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巫女術ブック

作者: 孤江凛

 

「はぁ…」

 

 15歳の少女がため息をついていた。

 

「もう!なんで巫女術が使えないのよ!!」

 

 少女が住むこの家系は代々巫女の家である。この家に伝わる巫女術とは、巫女のみが使えるというシュのことだった。

 

「私が次期後継者なんていわれても、これじゃぁねぇ…」

 

 そう言っている少女の名は、巫夜葉月みやはずき

 

 葉月は生まれたとき後継者の証である、手に黒いアザが浮かんでいたのだが、巫女術を使うことはできなかった。

 

「葉月様、おばあ様がお呼びですよ?」

 

「ありがとう、しずさん」

 

 静さんは家政婦だったが葉月を妹のように扱ってくれていた。

 

 葉月はおばあ様の待つ、部屋へと急いで向かった。

 

「あの婆さん、遅いとグチグチうるさいんだよね」

 

 葉月はおばあ様のいる部屋の前まで来ると、正座をして戸を開けた。

 

「おばあ様、何か御用でしょうか?」

 

「あら、葉月遅かったこと。じつはあなたに伝えなければいけないことがあって」

 

「はぁ…それは何ですか?」(遅いなんていわれてもこの家広いから仕方ないじゃない!)

 

 葉月は心の中で文句を言いながらも、おばあ様の話に興味があった。

 

「実はね、葉月にとって喜ばしいことよ」

 

「書庫に「巫女術」っていう本があるんだけど、アレを葉月が見れば絶対に巫女術が使えるようになるはずよ」

 

「…本で使えるようになるんですか?」

 

 葉月は心底信じていないような顔をした。

 

「本当よ!」

 

 おばあ様は真剣な顔で言った。

 

「じゃぁ見てきます」

 

「いってらっしゃい」

 

 葉月はおばあ様を信用したのかしてないのか分からないような顔で立ち上がり、書庫へ向かった。

 

「本当に本でできたら楽なんだけどね…」

 

 トボトボと歩きながら書庫の前までたどり着いた。

 

 葉月は書庫へ入るとさっそく本を探し始めた。

 

「えっと…巫女術…あった!」

 

 葉月は本を見つけると本棚から抜き出した。

 

「これ随分新しい…」

 

 本文の書いてある紙は真っ白とは行かないものの黄ばんではいなかった。

 

 葉月は本のページをめくった。

 

『ようこそ。ここに来た者は巫女術が使えず困っていることでしょう。

 

 しかし、巫女術がつかえなということは恥ずかしいですね…。まったく、今の巫女はどうなってることやら…』

 

 葉月はそこまで読んで、怒りで手が震えていた。

 

「なによ!巫女術が使えるから偉いって言うの!?悪かったわね使えなくて!もう、作者は誰よ?」

 

『14代目巫女 作』

 

 葉月は15代目の巫女である。

 

「…あのくそばばあ!!嫌味?嫌味よね、これ。時間何に使ってるのよ、あの人。私にこれを見せるためにこれをわざわざ作ったっていうの?」

 

 何かが床にぶつかる音が書庫に響いた。

 

 それは…葉月が本を床へ投げつけたからだった。

 

「何考えてるのから。あの御婆さんは」

 

 その時、窓から強い風が吹いてきた。

 

「きゃっ!」

 

 床に投げつけられた本はパラパラとめくれ、光が放たれた。

 

「な…なに?」

 

 葉月は光に包まれた。光がなくなったとき、葉月はその場所にはいなかった。

 

 

 

「ここはどこ?私は誰…?じゃなくて、私は葉月。うん」

 

 葉月が居る場所は書庫ではない。

 

 どこかの村なんだろうか。

 

「あっ!新しい巫女様だー!」

 

 突然、葉月は小さな子供に声をかけられた。

 

「ねぇ、巫女様も巫女術つかえないのー?なら、村長様のところへいくんだよー?」

 

「そ、村長様?」

 

 その時、子供が話したことに違和感を覚えた。

 

「そうだよ。じゃぁ、巫女様も行こう!」

 

 葉月は子供に手を引かれて歩き出した。

 

 

「ここが村長様の家だよー。村長様ー、いますかー?」

 

 子供は家の中へ入り、声をかけた。

 

「なんじゃ、シュカか。どうした?」

 

 子供の名前はシュカというらしい。

 

「巫女様がきたー!」

 

「こ…こんにちは」

 

 葉月はシュカに手をひかれ中へ入った。

 

「シュカはさがっとれ。そなたの名前はなんというのじゃ?」

 

 シュカはさっと横の部屋へ出て行った。

 

「葉月です」

 

「葉月は文月ふづきに似ておるのう」

 

 葉月は文月という言葉に反応した。

 

「文月!?なんで、その名前…!」

 

「文月もここにきたことがあるからの」

 

 文月とは、散々葉月を馬鹿にしてきたおばあ様の名前だった。

 

「そういえばここって?」

 

「ここは本の中じゃ。ここではおまえさんのように巫女術が使えない者が来る」

 

「本の中…?」

 

 そう、ここは巫女術という本の中であった。

 

「そう。ここでは、おまえさんに大切なことを教えなければならない」

 

「大切なこと?」

 

「葉月、おまえは巫女術が使えるようになりたいか?」

 

 葉月は間をおかず、答えた。

 

「なりたいです」

 

「その巫女術をなにに使う?」

 

「たくさんの人々を救うために…」

 

「おまえがどんな苦労をしてもか?」

 

 葉月は少し迷ってから答えた。

 

「…はい」

 

 しかし、葉月には不安があった。

 

 自分がどんなに頑張っても人々はそれを認めてくれるのだろうかと。

 

「そうか。巫女術はな、巫女自身を守るために作られた呪なのじゃ」

 

「自分を守るための…」

 

「いつからか、巫女術は人々を救うために使われていたがの」

 

 葉月は考え込む。

 

「おまえは、自分のために使ったらいい。自分が苦労して人を助けるよりも、自分のために使ったほうがよかろう?」

 

「…それは違います。巫女術は最初、自分を守るために作られたのかもしれないけど、今は他の人々のために使うことができる!」

 

「だから…私は人々のために巫女術が使えるようになりたいんです!いいえ、なります!!」

 

 そこまで言い切ったのを聞いて村長は薄く笑った。

 

「それでこそ、じゃ。文月も同じ事を言って帰って行ったよ」

 

「おばあさまも…」

 

 いつしか、葉月はおばあさまへの気持ちが変化していた。

 

「葉月、努力をおこたるな。そうすれば、術を使えるようになるだろう」

 

「はい!ありがとうございます」

 

 葉月はまた、光に包まれた。

 

 目を開けると、そこはもとの書庫だった。

 

「あれは夢?違う…本物だ」

 

 

 

 それから半年後。

 

「葉月準備はできたかい?」

 

「はい!」

 

 葉月は正装に身を包んでいた。

 

「おまえも立派になったね。これからはお前がこの家をまとめていくんだ」

 

 そう、今日は後継の儀。

 

 葉月はあれから、またたくまに成長していった。

 

 巫女術も完璧に使いこなせるようになった。

 

「さぁ、儀式の始まりだ!」

 

 

 

おまけ。


巫女術という本は歴代の後継者の為に、毎回書き直しているのだった。


後継者はいつも、15歳まで巫女術を使うことができないから…。





誤字脱字があったらごめんなさい。

このお話は、前から頭の中にあったものでした。

プロットなしで書くのは2日かかりましたがどうにか完成しました。

読んでくださった方、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 私は巫女様系などが好きなので、とても楽しく読めました。
[一言] 正義感溢れる?ストーリーがよかったように思います。 最後の部分は、15歳まで巫女術が使えないということを知っていて、先の人は後に大切なことを教えるという意味ですよね? 筋が通っていていいで…
[一言] はじめまして!偶然発見して読みました。happycomeです。 よろしく御願いします。 すごくあっさり読めて読みやすかったです! おまけのネタばらしには 「あぁ・・・そうきたかw」 と弱点…
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