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迫り来る魔物

 その後、シートンと別れた二人は高級、とまでは言わないが少し高めのレストランへと足を運ぶ。案の定シェリアは食べに食べまくり金額は二人で大銀貨一枚と銀貨四十枚もかかった。一食にだいぶ金額を使ってしまったが、シェリアも満足したようで何よりだ。


 宿屋に戻ると飛鳥とシェリアも次の日に備えすぐに床に着く。


 シェリアからはすぐにゆっくりとした寝息が聞こえてきたが飛鳥は眠気に襲われつつも今日あったことを思い返した。


『やらないは悪』


 今まで一度もそんなことを考えたことがなかった。周囲の『輪』を乱さず、その『輪』に溶け込み、『和』を保つ。


 そんな相手に同調することで相手から恨まれることなく今まで生きてきた。飛鳥にとってその『輪』を自分から破ろうとすることは今までの生き方の否定である。


 口では言ったものの、いざそれを実行に移すことが本当にできるのであろうか。


 孤児全体を救えないから放置するという世間の『輪』。一部を救うことは反感をかい後々大きな亀裂となるかもしれない。


 それはおそらく正しいのだ。やらないは『善』。これこそが正しいと思いたかった。


 それを今日完全に打ち砕かれた。


(俺は、これで変われるのかな……)


 そんなことを考えているといつのまにか飛鳥の意識は遠ざかっていった。




 —————




 翌日から飛鳥とシェリアは魔物の殲滅に乗り出した。シートンとカフェで会話を交わしてからすでに二日が過ぎている。街の外を探索していると割と多くの動物達が見られたのだが、二人は未だにそれらしい成果を出せずにいた。


「魔物ってのは全然見つからないのな」

「……ん」


 二人は襲ってきた狼や猪のような獣を倒したり、遠くからエレキラプトルを観察をしてはみるものの魔物と思われる獣は一匹もいない。


「まぁ、そうほいほい見つかったらそれはそれでやばいよな……」


 確かに魔物の被害は少なくはない。だがそれは、決して毎日のように起こっているわけではないのだ。当然、魔物がそうほいほい歩いていたら、戦闘能力のない人間は外で仕事をすることができなくなる。


「ガルルルルッ!」


 のんびり歩きながらあたりを散策していると、突然後ろから獣の唸り声が聞こえてきた。この二日間、何度も聞いたその声は姿を見なくても、その正体が黒い毛を携えた大狼だと分かった。


 そして次の瞬間、飛鳥の耳に地面を蹴る音が届いた。飛鳥はすぐに振り向きながら、魔女の神杖の先端を地面に軽く突いた。


土槍(フラス・シュペラ)!」


 そう唱えられた刹那、飛び上がった大狼の四方の地面から長い棘が飛び出してくる。正面と右からくるその槍は狼の空中での見事な体捌きにより躱されてしまう。


「後ろからも来るよ」


 飛鳥はそう言うが、もちろん狼がそれを理解するはずもない。


 後ろから伸びた土の槍は狼の後ろ足を貫き固定された。そして、間髪入れずに左から伸びてきた槍が狼の横腹を容赦なく貫いた。


 そのまま力尽きた狼はその足を宙にぶらんと投げ出した。


「……ふぅ、またこいつか。結構いるもんだな」

「ん。でもアスカ、反応が少し遅かった」

「いやいや、反応って……お前が異常なほど過敏なだけで、俺は多分一般的だぞ」

「でも、その一瞬が命取りになるかもしれない……」


 ふむ、シェリアにダメ出しをくらったが確かにその通りだ。あの狼の個体値が高く、もし、もう少しスピードに長けていたら、前、右の槍だけではなく後ろの槍も躱されていたかもしれない。


「わかったよ。……とりあえず今は戦闘技術が皆無すぎる」


 魔女の神杖。確かに歴代の最強魔術師の記憶や術式を得られるのはチートとしか言いようがない。だが、それを扱う飛鳥はど素人中のど素人。『毛が一本生えた』という表現があるが今の飛鳥はまさに『産毛が一本生えた』程度のものである。それをチート知識でカバーしているのが現状だ。


 シェリアは狼を槍から引き抜き地面に寝かすと名のない『血抜き法術』を使用する。今日だけでもすでに何回か見たがその血が傷口から破裂するように出る様はなかなか慣れることはないだろう。


「相変わらずスプラッタな光景だな」

「でも、これが一番早い」


 そう言い、シェリアは血の抜け切った狼をキューブに圧縮し保管する。帰還後、素材をギルドに売り付けるためだ。二人はすでに今日だけで十ほどの獣キューブを作っていた。それが多いか少ないかは分からないが、新米冒険者である飛鳥とシェリアにとって順調であることは間違いないだろう。


 太陽はもうすぐ頂点に達する。幸か不幸か、一日の長さは地球とさほど変わらず、飛鳥の体内時計を著しく脅かすことはなかった。まぁ時差などで日中眠かった時はあったがそれも慣れてしまえばどうということはない。


「少し早いかもしれないけどお昼にしようか」

「ん、少し待って。結界張るから」


「結界」とシェリアは言ったが実際には結界というよりも「レーダー」に近い。『火』や『土』のように属性を付与させずただ、聖術気(マグリア)をシェリアを中心に薄く、薄く半径四十メートルほど広げる。


 もちろん壁を張ったわけではないので外から他の生物が入って来ることも容易い。だが、その結界内に入ってきた瞬間、シェリアはその生物の姿、形、さらに保有する聖術気(マグリア)量まで把握する。


 だが、欠点もある。一度張るとその場から動くことができなくなってしまうのだ。もし動いてしまうと、たちまち聖術気(マグリア)の膜は消え去ってしまう。


 一度張ってしまえば眠ることもできるので夜間などは大変重宝されるが、戦闘などで動き回りながら周りを探ることは不可能なのだ。


「……飛鳥近くに二匹いる。狼と猪」


 飛鳥はすぐにあたりを見渡した。離れた場所に大型の猪は辛うじて発見できたが、狼は見つけることができなかった。


「アスカ、前来て」


 そう言われ飛鳥はすぐにシェリアの正面に背を向けるように片膝をつく。


意識共有(コンシアース)……」


 シェリアは飛鳥の頭に手を添え、そう唱えた。


 『意識共有(コンシアース)』—―体験している人の感覚を他者と共有する法術。


 これにより飛鳥はシェリアが感知していると狼と猪の正確な位置を把握する。そしてその瞬間飛鳥は再び『土槍(フラス・シュペラ)』を発動。


 発動から三秒後、そして四秒後にそれぞれ狼と猪の真下から土の槍が飛び出す。やがてシェリアが結界により探知していた二匹の獣は息絶え、シェリアの結界もそれを捉えることを止める。これが二人が協力して行う、オールレンジ攻撃である。


 しかし、離れれば離れるほど魔術の発動時間が長引くため、ほとんど奇襲にしか使えない戦術だが、休息中に安全に敵を対象できるこの攻撃手段はこれからも活躍するだろう。


 そうして無事に昼食に取りかかることができた二人だが、食べ始めて数分後、突然遠くから響く爆音によってその安息は崩れ去ってしまった。




 —————




「あっち……。誰か戦ってる、すごい聖術気」


 飛鳥とシェリアは昼食をそのままに爆発音のした方へ走っていた。


 その進行方向は街から少し離れた位置にある森の中。シェリアは躊躇することなく森を突き進む。倒れた木を軽やかに飛び越えるシェリア。そしてその木を足を引っ掛けて転びそうになりながら必死についていく飛鳥。


 そして少し開けた場所でシェリアが立ち止まり飛鳥もそこにたどり着く。


 そこには子供を背に庇うように杖を構えるシートンとその正面に今まさに霧散して消えていく獣の姿が見えた。


「シートンさん!」


 飛鳥とシェリアはシートンに駆け寄る。


「あぁ、昨日、ぶり、だ……ね」


 飛鳥の声を聞き、安心するように立ち上がるシートン。怪我は見受けられないがひどく披露しているように感じた。その足元には今なお必至にしがみつく三人の子供の姿があった。


「何があったんですか!?」

「はぁっ、はぁ……いや、何、ただの魔物だよ。でもまさか、地中から襲われるとは、思ってなかったよ……」


 土の中。シートンの少し離れた位置には割と大きめの穴が開いていた。その穴の大きさからそれなりの魔物だと判断できる。だが気になるのはそこではない。その大きな穴とはまた別にそれより少し小さな穴が開いていたのだ。


「はっ! いけないっ!」


 シートンは思い出すように大きな声をあげ子供達を抱え突然走り出した。


 それを二人も追いかける。


「どうしたんですか?」

「魔物はあの一体だけじゃないんだ。……もう一体は今日ペアを組んでいた彼が惹きつけてくれている」


 意外だった。子供を連れていることから誰かと協力して行動することなどないと決めつけていた飛鳥。だが、今はそんなことはどうでもいい。


「彼……、とは?」

「昨日、君たちと争ったって聞いたよ?」


 争った?飛鳥の頭の中を探る。そして思い当たった人物が一人。


「カインくんだよ。君と僕が昨日話しているのを見かけて、君に何とか取り次ごうと僕に声をかけたのさ」


 彼はね、とシートンは付け加える。


「とても心優しい青年なんだ。昨日は酔っていてあんな行動を取ってしまったようだが、普段はとても頼られる存在なんだ」


 飛鳥は心が痛くなる。酔っていた状態のカインしか見ず、彼の人格を決めつけていた。そして、謝罪すら受け付けぬ飛鳥の様子にカインはそれでも何とか謝罪だけはしたいと、そう思っていたそうだ。


 そしてシートンは足を止め、二人を静止させると木陰に身を潜めた。

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