聖剣を求めて
水仙人より、ダーク帝国の闇を抑えるには、まず聖剣を探す事が必要と言われた美衣子達は、旅立ちに備えて準備をしていた。
美衣子は、mirikoworldに戻って来たばかり。制服のままでは動きにくい。
鞄と卒業証書を城の空いた部屋に置かせてもらう。この部屋は、いわば美衣子専用の部屋。いつmirikoworldに戻って来てもいいように、作っておいてくれたのだ。
「はい、みーこ」
美理子が、戦闘服を持って来てくれた。
キャミソールに似ているが、肩紐があるのは左肩だけ。右肩は、出したままだ。左肩に防具がつけられている。下半身は、動き易いミニスカートだが、両脇にスリットが入っているため、動く度に太ももがあらわになる、セクシーな衣装だ。下着も、見えそうで怖い。
しかしせっかく美理子が持って来てくれたもの。美衣子は、笑顔で受け取った。
それに彼女自身もドレスから、似たような衣装に着替えている。
コンコン。
うさちゃんが部屋に入って来た。
どうやら、支度ができたか見に来たらしい。
「みーこ、どう?」
うさちゃんが美衣子が着替えた戦闘服を眺める。
「いいじゃない。似合っているわよ。みーこ」
「そ、そうかな?」
「そうそう。それに、この位の服じゃないと、パンパンにアピールできないわよ。それに、まだ彼に手紙の返事をしていないんでしょ」
「う……」
確かに、パンパンには一年前の別れ際、返事を待ってもらうように伝えたばかり。彼女自身も、その事をずっと考えていた。
と、ここである事に気づく。
何故うさちゃんが、その事を知っているのかと。
「ちょっと待って。そういえば、何でうさちゃんが知っているの?」
美理子とうさちゃんが顔を見合せてクスッと笑った。
「あら。だって、噂になっているわよ。パンパンがみーこにラブレターを渡したって」
「そうそう。アヤさんとジースも、知ってたみたいだし。妖精達も騒いでいたし。パンパンは、何も言っていないけど、何となく、ね」
「それに、あなたが人間界に帰る時、二人でこそこそやっていたら気づくわよ」
「うう……」
美衣子は顔から火が出そうだった。
美理子とうさちゃんが、良いことを思いついたという顔をして、美衣子の手を引く。
「それじゃ、お披露目に行きましょうか。みんな、書庫に集まっているし」
城の地下には、大きな書庫があり、色々な書物が揃っている。ここには、みんな自由に入る事ができ、知識を高め合い、談笑する者も多くいる。実は、人間界に関する本もあるとか。水仙人も時々この場所に来て、静かに本を読んでいる。
「ち、ちょっと待って、二人とも」
手を引く美理子とうさちゃんを止めようと美衣子が叫ぶ。が、二人は手を離さない。
「あら? 恥ずかしいの? みーこ」
「大丈夫よ。きっとパンパンも、褒めてくれるわ」
「ああ〜〜!」
照れる美衣子を連れて、美理子達は地下への階段を降りて行った。
書庫には水仙人他、戦士達が勢揃いしていた。
美衣子は美理子とうさちゃんの後ろに隠れている。
そんな彼女を、お披露目と称して美理子達は引っ張り出す。
「おお〜〜〜!」
「ど、どうかな?」
顔を赤く染めながら、美衣子は聞いた。
「すごい、良く似合ってるわよォ」
「うん」
リースとカンの意見に戦士達も賛同する。
パンパンはジーッと美衣子を見たまま、
「か、可愛い……」
と一言発した。
もちろん、頬を染めたまま。
その言葉を聞いた美衣子は、ますます顔を赤くした。
「アハハハハハ……!」
笑いの渦が起こる。
その和やかな雰囲気をしばらく楽しんだ後、戦士達は水仙人に言われ、半分は聖剣探しに行き、後半分はmirikoworldに残って敵の襲撃に備える事にした。
聖剣探しに選ばれたメンバーは、美衣子、パンパンに妖精達、三匹の動物トリオ、ワンメー、カン、リース。
ミリルークの城に残るのは、女王美理子と、彼女に仕える女官と兵士達。それにジースとアヤ。うさちゃん。小人達。そして水仙人。
「じゃあ、美理子、行ってくる!」
美衣子が元気良く言う。
美理子も笑顔で叫んだ。
「うん。ケガしないで、必ず聖剣を見つけて、帰って来てね!」
「うん!」
美理子達に見送られ、美衣子達は出発して行った。
(みーこ、無事で帰って来て……)
静かに、遠い空に消えた仲間達へ、美理子の祈りが聞こえた。
ビシュウウウウ。
心地よい風に乗って飛んでいくその一団は、ちょうど雲の上に出た。
セミロングのストレートな黒髪の女の子が、前の方に座っている。その笑顔は、可愛い。ミニスカートから覗く素足に、スニーカーが特徴だ。
彼女の目の前には、これまた動き易そうな服を着た少年がいた。緑色のシャツに半ズボン。ベルトには太鼓のバチがぶら下げてある。美形で、優しげな目をした少年だ。腕や足には程よい筋肉がついていてたくましい。
だが、その二人を囲むもっと驚くような生物が、そこにはいた。
背中についているその透き通った羽で、宙に漂っている少女達。妖精だ。
そして、動物トリオと呼ばれる三匹が、大人しく座っていた。
先程のミニスカートの少女が、目の前の少年に話しかける。と言っても、もう分かっていると思うが、美衣子とパンパンだ。
「mirikoworldに、こんな物があったなんて知らなかったよ」
不思議そうな、でも珍しそうな顔で、今乗っている物を確かめる。
「これは旅の小舟だよ。聖空間の各ワールドを旅する時、各国の旅人達はみんなこういう船を使うんだ。これは小型だけど、もっと大きい船もあるよ」
美衣子達が乗っているのは、木でできた小型の船。操縦席には水晶玉があり、願いを込めて、聖空間のどの国に行きたいのか言うと、そこに向かって自動的に飛んで行ってくれる。ただし、魔空間には行く事はできない。
彼女達は今、甲板に出て、風に当たっていた。
「凄いな。人間界には、こんな空を飛ぶ船はないよ」
「そうなの? どうやって動いているのかは謎だけど、僕らも不思議だなとは思っていたんだ。ただ、魔法の力が働いているらしいけど」
「ふ〜ん。あともう一つ思ったんだけど、聖空間の中って、空で繋がっているんだね」
「そうなんだ。この空の下、いろんな世界が繋がっている。人間界も、そうだったよね」
「うん」
パンパンと話をしながら、少し不安そうな美衣子。無事に、聖剣を集められるか心配なのだ。それに、彼女にはもう一つ心配な事が。
パンパンが、あの事を覚えているだろうか。
「みーこ?」
美衣子の様子を見て、パンパンが手を握ってくれた。
「大丈夫。何があっても、僕が君を守るよ。だから安心して、聖剣を探そう」
「パンパン……」
良かった。
パンパンは自分の事を、忘れないでいてくれた。
そんな彼を、いつまでも待たせるのは悪いな。
美衣子は心に決めた。
そんなパンパンと美衣子のやり取り。
動物トリオと妖精達は、ニコニコして聞いていた。
さて、そんな一行の最初の目的地は、翼の国と言われている、ウイングスという場所。ここに、聖剣の一つ、風の力を持つ烈風剣があるというのだが。
美衣子達は、港へと到着していた。
ウイングスは、聖空間のワールドの中で唯一、海がある場所。この豊かな海で捕れる食材は、他の大陸の人たちにも分け与えられていた。
潮の香りが、爽やかに漂ってくる。
美衣子は、人間界とほとんど変わりのないその光景に、今さらながら驚いていた。
「ねぇ、パンパン。ここって人間界とさほど変わりがないのね。最初、mirikoworldに来た時は、なんて綺麗な所って思ったけど」
彼女のその戸惑ったような声に苦笑しながら、パンパンが答える。
「そうだね。僕も外の世界をあまり見たことないから、大きな事は言えないけど。でも、基本的には、この世界も人間界も、同じ構造だと思うよ。住んでいる者達が、少し違うというだけで」
「そうね」
美衣子がチラッと、横の妖精達や動物トリオを見る。
「初めてmirikoworldを見た時は、まるで夢の中にいるような気分だったわ。人間界には、こんな可愛い妖精達や小人達、人の言葉を話す動物がいるなんて信じられない事だもの。でも、ここに来て、わたしの価値観が変わったの」
「mirikoworld。いや、この世界は人間界の影響を受けているからね。似た所もあるのかもしれないよ。ただ、この世界には確かに、妖精や小人達、うさちゃんや動物達が人間と共存しているんだ。それを忘れないで。君たちはきっと忘れているだけなんだよ。そして、それを本当じゃない、夢だと思い込む事で、その心に境界線を張ってしまったんだね。それを取り除けば、誰しも君のように、この世界に飛び込む事ができる。いつかそんな日がくる事を、僕は願っているんだ」
「パンパン……」
美衣子は、パンパンの気持ちが、今は良く理解できた。昔の彼女だったら、まだ良く分からなかっただろう。
自分の夢を語るパンパンの瞳は、キラキラ輝いていた。美衣子は、そんな彼を格好いいと感じた。
笑顔の彼の手を握りしめ、言う。
「いつか、その夢が叶うといいね。必ず!」
「みーこ、うん、そうだね!」
潮風が二人の背中を押す。
もういいかなという顔で、妖精達とワンメー、カン、リースが見ていた。
慌てて、美衣子とパンパンが先に歩き出す。
一歩港を出ると、うってかわって緑の草花の中に一本道があるだけ。さっきまでの海の音も潮の香りも何処へやら、草の匂いしかしなかった。
一行は、その道をひたすら歩く。
と、前に大きな看板が見えて来た。
「何かしら、あれ」
「行ってみよう!」
美衣子とパンパンが走り出すのと同時に、妖精達とワンメー、カン、リースもスピードを上げる。
側に近づくにつれ、文字がはっきりしてくる。
そこには大きな字で、
〈welcome to wings〉
と書かれていた。
「ここが本当の、ウイングスの城下町なのね」
「そうだね」
「じゃあ〜〜、早く〜〜、行こうよ〜〜」
「オーっ!!」
みんな一緒に、賑やかな町の中に消えた。
この小説を面白いと感じてくれた方、ブックマーク登録お願いします。