地下の遺跡②
ディノランテはおもむろに魔術を行使した。
左眼の聖気玉から生み出した一発の『嵐の弾丸』は辺りの空気を巻き込み段々と肥大化し、空間を切り裂きながら目標へと飛んでいく。
もしかしたらシリュカールに危機が迫っているかもしれない。だが、自分には関係ない。そんな優柔不断な自分に嫌気がさし、そして怒りを覚え、その感情のまま撃ち放った魔術は凄まじい大きさに膨れ上がった。
そして、『嵐の弾丸』を撃ち、ようやく相手の姿を確認する。そして、
「あっ! まずい……」
と、呟いた。その言葉とは裏腹に声に力はなく、先ほどのわけも分からぬ怒りは完全に消え去っていた。
「うえっ!? あぁぁぁぁぁぁ!!」
ディノランテが見た相手から何とも情けない声が発せられる。そして、右手を突き出したかと思えば大きめの火の塊を生み出すと、『嵐の弾丸』と真正面からぶつかり、互いの魔術は消滅した。
ディノランテの魔術が消えたのを確認し、ホッとした相手は地面にへたれ込む。
「い、いきなり何すんだよ!」
そして、ディノランテにそう叫んだ。
「はは、すまんな、アスカ。まさかお前達とは思わなかったんだ」
そう、背後から聞こえた靴音の正体は、ディノランテの後を追ってきた飛鳥とシェリアだった。
我を忘れ怒りに任せて魔術を行使したディノランテは直後に飛鳥の確認し、一瞬、焦りはしたものの『あいつならば大丈夫だろう』という謎の信頼感により平静を取り戻すことができた。
ディノランテは左手で後頭部を掻きながら笑う。
「こんなところで背後から何者かが近づけば警戒するのは当然だろう?」
「警戒はしても魔術を使うなら相手ぐらい確認しろよ!」
「いやぁ、すまない。色々と混乱しててな。そこまで余裕がなかったのだ」
言いながらディノランテは辺りを見渡し、その様子に飛鳥は一度言葉を飲み込んだ。
「ところで、なぜお前達がここにいるのだ?」
ディノランテが尋ねると飛鳥とシェリアは顔を見合わせ、もう一度ディノランテと向き合った。
「べ、別に大した理由はねぇよ。俺も男だからな。こういう謎の場所ってのに少しワクワクして……」
「アスカがディノが心配だからって」
「お、おい! 何適当なこと言ってんだよ!」
「違うの?」
「違うね! 絶対にありえん!!」
そんな口論を今も続ける二人にディノランテは頬を緩ませる。
互いを思い、互いを理解し、互いを信用しているのが、ひしひしと伝わってくる。
自分とミーシャでは絶対に成し得ない二人の関係に少しだけ羨望の感情が沸き起こる。
「ん? 何だよ……。嘘は言ってないからな!」
ディノランテの視線に気づいた飛鳥は口を尖らせながら横目で睨みつける。
「はは、いや、何でもない」
ディノランテは優しく微笑み、そう答えた。
—————
「すごいね、アスカ」
「あぁ、くっそ広いな」
飛鳥とシェリア、ディノランテの三人は改めて、謎の遺跡を見て回っていた。
地下にも関わらず陽に照らされたように明るいその空間。シェリアが言うにはここに行き着くまでの階段で吸収された光がこの空間に集められていると言う。
吸収したといってもたったそれだけの光量で遺跡全体を照らせるとは到底考えられない。腑に落ちない飛鳥だが、そのおかげで遺跡を見て回れるのだから今回は目を瞑る。
「にしても、この壁画は何なんだろうな」
「人……、襲われてる? こっちは武器を持ってるね。あっちは……」
ドーム状になった地下の遺跡。その壁にはぎっしりと何かの絵が描かれている。
飛鳥にはこの壁画が何を表しているのか全くもって理解できなかった。この世界の歴史を知らずこの世界の常識を知らない飛鳥には全くの未知の領域だ。
「おーい、ディノー! そっちは何かあるかー?」
いつの間にかシェリアも飛鳥の側を離れ、一人になった飛鳥は退屈さを凌ぐためにディノランテに声をかける。
壁画を見上げていたディノランテは一度、近づく飛鳥に振り向き、すぐに壁画に目を戻す。
「初めはシリュカールやガルマイン、それにここら一帯の過去が記されていると思っていた……。だが……どうもそうではないようだ」
飛鳥が隣に来たのを気配と靴音で確認し、ディノランテはそう口にする。そして、二人が立つ場所から少し右側に逸れた壁画を指差した。
「あれは鎧を着せた巨大な獣に引かせる『戦車』と言う兵器だ。詳しくは知らないが、こことは別の大陸でこれが昔から使われていると聞いたことがある」
飛鳥はその指の先に目を向けると確かに長い鼻を二本持つ象のような動物がトゲトゲの車を引いている。
次にディノランテのそれは戦車の隣に移る。
「壁の劣化かもしれないが鱗のような模様に羽、さらに槍を持った姿は竜人族の特徴と一致する。これもまた、この辺では見ることのできないものだ」
その後もディノランテは靴の音を響かせながら隣に隣にと壁画を順に目を通していく。
飛鳥もそれに続き、淡々と話すディノランテの説明を受けるが、完全に右から左へ聞き流していた。
全く興味がない、というわけではないのだが、如何せん、ディノランテの話に意味を見出せず、どうしても関心が薄くなってしまった。
その壁画を半分ほど見終わった頃、飛鳥はあることに気づいた。
「なんだか、過剰戦力だな……」
「……何が?」
いつの間にか二人に合流し、ディノランテの説明を真面目に聞いていたシェリアが聞いた。
飛鳥は声に出したつもりはないのだが、知らずのうちにそう口にしていた。
「あぁ、いや、別に大したことじゃ……」
「構わん。小さなことでもいい。何か思うことがあるなら遠慮なく言ってくれ」
飛鳥は頬を掻きながら単なる思いつきで言ったことを説明するが、ディノランテがそれを遮った。
まさか自分の何気ない発言に注目が集まるとは思ってはおらず、少し困った表情を見せる。
だが、その何気ない発言に何か意味があるのだとすれば見逃すわけにもいかない。
「いや、ほんとにただ思っただけなんだけど……」
飛鳥は眉間に皺を寄せながら顎に手を置き壁画に目を向ける。
「……あの象とか、竜人族だっけ? とか、他の奴もそうなんだけどさ、明らかに戦力が偏ってるなって」
飛鳥は壁画に指を向けながら言った。
ディノランテはそう言われてみれば、と腕を組む。
二本の鼻を持つ象のような生き物が引く『戦車』、明らかに普通の人より強いであろう複数の竜人族。その他のどの壁画を見ても相対する者は一人、多くても二人しか描かれていなかった。これを過剰戦力と言わずなんというのであろうか。
「どうだ、ディノ。俺の意見、何か役に立った?」
「いや、全く」
間髪入れずに返され飛鳥はずっこけそうになる。ディノランテの真顔で「だから何?」と言いたげなその表情をつい殴りたくなった飛鳥であった。




