追え 雷光!
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エレキラプトル。名前の通り電気を纏う二足歩行で小さな手を携えている。身長は約六十センチ、尻尾までの長さは約一メートル五十センチほどの小さな雑食獣だ。
性格は極めて臆病で他の生物の気配を察知した途端すぐに逃げ出してしまう。しかも、エレキラプトルは他の気配の他に自身に向けられる悪意すらも感じ取る。ゆえにエレキラプトルの捕獲はかなり難易度が高く、捕まえるのであれば気配、悪意などの雑念を全て取り除き視覚を狙うほかないのだ。
それならばと、真正面からスピード勝負を仕掛ける者もいたが、電気を纏い筋力を活性化させて起こる凄まじいスピードに、ほとんどのものが付いてこられなかった。
飛鳥たちは街を出てから道を外れると、わりとすぐにエレキラプトルを見つけることができた。そう、見つけることが出来ただけなのだ。二人はエレキラプトルの捕獲難易度を完全に見誤り、街を出て早三時間が経とうとしていた。太陽は真上をほんの少し通り過ぎ、シェリアの空腹度も限界が近い。
何度も何度も追いかけては逃げられ追いかけては逃げられを繰り返し、次第におちょくられているようにすら感じてしまう。
次に思いついたのは罠を仕掛けることだ。少し草の深い場所に輪っかを設置し、餌でおびき寄せたところを釣り上げる。シァリアはナウデラード大樹林にいた際、うさぎなどの小動物を捕まえるのに簡単な罠を作っていたそうだ。これを利用しない手はない!
しかし、いざ罠を設置すると、エレキラプトルはその半径十メートル以内にすら近づくことがなくなった。エレキラプトルの危機察知能力は敏感で人の殺気はもちろん、人の手が入った物でさえ本能的にこれを回避する。
こうして、罠を仕掛けはするものの失敗に終わってしまう。
なら今度はそれを逆に利用してやろう。先の罠の件でエレキラプトルの罠に対する察知範囲を把握した。飛鳥はシェリアの罠と地雷式魔術を約十メートル間隔で設置しエレキラプトルを誘導する。
そして、その先にシェリアが待機。エレキラプトルが逃げないギリギリの位置まで接近したところでシェリアが土の防御法術、『土大壁』を発動。あたりの地面が持ち上がり、エレキラプトルを中心にぐるっと一周、高さ七メートル半径十三メートルの檻の完成だ。
その後、壁の高さを一メートルだけ残し後は崩す。エレキラプトルの今までの行動からスピードは出るがジャンプ力はあまりないことをシェリアが見抜いていた。
あとはその中でエレキラプトルとの一騎打ちである。
「もう少しだ! 頑張れシェリア!」
飛鳥は檻の外から身を乗り出しただ応援をする事しかできない。初めはシェリアと共にエレキラプトルを追い回していたが、飛鳥が足を引っ張り「邪魔」とシェリアにはっきりと告げられがっくりと肩を落とした。
『脚力強化』で強化されたシェリア以上のスピードで狭い檻の中を駆け回るエレキラプトル。
しかし、どうしても体格の差が出てしまう。小さな体のエレキラプトルは三十分も追いかけ回せば体力が限界を迎える。逃げ場のない空間で永遠と追い回される経験などしたことのないエレキラプトルは次第にその速度を落とし、最後にはシェリアに抱きかかえられるように捕獲される。
「おつかれ」
そう言いながら飛鳥は手の塞がったシェリアの口にゆっくりと水筒を差し出す。
「……んっく、ぷふぅ。…………流石に疲れた」
「だろうな。……悪いな何も手伝えなくて」
「いい、アスカがいても……どうにもならない」
シェリアに悪気はないことは分かってはいるが少し心に刺さる飛鳥だった。
「じゃあ帰ろうか。昼食にしよう」
「ん!」
元気に立ち上がるシェリアの腕の中で疲れ果てたのかスヤスヤと眠るエレキラプトル。そんな愛らしい姿に依頼書の絵もまんざら嘘ではないそうに思える。
「……んっ」
歩きながら街に戻る二人。そこで飛鳥は度々起こるシェリアの異変に感づいた。
「どうした? 調子悪いのか?」
「……この子の毛と服が擦れてピリピリする」
さすがはエレキラプトル。寝ててもその名に恥じぬ静電気である。
だが、それに伴い起こるシェリアの声は男性諸君にとっては確実に毒である。シェリアのその容姿からわずかに漏れる色香、そこにマッチする喘ぎ声にも似た声に飛鳥もつい頬を赤くしてしまう。
「早く行こうか、ラプトルを起こさないように出来るだけ静かにね」
「んっ、……んぁ」
理性を保て。自分にそう言い聞かせ飛鳥は少し速度を上げる。
すぐに検問が目に入る。時間も時間なのか列にはほんの数組しかおらず、ダントが暇そうに椅子に腰かけていた。
「お、アスカじゃねーか。今朝ぶりだな。……ってお前らそれエレキラプトルじゃねーか! よく捕まえたな!」
「えぇ、かなり苦労しましたよ。特にシェリアが。俺一人では絶対捕まえられませんでした」
飛鳥に褒められドヤ顔をするシェリア。それがまた愛くるしいところなのだが、今回はスルー。
「それにしてもすげえな。その依頼、だいたい二年近く達成できてないって聞いてたんだけどな」
「二年ですか? それはまた長いですね」
思った以上に放置されていた依頼らしい。
「エレキラプトルって単に速いだけじゃ絶対捕まんねぇだろ? それでもスピードで勝負するなら『ランク白』の法術師のかける『脚力強化』が必要らしいしな。ちなみにシートンやカインでさえ『ランク金』だ。これだけでエレキラプトルの異常性が分かるだろ?」
『ランク白』と言えば上から二番目の階級である。そしてナウラ一の冒険者であるシートン、またはナウラ一の剣士であるカインでさえその域に達していない。つまり、現状ナウラのギルドでエレキラプトルの捕獲を達成できる者はいないということになる。もちろんランクがその個人の強さと直結するわけではないが一つの指標となることは確かだ。
「まぁ、これでお前たちがそれなりの力があることが証明されただろうよ。よかったな。……よし、入っていいぞ」
「ありがとうございます」
街に入りギルドに向かう。だが飛鳥のその足取りは少し重かった。
(エレキラプトルを捕まえただけで……。マジか、でも捕まえたのほとんどシェリアだし。いや、シェリアの実力もできれば隠したいしなぁ)
もう少し考える時間が欲しかった飛鳥だがそれも虚しくすぐにギルドが見えてきた。
ギルドに入ると少し人影が見える。その視線がシェリアの抱えるエレキラプトルに集まる。
その視線の中で平気でドヤ顔をするシェリアはもう完全に大丈夫だろう。飛鳥の心配事は一つ解決した。
飛鳥が今朝並んだ受付嬢の前に立つ。
「おや、アスカさん。おかえりなさいませ。流石にエレキラプトルは無理でしたかぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
受付嬢のクールな顔つきとその雰囲気が崩れ去り、素っ頓狂な声を上げる。
「し、シェリアさん! それエレキラプトルですよね? ほ、捕獲したんですか!?」
「ん、アスカの作戦通り」
「ほわぁ、二年も未達成だったものを……。素直に尊敬します。あ、あの、私シーナって言います。依頼対象なので無理ならいいのですが、撫でてみても、いいですか?」
「ん、構わない」
シェリアは答えた後で目で飛鳥に確認を取ってきた。飛鳥は断ろうにもすでに了承したものを反故にするのは気が引けたので頷いた。
やはり女性にはこのエレキラプトルの愛くるしさはツボなのだろう。
隣のネイラもちらちらとエレキラプトルを見てくるが仕事中なので手が離せない。
「あうっ」
やはり静電気が起こったのだろう。シーナはエレキラプトルの背中部分を軽く撫で、突然起こった静電気により我に返る。
「はっ! 仕事……。ではこちらの檻に入れてもらえますか?」
そう言うとシーナは一辺九十センチほどの檻を奥の部屋から持ってきた。
「こちらに入れてもらえますか?」
「この子、どうするの?」
いざ離れるとなると寂しさを感じたのかシェリアが聞く。
「ご依頼主様の元へ送られます。大丈夫ですよ。動物好きで有名な温厚な貴族様ですから」
「……分かった」
このエレキラプトルが無下に扱われることがないことに安心したのかシェリアは素直に、そして静かに檻の中は入れる。体は檻の中でも余裕があるが尻尾はそうはいかない。先に尻尾を檻の中から入れ鉄格子から外へ出す。そして最後に体だ。
無事にエレキラプトルを檻にいれ、これで依頼達成である。
「はい。では報酬金をお支払いします。報酬金、金貨五十枚になります。すごいですね、一攫千金ですよ」
「…………いや、……ちょっと待ってもらっていいですか?……五十枚?」
飛鳥はいきなり転がり込んできた大金にどう反応すればいいか分からなかった。金貨五十枚、日本円でいうと五百万円の価値である。正直な所、驚くなと言う方が無理な話だ。
「飛鳥さんは最近この街にいらしたばかりなのでご存じないのかもしれませんが、エレキラプトルは強さこそ大したことありません。ですが、その危機察知能力と俊敏性でエレキラプトル自身が『ランク金』に、生け捕りの依頼はそれよりも上の難易度で設定されております。報酬金はこれでも安い方なんですよ?」
冒険者同様、モンスター、そして依頼は色でその強さや難易度をランク付けされている。モンスターランクが『金』に認定されているあたり検問のダントが言っていた『ランク白の法術師』と、いうのもあながち嘘ではないようだ。
「マジですか……でもいきなりそんな大金持ってこられても管理できませんよ」
一瞬、シェリアの空間箱でキューブ化することも考えたがあれはシェリアしか開くことが出来ない。今のところシェリアと別行動をしたことはないがこの先、何があるかわからない。いざという時、飛鳥が自由に金を使えないのは不自由で仕方がない。
「そこで、一つご提案があります」
シーナは冷静に、だがその瞳の奥は燃えるような闘志がひしひしと伝わってきた。




