アージェスを救え
魔城の入り口は、邪兵士の群れで騒がしい事になっていた。アルビネットは、美衣子達の心を捕らえるのに失敗したため、少し休んでいる。闇を自由に操れる国王とはいっても、あれだけ一気に仕掛ければ、精神的にも疲れる。城の兵士と邪兵士は、少しでも国王を休ませようと、自分たちが囮になる気でいた。
それは女官達も例外ではない。
彼女らも、魔城で働く者として、一応戦闘訓練を受けていた。
ただ、実戦の経験がない者が多く、震えている者も多数いた。
もうすぐ、mirikoworldの戦士達がやってくる。
入り口の扉が開き次第、一気に攻める段取りだった。
ギイイ。
扉がそっと開く。
邪兵士の群れが出て来るが、美衣子達の姿は見当たらない。
邪兵士がキョロキョロしているので、兵士も出て来る。
その時、
「エレクトロニック・サンダー!」
「アイソトニックブリザード!」
「ミラクルハリケーン!」
逆に魔法で攻められた。
広がらずに群れで固まっていた為、数を一気に減らされる。
待ち伏せしていたのが、仇となったようだ。
隠れていた戦士達が出て来る。
パンパンとジースは、手にロープを持っていた。
魔城の扉は観音開きなので、取っ手にロープを引っかけ、左右に引っ張る。
近くに草むらがあったので、ちょうど隠れる事ができた。
そしておびきだした邪兵士を正面から攻撃する。
これは綾乃の作戦だった。
「さすがです綾乃さん。あなたの読みが当たりましたね」
レナが綾乃を称える。
「いえ、それほどでも。ただ、アルビネットも疲れていると思ったの。わたし達の心を揺さぶる為に、結構な闇の力を使ったから」
「それで、その国王アルビネットを休ませようと、邪兵士が出て来ると。わたし達を一気に倒す為に、待ち伏せしていると思ったのですね」
「ええ。そして、それを逆に利用しようと思ったの。まさか、こんなに上手くいくとは、思っていなかったけど」
「外に見張りがいなかったのが、幸いだったね」
「そうねパンパン君。さあ、今のうちに中に入りましょう!」
「うん!」
ロープを片付け、美衣子達は魔城の中に入る。
自分たちが吹き飛ばされた窓は、板で補修されていた。
入り口の扉は、今度は閉まらない。
本当に、アルビネットは休んでいるようだ。
階段を上に昇る。
アルビネットの部屋は二階だが、アージェスの部屋は三階にあるのだ。
まず彼の部屋に向かう。
ちなみに兵士達の部屋も二階、三階に集中している。
まるで国王と王子を守るように。
途中女官が襲って来たが、アヤが峰打ちで気絶させた。
アージェスの部屋の前に、見張りが二人いる。
通路の陰から美衣子とパンパンが飛び出す。
不意を突かれた見張りはなす術もない。
美衣子は飛び蹴り、パンパンはバチで見張りの首の後ろを叩き、それぞれ倒した。
残りの戦士達に手招きをする。
ガチャッ。
勢いよくドアを開けて中を見るが、誰もいない。
美理子は肩を落とした。
綾乃が慰める。
「美理子様、顔をお上げ下さい。ここに彼がいないのならば、多分あそこでしょう」
「綾乃さん、心当たりがあるの?」
「ええ。アージェスがダークエナジーのクリスタルに閉じ込められたのなら、それはアルビネットが彼の動きを封じようとした証拠です。そうなるとまず彼の部屋かなと思ったのですが、違うとなるとあそこですね」
「あそこって?」
「国王の間ですね。わたし達の到着をアルビネットに確かめたとすれば、その場で閉じ込められたとしてもおかしくありません」
「じゃあ……」
「ええ、急ぎましょう!」
階段に戻り下に降りる。
国王の間の扉には、鍵がかけられていた。
「間違いありませんね。アージェスは、この部屋の中にいます」
鍵がかけられていた事で、綾乃は確信した。
フェアが尋ねる。
「綾乃さん、合鍵はないの?」
綾乃は下の階を見ながら答える。
「兵士と女官の訓練所にあるわ。すぐ取りに行って来る」
「オレ達も行くよ」
ジェルとマーキスがついて行こうとする。
そこに、邪兵士が襲って来た。
ジースが綾乃を庇いながら言う。
「綾乃。君達は合鍵を取りに行って! ここは、俺達が引き受けた」
「分かったわ!」
邪兵士の群れを避け、綾乃、ジェル、マーキスは下の階段に向かう。
ジース達の気合いが響いた。
階段を降りて右の方向。食堂の前を通り、訓練所へ。運が良かったのか、今の時間はシーンとしていた。
壁に鍵がたくさんかけられている。その中から国王の間の鍵を探すのだが、見つからない。
「しまった! 誰かが持って行ったんだわ!」
焦る綾乃の声がしたと同時に、通路を誰かが走る音が聞こえ、女官が二人、訓練場に入って来た。
一人は、国王の間の鍵を持っている。
「国王の間の鍵はここです! けどその前に裏切り者のあなたを倒す!」
女官が綾乃に狙いを定める。綾乃はひょいと避け、鞭で女官の動きを封じた。女官は何とか片腕を出し、国王の間の鍵を仲間に向かって投げた。
それを横取りするマーキス。
そしてジェルと力を合わせ、
「スーパーウインド!」
女官は吹き飛ばされる。
もう一人の女官も綾乃の技にやられていた。
「ああっ!」
彼女達は意識を失う。
その隙に綾乃と小人達は階段を昇る。
邪兵士は全滅していた。
「綾乃さん、早く!」
美衣子に急かされ、国王の間の扉を開ける。
アージェスは、クリスタルの中で目を閉じたまま、動かなかった。
彼を守っていた邪兵士が襲って来る。
美理子を先に行かせて、美衣子達は敵を片付けた。
「アージェス、アージェス!」
美理子がクリスタルに抱きついた。
呼び掛けても返事がない。
アルビネットの電撃で、やられてしまったのか。
美衣子も困った顔をする。
下手にクリスタルを傷つけてしまうと、アージェスにも影響を与える可能性がある。
かといって手をこまねいていては、アージェスが死んでしまう。
「一体、どうすればいいの?」
答えは浮かばない。
美理子は泣き出していた。
その時、美衣子の頭の中に声が聞こえた。
今度は水仙人だ。
(みーこ)
「水仙人様っ!」
(みーこ。ファイヤーストーンの光をクリスタルに当てるのじゃ。美理子は癒しの力を、みんなは気を一つに。わしらも力を貸そう)
「はい!」
美衣子は、仲間達に水仙人に言われた事を伝えた。
美理子は涙を拭い、集中する。
「アージェス。今度はわたし達があなたを救ってみせる。だから、死なないで!」
美衣子達の準備も整う。
ジース達の気が一つになり、ファイヤーストーンの光と重なる。
(みーこ、今じゃ!)
「はい! クリスタルの闇よ、消えて!」
(そしてアージェスよ。生きるのじゃ!)
水仙人、サイーダ、ミーアノーア、ドラミール。そしてアンナが力を貸す。
魂の輝きは、ファイヤーストーンと共にあるから。
光がクリスタルを包んだ。
クリスタルの闇を、溶かす為に。
「ぬうううううっ!」
気合いを入れる。
クリスタルは煙となって蒸発して行く。
もう少しだ。
ついにアージェスは、クリスタルの中から解放された。
「アージェス、しっかりして!」
横たわるアージェスを、美理子が抱く。
ジースが、脈拍と心臓の音を確かめた。
「まずいぞ! 脈拍が弱いし、心臓の音も小さい」
「そんな……」
(諦めるのは早いぞ。みんな)
美理子の腰の魂の石に、光が触れた。
水仙人の魂が現れる。
美衣子達が見守る中、美理子の腕の中のアージェスに近づく。
そして、気合い一発、
「はっ!」
自分の気を、アージェスの体の中に入れた。
アージェスの顔色が、良くなったように見える。
「もう、彼は大丈夫じゃ。わしの気を分けたのでな」
「良かった……」
美理子達は、胸を撫で下ろす。
水仙人が、穏やかに笑った。
「みーこ、美理子、みんな。わしは行くが、平気じゃな?」
戦士達も笑う。
「はい。水仙人様、ありがとうございました」
「じゃあの」
光は、ファイヤーストーンの中に帰った。
アージェスの方を見ると、まだ目は覚ましていないものの、呼吸音が聞こえている。
心臓の音も、正常に戻っていた。
その時、背中に邪悪な気を感じた。
アルビネット・サタンが来たのだ。
身構える暇もなく、戦士達は黒いパワーに襲われる。
美理子は、必死にアージェスを守った。
「女王美理子。アージェスを、クリスタルから出したようだな。お前には会わせるつもりはなかったのに、つくづく邪魔をする娘だな」
右手に、気が練られていく。
戦士達は唾を飲み込んだ。




