プギャーは暗躍するようです。聖女編
聖女教本部――教会は慌ただしく人が出入りしていた。黒ずくめのローブを被った人物が慌ただしく階段を上り、そしてある部屋に飛び込んでいった。
彼女の前では2人の人物が議論を交わしていた。
彼女は荒い息を抑え込みながら声を出した。
「教皇様、シスター・ヒルダズ様!!…皇子が誘拐されたとは真の事なのですか!?」
教皇は白髪の老人といった風貌に対し、ヒルダズと呼ばれた女性は緑色の髪をした50代ほどの女性である。
「…王城にいた勇者の目を盗んで拐うとは相当の手練れが忍び込んだんだろうさね。ところで何のようだい?ビアンカ」
「ふむ……ヒルダズ…わしが呼び出したんじゃ。まず、じゃが…」
教皇ローガンは蓄えた白い髭を撫で下ろし、しばし考えこむと一枚の紙を机に出した。
ビアンカは受けとると、目を大きくして驚いた。
「皇子奪還依頼…並びに8魔将軍プギャー討伐依頼。勇者パーティー宛じゃ」
「8魔将軍プギャーから宣戦布告を受けて、王も既に軍を動かしている最中さね。昨日の今日でもう粗方の冒険者達にも通達済み…あんたはどうするんだい?ビアンカ」
ローブを脱いだビアンカはピンクブロンドの垂れ目と言った風貌である。
一読したビアンカは顔を引き締めた。
「…ここまで事が大きくなってしまったのには、勇者の責任――引いてはそのパーティーの責任でもあります。勇者や他のパーティーと合流して、プギャー討伐に向かおうと思っております。」
「…気をつけるんだよ」
「じゃが、お主は精霊召喚で人の捜索等は出来るんじゃろ?皇子がどこに行ったのか分からんのか?」
「私が使役しているBeen'z達は確かに人の捜索ではかなり役に立つのですが……その召喚には一体に付き触媒が1つ必要なのです。その触媒と言うのが…」
「豆…さね」
「Been'zとは、豆のような蜂じゃろ?ふむ。豆は今や手に入らないからの。」
「もやしが食べたい…」
「「ん?」」
「い、いえ。しかし…動物系の精霊ならば、嗅覚に優れますから皇子を探す事も出来るはずです。
教会には犬や猫等と言った精霊を使役される使人はいないのですか?」
「まったくこの子は何も分かってないさねぇ」
「ビアンカよ、まず言っておくが精霊とは木や花、水、火、雷と言った4属性しか存在せんのじゃ。お主の使役するBeen'zのように植物でありながら虫のような精霊はほぼ存在せんし、使役出来んのじゃ」
「え…そうだったんですか?」
「そうさね。もう1つ言っておくと、動物系の精霊は奉り神様さね。そう言った存在は、使役出来ない上位精霊さね。」
「お主のBeen'zはどうやって使役したんじゃ?」
「え?その……家でもやしを食べてたらいつの間にか豆のような蜂がパタパタと飛んでて……いつの間にか豆の精霊を使役出来るようになったんです」
「「はッ?」」
「…えへへ」
ビアンカはそんなに見つめないで下さいと顔を赤らめるが、シスターと教皇は呆れかえっていた。
「……豆から精霊を使役出来た訳ですけど、それには豆を触媒として使用しました。ですので、豆が無いことには皇子探索もできません。」
「上位精霊だって同じさね。何より、上位精霊は強力な魔力を持ってるから、要求される触媒も必然、価値が高くなる。」
「1000年前の魔王軍の王国侵略から救った英雄伝説。英雄は己の命と引き換えに大精霊を召喚したと言う。場合によっては、その者の命、と言う事もあるじゃろうな」
「命…ですか」
「それだけ強力な精霊には犠牲が必要だって事さね。」
3人はあれやこれやと議論をする。
プギャーは今一体どこにいるのか?
皇子の行方は?
魔王は軍を動かしているのか?
もやし食べたい。
ひとまずこの場は解散とし、教皇とシスターはその場で議論を続け、ビアンカは教会を後にする。
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白くたんぽぽのような顔を持った獅子は駆け出した。雄々しく光る白毛に日光が反射した。
人通りの多い場所に近ずくと獅子は走るのを止めて歩きだした。
肉体は引き締まった肉食獣の様であり、道行く動物達に畏怖の念を起こさせた。
しかし…目はくりっとしたキュートな瞳をしていて、顔の周りにある白毛は玉のようで顔の周りに何個もある。
その様はまるでポ○デライオンである。あるのだが……
「ははぁ~」
と言わんばかりに動物達がひれ伏して道を譲る。
「ゲロゲロ!」
「にゃにゃん!」
「ぶひぶひ!」
「ンモー!」
「カーカー!」
「コケコッコー!」
カエルが、猫が、豚が、牛が、カラスが、鶏が、王者にひれ伏した。リアルライオンキングがそこにあった。
白くたんぽぽのような顔を持った獅子―――ダンデライオンは己の主の命令を思い出す。
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「聖女のパンティを探して来るでござるっ!」
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我が主は強大な力を持ち尚且つ絶世な美女である。そんな主が欲しているのは「聖女のパンティ」である。成る程、聖女のパンティとは余程の装備なのだろう。聖女の装備と言う事だから神聖属性でもついているのだろうか?
いや、違う。と獅子は考える。
恐らく聖女のパンティは装備ではない!
武器なのであろう。
なるほどなるほど、獅子は納得するがふと考えてみると、聖女ってどこにいるんだ?と頭を抱えた。
「取り敢えずニンゲンに聞いてみるか」
獅子は裏道にひょいとおっさんをくわえて引きずり込んだ。
「おいニンゲン。聖女とやらはどこにいる!!」
「ひぇっ!?ら、ライオン!?」
獅子はおっさんから情報を引き出すと、また駆け出した。残像のように人が写る景色の中、獅子は目当ての場所を見つけた。
「あそこか…」
教会からは黒ずくめのローブをしたニンゲンが出てくるところであった。奴に聖女の下まで案内させる事にしよう。獅子は一瞬でニンゲンの目の前に異動した。その時、髪の毛が全て前に移動してしまうがそんな事は気にしない。
「おい。ニンゲン、聖女のところまで案内しろ」
「ひっ!!?」
目の前の人間は黒いローブの中で小さく悲鳴を上げたのであった。
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目の前にいる白くたんぽぽのような毛を持った獣―――顔が毛で見えていないが、毛の中で犬歯がキラリと覗かせていた。ひぃ!
「せ、聖女になんの様ですか!?」
「お前には言う必要はない。聖女のとある所持物が必要なのだ」
「所持物……?わ、わたしのなにが……?」
「ん?」
「あ、ナンデモナイデス」
ビアンカは考えてみる。このライオンのような獣は一体何物だ!?私の何を欲しているのか!?
ま、まさか私の命!?
考えてみると…はい!私が聖女です!なんて言ったらその場でガブリと食べられてしまうかもしれない!ひぃ!なんてこった!
どうするべきか……ビアンカは考えて答えを導いた。
「わ、分かりました。聖女様は教会奥にいらっしゃいます。こちらです。」
ビアンカはシスターを聖女と偽る事にしたのであった。
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「こちらが聖女様になります!!」
「「はい!?」」
ビアンカはビシッとシスターを指差した。
「な、なんじゃお前は!?」
「ビアンカ!!コイツはなんなんだい!?」
「ふむ。お前が聖女か……」
「「はい!?」」
「そうです!その通りなのです!!」
ビアンカは更に両手でビシッとシスターを指差した。
「シスター、この獣…なんじゃと思う?」
「まさか、と思うけど、聞いてみるさね」
シスターは獅子に向かって話しかける。
「お主……精霊さね?」
「ふむ。その通り。我はたんぽぽの精"ダンデライオン"偉大なる主の僕である。」
「なんじゃと!?」
ビアンカの使役するBeen'zより更に上位の精霊が存在している事に教皇とシスターは驚いた。獅子はシスターに向けて喋り出す。
「我は聖女の持つ所持物を欲しているのだ」
「そうです!聖女様!早くお渡しになってくんなまし!!!!」
「「え?」」
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ビアンカは必死である。
パクっと食べられるのはゴメンである。ひぃ!
「聖女のな、何を欲しているんじゃ?」
ビアンカは「お前の命が欲しい」と獅子が言うのを想像した。ひぃ!
私今日から聖女なんかじゃありません!
「それは……」
「あ、あの人が聖女ですっ!」
シスターを指差しながら早く差しだして下さいと言う。
「お前の………」
(くるぞくるぞ)
ビアンカはそう思いながらシスターを指差す。
「お前のパンティを寄越せ!!」
「「「エッッッ!!???」」」
3人は裏声を上げたのであった。




