心の闇、希望の光
美衣子達戦士が吹き飛ばされた窓から、風が入って来た。その下で、兵士達がおどおどと、破片を片付けている。久しぶりに見た国王アルビネットの怒り。mirikoworld、特に女王美理子には複雑な感情を抱いていた。息子アージェスが奪われるかもしれないという焦りと、その息子が好きになった女性が、敵の女王だという苛立ち。それらが入り混じって、モヤモヤした気持ちになっているのが伝わった。
そのアルビネットはずっと、窓の外を眺めている。
美理子達が戻って来る気配はない。
なるべく遠くに飛ばしたのだ。
風に髪を揺らされながら、兵士達に命令した。
「割れた窓を、とりあえず何かで修復しておいてくれ。すぐにガラスを張るのは無理だろうから」
「薄い透明な板がありますが?」
「構わん。あと、入口は鍵を閉めるな。もしも奴らがまた来たら、わたしの手で、始末してやる」
「国王様。我々も共に戦います」
「頼む。わたしは自室に戻る。あと、邪兵士にアージェスを守らせるのだ」
「はい。かしこまりました」
「では、わたしは行く」
二階に上がる階段を上り、正面の一番大きな部屋に入る。ここが、国王の間だ。兵士達とアルビネットが、謁見する場所。クリスタルの中のアージェスは、静かに眠ったように動かない。さっきの電撃の影響か、服が破れていた。目は閉じられたまま。そっとクリスタルに触ると、かすかな呼吸音がする。アルビネットはホッと安心した。
と、その近くの床から、邪兵士が三人這い出て来る。早速、兵士達が手配したようだ。
アルビネットは邪兵士がクリスタルの回りを固めたのを確認すると、椅子の後ろから、鍵を取り出した。国王の間の鍵だ。合鍵は、兵士や女官が普段使っている訓練所にある。
そして、邪兵士を残し、アルビネットは扉を閉めた。
国王の間から右に行く。突き当たりの部屋がアルビネットの自室だ。ベッドに腰掛け、彼は目を閉じる。美理子達のところに闇を飛ばした。心を動揺させようとする、攻撃が始まった。
mirikoworldの戦士達は、それぞれバラバラな所に飛ばされ、着地していた。ジース、アヤ、妖精達、小人達は、元奴隷達が住んでいた村に。動物トリオの三匹は、その村と採掘場の間の道の途中に。レナと綾乃は、旅の小舟の近くに。パンパンと美衣子は、採掘場に。そして、うさちゃんと美理子は、小舟から続く道の途中にいた。
各自、状況を確認している。
「ジース、ここは……」
「ああ、俺達は魔城から飛ばされて、バラバラになったらしいな。ここは、あの村か。ジェル、マーキス、フェア、リィ。君たちも無事か。とにかく、他のみんなを探そう」
「うん」
歩き出そうと足を踏み出したが、彼らの周囲を闇が囲み、アルビネットが道をふさいだ。
「アルビネット!」
小人達が攻撃するも、アルビネットの体をすり抜けていくだけ。
アヤが、幻だと気づいた。
「そう。わたしは問いかけに来た。お前達の心の闇に。ジース、アヤ。お前達、本当は子供と一緒に静かに暮らしたかっただろう。それが、こんな戦いに呼ばれて、嫌じゃないのか?」
「何っ!?」
「赤子を遠い国の中に、置き去りにしていいのか? ほら、泣き声が聞こえるだろう。愛しい我が子の」
「うう……」
「ジース、アヤ! 引っかからないで!」
妖精達と小人達は、これが心の隙を利用した作戦だと見抜いた。しかし、アルビネットは彼らの心の中も覗いて行く。
「ほう。ジェル、マーキス。お前達、普通の人間のサイズから見ると小さい。その為、昔随分からかわれたな」
「ううっ」
「だから森に逃げ込んだ。よけい孤独になったがな。そしてフェア、リィ。お前達はその容姿から、商人に見せ物にされた過去があるな。黒魔族に金で売られようとして。随分ひどい過去じゃないか」
「ああ……」
思い出したくない事を見透かされ、心の闇が広がって行く。ジースとアヤも後悔の念に冒されていた。
「いいぞ。そのまま闇に食われるがいい!」
アルビネットの幻は、他の戦士達の所にも現れていた。ワンメー、カン、リースは、自分たちがシルバーウルフに合体して、デス隊を殺してしまったから、そのためにアージェスが傷ついたと責められていた。綾乃は、彼女がダーク帝国を裏切ったからビジェが死んだと。家族を救っても、その家族から恨まれるだろうと。レナは、聖なる龍の力を受け継いだために、一人孤独に光の国にいて、寂しかったのではないかと。
それぞれが、心にポツンと生まれた傷を、えぐられていた。
その攻撃を最初に破ったのは、ジースだった。
彼は、言葉巧みなアルビネットの精神攻撃に惑わされないように、心の動揺を押さえ、本当の自分の心に問いかけた。
「確かに、俺達は息子ディーンを、ミリルークの城に置いて来た。まだ赤ん坊のあいつを。だが、俺達が最前線で戦う事。それが結果的に、あいつを守る事になる!」
「ジース……」
「アヤ。戻って来た時に、離れていた分だけ、あいつを思い切り可愛がってやろう。とにかく、今はこの戦いに勝つ事だけ考えよう。大丈夫。ディーンは寂しいかもしれないが、女官達がいるしな」
「ええ!」
「ここから生きて出られると思っているのか?」
ジースとアヤの心の闇が消える前に、アルビネットは追い討ちをかけた。だが、ジース達の希望の光は輝いたばかり。
「勝つさ。必ず。俺はみんなを信じている! そして、mirikoworldへ帰る」
そのジースの力強い言葉を聞いた小人達、妖精達も、心に光を灯す。
「ああ、確かにオレ達は小さい。森に逃げ込んだのも事実だ。だけど、美理子達に会って、これもオレ達の特徴だって分かったんだ! 美理子は、オレ達が風を呼べる事を誉めてくれたよ。嬉しかった。馬鹿にせず、ちゃんとオレ達自身を見てくれる。そんな人間に会えた事。だからオレ達も戦う! みんなと一緒に!」
「ええ、そうよ! あたし達が黒魔族に売られそうになった時、助けてくれたのはパンパンだもん。だから、彼には感謝してる。一緒に演奏しようって持ちかけられた時、勿論すぐOKしたわよ。今では、彼以外にも、守るべき者ができたの。みんなといると楽しいし、信じられるから!」
彼らの心の闇は消えた。
アルビネットの幻も、また目の前から消える。
ジース達は、他の仲間も同じ目にあっていると思い、急いで探しに走った。
ジース達が真っ直ぐ道を走ると、闇に囲まれ苦しむワンメー、カン、リースの姿が見えた。
三匹ともアルビネットの幻に追い詰められている。
「ううっ。ボク達が〜〜、デス隊を殺したから〜」
「アージェスが、苦しんでいるのよねェ」
「ボク達、何て事を……」
「そうだ。お前達がいなかったら、デス隊とアージェスはまだ別れる事はなかった。全ては、お前達のせいだ」
闇が拍車をかける。
ワンメー達の足の先が、黒く染まった。
「いけない!」
ジースが三匹に駆け寄る。
「ワンメー、カン、リース。闇の口車に乗っちゃいけない。デス隊が死んだのは、君たちだけのせいじゃない。俺も一人倒している」
「ジース……」
ジースの声が届き、ワンメー達がうつむいた顔を上に上げる。
「そうだ。自分達だけ責めるな! 俺達も一緒に戦っていた。責任はみんなにある。それに、そうやって君たちが闇に逃げる事で、彼らの魂が救われるのか!?」
「……!!」
「君たちは、本当にそれでいいのか? 彼らの為に、やれる事はないのか?」
ジースの熱い言葉に、ワンメー達は目を覚ます。
そうだ。ボク達は、こんな所で止まっていられない。
「そうよォ。アタシ達にできる事は……」
「奴隷だった人々を、無事にこの国から出す事」
「そうだよ〜〜。ボク達に〜〜、迷っている暇はないから〜〜。ありがと〜〜、ジースぅ〜」
動物トリオの闇も消えた。
こうして、ジース達と合流した彼らも、残りの仲間を探して動き出した。
その頃、レナと綾乃も、闇と戦っていた。
船の中から、二人を囲む闇を見ていた人々は、二人に声援を送る。
「頑張って下さい。闇に負けないで!」
「綾乃様。わたし達は、子供達が死んだ事を知っています。けどそれは、元はと言えば、わたし達が闇に惹かれてこの国にやって来たからです。いわば、あの子達が死んだのは、わたし達のせいでもあります。ですから、ご自分を責めないで下さい」
「あなた達……」
人々の声が綾乃とレナの心に響く。
「綾乃様。わたし達は、誰も恨みません。死んだあの子達の為にも、これからは、真っ直ぐ生きてみるつもりです。ですから、綾乃様達も、自分の心のままに進んで下さい」
その言葉が迷いを溶かし、涙を流させる。
闇が、光に変わった。
「ありがとう。あなた達。ビジェが死んだ事は、わたしの責任だと思っていたけど、その言葉を聞いて、胸のつかえが下りたみたい」
「綾乃さん……」
「レナ。あなたも大丈夫なのね」
「はい。神子の力を受け継いだのはわたしの意志ですし、後悔はしていません。それに、一人じゃないですから」
「そうね」
船の中から歓声が上がる。
綾乃達は手を振った。
そして人々に待っていて欲しいと頼むと、仲間の下に急いだ。
あとは美理子、うさちゃん。美衣子、パンパン。
無事でいて。
仲間達は祈った。
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