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決意の時

 アルビネットが去り、水仙人がいなくなって一日後。雨はまだ降り続いていた。まるで、戦士達の心を代弁するように。女王美理子を始めとする戦士達の表情は、まだ晴れなかった。


 ぽっかり、穴が空いている。


 水仙人の存在が、どれほど大きかったか。

 にこやかで、優しくて、いつも包んでくれた。

 前大戦の生き残りで、知識も豊富だった。

 まだ聞きたい事が、たくさんあったのに。


「水仙人、様……」


 美衣子の胸に、さまざまな思い出が甦る。

 初めて会ったのは、人間界。約一年前の事。

 学校の裏山に住んでいたんだっけ。

 あの時は、美理子達も人間界に下りて来ていた。

 ファイヤーストーンの欠片を探す為に。

 それからいろんな話を聞いて、少しずつ仲良くなれたんだ。

 デパートに一緒に行った事もあった。

 はしゃぐ美理子達と、バニラアイスを食べたんだっけ。

 美味しかったな。

 その帰り道、雨上がりの公園でみんなで見た虹。

 水仙人様が作ってくれたシャボン玉。

 ふわふわ漂って、虹が綺麗で、涙が出た。

 それだけではない。

 聖剣が四つ全て揃って、美衣子達が帰って来た時に開かれたパーティー。

 ジースとアヤの息のあった華麗なダンスの後、わしも何か披露すると、いきなりタキシードで登場した。それだけでも驚いたのに、踊ったのが見事なタップダンス。愛用の杖を高く投げてクルッとターンして取ったり、動きも素晴らしかった。

 美理子の、


「水仙人様、すごくお上手です」


 の声に反応し、


「そう。杖、いやステッキを持っているから素敵じゃろう。なんちゃって」


 とみんなを笑わすお茶目な面もあった。


 その水仙人の遺体は、綺麗にされ丁寧に棺の中へ入れられた。

 今はサイーダのお墓の隣で、静かに眠っている。

 サイーダの時もそうだったが、彼のお墓にも国中の人達が手を合わせに、絶える事なく訪れている。

 これはまだしばらく続くだろう。

 この二人がいかに人々に愛されていたか、そしてどれだけ大事な人を失ったのか、今さらながら痛感した。

 昨日の今日という事もあり、戦士達はそれぞれの部屋で傷を癒していた。そして午後、時間にして13時過ぎ、みんなは綾乃の話を聞く為に大広間に集まった。


 彼女は元、ダーク帝国の秘書という事で、美衣子達よりあの国の事情に詳しい。しかも、秘書という事は、側近でもあったという事。アージェスの事も、良く知っているに違いない。美理子は、それも期待していた。


「じゃあ、早速聞きたいんだけど」


 先頭を切って口を開いたのは、パンパンだった。


「なあに。パンパン君?」

「前に、あなたはダーク帝国に住んでいるのは、邪兵士と怪物(モンスター)を除けば人間だと言ったけど、それって本当?」

「ええ、そうよ」


 綾乃は一瞬、悲しい顔をした。しかしすぐにパンパンの目を見て続けた。


「邪兵士とモンスターは、闇から生まれた存在。しかしそれ以外の、あの国にいる人間は、あなた達と同じ普通の人間なの。ただ、魔空間にいるというだけ」

「じゃあ、アージェスの言った通り、闇に惹かれてダーク帝国に行った人々もいるの?」

「ええ。それも本当。彼らはわたし達ダーク帝国が侵略した時、ついて来た人達なのね。普通の人達じゃ、越えられないから」

「どういう事?」

「聖空間と魔空間の間には結界が張ってあって、普通は飛び越える事はできないの。けど、ダークキングや国王アルビネットのように、強い闇の力を持つ者は、その結界を歪め、破る事ができる。わたし達が使っていたあの黒い玉がそう。その力で、わたし達は聖空間でも自由に来る事ができたのよ」


 パンパンは納得しかけたが、一つ疑問が浮かんだ。


「ちょっと待って綾乃。じゃあアンナさんは、どうやってウイングスに帰って来たの? 身重の体だったんでしょ。アルビネットが、出す訳ないよね」

「あの魔城には結界を破るブレスレットがあるの。もし、アルビネットが闇の力を使えない時にそれを使えば、簡単に聖空間に行ける。彼女は隠し場所からそれを見つけて、魔城から逃げ出したんだわ」

「そうだったのか」


 謎が解け、パンパンはすっきりとした顔をした。


「じゃあ、そうなると、わたし達が以前ブラックグラウンドに行けた理由は何だろう」


 美衣子がうーんと考える。

 その質問にも、綾乃は自分の考えで、答えを示した。


「多分、サイーダ様の気も、アルビネットやダークキングと同じように、結界を破る力があったのかも。あなた達は、サイーダ様の気を追いかけてブラックグラウンドに行ったのでしょう。それか、ブラックグラウンドが、もともとはこの大地と一つだったという事が影響したのかも」

「そうか。あそこは魔空間のものじゃなかったんだ」

「だから〜〜、ボク達が〜〜、行けたんだね〜〜」


 以外と物知りな綾乃の意見に、一同は感嘆した。

 聖空間の事、魔空間の事、色々勉強したのだろう。

 秘書になる為に必要だった事、と彼女は謙遜する。

 ならば、サイーダがいない今、魔空間、ダーク帝国への行き方は? と美理子が言った。

 焦っている様子が見える。

 早くアージェスを救いたいのだろう。

 そんな女王にも、綾乃は冷静だった。


「美理子様。あなたのお気持ちは分かります。わたしも、恋をした事がありますから。ダーク帝国の人といえども、感情がない訳ではないのです。アルビネットも人の子。息子を殺すような真似はしないでしょう」

「綾乃……」

「ですから、ここは落ち着いて行動しましょう。アージェスがダーク帝国へ帰った以上、アルビネットが攻めて来る事はありません。となると、こちらから向かう訳ですが、それには聖剣の力を使うのです」

「ええ。わたし達も水仙人様に言われて、聖剣を集めたの」

「はい。聖剣は聖空間側から結界を開くアイテムなのです。しかし、聖剣をどのように使えばいいのか、わたしにも分からないのです」


 綾乃はごめんなさいとうつむいた。

 戦士達は首を横に振る。

 彼女が悪いわけではないのだ。


「ただ……」


 綾乃がまた口を開く。

 声は小さめだ。


「聖なる龍の記憶を持つ者ならば、何か知っているかも……」

「それって……」


 美衣子、パンパン、動物トリオ、妖精達には、思いあたる人物がいた。


「レナの事ね!」


 美衣子の答えに綾乃は頷く。

 そこにタイミングを図ったみたいに、兵士が飛び込んで来た。


「その事について、お話がございます」

「どうしたの?」


 美衣子達がそっちを見る。


「実は水仙人様から、もし女王様達がライトニングフィールドに向かわれるようであれば、旅の小舟のスピードを上げておいた方がいいと言われて、修理を済ませておきました」

「水仙人様は、この事を読んでいたの?」

「それは存じませんが、もしかすると、ご自分の死期を悟っていたのかもしれません」

「水仙人様……」


 美衣子達は改めて、水仙人の凄さに気づいた。

 ここまで先を見通していたなんて。

 美理子は兵士に言った。


「ありがとう。その船でライトニングフィールドに向かう事にするわ。留守の間、この国の事をよろしくね」

「はい、女王様!」


 兵士は一礼して出て行く。

 美理子は戦士達に向かって手を伸ばした。

 そして叫ぶ。


「mirikoworldの女王として、今一度みんなに願います。ダーク帝国の闇を打ち砕き、聖空間に平和を取り戻しましょう!」

「オーッ!」


 各々の手を重ねていく。

 綾乃がそのまま言った。


「では、出発前に、水仙人様のお墓に報告をしに行きましょう」

「うん!」


 美衣子を始めとする戦士達は、それに同意した。

 雨は、ようやく止んでいた。











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