美理子達の戦い
アージェスはmirikoworldをダーク帝国のものとするため、美理子の心を惑わそうとしていた。
「我が父上アルビネットは、聖空間の四国にダーク帝国のダークエナジーを与えて、一つの地にまとめようとしている。俺も、父上の考えには反対しない。なぁ、女王美理子、何でも自分の思い通りになる世界を、欲しいと思わないか? 殺しも、戦いも、全て自分の好きにできる。誰も止める者もいない。楽しいぞ。フハハハハハ……!」
「な、何て事を……」
「お前も自由が欲しいだろ。他人に縛られず生きたいだろ。ならば俺達に従え。そうすれば、願いを叶えてやろう」
アージェスの目が狂喜に変わっていく。美理子が苦しみ、迷う程、彼は引き込もうとする。
美理子が、己の迷いを振り払おうと目を閉じた。
(アージェスは、他人に縛られる事のない、好き放題の暮らしが自由だと思っているのね。でも、それは本当の、わたし達が目指している自由じゃないわ)
美理子は、閉じていた目を開き、真っ直ぐにアージェスを見つめた。
「アージェス。あなたの考えている事は、間違っているわ。それは、本当の自由じゃない。あなたの言うとおり、ここに住んでいる人々が自分の好き勝手に生活を始めたら、それこそ混乱して、バラバラになってしまう。だからこそ、制度や規則も必要なの。誰かが上に立って、正しき道に導く事、それも大切な事よ」
「フッ。だから俺達が先頭に立ち、この地をまとめようと言っているのだ!」
「ダーク帝国のダークエナジーで、聖空間の光が消えてしまう事は、わたし達は望んでいないの。お願いアージェス! 何も言わずに、この地から出て行って。でなければ、わたし達は、あなた方と戦闘を開始します!」
「くっ……!」
美理子は闇には屈しない。
サイーダから受け継いだ意志は、揺るぎなく強い。
さしものアージェスも迫力に押され、一歩引いた。
しかし、この位で諦める彼ではない。
アージェスは、周りにいた邪兵士に命令を下した。
邪兵士は各々の武器を構える。
「フッ。女王よ。お前がそのつもりなら、こちらも力ずくでこの地を手に入れる。邪兵士よ、かかれ!」
アージェスの叫びと共に邪兵士が跳びかかって来た。
今ここに、ダーク帝国とmirikoworldの戦いが幕をあけたのだ。
「たあーっ!」
うさちゃんが無数のナイフを敵に向かって投げつける。
それは次々と邪兵士のボディや手足に刺さっていった。
この一年で修行をつんだうさちゃんのナイフ技は、ますます磨かれ、上手になっていた。
ジースとアヤの剣でも、邪兵士が倒れていく。
相変わらず二人は凄い。
城の中では、女官達が一人の赤ちゃんの世話をしていた。
ジースとアヤの愛の結晶、一人息子のディーンだ。ディーンはまだ生まれて二ヶ月余り。普通なら母親が恋しく泣き叫ぶだろうが、よほど両親の育て方がいいのか、この日ばかりはあまり泣かず大人しく寝ていた。だから女官達も、手を焼くことはなく、笑顔で遊んであげていた。
バシッ!
外の戦いはますます激しさを増していた。
小人達が専用の武器〈小人の弓矢〉で空から攻撃する。彼らは風の精霊の力を借りて、一定時間宙に浮く事ができるのだ。
だが、邪兵士も侮れない。
ダッ。
斧部隊が突進してきた。
その大きな斧を振り回し、ミリルークの城の兵士達をなぎ倒す。
「ギャアアアア!」
赤い血が空に舞い飛んだ。
気絶している者、怪我をしている者が横たわる。
騎馬隊が突撃してきた。
みんな目の前にいるmirikoworldの勇者達を倒そうと躍起になっている。
「セビュン・ボディス!」
うさちゃんが七人になり、大勢いる敵の目をくらました。
その隙をついて、ジースとアヤが切り込む。
「雷光閃光弾!」
「風陣回転脚!」
二人の必殺技が決まり、邪兵士は3分の2が消え去った。
「よし、この調子で行こう!」
「OK!」
ジースがリーダーとなり、みんなが応える。
美理子達の心は一つになっていく。
友情、愛、平和。さまざまな思いを重ねて、光のバリアーを造り出した。
邪兵士達のダークエナジーでは、そのバリアーを砕くことはできない。
「邪兵士達よ。少し離れていろ」
今まで黙って戦いを眺めていたアージェス・サタンの声が聞こえて、邪兵士達は道を開ける。
アージェスは冷静な顔で近づき、二本の剣を両手に構えた。
「ハアアアアアッ……!」
アージェスの体からものすごい気が放出されていく。
小石が吹き飛び、足元の土も削られ、穴がポッコリ空いた。
彼の瞳は血走り、顔が赤く火照っている。
彼の手に握られた剣が、黒い闇の力を放った。
「ブラッディ・クロス!」
十字型に重ねられた剣から、ダークエナジーが飛び、バリアーに迫る。
別名、〈死の十字架〉と言われている技だ。
ドカカカカッ!
ピシッ。
バリアーに数本のヒビが入る。
「えっ!?」
バラバラバラッ。
光が宙に飛び散った。
バリアーは、アージェスの必殺技により砕け散ったのだ。
その破壊力は、ジースの雷光閃光弾、アヤの風陣回転脚より高い。美衣子の使う魔法、ライディンスピリッツの二倍といった所か。
アージェスの高笑いが高らかに響く。
「フハハハハハ! 貴様らがどんな攻撃や防御をしても、俺の必殺技には敵うまい。さぁ、無駄な抵抗は止めて、素直に俺達に従え」
「くっ……!」
悔しそうなmirikoworldの戦士達の声。
アージェスはさらに続ける。
「フッ。どうした? もしや俺の力を見て怯えているんじゃないだろうな。今、ダーク帝国に従った者には、この俺の部下デス隊の称号を与えよう。さあ、どうする?」
デス隊とは、王子アージェスの下、殺戮や戦いを主にする戦闘部隊だ。
美理子はアージェスの勝手な言い分に腹が立ち、ついに口を開いた。
「待ちなさいアージェス! わたし達は、あなたには従いません!」
「な、何だと!?」
アージェスは彼女の言葉に驚いた。
自分の実力を見せ、強さを引き立てる言葉を並べれば、完全にダーク帝国に従うだろうと思っていた。だが、現実はそう上手くいかない。力が全てのダーク帝国と比べて、正義と愛が本当の自由だと思っている美理子達相手なら、尚更だ。
今度は美理子が語り出す。
「アージェス。あなたの申し出に、わたし達は頷く訳にはいきません。あなたの考えている自由がどんな物か、どんな理想があるのか、そしてこの戦いで何が得られるのか、わたしには分かりません。けれど、あなたが自分の求める物の為に戦うというのならば、わたし達はわたし達の自由の為に戦います。そう、それが本当に、わたし達がするべき事なのです!」
「くっ……!」
アージェスが悔しそうな顔を浮かべる。
美理子の言葉に、返す事ができない。
「それじゃ、今度はわたし達から行きますよ!」
美理子が戦う意思を見せる。
彼女は女王になってからも、今までと同じく魔法が使える。さらに、仲間達の傷を癒したり、バリアーを張ったりできる〈優しさのオーラ〉という力が使えるようになっていた。
これは以前、サイーダが戦士達の為に使っていた力の源だ。
美理子が一歩前に出たのをきっかけに、他の仲間達も構えに入った。
アージェス達も構える。
双方の間に、激しいにらみ合いが起こった。
稲妻の光が、両方の戦士達を照らしていた。