プギャーは暗躍するようです。山田編
皇子誘拐から一夜明け、王都の裏通りにある古い廃屋から恐る恐る姿を表した女がいた。
「…追っては来てないようね。」
「ばぁぶー」
背負っている皇子は中華服を掴み、ばぶばぶと泣いていた。自分と皇子を勇者が追ってきているんじゃないかと警戒した春麗は一晩中寝ておらず、目に熊が出来ていた。
「ばぶー!!」
「お腹が空いたのかしら。ここはプギャー様のダミーの廃屋だから何か食べ物を探してみましょう。」
春麗は改めて廃屋を見渡してみる。壁や床には何やら剣で引っ掻いた後があり、周囲には鋳造して直ぐのような鍔が付けて無い生身の剣が散らかっている。
机の上には何やら割れたフラスコやら本などが置かれていた。春麗は本を取り眺めた。
「魔剣大全集…?」
春麗は顔をしかめて、本を戻す。食糧を探す事を優先する。春麗は棚の下の埃が不自然な模様を描いているのに気がつく。
「…隠し扉ね。開けてみましょう。」
春麗が棚を動かすと、下へと続く階段があった。階段の横にはランプが置いてある。角度が急なため、ゆっくりと春麗は降りて行く。そこは二つの部屋があった。。
一つ目の部屋に入ると、目論み通り食糧庫であった。
「なんでこんなに豆があるのよ…」
そこには大量の紙袋があり、全て確めてみたが、中身は全て豆のようであった。
「昨今の豆の高騰は…もしかしたらプギャー様が裏で動いていたのね…」
王都では数年前から豆の高騰が続いていた。
しかし何故、プギャーが豆粒ばかり集めているのかが分からないため頭を傾げた。そしてもう1つの部屋を覗くと、そこは武器庫であった。ハルバード、スティング・スピア、使い捨てのスペル・ブック、大量のショートソード、パラライズ・ランス――――
「まさか…戦争を起こすつもりなの!?」
皇子誘拐から何か事を起こすのは分かりきっていたがそれにしても……王都で何をするつもりでこんな設備を………もしかして王国軍との戦争!?いずれにしろ、かなり用意周到に準備はされていたようだ。
「取り敢えず……豆を磨り潰してみるか…」
春麗は皇子に潰した豆を水に溶かし、与えた。
皇子には歯が無いため、豆はそのままでは食べる事が出来ないためである。取り敢えず、皇子は食べてくれたのだが……また泣き出した。パンツが濡れている。
「オシメの取り替えしようにも、ここには何も無いし…どうしましょう。」
春麗はカメレオン・マントをかぶり、廃屋から出て周りを散策すると、宿屋が見つかった。宿屋の看板には"メシ馬"と書かれている。宿裏に据え置かれた馬舎や、井戸等の近くに目当ての物が見つかった。そこにあったのは冒険者達の服であり、物干し竿につられていた。
「オシメってある訳ないわよねぇ……何か履けるものならなんでもいいのだけど…」
冒険者達は下着等を外に干す事はないのだ。しかし、見つかった。かなり目立つ豹柄のパンツが。
「女性物ね…まぁこれなら良いでしょう。何か文字が書いてあるわね…山田……?」
春麗が手にしたパンツに"山田"と書かれている事に首を傾げるが、他にパンツは見つかりそうにない。取り敢えず、これを皇子に履かせる事に決め、廃屋に帰る。
皇子にパンツを履かせたのだが、全然似あってないので少し笑ってしまうが、気を取り直し今後の事について考えた。
「プギャー様の屋台に早く皇子を届けて、勇者から逃げないとね」
春麗は昨日の事を思い出した。
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――中華ダックはなにせ妖刀と相性が良いんです。何故か中華ダックを食べると集中力が増しましてね――妖刀に力がつくようなんですよ――
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春麗はヨダレをだらしなく垂らした化け物―――勇者がこちらを見て笑っていたのを思い出し、ぶるぶると身震いした。
皇子を食べ、私まで食べようとする怪物から早く逃げ出さなければ!
「行くわよ。」
「キャッキャッ。」
春麗はカメレオンマントを羽織って皇子を背負った。
そして、廃屋から走り出した。その時宿屋の方から声が聞こえた。
「小生のパンティが盗まれたでござるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
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山田と鈴木、シズナ・ソラは皇子生誕祭の後、宿屋に泊まっていた。宿屋の名前は"メシ馬"、シズナ・ソラ曰く、冒険者達はメンバーの誰かに不幸があった時、ここで食事をすると幸せな気持ちになれるんだとの事である。
山田と鈴木は食堂で少し遅い朝食を食べていた。
「メシが旨い!」
朝食後、部屋に戻った。
部屋は冒険者達4~5人は寝れるスペースがあり、窓際には大きなタンポポのような観葉植物があり小綺麗な部屋であった。
山田はおもむろにパンティを引っ張りだして行動に移る!
「山田氏ぃ、いくらシズナちゃんがいないからって頭からパンティ被るのはどうかと思いますぞ?」
山田は聖女のパンティ(豹柄)を被る変態となっていた。
「くんかくんかくんか」
山田は思った。ナニが付いていたら、良いオカズになったのだが―――
幼女になってしまったので諦めた。
山田は新たな領域に突入していた。
「あ、でも一周回って良く考えたらアリですな。幼女が豹柄パンティを被ってはぁはぁするなんてエロゲでも無い展開―――――でゅふふ」
「小生を見て、何を考えてるでござるか!?」
山田は鈴木の爛々と光る目に狂気を感じた。
「……俺にも貸して下さらんか?」
「嫌でござる!」
「――美女がパンティ被ってる所、見たくは有りませんか?―――」
「貸すでござるよ!」
「はぁはぁ」
「くんかくんか」
「すーはーすーはー」
「くんかくんか」
「師匠、山猫様!!只今帰りました!」
「「!?」」
紳士達の憩いの場に乱れが生じる―――今の山田はパンティを被ったHentaiである。ここでシズナ・ソラに見られた日には黒歴史としていつまでも幻滅されるだろう。見限られてしまうだろう。
山田は部屋にある、観葉植物の土の中に頭を突っ込んだ!
「!?山猫様!?な、何をされているんですか!?」
鈴木が変わりに答る
「あ、えと儀式…ですぞ、シズナちゃん。」
「ぎ、儀式!?師匠、どういう事です!?」
「あ、あれは…そう。精霊と契約をしているんですな。」
「な、なんと!?」
シズナ・ソラはタンポポのような木の土に顔を突っ込んだ山猫を感心して見つめた。
通常の精霊との契約をシズナ・ソラは知らない。
勇者パーティーの一員である仲間―――聖女ビアンカも精霊と契約しているが、精霊使いはとても優れた能力である事を知っている。道案内や、道具鑑定、魔法威力向上、果ては精霊魔法等も行う事が出来るのだ!
「しかし…私がいては契約の邪魔だったようですね師匠」
「う、うむ。シズナちゃんはちょっと部屋から出ていて下さらんか?」
「分かりました!」
シズナ・ソラが退出すると鈴木は山田を土から引っ張り上げる。
「無茶しやがって……」
土まみれになったパンティを被ったHentaiは別な意味で逝く所であった。そして目が覚めた山田はパンティが泥まみれになっている事に涙した。
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山田はパンティを洗濯して外に干した。
「今日はいい天気でござる、早く乾くでござるよ~」
そして、目を離して3分後事件は行った!
「小生のパンティが盗まれたでござるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
山田のパンティが盗まれたのである。鈴木やシズナ・ソラも事案発生の報を聞きつけ、駆け寄ってきた。
「まさか、山猫様のパンティを盗みに入るとは」
「許すまじですな」
「パンティーー!!」
「山田氏、何か心当たりはないんですかな?」
「全くないでござるよ…びええ」
たった3分の間に起きた怪奇事件に一同は頭をひねった。一同はくまなく周囲を探ったが何1つ手がかりは得られなかった。
誰か他の冒険者が洗濯物を間違えたんじゃないか?とかである。しかし山田は自分の名前を書いてあるから有り得ないと否定した。
「一体どうすればいいんでござるか?びええ」
「迷宮入り…ですな…」
「師匠、山猫様…私に考えがあります」
「「!?」」
シズナ・ソラは大きく息を吸い、ぽつりと言った。
「山猫様の精霊を使役して、後を追うんです!」
山田は「え?何言ってんの……?」と思うのであった。




