」
「山猫氏がくじで1等を当てたんですぞ」
「す、凄い!ついてますね!山猫様!」
「デュフフ!」
山田は1等のパンティをポケットの中で大事に握り締めた。手についた匂いをくんかくんか匂いながら、この世界の大事な物リスト(破棄不可能)に決めたのであった。
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「もやし、食べたいなぁ…」
ビアンカは2人から稼いだお金を握り締め、パレードが終わるまで商売を続けた。
2人の後に怪しげな千本くじをやる者はおらず、お腹を空かせた彼女は帰路につくのだった。




