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怒るシェリア

前回のあらすじぃ!


キセレが大暴走しまたした

「そういえば……」

「ん?」


 どんよりと肩を落とすディノランテにシェリアがペットボトルを差し出しながら口を開いた。


「……ディノって私たちが賢者と魔女って聞いても驚かなかったね」

「あ、そういえばそうだな」


 飛鳥はディノランテに自分たちの身の上話をする際、魔女と賢者であることだけは隠していた。その理由はいくつかあるが、無駄な混乱を避けるためには致し方なかった。


「まぁ、それはあれだな……ふぅ」


 シェリアからペットボトルを受け取ったディノランテはその中身を一口だけ口に含み、軽く喉を潤した。


「……アスカが魔女ということは初めから知っていたぞ」

「え、マジで……?」


 同じようにシェリアからペットボトルを受け取った飛鳥は、その発言に身体が硬直し水が垂れ流しになる。傾いたそれをシェリアがすかさず立て直しフォローする。だが、それも限界があり溢れた水で胸元が濡れてしまった。


「何で知ってたんだ?」


 飛鳥はタオルで水を拭きながら尋ねる。だが、ディノランテの顔を直視することが出来なかった。今更気にする事ではないのかもしれないが、本心をさらけ出しただけに隠し事をしていたことに後ろめたさを感じてしまった。


 だが……、


「くっはっはっはっは!」


 そんな飛鳥を見てディノランテは大声で笑った。


 笑い過ぎたのか少し目元に水滴が浮かべ、頬を染めながら涙を拭うディノランテはとても絵になる。ディノランテのこういうところが女に見られる要因ではないのだろうか。飛鳥は本気でそう思った。


「はぁ……、お前は何笑ってんの?」


 だが、その空気を壊すような笑い声が飛鳥の緊張をほぐした。


「ん? あぁ、いやなに。今更気を使うお前が可笑しくてな、ふはは」


 ディノランテは一度、大きく深呼吸をし気持ちを落ち着ける。そして、飛鳥の目を見つめると口角を少し上げながら続ける。


「そんなことで悩むな。それに人間関係というのは、多少なりとも隠し事があった方が上手くいくものだろう? ま、俺には隠し事になってなかったわけだが……」


 飛鳥は少しだけ違和感を覚える。話してないことがディノランテに筒抜けになっていることを。疑問の表情を浮かべる飛鳥に、ニヤニヤと挑発的な笑顔をディノランテは向けていた。そして、ハッと気付いた。


「お、お前……、また感情を読んだ、のか?」


 もしそうだとすれば、突然笑い出したディノランテにも納得がいく。というか、そうとしか考えられない。


「ふはははっ、読んだのではない。見たのだ!」


 自分の左眼を指差しながら高らかに笑うディノランテを前に、飛鳥の頭は急激に血が上り顔が熱くなる。わざわざ気を使った自分に、そして、それがディノランテに筒抜けだったことに。


 自分らしからぬ思考に恥ずかしさは最大にまで達していた。


「んあぁぁぁぁ! ずるいんだよ、その眼! 取れ! ほんでもって寄越せ!」

「ふはは! 諦めろ、お前には分不相応な代物だ!」


 ディノランテの面白いものを見たという態度に飛鳥の我慢は限界を超えた。そして、その羞恥心を誤魔化すようにディノランテに飛びかかる。


 が、そう易々と捕まるディノランテではない。ひらりひらりと飛鳥の無鉄砲な突進を躱し、勢いを殺せていない飛鳥の背中を指先でトンと押す。


 ディノランテのたったそれだけの行為だったが、飛鳥は完全にバランスを崩し倒れる……ことはなかった。


 倒れる直前、とっさに左足を出し転倒を免れると、すぐさま右手を地面に突きながら重心を右足に移し反転する。


「お……?」


 その流れるような体捌きに加え、崩れた遺跡の一部に踵を引っ掛けてしまい、ディノランテは思わず感心と戸惑いの混ざったような声を上げる。


 飛鳥は必死に手を伸ばす。そして、あと少しで届くというところで……、


「んーーーー!」


 突然、シェリアが飛鳥の背後から襲いかかる。飛鳥の腰に腕を回し、両足を絡める。


「うげぇっ!」


 だが、シェリアのとったその行動は決してじゃれているわけでなかった。力のこもったその腕は、飛鳥から苦痛の声を発せさせるには十分すぎたのだ。


「んーー!」

「何!? えっ、何? マジで何!? シェリア!? ちょっ、待って、おえっ。いてぇからっ! 食ったもん出るからっ!」


 シェリアは飛鳥の背中に顔を埋めて、その力をそう簡単に緩めることはなかったが、飛鳥が腕をパンパンと叩き、ギブアップを求めたので脱力し飛鳥の背中から離れる。


 この世界で初めてナウラを訪れた際は常に飛鳥の背中に引っ付いていたが、最近では人見知りも良くなり、その身を隠すことはしなくなった。


 飛鳥は背中に当たるシェリアの感触に嬉しさを感じつつも、このまま続くと本当にゲロリかねない。流石に歴史ある遺跡の中を吐瀉物で汚すわけにはいかないのだ。


 まぁ、汚してもいい場所だからといって吐きたいわけではないのだが……。


 解放されたことで腹回りに余裕ができ、嗚咽感は次第に落ちついた。しかし、腹を締め付けられた直接の痛みは持続し、その場所を擦る。


(お、割れてきてるな)


 と、最近この世界にきてから地味に鍛えている飛鳥は、自分では分からない身体の変化に気づく。


 だが、今はそんなどうでもいいことに関心を持っている場合ではない。


「で、何? 急に引っ付いてきてさ……」


 飛鳥は振り向きながらそう言うと、シェリアはムスっとした表情で飛鳥を見上げるように睨む。


 もちろん、本気で怒っているわけではないことは明白で、ただ拗ねているだけなのが容易に想像できる。


 そして、飛鳥に背を向けるように後ろを向くと少し離れた地面を指差した。


「あれ……」


 シェリアが短く呟くが、飛鳥には一体何を指差しているのか見当もつかなかった。


 いたって普通。遺跡内部に敷き詰められたタイル。少し欠け少し古ぼけてはいるが、何万年も時が経っているとは思えない綺麗さ。


 だが、それはそこだけではない。遺跡中の床や壁、天井が似たように破損しているだけである。


 未だにシェリアが何に対して怒っているのか分からない飛鳥は隣に立つディノランテに軽く肘を突く。


 しかし、ディノランテは首を横に振った。


 ディノランテもその左眼で『シェリアが怒っている』という感情は読み取ることができるのだが、その内容までも分かるわけではない。


 先ほどの飛鳥のように、前後の会話の流れから予測することは可能でも、その心の内を直接見ることは不可能だ。


「何だ。分かんねーのかよ」

「うるさい。この眼にも出来ることと出来ないことはある」


 シェリアの背後で聞こえないように会話をする二人。だが、二人のやりとりは次第にエスカレートし陰湿なイジメのような肘の打ち合いにまで発展する。


「うっ……! てか、あれか!? さっき俺の心を見たって言ったけど、結局あれはお前の偶然が当たっただけなんだろ!?」

「ぐっ……。 どうかな? まぁ、お前の心が読みやすいのは確かだがな! ふはは」

「このやろてめぇ……」

「何してるの……?」


 ゾクリと身体に鳥肌が立つのを感じた。いつのまにかシェリアを放置し言い合いを繰り広げる飛鳥たちに、シェリアもついに痺れを切らしたのだ。


 冷たい目で、軽蔑の眼差しで、なぜ怒りを見せる人のすぐ後ろで言い合いが出来るのか、とシェリアは無言の圧力をかける。


「あ、あは……は……。それでシェリアは何に、怒っているの、かなぁ……?」


 飛鳥は全身から汗を吐き出し、後頭部に手を当てながら恐る恐る尋ねる。


 するとシェリアはため息をつき、


『やれやれ。そんなことも分からないのか……』


 と、言いたげな目で手を上げながらわざとらしく首を横に降る。


 その態度に少しイラつきを覚えるものの、それはそれで愛らしいものがある。


「あそこに何個かこの遺跡が欠けてできた石がある。私はそれを積んでいたの」


 そう、シェリアは飛鳥とディノランテに飲み物を渡してから、石積みをしていたのだ。『なぜ、そんなことを?』と聞きたくなるかもしれないが、それは暇だったから、としか答えることができない。


 そんな暇つぶしも、十四の石を積み上げるまでになっていたのだ。そして、大台である十五に挑戦しようとした時に、それは呆気なく散ってしまったのだ。


 その元凶が飛鳥だったというわけだ。


 それを聞き、目をパチクリと瞬きをした飛鳥は腕を組む。


 何を話そう、何から話そう。いろいろな言葉の選択肢が頭の中を渦巻いていたが、その中から飛鳥は一つを選ぶ。


「んなどうでもいいことで怒ったのかよ!!」


 当然ともいえる飛鳥の叫びが、遺跡の中を木霊した。

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