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さらなる真実②

「まぁ待って待って。気持ちは分かるけどちょっと待って」


 全員から失望した目を向けられ、流石に焦ったキセレは弁解を求める。


 だが、壁画に描かれた『魔族の古代兵器』よりも重大な謎が隠されていると期待させ、不安を煽るだけ煽っておきながら、結局……「分かりません」というのはどうしても許しがたい。


「しょうがないじゃん! 分かんないもんは分かんないんだもん! でも何かあるとは思う!!」

「その根拠は……?」


 自信ありげに、駄々をこねるように叫ぶキセレは何と見苦しいことか。だが、ここまで言うからにはキセレにも何か思うことがあるのだろう。


 しかし、キセレはまたしても飛鳥たちの期待を裏切ることとなる。


「知らない。勘だ!」

「そこぉ! そこだってば! お前に賛同できないのはそこぉ!」


 完全に開き直ったキセレに飛鳥は人差し指を突き出した。


 この古代兵器がフェイクだと言うキセレの意見も全くの的外れではないだろう。だが、この場所に本当に()()()()があるという確証がない限り、これ以上この遺跡に時間を取られるわけにはいかないのだ。


「勘は止めろ! 俺たちを納得させる何かをくれ!」

「いや、だから、多分あるんだって! 多分!」

「んあぁぁぁぁっ!」


 堂々巡りなやり取りの応酬に、飛鳥はついに耐えきれず頭を掻き毟る。


 飛鳥たちにはキセレを一人残し旅を続ける選択肢もある。キセレは魔族だ。一人で遺跡に残ったとしても、人と違い簡単にくたばることはないだろう。


 だが、キセレの言うことが、もし正しいのだとすれば、世界が滅びるレベルの謎が隠されている可能性も確かに存在する。その僅かな可能性が、飛鳥に先に進む足を止めさせてしまっていたのだ。


 そんな時、飛鳥の服の裾を何かが引いた。振り返るとシェリアがいつもの半開きの目で飛鳥をじっと見つめていた。


「アスカ、気持ちは分かる。でも落ち着いて……。どのみち、今日はそんなに進めないと思う」


 言いながら飛鳥の目を見つめる。


 その目は髪の隙間から僅かに覗く程度だが、飛鳥にははっきりと見えた。その目だけで飛鳥の不安は取り除かれる。


 飛鳥が気を沈めたのを確認すると、シェリアは次にヘレナに目を向ける。シェリアは何も口にすることはなかったが、ヘレナは自分を見つめる金色の少女の考えていることを何となく察し頷く。


「アスカ、どのみち進めないなら、夕食までぐらいはこの人の話に乗るのもアリ、だと思う」

「おぉ!賢者ちゃんは話が分かる子だねぇ」

「でも、見つからなかったら置いていく。それで問題ない」


 シェリアは一つの提案として、それを口にした。


 言われてみればそうだ。今から馬車を走らせようとすれば、馬車に戻り荷物の片付けから始めなければならない。この遺跡に来る前にヘレナがある程度片していたとしても、出発となるとまた別だ。


 そして、いざ馬車を走らせたとしても、時間的に日はすぐに沈み、その前にまた野営の準備をしなければならない。


 そう考えると、シェリアの案に乗るのが最善なことは明らかだった。


 もちろん、その結論を飛鳥一人で出すことはできない。少し離れた位置で腕を組んでいたディノランテに視線を向けると、彼は一度首を縦に振る。


「俺も構わんぞ。そもそも、俺とミーシャは客人だ。お前たちの決定に文句は言わん」


 ディノランテからもお許しが出たと言うことで、飛鳥はキセレの方を向く。


 腕を組み大きな態度で、してやったりな顔をしたこのおじさんは本当に神経を逆なでする。


 先ほどの会話を当然こいつも聞いている。ならばわざわざ言う必要はないのかもしれない。


「手伝うよ……」


 その言葉に嬉しそうに笑うキセレを前に、飛鳥は悔しそうに顔をしかめるのであった。




 —————




 隠し部屋。それは幼き日、誰もが憧れる特別な空間である。本棚の本を動かすことで起動する仕掛け。レンガでできた壁を押し込むことで開く扉。そのような秘密な空間、秘密の仕掛けは男のロマンであった。


 飛鳥はキセレに散々文句を言ってきたが、いざ探すとなると少なからずワクワクが込み上げてくる。飛鳥も男の子というわけだ。


 だが……、


「ないね……」


 その狭い空間にキセレの声が響いた。


 飛鳥たちが遺跡の最深部に隠されているかもしれない謎を探し始めて早二時間が経っていた。そもそも、遺跡の最深部であるこの部屋は、初めてきた時から何一つ物が置かれていない。そんな場所で何かを探すというのは、どうしても限界がある。


「これ以上探しても時間の無駄なようだな……」


 ディノランテが額に浮かんだ汗を拭いながら言う。


 キセレはガックリとうなだれた。勘ではあるが『ナントラー』の残した本当の秘密があると確信していただけに、その落ち込みようは相当なものだ。


 だが、五人で部屋中を隈なく探しても、その痕跡一つ見つけられなけれないようでは、流石にキセレも認めるしかなかった。


「店長、今日はもう諦めましょ。私もそろそろ夕食の支度をしなければなりませんし……」

「……ん。ご飯は大事」


 遺跡探索による疲れで先程からしゃがみこんでいたシェリアが勢いよく立ち上がりヘレナの隣に駆け寄った。飛鳥たちは昼食を遅めにとったのだが、それから三時間ほどしか経っていない。彼女の鍛えられてはいるが細身な身体のどこに大量の食事が納まっているのだろうか……。


 飛鳥が思う最大の疑問だ。


「まぁ、仕方ないか。じゃあ一度ここで切り上げて、明日からは僕一人で……」

「ねぇ……」


 突然、先ほどまで「ご飯」と呪文のように唱え続けていたシェリアが真面目な顔で飛鳥に声をかける。


「どした? すぐ晩飯だからおやつはないぞ」

「……違う」


 冗談めかし子ども扱いをするように言う飛鳥に少しムッとするが、シェリアは気を取り直し続けた。


「なんで外を調べないの……?」

「外?」


 シェリアの言う外とは、もちろん遺跡の外のことではない。長い階段を降り、数多の壁画が刻まれた巨大なドーム状の空間。


 シェリアは何故その場所を調査しないのか疑問に思った。


 だが、それには理由がある。


「そりゃあれだろ……。あれだ……」


 さも知ったようなような態度をとるが、正直なところ、飛鳥はシェリアを納得させるだけの答えを持っていなかった。助け舟を求めるような目でディノランテを目を向けると、ため息をついた彼が口を開いた。


「キセレ殿の推測が正しいのであれば、本来この遺跡は『ナントラー』の残した謎を隠すことをに重きを置いている」


 ディノランテはキセレに自分の言葉に間違いがないか確認しながら話を進める。


「であれば、最深部(ここ)の存在自体は重要ではないのだ。いわば、その謎は最深部に辿り着いたものだけが知ることの出来るものでなければならない」


 つまり、もしドームの中でそれを見つけるための仕組みが起動してしまったら、遺跡の最深部の意味がなくなってしまう。偶然遺跡を見つけ、偶然遺跡の最深部に進む者がいるとすれば、最深部に進む前に偶然その謎に発見してしまう者が現れることも十分考えられる。


 だが、そうであってはだめなのだ。


 そこまで話を聞いたシェリアは納得した部分もあるが、それでも未だに疑問の表情が消えることはなかった。


 そして……、


「でも、この遺跡は魔女と賢者のために作られた遺跡でしょ?」


 この遺跡の核心を突く言葉を発した。


 その言葉を聞いたキセレは目を見開き俯いた。そして、この遺跡に着いてから立てた考察、疑問、その他全てのことを思い出す。


 異様な空気がその場に流れ、飛鳥たちは黙ってぶつぶつと何かを呟くキセレを見つめていた。


「ああなった店長は当分の間、こちらには戻ってきませんよ」


 過去にも似たようなことがあったのかヘレナが飛鳥に耳打ちをする。それを聞き、「げっ」と声を出し顏を歪めた。


 キセレの突発的な行動は今に始まったわけではないのだが、今この場でそれを起こされても困る。本当に困る。


「当分ってどれくらいなんですかね?」

「長い時は三週間あのままのこともあります。魔族は食事や睡眠は必要ありませんからね」

「すげぇ……」


 無機生物である魔族に必要なのは聖術気(マグリア)のみ。聖術気(マグリア)が豊富な土地であれば、食事や休息などの本来生物が必要とする全ての要素を欠いたとしても、死ぬことはない。


 ある意味、人間を完全に超越した存在だと言えるだろう。


 だが、今はそんなことどうでもいい。問題なのはキセレがいつまで長考を続けるかということだ。


「で、どうするんです? キセレ放置して帰りま……」

「その必要はないよ」


 飛鳥がヘレナに声をかけたと同時に、キセレが飛鳥の声をかき消した。


 そして、キセレは部屋の隅に置いていた大量の荷物を背負い外へと繋がる入り口に向かう。


「さぁ、この遺跡の謎を暴きに行こう」


 声高らかに言うキセレは今までにないほど輝いており、周囲の期待を一身に背負っていた。

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