プギャーは暗躍するようです。精霊編
「出てこい!小生のサーヴァント!!綺麗なねーちゃんの精霊出て来るでござるよ!」
山田はウニウニと指先を動かし、精霊を召喚しようとしていた。
―――10分前―――
シズナ・ソラに契約した精霊を召喚して見て下さい!と言われたのだが、なんの事か分からない山田はちんぷんかんぷんであった。
「精霊召喚……そんな事が出来るんでござるか!と言うか小生、知らず知らずの内に契約していたでござるか!?」
「や、山猫氏、それはその……」
「えぇ、あの時契約した精霊を出して見てください!」
「どの時のでござるか!?」
「そ、それはですな、そのぉー山猫氏………」
鈴木は「自分が咄嗟についた嘘なんですぞ!」と言おうとしたのだが、当の山田は精霊召喚に乗り気になってしまっていた。
「精霊……はっ!?あの時のでござるか!?」
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現実世界で山田は好きなアニメがあった。
グッズに相当の課金をしていた。書籍に円盤にスマホゲーム、コンビニのくじで出る限定商品のかき集めなど己の情熱を全て注いでいた。
ある日、アニメキャラクターに扮したコスプレイヤー達の撮影をしていたら、同志からバッシングを受けた。
「山田氏、がっつき過ぎです!プレイヤーさんも引いてますよ!?もっと下がって下さい!」
「でゅふふ!乙でござる!甲でござる!」
山田はプレイヤーにどんどんと近すぎ、下からのアングルからパチパチと撮影しまくっていた。そして。山田はパンティの深淵を覗こうとしていた。
プレイヤーと山田との距離は1メートルとなり―――――その時、山田は頭を踏みつけられた。
「てめぇ…俺の彼女にナニしようとしてくれてんだ!?」
「えっ!?」
山田は鳩尾に強烈なストレートを食らった。頭と足が浮いている様はVの字になっていた。そしてカメラは叩き壊された。その後もボコボコにされた。
「今度やってみろ、ぶち殺すぞ?とっとと消えろ!!」
「ひゃい!すんませんでした―――――!」
山田は壊されたカメラを首にかけ、足を引きずりながら聖地のバーへ向かった。聖地とは、アニメに出てくる場所の元となった場所である。
「レイ酒、一杯下さいでござる……」
「分かりましたにゃん!」
このバーで提供する飲み物のグラスは奇妙な形をしていた。アニメ信者達はそのグラスの事を「聖杯」と言っている。
「お待たせしましたにゃん!」
聖杯に並々と注がれた赤色の飲み物は血を表現しているが、カシスオレンジジュースである。バーに座っている山田はドンと机を叩いた。
「警備員仕事しろ!でござる!カメラがぱぁではござらんか!一体どれ程の損失だと思ってるんでござるか!?」
山田は悪態を付きながらジュースを呑む。
「どうかなさいましたか、ご主人様?」
「レイバーたん聞いて欲しいでござるよー」
山田の頼んだ聖杯と呼ばれるジュース。その価格は一杯2000円と高額なのだが、こうしてアニメキャラクターに扮したメイドさん達が付いてくるのだ。
時間にして15分2000円―――メイドは高給であった。
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(また、この豚かー。週6で来んなよ)
レイバーと呼ばれた女性は心の中で悪態をつくが表情には出さない。豚の愚痴をほぼ毎日のように聞かされ軽いノイローゼになっていた。
今日は一体なんの愚痴だよ!!と思っていた。
「………………で、プレイヤーさんの彼氏にボッコボッコにされたんでござるよ!?」
「酷い話ですね」
顔に手をあて泣いた振りをしている彼女はざまぁwwwと大爆笑していた。
「レイバーたんだけが心のオアシスでござるよぉ、あっマスター聖杯4杯追加でござる!」
「かしこまりした。」
「!?」
彼女は豚の愚痴にあと1時間付き合わなければならないとかマジボケふざけんなと思った。
そうだ!!なんとか豚を帰らせてやろう!!
彼女は受験の時に浅草の神社で買った合格祈願のお守りを財布から出した。
豚の財布事情は知っている。絞りとってやる!
「それは難儀でしたねご主人様。それでは――――このお守りをもらっては頂けませんか?」
「なんでござるか?そのお守り?」
「これは、浅草の―――ぐふんぐふん。ローマで手に入れたら神聖なお守りです。えーと、この袋の中には守護精霊が宿っているとかなんとかで、とても霊験あらたかなものなのです!」
「もしかして、サーヴァントがその中に!?」
「え!?そ、そうですね、多分いると思います」
「でゅふふ!レイバーたんのご厚意、受けとるでござるよ!」
「しかし――ただではありませんよ?8000円です」
「え!?それは……子生の聖杯代が払えなくなってしまうでござるよ!」
「注文を辞めればいいのではないですか!?」
「わ、分かったでござる!マスター!注文やめ!やめでござるよぉ!!」
「ご主人様、精霊もこれからよろしくと言っております。さて、お時間のようですね。聖杯のおかわりを致しますか?」
「もうおカネがないでござるよ。でゅふふ、今日は帰るでござる!」
会計を終えたを彼女は見送る。だが既に彼は客ではないので素に戻っていた。
「ありがとうございましたー(棒)あっそうだ、お客さん、お守りの中身は見ちゃ駄目ですよー?精霊さんが逃げちゃいますから!」
中身は合格祈願の札がある。
「おkでござるよ!レイバーたん!これでサーヴァントと契約出来たでござる!それではまた来るでござるー!!でゅふふ!」
山田の後ろ姿を見送る彼女はちっと舌打ちした。
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「出てこい!小生のサーヴァント!!綺麗なねーちゃんの精霊出て来るでござるよ!」
「や、山猫氏、申し訳ないっ!その話は俺のでっちあげなんです………ぞ!?」
ウニウニと指先を動かし、精霊を召喚しようとしていた山田の正面には円陣が出来ていた。
「さすがは山猫様!」
「でゅふふ!レイバーたん出てこい!」
「え!?えええエエエ!?なんで!?」
地面の円陣から青白い光が輝き、それは姿を表した。
その姿は白い体毛の生えた獅子――――
「ポ○デライオンじゃねぇか!でござる!?」
「強そうな精霊ですね!山猫様!」
「たんぽぽみたいですな……」
白いわたわたした体毛に包まれた獅子は犬歯をキラリと輝かせた。
「ご主人様!たんぽぽの精"ダンデライオン"ここに!」
「たんぽぽの精…?」
「はっ!ご命令を!」
「山猫様!凄い!!」
「たんぽぽ………あの時の……ですかな?」
「はっ!その通りでございます!」
「どの時でござるか!?」
シズナ・ソラは山田を讃えた。山猫様も師匠と並ぶほど凄い方なのだ!
取り敢えず精霊の召喚に成功した山田は精霊に命じる。
「聖女のパンティを探して来るでござるっ!」
「御意ッ!!」
白くたんぽぽのような顔を持った獅子は物凄い早さで駆けて行ったのであった。




