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聖気玉の強み②

 ヘレナは手綱を持ち馬を走らせた。


「シェリアさんは何か分かったようですね」

「ん」


 馬車に揺られながらシェリアは頷いた。


「杖を使った方が使ってない時より聖術気(マグリア)の量が多かった、と思う」


 シェリアは結界を張っていなかったから自信はないけど……と、付け足しながら答えた。


 ヘレナはその通りですと、言いながら右足の先端を馬に向けながら『治癒(リジェリエール)』を施した。確かに使い勝手は悪そうだ。


「私が魔物に『風刃ヴィエント・ラーフォス』を放った際、聖気玉(マグバラ)を使用した時より杖を使用した時の方が四割ほど多く聖術気(マグリア)を込めました」

「えっ、でもヘレナさんのさっきの魔術……、どう見ても同じ……」


 ヘレナは四割ほど多くと言った。ならば、発動した魔術も自然と大きくなるはずだが、飛鳥の目には全く同じ大きさの風刃ヴィエント・ラーフォスにしか見えなかった。


 ヘレナは飛鳥に目配せをし説明を続けた。


「自分の聖術気(マグリア)を魔法に変換する時に間に媒体を介すると、どうしても一部の聖術気(マグリア)が別のエネルギーになってしまうのです」


 飛鳥はその話を聞き、大学受験時に学んだ物理の熱効率の話を思い出した。もし、魔法媒体にも同じような事が起こっているのだとしたら、魔術の威力が減少する事にも納得がいく。


 聖気玉(マグバラ)を持っていれば媒体を使用せず魔法が使うことが出来、持っていなければ効果は下がるが媒体を用いる。確かに聖気玉(マグバラ)の有無で差が出来てしまうのは当然のことだと、飛鳥は理解した。


 だが、ここで飛鳥にもう一つ疑問が浮き上がってきた。


「なら、シェリアみたいに聖気玉(マグバラ)を持っている魔女や賢者が記憶の継承を終えてしまったら、神杖(しんじょう)を戦闘で使う必要全くないですよね?」


 飛鳥の疑問は今までの説明から考えると当然の物だった。


 しかし、ヘレナはそんなことありませんと、首を横に振った。


「神杖は神杖と呼ばれるだけの理由があります」


 ヘレナはそう言うと、後ろの荷台に立てかけられている魔女の神杖を横目で見た。


聖気玉(マグバラ)を1とすると私の杖の還元度はおよそ0.7。しかし神杖は諸説はありますが1.1から2.5と言われています」

「……それ増えてますよね?」

「はい。神杖は神杖自身に聖術気(マグリア)を自然に溜めることが出来ます。そして、持ち主が魔術、または法術を使用する際、神杖に溜められた聖術気(マグリア)を上乗せし放つことで、本来込めた聖術気(マグリア)より大きな魔法が使えるのです」


 飛鳥は不意にシートンとの戦ったときの思い出した。


 今思うとシートンが聖気玉(マグバラ)を持っていることは杖を用いずに『炎帝の拳エンプリア・ヴァンストを行使したことから明らかだった。だが、シェリアがシートンから神杖の欠片を奪うまではずっと杖を使って戦っていた。それは神杖の効果を理解していたからだと判断できる。


「ん、待てよ……」

「どうしたの、アスカ」


 シートンとの戦闘を思い出した飛鳥は急が震えだした。


「俺、シートンと闘ってる時、最後の最後に神杖なしで魔術使ったじゃん?」

「ん」


 そう。飛鳥はシートンに完全に追い詰められた土壇場で魔女の魔術の知識を奇跡的に受け継ぎ、見事その危機を乗り切ったのだ。聖気玉(マグバラ)により杖を使わずに魔術を放つことで。


「俺、あの時はシェリアが普通に杖なしで法術使ってるから、俺も出来るもんだと思ってたんだよ……」

「ん」


 飛鳥は自分の右手を眺めた。聖気玉(マグバラ)のある右手を。


「あの時、無意識のうちに右手を使ったけど……、もし聖気玉(マグバラ)を持っていなかったら……」

「ん。死んでた……」

「お前、あっさり言うなよ……」


 もしかしたら死んでいたかもしれない。にもかかわらず、何の気なしに言うシェリアに飛鳥は少しむっとした。が、それはすぐに消え去った。


「今生きてる。私はそれでいい……」


 そう呟いたシェリアは正面の青い空を眺めた。足をプラプラと揺らしながら、全力で生きていることを堪能する。


 そんな考え方が出来るのは、やはりシェリアが過酷なナウデラード大樹林を生き抜いたからだろうか。


「シェリアさんの言う通りですよ」


 今まで二人の会話を聞いていたヘレナが言った。


「この世界はニホンに比べ命がとても安い。選択を間違えれば、その瞬間死んでしまうことも珍しくありません」


 ヘレナはシェリアと同じように空を眺めた。


「だからこそ、この世界ではニホンでは見えなかったものが見えるはずです」

「ヘレナ、いいこと言った」


 女性二人は顔を見合わせ笑っている。そんな姿を見ていると、さっきまで怯えていた自分が嘘のように思えてくる。


 ――見えなかったものが見える


 あなたはまだ何も見ていない。そう言われたような気がした。


 飛鳥も同じように空を眺める。


 青空の中に真っ白な雲がポツリポツリと浮かんでいる。見事な快晴である。


「空ってどの世界も一緒なんだな……」


 平穏な空気に当てられ飛鳥はそう呟いた。


 飛鳥はまだ、この世界について何も分かっていない。いつかそれを知る日が来たとき、そして、『原初の魔法使い』の捻じ曲げた運命に触れたとき、魔女としてどのような選択肢を取るのか……。


 それは誰にも、飛鳥本人でさえ知らぬことだ。


 だが、この世界でただ一人だけ、魔女の選択を願い信じるものがいる。


 捻じ曲げられ止まった世界の運命が動き出す時、二人はきっと出会うことになるだろう。




 ―――――




「と、言うわけでアスカさんにはある魔術を覚えてもらいます!」


 馬車に揺られ、うとうととしていた飛鳥の耳にヘレナの声が飛び込んできた。


 突然の大声が頭に響きシェリアは軽くパニックを起こしていた。


「ちょ、なんですか急に……」

「店長から言われていたんです。アスカさんが聖気玉(マグバラ)を持っていたら絶対覚えさせるように、と」


 ヘレナはそう言うと、シェリアに少しの間手綱を渡し荷台に入っていった。


「何の魔術?」

「いや、俺も急だったから知らん」


 そんな緩い会話が続き、五分ほどでヘレナは戻ってきた。


「アスカさんには今から『無光(ユーグレア)』を覚えてもらいます」

「ゆーぐれあ?」


 飛鳥に教えるのであればそれは魔術であり、記憶の中にないことから未だ神杖から継承されていないと言うことなのだろう。


 ヘレナはシェリアに馬車を止めるように言い、シェリアはそれに従い道の脇へ馬車を止める。


 三人は馬車を降りた。


 ヘレナの手の中には何か石のようなものが握られており、荷台に入ったのはそれを取る為だろう。


「先ほど、魔法の属性について話しましたね?」

「……はい」


 どこか興奮気味のヘレナに疑問を抱きつつも飛鳥は頷いた。


「では、ここで問題です。すべての属性の中で最も警戒しなければならぬ属性は何でしょう。あ、時の属性は除外します」

「もっとも警戒……」


 飛鳥と共にシェリアも考え込む。そして、


「溶岩……?」


 シェリアがそう言った。


「ナウデラードの森の中に火山地帯があって……。あれは正直恐ろしかった」

「いいえ、違います」


 森の中に火山地帯と言うパワーワードに完全に意識を持って行かれた飛鳥だが、ヘレナの全く意にも介さない様子に、飛鳥は問い詰めたい気持ちを飲み込んだ。


「アスカさんは……、出そうにもありませんね。正解は……」


 そう言うと口でドラムロールを鳴らすヘレナ。日本のテレビ番組に当てられたのかもしれない。


「ジャン! 光の属性でーす」


 普段クールなだけに今のヘレナには違和感しかない。先ほどから様子のおかしくなったヘレナにシェリアも疑問の表情だが、あえて追求するようなことはしなかった。


 そして、ヘレナはすっといつもの落ち着いた雰囲気に戻る。しかし、それがやせ我慢であることは明らかだった。


「光の属性は威力、難易度、速度を総合した場合、これほど恐ろしい属性はありません。きちんと勉学に励んでいるのであればアスカさんは光の速度をご存知だと店長にきております」

「えぇ、まぁ一応知識としては……」


 光の速度は秒速約3.0×10の8乗。簡単に言うと地球を約七周半の距離を進むこととなる。


「光はとてつもなく速い。もし光の魔術がその速度で放たれたらどうしますか?」


 飛鳥ははっとした。確かにその通りだ、と。文字通り光速の攻撃が自分に向かって使われたら、逃げることは出来ない。もしかしたら知らぬ間に命を落としているかもしれない。


 飛鳥はつい息をのんだ。


「まぁ実際その速度で光の魔術を放ってしまえば使用者にも制御できませんからね。なので、かなり速度は制限されています。しかし、」


 ヘレナは飛鳥の前にズイっと身を詰め寄り、バランスを崩した飛鳥は尻餅をつく。


「それでも、発動からの着弾速度は全ての属性でダントツです。不意打ちを喰らえば避けるすべはありません。そう、この無光(ユーグレア)を除けば……!」


 ヘレナは手の中にある石を天に掲げた。

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