閻魔さま人生の本を作るリゾート地を作る。
拙い文ですがお暇にどうぞ。
遠い遠い昔。
古い魔法、呪いやアヤカシが自然と共に染み付いた小さな国がありました。
その国の人間は亡くなると現世で行った善い行いと悪い行いを閻魔様が裁き悪い人間には地獄への道、善い人間には天国への道へと導くのです。
死後の世界で閻魔様はずっと変わらずその役目を背負ってきました。
しかし現世の国も何百年も何百年も時代を廻ります。
時代と共に神々への信仰は薄れ土地神は力を失いあやかしが住まう自然も人間に奪われていきます。
あやかしが隠れるようになるとそんなものはいなかった空想のものだととある人間が言い出します。
違うものを怖がる人間はそれに同意してしまうのです。
陰陽師は仕事を失います。
古の魔法を使うものも迫害され、力を隠していきます。
古の魔法、呪いやアヤカシ、神々の住まう美しい国は息を潜め科学という人間の知識で成り立ち始めます。
それでも良いのです。
そうやって時代は移り変わります。
ですが、現世の様子を見ていた閻魔様には困ったことがありました。
人間は死んでいきます。
科学の世界で生きた人間がいきなり閻魔様にあってもアヤカシなどの異なる力を否定し続けた人間は素直には裁かれてはくれません。
一人ではありません何千何百万という人間が裁かれるのに駄々をこねるのです。
死後の世界は混乱していくばかりです。
そこで閻魔様は考えました。
異なる力を持つものは失われ行く力を護るため
陰陽師は失った仕事を取り戻すため
アヤカシは生きるため
協力を求めました。
それが「閻魔代行協会」
己の力を使える仕事をしませんか?と世の中に疲れた異なるものを口説き落とし閻魔様は迅速に時代に適応していきました。
そして閻魔様は自分の力を最大限に使い小さな異世界を作り出します。
死後の人間を裁く準備をする場所。
名前の無い国の話…。
真っ白だった視界から無駄に豪華な扉が浮かび上がる。
ゆっくりと扉が開いていくと景色は一変した。
「「ようこそいらっしゃいました。名前の無い国へ…来られたあなた方を私達国民は大歓迎致します‼」」
扉が開くと案内係と書かれた名札をつけた可愛らしい女性がニッコリと笑いマイクを手に持ち手慣れた様子で説明が始まる。
「貴方が来られたこの国は特別なリゾート地!毎日ランダムで選ばれた方がこちらにご案内されています。お手持ちの手帳にかかれたご住所に行っていただきごゆっくりとこの国をお楽しみください!」
特別なリゾート地……❓
そんな旅行に参加した覚えは無いと青年は首をかしげる。
名前は佐島 椿 26歳、ホテルで働いていた。
周りも旅行に参加した覚えが無いのか困惑の空気が流れる。
「み!な!さ!ん!ちゅーもく☆」
空気をたたっ切るような案内係の女性を見る。
「あれれ~❓旅行に参加した覚えが無いぞー!っというかた!多数のようですが、当たり前なんです。この旅行は皆さんの周りの方からのプレゼントもしくは抽選で特別にご招待したお客様ですから。申し込みはご友人やご家族恋人、色々です!よーく、、思い出してください。周りの方からのゆっくりと旅行にでもと勧められたことがありますでしょう?その方からの申し込みのあと抽選で当選されたのが皆様なのです!」
ニッコリと頬笑む女性。
同時に後ろの入ってきた扉が閉まり鐘が鳴る。
『最近お前は仕事し過ぎなんだよ。倒れでもしたら笑えねぇよ?……よーし、無理やりにでも旅行につれていってやるよ!』
友人が先日言っていたことを思い出す。
あの友人がこの旅行に参加させたのだろうか?
でも、なにか引っ掛かると声を発しようとすると回りはすでに納得した様子で各々の指定された住所に向かっている。
ポツンと空気に残された違和感に目をつぶり自分の手帳にかかれた住所に向かおうと手帳を開く。
そこには簡単に案内文が書かれていた。
佐島椿様
特別ご招待室 お部屋係 縁
住所〇〇〇〇〇〇
人生が決まる旅行。ごゆっくりお楽しみください
(人生が決まる旅行……ねぇ。随分とだいそれた名前なことで)
椿は先ほどは混乱もありこの国の様子を見る余裕もなかったためきょろきょろと周りを見ながら歩いていく。
国の様子はとても不自然なほど綺麗に整備されている。
建物はレンガの様なものでできており、先ほど入ってきた扉から国は円形に広がっている。
一番外側からしばらく内側に赤の建物が立ち並びその内側に白い建物真ん中に黒い塔のような建物があるようだ。
(さすがは特別なリゾート地っていうだけあって夢の国みたいに綺麗だな。……あれ?)
目的地である黒い塔に着いた椿は入り口がないことに困っていた。
「椿様」
「うわっ!」
背後から声がして驚いて尻餅をつく。
「脅かしてしまいましたか?申し訳ありません。本日お部屋係をさせていただきます。縁ともうします。何なりとお申し付けくださいませ」
綺麗な着物を着てゆっくりと頬笑みながら手を差し出してくる女性は不思議な雰囲気を身に纏う。
長い黒髪白い肌真っ赤に色ずく唇
綺麗すぎて作り物みたいだ……
ぼーっと見蕩れると慣れているのだろう楽しそうにクスクス笑い一礼しご案内致しますと歩き始めた。
「入り口が見当たらないんですけど……」
「椿様。入り口なら目の前にございますが?」
ふっと視線を塔に戻すと扉が少し開いている。
「……あれ、さっきはなかったよ」
「いえ、御座いましたよ。立ち止まらないと見えないこともございますからね」
「……そう」
「では、椿様扉をくぐりましょう。」
塔に比べると小さく見える扉をくぐった。
通された部屋はとても椿好みの部屋だった。
カーペットはパステルカラーで品良くまとめられ暖かみがある。
ふかふかのベッドの横にハンモックもあり本棚も充実している。クッションもたくさん置いてある。
また、簡易キッチンもついていて一人暮らしなら遜色無い良い部屋だ。
正直夢のような家だ。
ふっと机の上に置かれている本を見る。
パラパラとページをめくると真っ白で何も書かれていない。
不思議に思って首をかしげる。
「今日の夜その本をお読みください。きっと、道が開けるおまじないつきで御座います」
何も書いてないのに?と首をかしげるが後で人生本か何かにすり替えられるのだろうと納得する。
「本日は特別プランとなります。椿様は何をこの国でされても構いません。ご宿泊の期間は本日より一泊二日。明日の朝までごゆっくりとお楽しみくださいませ。お食事のご準備などいかがいたしましょうか?」
首をかしげる縁にふっと違和感と暖かい気持ちが広がる。
この顔を何処かで見たことがある気がするのだ。
「……なんでも良いんですか?」
「はい、仰せのままにご準備致します。」
一瞬いいずらそうに、遠慮がちに口を開く
「……ご飯作りますから材料準備してくれませんか?そして一緒に食べてほしいんです。」
変な願いだろうかとドキドキしながら縁の顔を見ると変わらず頬笑む。
「かしこまりました。」
「まだ、作るには早いのでこの国を案内してくれますか?」
「では、馬車の準備を致します。少々お待ちくださいませ」
馬車って車は無いのか、、まぁリゾート地だから雰囲気を作るためのものかもしれない。
緑が準備した馬車に乗り国を回る。
棟の周りは商店街のようで色々な店が立ち並ぶ他の観光客も何か付き物が落ちたように楽しみはしゃいでいる様子が見えた。
少し離れた場所には遊園地や水族館まであると説明があったが興味が無かったのでそちらにはいかなかった。
確かさっき案内されたとき子供の姿もあったからその子達用なんだろう。
子供…❓️子供だけでいた子も居たな……おかしくないか?
なんでこの『……♪……♪…………~♪…』…音楽?
国には静かな音楽が常に流れている。
何処からともなく甘い匂いが漂う、身体の力が抜けていくのを感じる。今なに考えてたっけ?まぁ、いいか身体がらくだ。
「……はぁ、久しぶりに息をしてる気がする」
思わず口からでた言葉に緑は暖かい目で頬笑む。
「……たくさん、頑張られたのですね」
何処か寂しそうに自分を見てくる縁の目から逃げたくて塔に戻りますと告げる。この人の顔はやっぱり誰かに似ているのだ。
部屋に戻ると本が消えて変わりに大量の食材が置かれている
何時の鐘だろう❓️鐘の音色が聞こえる
音色が聞こえるといっそう心から身体から付き物が落ちたように軽くなる
ふと、緑が部屋から出ていこうとしているのが見えた
「何か食べれないものありますか?」
聞くと縁はビックリしたように今までとは違う表情をする
「え、あ、私ですか……いえ、椿様のお好きなもので構いません」
動揺したような笑いかた
そのあと少々失礼しますと部屋を出ていく少し困ったような顔をしていた
あんな顔するだなぁ…
本当に人形なんじゃないかと思っていたから安心する
食材をみてわくわくするこの旅行に申し込んでくれた友人の好物でも作ろうか
カルボナーラにシチュー、生ハムサラダにスープを
カロリー高いもの好きだよなあいつと笑う
楽しく料理するなんていつぶりだろう?
『そんな、働きづめで大丈夫か?おい、ふらふらしてるって……椿』
だって休めねぇーから仕方ないだろってイライラしながら答えた気がする
あれ、あのあとどうしたんだっけ
悩んでいると縁が部屋に入ってきた思考を捨て食事を始める。
食事をしながら疑問が疑問を呼び落ち着かなくなった
応募したのが友人だとしてもどうやってここまで来た?
塔から見える国の外には海が見える。
船に乗った記憶はないし、それに仕事を急にこれだけの観光客が休めるのか?
おかしなとこはたくさんあるのに納得してしまったのはなぜだろう
「椿様……お食事とっても美味しゅうございます」
ありがとうございますと頬笑む緑に不安が消える
いや、おかしい
何故微笑むだけで疑問を納得させる
「……緑さん、貴女はなんですか?」
怖くなって聞いてしまうお化け?
聞いた瞬間今までとは違う作り物みたいだった顔は潜め本当に困ったような顔になる
「……やっぱり、椿様……貴方……」
「「死んでないのですね」」
声がだぶるように聞こえる。
「……は❓」
死?
何をいっているのかと聞こうとした瞬間頭が割れるように痛くなる
走馬灯のように記憶のもやがはれる
調理学校を出てホテルのレストランに就職した
しかし、ホテルも人員不足の為に調理師をホテルマンに移動させるなんてことがある
休みは月5日その休みすらヘルプで仕事に出させれる
体調を崩したら残業代は無しになってしまうし親が倒れたときも有休を使うには社長に申請を出した上で残業代はなしなった
残業をどんなにしても手取りは13~15万寮に居たからぎりぎり生活はできた休みがなく金を使うのも栄養剤や弁当だけだったのもある
ぎりぎり生活できてるしきつすぎて思考は回らない
寝て起きて仕事して寝て起きて仕事して
なんのために生きてるのか?なんてたまに思うけど考えるのも怠くて寝る
限界が近いときに友人が訪ねてきた
久しぶりに無理やり半休とって友人に料理をふりまう
で、友人を見送ろうとした時……自分は倒れた
「……過労死……貴方は過労死でなくなるはずでした。」
「…………はず、だった……❓」
縁は真っ白な本を取り出す
「この本には貴方が1日この国で過ごすことで貴方の記憶が物語となって記録されるはずでした。それを夜に読んでもらい死んだ記憶を戻し明日閻魔様にこの本を渡して審判を受けるはすだったのです。」
オカルト染みているけど、わが身に起こったことだ
「この国は人生最期の旅行」
だから人生を決める旅行なのか。
「じゃぁ、なぜ俺の本には何も書かれていないんです?」
「死んでいないからです。この国は貴方の世界から逃げてきたアヤカシや迫害された異なる力を持つものによって成りたっています。貴方の世界にはもう傷を癒す能力を持つものは居ないはずでした。しかし……先祖に血が混じっている者がいたのでしょう。貴方が倒れたことにより貴方の友人は力に目覚めた。簡単に死にそうな人間を助けることは出来ません。貴方は今集中治療室にいると先ほど確認がとれました。本来なら死亡確認がされるだけだったはずです。」
「友人は……」
「いきなり力を使った反動で眠っています。貴方と一緒に倒れていたそうです。私達の管理する病院で対応しています」
一通り話が終わると緑は頭を下げる。
「この事態はこの国の責任者である私に責任があります。古の血筋がまだ残っていたなど何百年も発見されていません。可能性を考えずそれによって助かるかもしれない命を導いてしまった。」
「責任者……❓」
「改めて自己紹介させていただきます。わたくし、閻魔様に創られました。この国を治める役割を担っております、縁間 鈴 と申します。」
長い付き合いになると思いますのでどうぞお見知りおきを。
そう頬笑む彼女は最初とは違い実に人間味のある笑顔をしていた
ありがとうございました。