絶望のアルビネット
聖空間にいた頃のアルビネット。
その頃はまだ国王ではなく、アルビネット王子と呼ばれていた。
彼の父親は豊かな発想力で、常に国の事を考え、国民からの信頼も厚かった。
アルビネットはそんな父王を尊敬していた。
公平な目を持ち、民に寄り添う。しかし臣下達の中には、自分の欲求の為に政務をないがしろにする者もいて、そんな勢力とも戦わねばならなかった。それがストレスになったのか酒が進み、急な病で父王は倒れた。
そうすると周囲の者達は、後継者は誰かと騒ぎ出す。当時アルビネットには二歳年上の異母兄がいた。その兄は国王と第一王妃の間に生まれた子で、アルビネットは第二王妃の子だった。順番的には異母兄が次の国王になるのが妥当だが、彼は自分本意な性格でわがまま。さらに他人を見下し、アルビネットの事も馬鹿にしていた。それは第一王妃が彼を甘やかして育てたせいでもあるのだが、何より彼自身が王子という立場に甘え、おごり高ぶっていたからだった。
その為国民の中ではアルビネットに次期国王になって欲しいと言う声が圧倒的に多かった。
父王は公平な性格だったので、この二人の事も分けへだてなく愛情を注いだ。病の床についた後も、慎重に後継者を選ぼうと検討していた。
爺がアルビネットの側についたのは、その頃だった。同じように兄の所にも執事がついて、二人の様子を父王に報告する役目もおっていたみたいだ。
爺はとても紳士的で、時には父親のように叱ってもくれ、アルビネットには話しやすい相手だった。彼らはすぐに打ち解け、アルビネットは爺にいろんな話をした。爺はにこやかな顔で聞いてくれる。
ある日、アルビネットは爺に尋ねられた。
「アルビネット王子様。あなた様がもしこの国の王になられましたら、どのような王を目指されますか?」
アルビネットは少し間をおいて答えた。
「そうだな。わたしは、優しい王様を目指したい。力を合わせ、民と共に歩いて行く。そんな国を作りたい」
「王子様。王子様なら、きっとできます。その時は、この爺も、お手伝いさせて頂きます」
「ありがとう、爺」
その時誓った言葉を、アルビネットは思い出した。
爺との穏やかな楽しい日々が甦る。
「そうだ、あの時わたしは爺に誓ったんだ。優しい王様になると……」
その独り言とも取れる呟きは、美理子達の耳にも届いていた。
「アルビネット……」
これで彼の中の悲しい闇が消えてくれたらいい。
美衣子が、ファイヤーストーンに祈りを込め始めた。
美理子の、優しさのオーラだけでは多分駄目だろう。
「だが」
アルビネットの穏やかな顔が怒りに変わっていくのが分かった。
彼は美衣子達に聞こえるように話す。
「あの時、全てを壊したのは兄だ……!」
人々の、アルビネットへの期待が高まるにつれ、異母兄の不安は大きくなるばかりだった。
このままでは自分の地位が危ない。そう考えた異母兄は、母親である第一王妃と結託し、アルビネットを罠にはめる事にした。
まず、彼と彼の母親である第二王妃を森の中に呼び出し、落とし穴に落とす。そして気絶したのを確かめ、第二王妃の方を刺し殺してしまう。やがて気がついたアルビネットが動転している間に、第一王妃の頼みで二人を探しに来た女官に発見させた。
そして、国王の信頼を奪おうとしたのだ。
目論見通り、第二王妃に刺さっていたナイフがアルビネットの物だった事から、国王は一度は息子を疑った。
だが、落とし穴に落ちたのは何故だろうという疑問と、アルビネットの性格から母親を殺すのはあり得ないという思いから、最終的に異母兄の仕業だと結論づけた。
もちろん、回りの女官や臣下達にも部屋に来てもらい話を聞いている。
策略がばれた異母兄は、自分についた臣下の手引きで牢を抜け出し、病床の父親を襲い、命を奪った。そして弟をも手にかけようとしたが、危険を察知したアルビネットは信頼できる者達と逃げ出し、難を逃れた。
その後、新たな王になった異母兄は、逆らう民を抹殺し、支配者となった。
「ひどい……」
美理子達は涙を流し同情した。
アルビネットに起きたあまりに残酷な過去に、言葉を失う。
美理子の優しさのオーラが途切れた。
彼女の気力が消えた為だ。
美衣子も、ファイヤーストーンへの祈りを止めてしまう。
「わたしは、守りたい者を守れなかった。父も、母も、民達も! だからわたしは、兄への復讐の為、故郷を滅ぼしたのだ!」
「………」
「分かるか? わたしの悲しみが! 心の叫びが! 力のなかったわたしに、魔空間の闇が力をくれた。一気に憎しみが広がったよ。爺が止めても、わたしは心を決めていた。もう殺るしかなかったのだよ!」
アルビネットの目からも、涙が流れている。が、狂気に満ちた顔で上を向き、笑っていた。
一通り喋った後、戦士達にバズーカを向ける。
「わたしの家族はもう、アージェスしか残っていない。その大事な息子を、お前達に奪われたくないのだ」
アルビネットの体を、闇が支配していく。
美理子達はうつむいたまま動けない。
その様子を、意識が戻ったアージェスが見ていた。
「父上は今、絶望の中にいるんだ。その心を、闇が蝕んでいる。お願いだ、美理子、戦ってくれ!」
「……! アージェス!」
「父上を、元に戻してやってくれ。優しい王様に!」
「うん!」
アージェスの言葉に戦士達は顔を上げる。
バズーカの引き金が引かれようとした瞬間に、美理子が魔法を放つ。
「アクアビーム!」
弾丸は軌道を外れ、壁にぶつかった。
爆発を避け、戦士達がアルビネットに仕掛ける。
「雷光衝撃波!」
「風陣回転脚!」
「スターライトイリュージョン!」
「ぐわあっ」
これだけの攻撃にアルビネットは耐え切れない。
力なく倒れる。
戦う気力を失った所を浄化すれば、闇は消える。
美衣子が早速、ファイヤーストーンを構えた。
その時、レナが何かに気がつく。
国王の椅子の後ろの壁に掛けられている姿見。
その鏡が、妖しく光った。
ピカッ!
そこから黒い闇が出て、床を這いながらアルビネットの体に入る。
闇が大きくなり、アルビネット・サタンは立った。
どうやらそこから闇が供給されているらしい。
「あそこは……!」
綾乃とアージェスが同時に声を出す。
何なのって美衣子が綾乃に聞いた。
「あの鏡はね、〈終わりなき闇の部屋〉に繋がっているの」
「終わりなき闇の、部屋?」
「ええ。果てしない闇が部屋一面に広がっている場所よ。もしかしたら、その闇を何とかしたら、アルビネットも助かるかもしれないわ!」
「じゃあ、早速行きましょう! その部屋へ」
「ええ」
が、彼女達をアルビネットが狙っていた。
「やらせんぞ!」
ブラックバズーカの弾丸が空を切る。
気を貯めたアージェスの剣技が、それを斬り崩した。
「綾乃、救世主、頼む! ここは引き受けた!」
「分かったわ、アージェス!」
「美衣子さん。わたしも行きます」
レナが美衣子達に加わった。
三人は鏡の中に飛び込む。
アルビネットは残りの戦士に囲まれた。
(みーこ、綾乃さん、レナ。お願いね)
アルビネットを見つめながら、三人の無事を祈る美理子だった。




