未来への誓い
聖空間。
選ばれし女王美理子と、選ばれし救世主美衣子が起こした奇跡は、それだけではなかった。
生まれ変わったダーク帝国が、mirikoworldとウイングスの間に定着した時、闇に滅ぼされたうさちゃんの国、すなわちグランジー王国も甦った。
これにはうさちゃん本人も驚く。
「まさか……、完全に消滅されられたのに、甦るなんて……!」
声が震えている。
びっくりしたのと嬉しいのとで、涙が溢れてくる。
幼い頃、姫として他国に訪問していた時、空から眺めていたあの思い出のままに再生されていた。
そのグランジー王国は、mirikoworldの隣に定着した。
一行を乗せた船は、定位置が決まったダーク帝国に一旦途中下車した。そこでアルビネット・サタンと息子アージェス・サタン、そして生き延びた女官達と兵士達を降ろした。この兵士達はアルビネット同様、レナが助け出していた。彼らは美理子と美衣子がダーク帝国を浄化した際にアルビネットと共に光を受け、正しい心を取り戻していた。
まだ意識を取り戻さないアルビネットを肩に担ぎ、アージェスが言う。
「ありがとう美理子。mirikoworldの者達。俺はこれから父上と一緒に、この国を良くしていく為に頑張るよ」
その笑顔に美理子が答える。
「アージェス。あなたならできるわ。同じ聖空間の仲間なのだし、わたし達もできる限り協力する。だから、いつでも声をかけて」
「ああ、ありがとう」
「王子様、我々も協力させて頂きます」
「わたくし達も」
アージェスの後ろの兵士達と女官達だ。
彼らはこれからもずっと、国王アルビネット・サタンと王子アージェス・サタンを支えていくつもりなのだ。
アージェスはそんな彼らにも、笑って礼を言った。
アージェスが幼い頃から世話してくれた人達。
彼らなら信用できる。
そして船の中から、元ダーク帝国の奴隷だった人々が出て来た。
「アージェス王子。せっかく聖空間に帰って来ましたが、わたし達は自ら国を出た身。他に行く当てはありません。どうか、もう一度この国において下さいませ」
「みすぼらしいわたし達ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
それに対し、アージェスは少し戸惑った。
「みすぼらしいだなんて……。それは俺達があなた達を奴隷として扱っていたせいです。その事については、本当に申し訳ないと思っています。そんな辛い思い出のあるこの地に、戻って来てくれるというのですか?」
「今の王子様と国王様なら信用できます。それにわたし達も闇に惹かれた者として、罪を償いたいのです」
「分かりました。あなた達はこの国の大事な住民達です。一緒に歩んで行きましょう」
「王子様、ありがとうございます!」
「では、先に城に行ってて下さい。兵士達、この人達と父上を案内して」
「はい、王子様!」
城の兵士達はアルビネットを大切に運んで行った。
女官と人々も続く。
アージェスは、美理子に向き直った。
戦士達は気を使い、船に戻ろうとする。
そこでアージェスが綾乃に話しかけた。
「綾乃、お前は戻ってくる気はないのか?」
綾乃は階段に足をかけ振り向く。
「残念ながら。わたしは美衣子ちゃんと一緒に行くと決めたの。あなたの期待に応えられなくてごめんなさいね」
アージェスは寂しげな目だったが、それでも笑った。
「いや。新しい世界を見るのもいいだろう。それじゃあもし、この国に遊びにくる事があったら、是非訪ねてみてくれ。歓迎するよ」
「ええ。その時は喜んでお訪ねするわ」
綾乃と戦士達は、先に船内に戻った。
アージェスと美理子は、見つめ合っている。
「アージェス……」
「美理子……。お前と出会えて、俺は変わった。お前に出会えなかったら、俺は闇に囚われたままだった。ありがとう。お前には感謝してる」
「アージェス。わたしだけの力じゃないわ。あなたの中に心が残っていたから、闇から抜け出せた。あれはあなたの力よ。アージェス」
「美理子……」
「アージェス、あなたに会えて良かった……」
二人は強く、口づけを交わした。
また会う事を約束する。
大丈夫。だって、同じ空の下にいるんだから。
そして、美理子はmirikoworldに帰った。
聖地ミリルーク。
船が着いたと同時に、兵士達が城から飛び出して来た。
女王の無事な姿を見て安心する。
みんな待っていた。この時を。
世界が平和になる、この時を。
レナは美衣子が人間界に帰るのを見送るため、一緒にミリルークまで来ていた。
後で光の国に帰る予定だ。
ミリルーク城の前、ゲートが開かれる。
綾乃は、一緒に人間界に行く事になった。
美衣子は制服姿に着替え、ゲートの前に立つ。
もちろん、鞄と卒業証書を持って。
「みんな……」
「みーこ。ありがとう。またわたし達と一緒に戦ってくれて。わたし、あなたと親友で良かった……」
「美理子。わたしもあなたにまた会えて嬉しかったよ。mirikoworldの女王として、色々大変だと思うけど、頑張ってね」
「大丈夫だよ。俺達がいるから」
「ええ」
「うん。ジースとアヤさんがいれば大丈夫だね」
「みーこ……」
パンパンが美衣子の側に出て来た。
悲しい顔をしている。
美衣子は彼の手を握る。
「そんな悲しい顔をしないで。今度は、わたしがあなたに会いに来る」
「えっ!?」
「それに……」
美衣子はパンパンの耳元で囁いた。
「わたしが会いに来るまでに、浮気をしちゃだめよ」
「う、うん?」
「約束よ」
美衣子の笑顔に、パンパンも頷いた。
「それじゃ、みんな、バイバーイ」
手を振り、元気にゲートに飛び込もうとする。
レナが慌てて近づいた。
「ちょっと待って下さい! 美衣子さん!」
「レナ、どうしたの?」
「これを……」
レナは聖麗剣を手渡す。
魔法の力で、手のひらサイズになっていた。
「これを持っていれば、あなたはいつでも、空間を越える事ができます。そうすれば、ゲートを通らなくても、自由にこの世界に来る事ができるでしょう。必要な時には元に戻りますから、安心して下さい」
「分かったわ。ありがとう、レナ」
そして、ゲートに足を踏み入れる。
仲間達は手を振り見送る。
「みーこ、綾乃さん、元気で」
「また会おう、みーこ」
「向こうの〜〜、ご両親にも〜〜、宜しくね〜」
「じゃあねェ、バーイ」
「みんな、またね!」
ゲートは人間界に向けて出発した。
それから一ヶ月後。
人間界で綾乃は、美衣子の家に居候しながら、彼女の両親の店を手伝っていた。勝手の違う人間界での暮らしに戸惑う事もあるが、優しい人達に囲まれ、それなりに楽しくやっていた。
もちろん美衣子も一緒に店に立っている。
その休憩時間、彼女達はmirikoworldから届いた手紙を読んでいた。
聖剣の力で時空を超えて、運ばれて来るのだ。
〈みーこ、元気? 美理子です。綾乃さんも変わりないかな。あなた達が人間界に行ってから、ちょうど一ヶ月になるね。そう言えば、みーこあなた、一度この世界に来たんだって? パンパンに会いに。何だ。ちゃんとデートしてるんだね。わたしも会いたかったな。わたしも、アージェスの所に行っていたから。彼、頑張っているわ。アルビネット王と一緒にね。アルビネット王、最初自分が生きていた事にびっくりしていたみたい。けど、アージェスの説得でもう一度やり直そうと決めて、今は立派な王様になっているわ。そう、名前も変わったの。ダーク帝国じゃなく、水の国マリンズパークに。何かね、わたし達が浄化したからなのか分からないけど、大きな海ができたんだって。水もきれいだし、魚もいっぱい捕れる。アージェスも喜んでたよ。町の方にもプールがあるから、機会があったらみんなで行こうよ。
そうそう、うさちゃん何だけどね。彼女、グランジー王国に帰ったわ。同じ種族の方達と一緒に。王国の姫として、国の発展に力を尽くすそうよ。亡くなられたご両親の思いを受け継いで、ね。
王国ではラヴィ姫と呼ばれているそうよ。確かに、ラヴィーナンジェラ・フェラシード・グランジー姫じゃ、言いにくいものね。
あ、これ、うさちゃんには内緒ね。
とにかく、みんないろいろ環境が変わったけど、仲間だって事は同じだからね。だから、いつでもこの世界に遊びに来てね。
パンパンも、喜んでいたよ。
じゃ、また会おうね。
綾乃さんにもよろしく。
あなたの親友、美理子より〉
読んでいるうちに、みんなの笑顔が浮かんできた。
変わらず元気でいるんだな。
綾乃も隣で笑っていた。
「アージェスも、国の為に頑張っているのね」
「綾乃さん、聖空間に行きたい?」
「そうね。そのプールとやらで泳ぎたいわ」
「スタイルいいものね。綾乃さんは」
「そう。わたしの水着姿、美衣子ちゃんにも見せてあげる」
「フフッ。楽しみね」
そんな話をしていると、下の階から母親の声が聞こえた。
「美衣子、綾乃さん。ちょっと店を手伝ってくれる?」
美衣子達は顔を見合せて、元気に返事をした。
「はーい!」
階段を駆け降りる。
変わらない、平和な日常。
美理子達には、いつでも会いに行ける。
そう、心は繋がっているから。
魔空間の奥の奥。
(もうすぐだ。もうすぐ、時が来る……)
不気味な影が、蠢いた。
〈終わり〉
新mirikoworld〜救世主に選ばれた少女の異世界冒険記②〜これで完結です。今まで読んで下さった方、ありがとうございました。最後という事で明るい未来を考えていたら、更新に時間がかかってしまいました。
それでは、また次回作で会いましょう。




