ダーク帝国
薄暗い闇の中を、光を帯びた船は進む。
暗闇といっても真っ暗じゃない。
ぼんやりと、街灯に照らされたみたいな、暖かさはある。
魔空間という場所でも、人々の心は存在するという事なのだろう。
確か、綾乃もそう言っていた。
その綾乃は、久しぶりに感じる魔空間の風の中で、緊張していた。
裏切り者の自分が、今度は敵としてダーク帝国に入るのだ。
それも心に決めた事。
彼女は同じ部屋で寝ている美衣子達女子チームを眺めた。
ダーク帝国に着くまでまだ少し時間はある。その間、休める人は体を休めようという話になっていた。
思えば、美衣子に認められた事で、綾乃はこっちの世界に来る事になった。
初めて触れた光の暖かさ。
この子達を守る。それが綾乃の感謝の気持ち。
だから、
(ビジェ。わたしは迷わないよ。あなたが死んでしまった事は悲しい。けど、強いわたしでいる為に、ダーク帝国に囚われた人達を、解放してみせる。だから、見ていて)
立派な正義の戦士が、そこにいた。
一方のダーク帝国。
美衣子達が結界を開き、魔空間に入った事を知ったアルビネットは、迎え撃つため戦闘の準備をしていた。
できる限り邪兵士を集める。
城の回りを固め、奴隷の人々を全員、地下に集め、閉じ込めた。
あとで役に立ってもらうと言って。
問題はアージェスだ。
美理子の気配を感じて、城から逃げ出すかもしれない。
手を打たねばと、国王の間の椅子から立ち上がった時、彼が現れた。
「父上、mirikoworldの戦士達が、魔空間に入ったと聞いたが……」
「そうだ。が、お前はこの戦いには参加しなくていい」
「えっ!?」
「隙を見て、女王美理子の下へ走るかもしれないからな。そうなる前に……」
アルビネットの側にいた邪兵士二人が、両脇からアージェスを押さえた。
「ま、待ってくれ。奴隷の人々を地下に集めたのは何故だ?」
部屋に戻される前に、アージェスは聞きたい事を聞いた。
「あの者達はあとで役に立ってもらう。全員仲良くな」
「何だって?」
悪い予感がする。
アージェスは邪兵士を振りほどこうとした。
が、アルビネットに殴られる。
「げほっ」
「アージェス」
アルビネットがアージェスに近づく。
彼の顎をクイッと持ち上げ、眺めた。
「アージェス。お前にこんな事はしたくなかったが……」
「うっ、何を……」
「お前には、しばらくこの中に入ってもらう。わたしと邪兵士とで作るダークエナジーのクリスタルにな」
「それは、まさか!?」
「残念だよ」
両脇の邪兵士が気を溜め始める。
アルビネットも、アージェスの体に手を当てた。
徐々に足元の方からクリスタルに閉じ込められていくアージェス。
「父上、止め……」
「わたしの気を練り込んだクリスタルだ。強力だぞ」
ついにアージェスはクリスタルに全身を閉じ込められる。
レナが以前に閉じ込められた物より大きく、強い。
闇が、アージェスの命を吸いとる。
「ううっ」
「命を削る速度をゆるやかにしておいた。戦いが終わる頃には、お前をそこから出せるだろう。良かったな。クイーン美理子の死に様を見なくて済むぞ」
アージェスが眠るクリスタルをその場に残し、アルビネットと邪兵士は戦いに繰り出した。
「美衣子ちゃん、みんな、起きて」
綾乃の声に美衣子達は目を覚ます。
もうじき、ダーク帝国に着くのだ。
甲板の方が見やすい。
みんなで、階段を上り移動した。
「あれが、ダーク帝国……」
表面積はmirikoworldの半分くらい。
意外と小さい国だ。
ブラックグラウンドと違い真っ黒の大地じゃない。
所々、緑も見える。
船はゆっくりと到着する。
ダーク帝国の端のようだ。
綾乃の案内で、戦士達は歩き出した。
長く、真っ直ぐな道だが細い。
「この道は途中で二手に分かれるの。左に行くと奴隷の人々が働いている村があるわ。右に行くと、また枝分かれするけど、太い道の方に行けば、魔城に着くわ」
「その魔城の手前で分かれている道は、どこに向かうの?」
美衣子の質問に、前を歩いていた綾乃が振り向いて答えた。
「鉄が採れる採掘場よ。その上質な鉄で、武器や城を作っているの」
「じゃあ、そこにも働かされている人がいるの?」
「ええ。でもそこに行く前に、まずは村へ行って奴隷の人々を解放しましょう。うさちゃん、船にはまだ乗るかな?」
「兵士達が頑張ってくれたから、まだ余裕はあるわ。一階に、大きなスペースがあったし」
改造された船は何と三階建てになっていた。前は一階に各部屋とシャワー室、操縦席、食堂があり、上に甲板があったのだが、今は一階にお風呂場と鍛練場、その隣に大部屋と食堂があり、二階に戦士達の部屋、操縦室、そして一番上が甲板になっている。
「助かるわ。それじゃ、進みましょう」
真っ直ぐな細い道は、やがてT字路になった。
左に曲がる。
数軒の家が見えた。
綾乃が怪訝な顔をする。
「おかしいわ。人の気配がしない」
確かに、家はあるのに誰もいない。一応、家の中も調べたが、もぬけの殻だ。
「みんな〜〜、何処に〜〜、行ったんだろうね〜〜」
「分っかんないわョ。ここにいない以上、探すしかないでしょ」
「もしかして、何処かに連れ去られたんじゃ……」
動物トリオの指摘に、綾乃は青い顔をした。
「あり得ない話じゃないわ。アルビネットの命令なら、奴隷の人達は従わざるを得ない。となると、行き先は……」
「魔城か……」
ジースが城の方を見て言った。
美衣子達も同じ方向を見る。
何も綾乃が言わなくても、体は動く。
早く魔城へ行かなくては。と思った矢先、
ガサッ。
道を塞ぐように、邪兵士の群れが襲って来た。
「やっぱりね」
ある程度は予測していた。
アルビネットなら、きっと邪魔するだろう。
邪兵士がここにいるという事は、やはり奴隷の人達は魔城に連れ去られたのだろう。
戦士達はそれぞれの武器を手に、邪兵士の群れに突っ込んで行った。




