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魔族①

「ん、満足」


 なかなか整わない空気が、お腹を撫でるシェリアのその発言により、

 ようやく形となった。


「うむ、何か興が削がれちゃったね。今日のところはお開きに……」

「しねーよ⁉︎」


 何事も無かったかのように解散しようとするキセレを飛鳥が食い止める。飛鳥はまだ、この男から聞きたいことが沢山あるのだ。


「このまま『はいさよなら』なんて誰も納得しねーよ!」

「僕はするけど……」

「お前がしてもしょうがないだろ!」


 キセレの目は先程までのようにねっとりとはしておらず、この男の不愉快極まりない雰囲気はもう放たれていない。むしろ出会った当初の何事にもやる気のない、どこにでもいるようなただのおじさん、そんな様子が伺えた。


 そのあからさまに変わったキセレの空気が、より一層飛鳥の神経を逆撫でした。


「まぁいいか。……正直さっきみたいなシリアスな空気、僕には向いてなくてさ。君もそうだろ?」


 確かにキセレの言う通りである。用心深い飛鳥はあのままキセレの話を聞いたところで何一つ信じないだろう。信じたとしてもそこに至るまでにかなりの時間を要することは分かりきっていた。


「だから賢者のお嬢ちゃんはナイスプレーだよ」

「ん、さすが私」


 唐突に出てきた『日本』という単語。そして飛鳥とキセレの視線がぶつかることにより、その場の空気は殺伐としたものになっていた。シェリアの行動は別に褒められてはいないとは思うのだが、そのただならない雰囲気をぶち壊したのは確かだ。


 飛鳥は親指を突き出し合う二人を見るとつい溜息が出てしまった。


「わかったよ。……確かに俺も冷静じゃなかったのは認める。あんたの言う通りだよ」

「物分かりが良くて助かるよ」


 はははっと、笑いながらキセレは膝をポンと叩く。


「それで、お前も日本から……」

「ストップ!」


 飛鳥はこの男の、完全に『日本』と口にしたこの男の出身ついて聞こうとするが、前に突き出されたキセレの手によって阻まれてしまう。


「とりあえず、君たちがここにきた本来の目的を聞こう。もしかしたら、君がここにきてから新たに浮かんだ疑問と関係があるかもしれない」


 飛鳥はハッと思い出す。飛鳥とシェリアがこの『情報屋キセレ』を訪れたのはこの男の正体や、この男の目的を聞くためではない。


 シェリア本人もその詳しい内容を聞いているわけではない。というか、話そうとした飛鳥に対し「着いたら一緒に聞く」と切って捨てたのだ。


 ヘレナの用意した食事により腹が膨れ、少しだだけ眠気がシェリアを襲うが自分で「後で聞く」と言った手前、飛鳥の話を聞かなければ今度こそ怒られてしまうと予感していた。


「そうだな、じゃあまず俺が聞きたかったことは三つ。一つ目はこの世界で危険な存在、手を出してはいけないものが何なのか」


 キセレは飛鳥の聞きたいことを紙にまとめていく。


「二つ目はこの世界の魔術や法術の平均レベル。三つ目は賢者の神杖(しんじょう)の情報」

「……一つ目は分かる。この国……、この世界は何かと物騒だ。何の情報もなく歩き回るのは命を捨てるのと同義だ」


 キセレは書き出したリストを見ながらコンコンとペンで机を叩く。


「三つ目も……、賢者ちゃんの持ってる杖、それ神杖だろ? その状況を見ると、まぁ、それも分かる」


 キセレは人差し指を立てながら、シェリアの腰付近を指した。


「でも二つ目はよく分からないんだけど……。魔女や賢者はこの世界の頂点に位置する魔法使いだよ? よっぽどの事がない限り、誰かに後れを取る事なんてありえない。基準を聞くってことは、それに合わせるってこと?」

「そうだ。俺たちは出来るだけ魔女や賢者であることを隠しながら世界を回る。魔女や賢者の中での弱い魔法が世間からどう見えてるか正直分からん。知らずにとんでもない魔法ぶっ放し、注目を浴びるなんて真似はしたくない」


 キセレは「こりゃまた珍しい」と呟く。


 飛鳥の言った三つの情報をキセレはじっくりと見る。そして頭を掻きながら欠伸をする。この男は本当に信じてもいいのだろうか。


「まぁ君の知りたいことを言ってもらったけど、そんなに『日本』の事とは関係なさそうだからとりあえず一つずつ話そうか……」


 結局関係がないのかと飛鳥は毒気を抜かれたが、言った後と言う前ではやはり話す方も聞く方も心構えが変わってくるだろう。シェリアもちゃんと聞いていることだし。


(……ん。うとうとしてる……?)


 飛鳥の若干怒りのこもった視線に気づいたのか、シェリアの背筋が不自然にピンと伸び首を横に振る。あたかも「私、寝てませんよ」と言っているかのように。


「じゃあまず一つ目、危険な存在についてだね。これは人間なら誰しも共通なんだけど『魔族』だろうね。全て、とは言わないけどほぼ八割の魔族は人間を視野に入れると本能的に殺そうとする。そして、その従属の魔物。こいつらは人間のことをエサとしか思っていない。特に純粋な人間は奴らにとって大好物だ。あ、人の種族とか分かる?」


 人の種族と言われ飛鳥、そしたシェリアも首を横に振る。パッと予想をしてみれば獣人とかだろうか。


「じゃあ、それから説明しようか」


 キセレはそれから種族について説明を始めた。


 この世界には純粋な『人族』の他に『獣人族』、『妖精族』、『竜人族』なと様々な種族がいる。さらに『獣人族』の中でも犬や猫など様々な種族に分かれている。そして『魔族』以外の生物は全て『魔族』を共通の敵とみなしていた。なぜ、こぞって『魔族』だけを目の敵にするのか。それはもちろん、魔族が何もかもを襲い、殺すために生きているからなのは当然なのだが、一つ明確な点は生物として『魔族』のみ全く違う構造をしているから。


 この世の動物と称される生き物は全て心臓を持つ。鼓動により血が全身を巡り、生きるために食べ、生きるために眠る。植物ならば、地に根を張り、そこから養分を取り入れ、光合成をする。そういった生物として当たり前の事柄から『魔族』のみ外れているのだ。


 もちろん竜種のような巨大な体を持つものは、食べるだけでは生きていくのに必要なエレルギーを賄うことができない。では何を持って生を保っているのか。それは空気中に漂う聖術気(マグリア)である。星が生み出す純粋な力。そして個々が体内にある魔核(まかく)により生成する聖術気。体内にこれらを溜め込み体を動かすエネルギーとして生を繋いでいる。そして体内から生み出される聖術気量は種族によって違う。


 だが『魔族』、そして『魔物』だけは違う。魔族は心臓など持っておらずただ一つ、魔核だけを頼りに命を繋ぐ。そして、その体は聖術気の供給が行えなくなれば霧散してなくなってしまう、言わばこの世界で唯一の無機生物なのだ。


 腕が千切れてもすぐに固定し、少し聖術気を流せばすぐに元通りになる。


 そんな常軌を逸した生命体を魔族以外の生物は確かな敵と定めた。


「魔族が人の敵ってのはわかった。でもわざわざ種族の説明する必要あったのか? 魔族と魔物の話だけで済むと思うんだけど……」

「魔族や魔物にとってね、各種族が体内に持つ魔核から生み出される聖術気は不純物なんだよ。空気中に漂う純粋な聖術気をいくら取り込んでいても、その僅かな不純物が彼らは気に入らないの。まぁ、周りに『人族』がいなければ平気で他の種も狙うんだけどね……」


 いまいち要領を得ない。結局のところ、種族についての話の何が大事だったのか飛鳥は未だに分からない。人にとって最も危険な存在が魔族、そしてその従属である魔物。それでいいのではないのだろうか。


 キセレは飛鳥のそんな様子を見て可笑しそうに笑う。


「なんだい、君は意外に察しが悪いんだねぇ。……言っただろ? 純粋な人間は彼らの大好物だって……」


 それを聞き、飛鳥はようやく理解した。生物が持つ魔核によって生み出された聖術気には不純物が含まれている。そして、それをを好まない魔物。そんな奴らが好き好んで食らう人族。つまり、それは……。


「人間がこの世界において唯一、体内に魔核を持たない生物だってことさ!」


 キセレは立ち上がり腕を広げ、高々と言った。


 しかし、それを聞き飛鳥は驚きはしたものの、べつに焦りや不安など全くなかった。逆にすぐに平静を取り戻し、鼻でもほじりたい気分だった。

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