勝利!そして、楽園(ユートピア)へ
鏡の中に入るなんて、レナと美衣子は正直怖さもあったのだが、綾乃が入って行ったのを見て、思い切って飛び込んだ。
入って見たらガラスがぶつかる訳でもなく、穴の中に入るかのようにスッと行けた。
すぐに分厚い扉が現れる。
が、その扉は開いていた。
「おかしい。扉が開いている。誰かが開けたんだわ!」
「綾乃さん。この扉は普段閉まっているの?」
「そうよ美衣子ちゃん。鍵は外側からしか掛けれないし、きっと扉が開いたから闇が漏れたんだわ!」
「美衣子さん、綾乃さん、前です!」
レナが叫んだ。
二人の目の前に邪兵士が現れ、襲いかかる。
「フレィム・ガン!」
「スネーククラッシュ!」
すぐさま倒した。
綾乃は部屋の中を見ながら言う。
「あの邪兵士達が扉を開けたのね。とにかく、この闇を何とかしましょう」
部屋一面、溢れる程に闇が広がっている。
美衣子はファイヤーストーンの光をかざした。
レナも聖なる気を当てる。
綾乃は側で見ているしかできない。
(頑張って、二人とも)
そこへまた邪兵士が。
綾乃は美衣子とレナを守るように、邪兵士に立ち向かう。
「邪魔はさせませんわよ。さぁ、来なさい!」
攻撃は始まった。
狭い空間の中、綾乃は器用に鞭を振り回す。
彼女の鞭は伸縮自在。
邪兵士だけを狙って、美衣子達に当たらないのはさすがだ。
綾乃の頑張りに美衣子達も気づいていた。
早く闇を何とかしないと。
念の力を強める。
ビシュウウウウ。
部屋中に充満していた闇が光に照らされ、だんだん小さくなっていく。
それは部屋の中央で固まり、黒い結晶に姿を変えた。
「これは……」
邪兵士を全て片付けた綾乃が様子を伺う。
結晶はゴツゴツした岩みたいな形だった。
「これは、もしかしたら邪光石では?」
形と闇の結晶という事を考え、レナが言う。
が、綾乃がそれを否定した。
「いいえ。この国に邪光石があるとは、聞いた事がありませんわ。これはきっと邪光石を元に作られたレプリカでしょう」
彼女は先ほどまでの邪兵士との戦闘の興奮が冷めやらぬ様子だ。それでも、気持ちを徐々に落ち着かせる。
美衣子は、綾乃が落ち着いた頃合いを見計らって尋ねた。
「それじゃ、このレプリカを壊せば、アルビネットを包んでいる闇は消えるの?」
綾乃は少し考えて答えた。
「そうね。けどちょっと待って。このレプリカの中に部屋中の闇が詰まっているのよね。そうすると、壊したとたんに闇が逆流する可能性が……」
(その通りだ)
「!!」
「アルビネット!」
国王アルビネット・サタンが三人の頭の中に直接語りかけて来る。
「アルビネット、あなたまだ闇に……」
(安心しろ綾乃。お前達の頑張りでわたしを囲んでいた闇は消えた。ただ、少々暴れて仲間とやらを傷つけたがな)
「何ですって!?」
(フフ……。わたしもアージェスの一撃で横になっているよ。とにかく、それをいじらないで戻った方がいいぞ)
美衣子、綾乃、レナはびっくりして鏡の中から戻る。
息を切らして立っているアージェスの姿が見えた。
その後ろに傷つき倒れた戦士達の姿。
そしてアルビネットは、椅子にもたれかかるようにして横になっていた。
目は閉じたまま。
アージェスが美衣子達に気づく。
「戻ったか、救世主!」
美衣子達は急いで仲間の所に駆けつける。
「アージェス。これは一体?」
「すまないな。お前達が姿見の中に消えたあと、父上が追いかけて阻止しようとしたんだ。美理子達はその父上を止めようと攻撃を仕掛けた。が、父上の周りの強力な闇に、逆にやられてしまったんだ。俺も危ないと思った時、闇が急に止まった。お前達がやってくれたと分かったよ。そして俺は父上に一撃を打ち込んだ。そこにお前達が来たんだ」
「そう。分かったわありがとう。とにかくみんなを……」
「ああ」
美衣子達は仲間一人一人に話しかけ、体を揺すって見る。アージェスも、心配そうに美理子を見守る。どうやら、気絶しているだけのようで、反応があった。
回復魔法で傷を癒す。
仲間達が気がついた。
「う、うん……」
「良かった! みんな!」
「みーこ。レナ。綾乃さん……」
ジース達が戻って来た三人の顔を見る。
そしてすぐに立ち上がった。
アルビネットがどうなったのか気になったのだ。
彼はまだ、目を閉じたまま。
美理子達は、自分たちが気を失った後、アージェスがやってくれたと察した。
そのアージェスの怪我を、美理子が治す。
そして鏡の中の出来事を、レナが説明した。
「それじゃ、父上は意識があるのか?」
レナからアルビネットが、頭の中に語りかけてきた事を聞いたアージェスは、アルビネットの側に走った。
「父上……」
膝をついて、手を伸ばす。
アルビネットの瞼が動いた。
「なに、心配するなアージェス。ちょっと体を休めていただけだ」
言いながら目を開ける。
アージェスはビクッとして手を引っ込めようとしたが、アルビネットにその手を握られる。
「何を驚いている。そうか、闇が落ち着いたか心配なんだな。安心しろ。お前達のお陰で頭がスッキリしたよ」
「そう、良かった……」
「それに思い出した。わたしは、優しい王様になりたかったんだな」
「父上……っ!」
分かり合えた親子が抱き合う。
そこに美理子達が近づいた。
「アルビネット。あなたの中の闇を完全に浄化していいでしょうか? それにアージェスも」
親子は目を合わせ、微笑む。
そして頷いた。
これでやっと全てが終わる。
そう思った時だった。
ゴゴゴゴゴゴ。
激しい揺れが魔城を襲った。
姿見の中からも、魔城の外からも、闇が押し寄せて来る。
「まさか……!」
アルビネットは悪い予感がして立った。
「魔空間の闇が、この国を押し潰そうとしている。あのレプリカも爆発するだろう。そうなったら終わりだ!」
「そんな……」
「父上、何とかならないのか?」
「むう」
その瞬間、轟音と共に姿見が割れた。
レプリカが爆発したのだろう。
美衣子達は思わず耳を塞ぎ、しゃがんだ。
天井から破片が落ちてくる。
「アージェス! お前はその者達と脱出しろ! この城も危ない」
「父上はどうするんだ!」
「わたしは、ここに残って報いを受けるつもりだ。全ては、わたしの罪だ」
「……!! 駄目だ!」
アージェスはアルビネットの服を掴み一緒に脱出しようとした。が、アルビネットに拒否される。
「すまなかった、アージェス」
崩れかけている部屋の中、アルビネットの作ったエネルギーの玉がアージェスと戦士達を包む。
「わたしは、逃げていたのかもしれないな。アンナからも、お前からも。だが、最後にそれを思い出した。光の、温もりという物を。だからアージェス、お前は幸せになるんだ」
「止めろ! 止めるんだ、父上!」
「mirikoworldの女王美理子。アージェスを頼むぞ。お前達なら、きっと未来へ行ける!」
「アルビネット……」
「さらばだ」
アルビネットは笑って送り出した。
玉は上昇し、ダーク帝国の端に停めてある、美理子達の船にたどり着く。
甲板に降りると、アージェスは泣き崩れた。
船で待っていた人々も上がって来る。
パンパンが美理子に言った。
「美理子、本当にこれでいいの?」
美理子は涙を拭い、言葉を返す。
「いい訳ないでしょ!」
親友美衣子の顔を見る。
彼女も美理子と思いは同じ、コクンと頷いた。
ファイヤーストーンを、魔城の方へかざす。
美理子も気を放った。
二人の声が重なる。
「国王アルビネット・サタン。わたし達は、あなたとこの国を死なせたくない。だから、闇を浄化します!」
船に振動が伝わる中、選ばれし女王と、選ばれし救世主の力が、闇を包んだ。
ダーク帝国が、光に変わる。
その光景を、戦士達も、人々も、そしてアージェスも、驚きながら見ていた。
レナが、呟く。
「楽園に、変わる……」
光と闇、憎しみを超えた力が、奇跡を起こした。
ダーク帝国の爆発は止み、暗き闇は浄化され、何もなかった大地に緑の草と花が咲き、自然ができた。
崩壊状態だった魔城も再生され、白く塗り直される。
「父上は?」
甲板の手すりから身を乗り出したアージェスに、レナが言う。
「安心して下さい。彼は、ここです」
レナの聖なる力で、アルビネットは、甲板まで運ばれて来た。
体に傷はない。
アージェスは、父の体を抱いた。
「まだ意識は戻っていませんが、命に別状はありません。怪我も、していないはずです」
「良かった……」
美理子と美衣子は、ニッコリ微笑んだ。
「それでは、聖空間に帰りましょう。生まれ変わった、ダーク帝国と一緒に」
「えっ!?」
今度は甲板の後ろに行き、手をかざす。
聖空間が広がった。
綾乃が説明する。
「もともと、魔空間の闇が聖空間の場所まで侵食していたの。これで、元に戻ったんだわ」
一瞬にして、船とダーク帝国は聖空間に出た。
戦士達はまたびっくり。
安心して、へなへなと座り込む。
人々の歓声が響いた。
「奇跡だ! 本当に奇跡だ!」
「帰って来た。我々は、帰って来たんだ」
「救世主様、万歳! 女王様、ばんざーい!」
喜びの声は、消えなかった。




