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ダーク帝国の真実

「美理子。ダーク帝国は、元は聖空間に存在していた国だったんだ。規模は、小さかったけど」

「えっ!?」


 アージェスの口から飛び出した言葉は、美理子達mirikoworldの戦士には想像もつかなかった事だった。聖空間にはmirikoworldを含め、四つのワールドしか残っていないと、サイーダから聞かされていたから。


「お前達が驚くのも分かる。確かに今聖空間には、四つのワールドしかない。しかし、かつては大小さまざまな国が聖空間や魔空間に存在したそうだ。うさちゃん、いや、グランジー王国の姫。あんたの国も、そうだったんだろう?」


 話を振られたうさちゃんは、少し悲しい顔で語り出す。


「ええ。そうよ。わたしの本当の名前は、ラヴィーナンジェラ・フェラシード・グランジー。あなたの指摘通り、かつて聖空間に存在した、グランジー王国の姫だったの。小さな国だったから、闇の力に対抗できなくて、消滅させられた。美理子達が知らなくても仕方ないわ。mirikoworldも、黒魔族に攻められていたんだもの。もしかして、ダーク帝国も?」

「いや、確かに聖空間から存在は消えた。けどそれは、黒魔族のせいじゃなく、他に理由があったんだ」

「他の理由って?」

「ああ、それは……」


 アージェスが言いかけた時、アルビネットが綾乃の鞭を振りほどき、銃を撃った。

 レナの気も弾かれる。


「!!」


 アージェスは咄嗟に肩を借りていた美理子の体を押す。

 美理子は床に転ぶ。


「痛っ」

「アージェス!」


 美理子はすぐに起き上がり、アージェスを見た。

 彼の右肩を、弾丸がかすっている。

 爆発は、しなかったみたいだ。

 アルビネットがため息をつく。


「アージェス。こんな時でもその娘を庇うのか」

「父上……」

「わたしはお前が可愛い。たとえ反抗されてもな。だから、弾が爆発しないようにコントロールした。アージェス。こんな父の事も、分かってくれないか?」

「父上……、俺知らなかったよ。あなたがあんな辛い目にあっていたなんて。それはまだ、ダーク帝国が聖空間にあった頃だよね」

「止めろ、それ以上話すな……!」


 アルビネットは再び銃をアージェスに向けた。

 しかし、その手は震えている。


「アルビネット!」


 美衣子達がアルビネット・サタンの体を押さえ込む。

 アージェスに、ゆっくり話をしてもらう為だ。


「父上。俺も父上の事が好きだよ。だからこそ、理解したいんだ。今まで父上が、俺に言えなかった事を!」

「アージェス……」

「父上には母親が違う兄がいた。その兄と王位を争っていたんだ。人徳は、父上の方があった。その頃の父上は、今と違って、思いやりがあったと聞いた。そして、王位が父上に譲られる直前、その兄によって、父上ははめられ、王位を失った。それだけじゃない。その時の国王、父上の父であり、俺の祖父にあたる人も、殺されたんだ。王位は結局、異母兄のものになり、父上は国を追われた」

「………」

「失意の中、父上は自分を慕う人々と魔空間に流れついた。そこで誰もまだいないワールドを見つけ、住む事にした。魔空間の闇の中、恨みは募り、人を信じられなくなったあなたは、異母兄の国を攻め、滅ぼした。そしてこの国を新生ダーク帝国にしたんだ」

「そんな……」


 美衣子達はあまりの真実にショックを受けた。

 アルビネットは口をギュッとつぐんだまま。

 悲しみに、耐えているようだ。


「これが、アルビネットが闇に落ちた理由……」


 暗い空気の中、綾乃が呟く。

 他の戦士達は、何も言えなかった。


「知らなかった。わたくし、何も……」

「お前が自分を責める必要はない。まだ子供だったからな」

「アルビネット……」

「しかし、何故アージェスがここまで調べられたんだ。綾乃も知らない事だったのに。まさか、爺が?」

「ああ、俺は爺から書庫の奥に秘密があるって聞かされてて、それを思いだしたんだ。いざという時、父上を止めてくれって。調べたら、爺が書き残した本があった」


 爺とは、アルビネットに王位の話が出た時から仕えていた執事の事だ。その当時58才だった。アルビネットと共に魔空間に来て、アージェスの事も、誠心誠意世話をしてくれた。その一方で、闇に落ちていくアルビネットを心配し、叱咤してくれていた。アルビネットはそれが億劫になり、側におくのを止めたが、彼は本当のアルビネットの事、ダーク帝国の事を本に書き、書庫の奥にしまった。そしてアージェスにアルビネットを任せ、息を引き取った。

 享年、75才だった。

 アルビネットはフッと自嘲する。


「フッ。まさか、爺がそんな秘密を隠していたとはな。そう、わたしは18の時に、王位を継ぐ予定だった。わたしの父上の急な病でな。しかし、異母兄の策略によって、全てを失った。恨みと悲しみで、胸が張り裂けそうだった。怒りが、止められなかった。闇の力を手に入れたわたしの襲撃に、異母兄は怯え、助けを求めた。だが、わたしは徹底的にやった。そして、スッキリする自分に気づいた。初めての感覚だ。闇に落ちるとは、こういう事かと思った。そんな時、アンナに出会ったんだ。20才の時だったな。忘れていた感情を思いだしたよ。聖空間にいた頃のな」

「父上……」

「だが、結局アンナは出て行った。闇と光は交わらないと、思い知らされたよ。だからアージェス、お前にも絶望を味わって欲しくない。女王美理子と付き合っても、無駄なのだ」

「父上、それは違う」

「いや、同じだ!」


 アルビネットの中の闇が高まる。

 美衣子達は弾かれた。

 アルビネットは強くアージェスの腹を殴る。


「うっ」


 アージェスはたまらず、膝をつく。

 アルビネットの黒い気が、戦士達に命中した。


「うわああああっ!」


 床を転がったが、それでも起きる。

 ゆっくりと。

 戦意は、失ってはいない。

 目は、前を向いていた。

 アージェスも、痛みを堪え、立ち上がる。


「父上……」


 睨むように、じっとアルビネットを見つめるその目は、悲しげでもあった。


「何だ、その目は?」

「俺はあなたを救いたい。闇に囚われた、その心を!」

「黙れ!」

「父上は逃げただけだ! 母さんからも、運命からも。けど俺は逃げない! 自分の手で、未来を掴んでみせる!」

「ええ、そうよ!」


 美理子達が、構えた。

 アージェスの言葉は共感できる。

 アルビネットは憤慨した。


「誰も、わたしの悲しみは理解できないようだな。いいだろう」


 パチンと指を弾くと、邪兵士が壁をすり抜けて現れ、アージェスを押さえた。


「ち、父上……」

「お前はそのまま見ていろ!」


 電撃が、戦士達の体を襲った。

 痛みと痺れで、動けない。

 それでもーー、


(諦めないよ。わたし……)


 ファイヤーストーンが、輝き出した。



評価をして下さった方。ありがとうございます。これからも、応援よろしくお願いいたします。

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