合流、そして再び
レナと綾乃は手を振る人々に何度も礼をし、道なりに進んだ。またこの道を通るなんて。到着した時は仲間がいたのに、今は二人だけ。みんな何処にいるんだろう。バラバラになって、声も聞こえない。ただ、先に進まなくては。同じ方向に、誰かいる事を信じて。
ふと、レナが怪しい気配を感じる。
闇だ。闇に包まれて誰かいる。
それは、うさちゃんと美理子だった。
「うさちゃん! 美理子様っ!」
二人はアルビネットの幻に、黒魔族に両親を殺され、心の中に閉じ込めたはずの憎しみを呼び出されていた。さらに美理子は責められる。サイーダの後を継ぎ、女王にならなければ、普通の娘として過ごせたと。全てはサイーダのせい。運命を恨めと。
二人は絶望の顔で、闇に飲み込まれようとしていた。
「しっかりして下さい! 美理子様! うさちゃん!」
レナの悲しい叫び。
美理子の心の中で何かが動く。
(そうだ。わたしは……)
わずかに残った光が、希望に変わる。
彼女は、隣のうさちゃんの肩を揺さぶった。
「うさちゃん! 闇に囚われちゃ駄目。戦って!」
だがうさちゃんの目はうつろなまま。
いつもしっかりして、美理子達を支えてきた彼女だが、内心辛さを抱えていたのだろう。
「美理子様!」
「レナ! 綾乃さん!」
ここだ、と闇がうさちゃんの体を染めて行く。
美理子は強く彼女を抱きしめた。
「やらせない!」
女王の聖なる気が広がって行く。
それはうさちゃんの心にも届いた。
「うさちゃん! わたしは諦めないよ。絶対に。わたしの両親は、勇敢に黒魔族に立ち向かったの。その結果、命を落としたとしても、その行動が人々に勇気を与え、闇を倒す原動力になったと、サイーダ様から聞いたわ。わたしはその二人の娘よ! そして、あなたのご両親も立派な方達だった。国を滅ぼされたとしても、その誇りは忘れなかったはず。あなたは、その血を引いているのよ!」
「美理子……」
「わたしは戦うわ。最後まで。mirikoworldの女王として、そして、みーこ達の仲間として!」
「その戦い、わたしも……!」
うさちゃんが闇を拒否した。
チッ、と苦い顔をして、アルビネットの幻は消える。
レナと綾乃が笑いながら駆け寄る。
「レナ、綾乃さん! 無事で良かった」
「ええ。お二人も」
「ところで、他のみんなは?」
うさちゃんが辺りを見回す。
綾乃が答えた。
「分からないの。魔城からバラバラに飛ばされたらしいから。わたし達は船の所まで飛ばされて、道なりに走ったらあなた達が闇に囚われていたの」
「そうだったの。じゃあ、とにかく先に進んだ方がいいみたいね」
「そうね」
そして四人は歩き出す。
道はやがて左右に別れた。
「お〜〜い!」
「あれは!?」
ジース達の声。
左方向からだ。
美理子達は合流を果たした。
互いの無事を確かめ合い、喜び合う。
「美理子〜〜、うさちゃん〜〜、綾乃〜〜、レナ〜」
「ジース達も。良かったあ。もう会えないかと思ったわ」
「や〜ョうさちゃん。アタシ達はまだ元気ョ」
「うん!」
今ここにいるのは、美理子、うさちゃん、綾乃、レナ。ワンメー、カン、リース。ジェルとマーキス。フェアとリィ。そして、ジースとアヤ。
仲間の人数を数えて、美理子がある事に気がつく。
「みーこと、パンパンがいない……」
他の仲間もはっとする。
綾乃がすぐ考えた。
「わたし達は、魔城から飛ばされて来た。そしてわたしとレナは美理子様達しか会っていない。ジース達の道中にも、二人の気配はなかったのよね」
「ああ。俺達も、パンパンとみーこには会っていない」
「だったら、この道の先。採掘場に多分二人はいるわ」
「では、急ぎましょう! わたし達が闇から逃れた後、あの二人に集中しているかも」
女王美理子の冷静な判断だった。
綾乃が先頭に立ち、案内を買って出る。
心配でたまらない。
一行はスピードを上げた。
採掘場。切り立った崖の下。
パンパンと美衣子は二人きりで、回りの景色に驚いていた。
崖はかなりの高さがある。さらに横幅も広い。
そんなのが何個かある。
崖に囲まれている。そんな感じだ。
しかも、何かで掘られたような跡がある。
表面の土を探ってみると、それは現れた。
「これは……?」
「鉄だね」
綾乃が言っていた。
この国では、上質な鉄が取れると。
美衣子は圧倒された。
「じゃあ、この崖全部、鉄が取れるって事?」
「そのようだね。どうやら僕らがいるここは、採掘場みたいだ」
「ねぇ、パンパン。他のみんなは?」
「分からない。けど、どこかにいるのかも。探して見よう!」
「うん!」
二人が歩き出そうとしたその時、
「そうはさせん」
闇と共に、アルビネットの幻が現れた。
闇は美衣子達の行く手を阻み、取り囲む。
「わたしはお前達の仲間の心を、闇で満たそうとした。が、全て阻まれた。残りはお前達だけだ」
「そんな事……」
「逃げられると思うな」
闇が、二人の心の傷を見透かす。
目がうつろになって来た。
「あ……」
「そう。抗わず、闇に従うのだ」
二人は徐々に闇に囚われつつあった。
一方その頃、美理子達はようやく、採掘場に到着していた。
入り口付近で、二人の姿を探す。
そこは幾つもの台が置かれ、火を焚くかまどもあり、作業場という感じの所だった。
ここで鉄を武器に錬成していたらしい。
「綾乃、二人はいないわ」
アヤのがっかりした声。
が、綾乃はまだ奥がある事を知らせた。
「大丈夫。ここはまだ採掘場の一部。奥に行けば、鉄が大量に取れる崖があるわ」
「じゃあ、パンパン達はそこに?」
「ええ。急ぎましょう!」
トンネルの中に、トロッコがあった。
このトロッコで、採取した鉄を運ぶのだという。
「乗って!」
全員トロッコに乗り込む。
トロッコは、美衣子達の下へ出発した。
「ううっ」
闇の中で、パンパンが悶えていた。
「僕は、そうだ。僕は馬鹿にされていた。同じ種族の仲間からも。お腹が太鼓だったから。珍しいんだって。同じ音楽使いでも、太鼓に選ばれて生まれてくるのは。だから、妖精達を仲間にしなくちゃいけなかった。太鼓はリズムだけだから。勿論、太鼓だけでも音楽は生まれる。けど、歌と交わる事で、ハーモニーが奏でられるんだ」
「しかし、お前は今、何もできない。ここに、妖精達はいないのだからな」
「そうだ。僕は今、何もできない。みーこを守る事も、何も……」
「フフフ……」
美衣子も、闇の中で自問自答していた。
「わたし、小さい頃、友達がいじめにあっていたのを、見て見ぬ振りをしていた。自分がいじめられるのが怖くて、止めに入れなかった。今は、後悔しているのに……」
「そう。その子は泣いていたぞ。何で助けてくれなかったのかって」
「ううっ。ごめんね。ごめんね」
「そう。もっと苦しむがいい! それこそが、闇の力になる!」
アルビネットの姿の闇は、笑った。
その声が、崖に響く。
「みーこ!」
トロッコから降りた仲間達。
美理子はすぐ駆けつけようとしたのだが、綾乃がそれを止めた。
「待って下さい美理子様。みーこちゃんの胸のファイヤーストーンが……」
言われて見ると、ファイヤーストーンが光を発している。
美理子達は崖の陰に隠れて、見守る事にした。
(みーこ)
「!!」
ファイヤーストーンの中で、サイーダが囁く。
(サイーダ様っ)
(みーこ。過去に囚われてはなりません。悲しい事があったかもしれませんが、今はその子にできなかった分まで、大切な人を守るのです)
(大切な、人?)
(ええ。誰にでも、失敗や後悔する事はあるものです。しかし、それにしがみついていたら、いつまでも、前には進めません。さあ、あなたは何がしたいの? あなたの本当の気持ちは?)
(わたしの、気持ち。わたしは……)
美衣子は隣のパンパンを見る。
彼は闇の中でうなだれていた。
(さあ、みーこ)
(はい!)
サイーダが後押ししてくれた。
ファイヤーストーンの輝きが増す。
美衣子の心の迷いが消えた。
「何っ!?」
アルビネットの幻は、その眩しさに怯む。
美衣子はそれに向かい叫んだ。
「アルビネット。いいえ、今はその影ね。わたしは、過去には囚われない。前を向いて生きて行く。だから、消えて!!」
シュウウウウウ。
幻は消えた。が、パンパンの回りの闇は消えない。
彼の心の闇が消えない限り駄目なのか。
「パンパン。しっかりして! パンパン」
座り込んだ彼を、美衣子が両腕で抱きしめる。
「みーこ。僕は、君を守れないんだ。僕は、弱いんだ」
「そんな事はないわ! あなたはいつでも、わたしを守ってくれた。あなたの強さを、わたしは知ってる。それに……。今度はわたしが、あなたを守るから」
「……え!?」
「だから、わたしを見て。お願いパンパン!」
パンパンが、ゆっくりと顔を上げる。
美衣子は、優しく微笑んだ。
「パンパン。あの手紙の返事、ずっと待たせてごめんね。わたし、ずっとあなたを見ていたい。あなたが好きよ。パンパン」
それでも、パンパンはまだ、どこか信じられないという表情だ。美衣子は諦めない。彼を、闇から解放するために。
美衣子はそっと、顔を近づけた。
「大丈夫。わたしを信じて」
目を閉じ、唇を重ねた。優しい光が、二人を包む。
この時、崖の向こうがざわついたのだが、二人は気がつかなかった。
美衣子が唇を離すと、パンパンが穏やかな顔で微笑む。
闇から、解放されたのだ。
「みーこ……」
「うん」
「ありがとう。嬉しいよ」
パンパンも、美衣子を抱きしめ返す。
隠れていた美理子達が、出て来た。
二人は驚く。
「あ〜、ごめんみーこ、パンパン。覗き見するつもりはなかったんだけど」
慌てて真っ赤になって、抱きしめた腕を下ろし離れる。
「み、美理子。いつから見てたの?」
「そうね〜。二人が闇に囚われたあたり。けど、ファイヤーストーンが光ったから、綾乃さんがわたし達が出て行くのを止めたの。みーこが、何とかしてくれるって」
「あ、綾乃さんてばいじわるね。早く出て来てくれれば……」
「えーー? アタシ達は良いものを見せてもらったわョ。みーこの告白シーンとかァ」
「二人の〜〜、キスシーンとか〜〜、だよね〜」
ワンメーとリースがからかい、二人はバツが悪そう。
うさちゃんがまとめる。
「でも、これでようやく、みんなが揃ったのね」
「ええ」
美理子が魔城の方を見た。
綾乃が言う。
「では、また魔城に入りましょうか。今度は、美理子様の為に、アージェスを救いに」
「お〜〜〜っ!」
楽しげに歩く仲間達の後ろで、パンパンが美衣子に手を差し出す。
「行こう! みーこ」
「うん!」
仲良く手を繋ぎ、二人は歩き出した。




