地下から抜け出せ
チッチッチッ。
爆弾が爆発するまであまり時間がない。
美衣子達は人々を守りながら戦っているため、派手な魔法は控え、聖剣での戦いを余儀なくされていた。
もし間違って、奴隷の人々に魔法が当たったら大変だからだ。
レナは隅にいる人々の側にいて、近づいて来る邪兵士を羽手裏剣で倒していた。
彼らを励ましながら。
邪兵士は半分くらいになったか。
隠れていた階段が見え始めていた。
「綾乃さん。爆弾のタイマーはあと何分?」
美衣子に言われて、綾乃が戦闘の群れから抜け出し、壁の爆弾を見る。
タイマーは、残り10分を切っていた。
「美衣子ちゃん。時間がないわ。10分を切ってる」
「ええっ!?」
「急いで残りの邪兵士を倒しましょう」
綾乃が戦闘に戻る。
美衣子は剣をしまい、格闘に転じた。
「たあーーっ!」
狭い階段の邪兵士。
ワンメー、カン、リースが活躍した。
部屋の中に、ジースとアヤの声が響く。
「雷光閃光弾!」
「風陣回転脚!」
敵は残り僅かになる。
間に合うか。
だがーー、
「美衣子さん、時間が……!」
タイマーを見たレナが叫んだ。
あと30秒になっていた。
「くっ……! みんな、こっち!」
全員人々の近くに集まる。
美衣子はファイヤーストーンで、美理子、レナはそれぞれの聖なる力で、バリアーを作った。
衝撃を抑える為、人々に、なるべく低い体勢になるように言う。
「はあああああ……!」
バリアーを支える三人。
視界が白くなった。
ドカアアアアッ!
爆弾が爆発する。
破片が部屋全体に飛んだ。
壁が崩れ落ち、邪兵士と戦士達を巻き込む。
埃と煙で、何も見えなくなった。
ガサッ。
爆発音が聞こえなくなり、静かになった。
ジースが瓦礫の中から這い出る。
「みんな、大丈夫か?」
彼の側にいたアヤが出てきた。
綾乃、フェア、リィ。ジェル、マーキス。動物トリオ。美理子、パンパン、うさちゃんも続く。
みんなほとんど怪我はない。
バリアーが守ってくれたみたいだ。
ここで綾乃が、美衣子の姿が見えないのに気がつく。
レナもいない。
それに奴隷の人々も。
「美衣子ちゃん! レナ、みんな!」
部屋の隅に瓦礫がたまっている。
焦った顔で、パンパンが瓦礫の山をどかした。
「みーこ、みーこ……!」
ジース達も手伝う。
光の中、人々の無事な姿が見えた。
レナの笑顔も見える。
美衣子は、レナと人々の間で、目を閉じていた。
パンパンが駆け寄る。
「みーこっ!」
パンパンの腕の中で、美衣子は目を開けた。
「パンパン……」
「みーこ、良かった……!」
泣きそうな目のパンパン。
ギュッと彼女を抱きしめる。
戦士達も駆け寄り、人々と美衣子、レナの無事を喜んだ。
邪兵士に動きはない。
今のうちに地下を脱出しよう。
綾乃達は人々を連れ、地下の階段を上った。
美衣子は念のため、パンパンが背中におぶっている。
ギイイッ。
階段上の床をスライドし、地上に出た。
しかし、魔城の入り口の扉は閉まったままだ。
「綾乃様……」
人々はとても不安げだ。またいつ邪兵士が出てくるとも限らない。アルビネット本人が来る可能性もある。綾乃は顎に手を置いて考えていた。
その時、レナが名乗りを上げる。
「あの、わたしの中の聖なる龍の力で、人々を船の中まで飛ばしましょうか?」
綾乃はびっくりしてレナの顔を見た。
いくら聖なる龍の力があるとはいえ、先ほど人々と自分たちを守る為にバリアーを使ったばかり。
その上また力を使っては、レナの体が持たない。
「レナ、あなた、大丈夫なの? バリアーを作ったばかりなのよ」
「そうよレナ。無茶して倒れられたら、わたし達が困るわ」
綾乃の言葉に美理子が賛同した。
レナは穏やかに微笑む。
「美理子様。綾乃さん。心配して下さって、ありがとうございます。けど、わたしは平気です。皆さんのお役に立とうと、わたしは決めたのですから。それに、いつまでもこの方達を、魔城にとどめておく訳には参りません。アルビネットに見つかる前に、魔城から逃がして差し上げませんと」
「レナ……」
綾乃には、レナの思いがとても嬉しかった。
奴隷の人々を解放する。それがビジェと今の綾乃の願いだったから。
そして、もう一人。
(美理子。その者達を解放するのなら、俺も手伝う)
「!!」
突如、戦士達と人々の心に響いた声。
美理子が嬉しそうに叫んだ。
「アージェス、アージェスね!」
(ああ。美理子。ようこそダーク帝国へ。もう一度、お前の姿を見られて嬉しい)
「アージェス、あなた今、何処にいるの?」
美理子は、アージェスが姿を現さずに、心に直接話しかけてきた事に疑問を持った。
(俺は今、父上が作ったダークエナジーのクリスタルに閉じ込められている。が、その者達を助けたい思いは、お前達と同じだ)
「ダークエナジーのクリスタル!?」
綾乃が驚愕する。
レナも、同じくクリスタルに閉じ込められた者として、その苦しみは分かる。
「アージェス、あなた、あの黒い玉を作る気? 駄目よ! 命を削るクリスタルの中で、力を使ったら……!」
(綾乃か。確かに、苦しい感じはする。ただ、父上が調節してくれたらしい。だから、動ける内にやる。俺の闇の力を、龍の力で光に変えたら、その神官の負担も軽減するはずだ)
「確かに、そうだけど……」
(時間がないんだ。父上が来る前に飛ばす。行くぞ、レナとやら!)
「は、はい!」
アージェスの闇の力が、人々を包む黒い玉になった。けど、優しい。人々には、不安はなかった。
「アージェスさん。あなたの力、確かに受け取りました!」
レナが聖なる龍の力で、玉を光に変える。
あとは飛ばすだけだ。
人々を乗せ、床から少し浮いた。が、
「やらせん!」
アルビネットが立っていた。
闇で作ったマシンガンを携えている。
美衣子達は玉の回りを固めた。
「デス・レイン!」
マシンガンから無数の散弾が発射される。
美衣子達はその身をもって、人々を散弾から守った。
ドドッ。
戦士達はぼろぼろの姿で倒れる。
玉の中、人々は恐怖を感じながら、アルビネットを見ていた。
今後は人々に銃が向けられる。
「お前達も死ね」
(待て!)
非情なアルビネットが散弾を放とうとした時、光の玉はさらに上昇した。
この力はレナではない。
「王子、様……」
人々が次々口にする。
(みんな。朱利架も、玉蘭も、椎名も、そしてビジェも、俺にとってはいい仲間であり、友達だった。彼らの為にも、あなた達には生きて欲しい)
「王子様っ!」
(美理子達の船まで飛ばす。あなた達は自由だ。元気で)
「アージェス、邪魔するな!」
マシンガンの散弾が人々に当たる直前に、玉は飛ばされ、消えた。
美理子達が互いを庇いながら立ち上がる。
アルビネットは怒っていた。
まさか、息子に邪魔されるとは。
「アージェス。またわたしに歯向かうとは。悪い子だ。ここは少し、罰を与えねば」
「何する気なの!?」
美理子がアルビネットを止めようとするが、逆に突き飛ばされてしまう。
「キャッ!」
「美理子!」
「お前達の相手は後だ。まずは……」
アルビネットが、クリスタルの方向に向かって、念を込める。
クリスタルの中にいるアージェスの体を、電撃が貫いた。
(アアアアアアアッ!)
「アージェス!」
アージェスの悲鳴が聞こえ、美理子は叫んだ。
やがて声が途切れる。
アルビネットは念を収めた。
「気絶したか……」
次は戦士達を見る。
美理子は、悲痛な面持ちでアルビネットを睨んだ。
「アルビネット、あなたは……!!」
アルビネットは余裕の構え。
美理子達の回りを、黒い闇が囲む。
「安心しろ。まだアージェスは生きている。わたしが、大事な息子を殺す訳ないだろう。だが、お前達を会わせる訳にはいかない! わたしの力で、飛ばしてやる!」
アルビネットが気を溜めて、戦士達に放った。
各自バラバラに吹き飛ぶ。
「キャアアアアッ!」
魔城の窓を破り、戦士達の体は、遠く外へ飛ばされて行った。




