さよなら、水仙人
アルビネットと水仙人、お互いに視線を外さぬよう、火花を散らしながら話す。
「アルビネット。お前さんにも、心という物があるじゃろう。何故、自分の息子にここまでできる?」
「確かに、アンナと出会ってからわたしは変わった。城の者達も驚いていた。わたしが、穏やかになったと。少しは、人に優しくできるようになった。アージェスにも、勿論親子の情はある。しかし、わたしは闇の王。魔空間の闇が、わたしの体を蝕むのだ」
「アージェスと美理子の事は、認められないと?」
「そうだ。わたしとアンナも、結局はうまくいかなかった。所詮は光と闇。交わる事はないのだ」
「お互いの理が違うから、戦うしかないという事か」
「そういう事だ」
アルビネットが銃を構え、水仙人に標準を合わせる。
「水仙人とやら。お前は前の大戦の生き残りで、さまざまな知識を持っている。我がダーク帝国の事も知っていよう。mirikoworldの生き字引であるお前が倒れれば、戦士達の士気も下がるだろう」
「わしの事も調べたようじゃな」
「敵を知る事が、戦略の第一歩となるからな」
「結構な事じゃ」
弾丸が発射された。
水仙人が気を溜める。
「はあああああ……!」
美衣子達もこんな水仙人は初めて見た。
いつも穏やかで、優しくて、素敵なおじいさんだったのに。
これが彼の本気という事か。
杖の先の方を持ち、引っ張る。
中から剣が現れた。
水仙人の杖は、剣を隠す鞘でもあったのだ。
「何!?」
驚愕するアルビネット。
弾丸を切り裂きながら、水仙人は近づいて来る。
爆発には当たらない。
気づいたら目の前に来て、消えた。
「むっ、どこだ?」
アルビネットは水仙人を見失ってしまう。
無駄に弾を撃つ訳にもいかない。
辺りを探す。
「ここじゃ!」
「むっ」
水仙人はアルビネットの後ろに回り込んでいた。
いつの間にそんな所に。
アルビネットが狙いを定めるが、
「遅い!」
懐に飛び込まれ、腹部を斬られた。
ショックで闇が乱れ、武器の銃が消える。
血が滴り落ちる剣を見つめながら、水仙人が呟く。
「ふう。久しぶりに剣を使ったわい」
アルビネットは、斬られた腹を押さえながらしゃがんだ姿勢になる。
「貴様……」
少々深く斬られたようだ。血の流れが止まらない。
「くうう」
痛みで顔が歪む。
「すまんな。痛かったかの。ただ、こうでもしないと、お前さんがまたアージェスを狙うかもしれないのでの」
「わたしの動きを、これで止めたつもりか?」
「勿論、お前さんがこれ位で怯まない事は分かっておるよ。じゃが、わしも若者達の為に、一花咲かせようと思っただけじゃ」
「散り花じゃないのか?」
アルビネットが、一つ大きな深呼吸をして立ち上がる。
そして、呪文を唱えた。
「リバース」
再生の魔法だ。
腹部の傷痕が塞がっていく。
ここで綾乃が捕捉した。
「水仙人様。ダーク帝国の住民は、邪兵士やモンスターを除けば、普通の人間なのですよ。ただ、闇の力を持っているというだけで。ですから、闇の力で傷を治したとしても一瞬なのです」
「そうじゃったのか。じゃとしたら、倒すのは少々可哀想じゃな」
「おのれ、わたしを愚弄するか!」
肩に黒いバズーカ。
闇の気がたまっていく。
「ブラックバズーカ!」
「水仙人様!」
美理子がバリアーで水仙人を守る。
が、アルビネットは強い。
二人は飛ばされる。
「美理子、水仙人様!」
仲間達が集まる。
アルビネットはフッと笑う。
「ほら、もう一発行くぞ!」
二発目が発射された。
辺りに砂煙が舞う。
大穴の中、戦士達は倒れていた。
かろうじて生きてはいるようだ。
アルビネットが近づく。
トドメを差すつもりだ。
アージェスはついに剣を抜く。
「父上!」
ブラッディ・クロスが父親に向かい発射される。
戦士達に注目して、アージェスの行動を見ていなかったアルビネットは、それをまともに受ける。
「むう」
後ろに押され、体から煙が立っているアルビネットだが、倒れない。
瞳が、アージェスを捉えた。
「アージェス。そこまでしてこの者達を守ろうとするか」
「うっ」
その迫力に怯み、逃げ出そうとするアージェスだが、アルビネットはそれを許さない。
アルビネットが出した闇の鎖に、縛られてしまう。さらに、その鎖を引っ張られ、父親の足下へ。
「痛てて……」
アルビネットはその鎖を近くの木に固定し、アージェスを拘束する。
離してくれと叫ぶアージェス。
アルビネットは冷たく言い放った。
「ならん! お前はそこであの者達の最後を見ておれ」
穴の中。戦士達はふらふらと立ち上がっていた。
戦意は失っていない。
拘束されたアージェスを助けようと、動き出す。
「ラブリーダンシング!」
「アクアビーム!」
「エレクトロニック・サンダー!」
「スネーククラッシュ!」
デス・レインの散弾を避けながら、それぞれの必殺技を撃つ。アルビネットは、アージェスの側に寄る。すると、美理子達の技の衝撃が、アージェスにも伝わった。
「うわっ!」
「いかん! このままじゃ、アージェスまで傷つけてしまうぞ!」
アルビネットの狙いに気づいた水仙人が、美理子達の攻撃を止めさせる。
闇の王は、高笑いをした。
「フハハハハハ! そう。お前達が攻撃すれば、アージェスが傷を負うぞ!」
「お前さんは、どこまでアージェスを利用するのじゃ!」
「こいつはお前達を助けようとした。その罰は受けてもらう。たとえ息子だろうと!」
「むう……」
「が、その前に」
攻撃できない水仙人を、アルビネットの銃が貫いた。弾丸は爆発し、水仙人は大打撃を負う。
「げほっ」
「水仙人様!」
駆け寄ろうとする美理子達を制し、水仙人は一人、アルビネットに向かう。
その様子を、アージェスは悲しい顔で見ていた。
「何故、何故あんたはそこまで……」
「わしは前大戦の時、お前さんと同じくらいの弟子を失った。もう、あんな思いはしたくない。それに、お前さんが死ぬと、悲しむ者がいるのでな」
「え?」
「美理子とお前さんを、幸せにしてやりたいのじゃ」
水仙人は笑った。本当に、優しい目で。
爆発を体に受けながら、アージェスの鎖を斬る。
アルビネットは、水仙人に蹴りを入れ、飛ばした。アージェスがその後を追いかける。
戦士達も走る。
ドシャッ。
地面に激突した水仙人は、ぼろぼろだった。
息も絶え絶え。
涙を流す美衣子達の顔を一人一人眺める。
「みーこ。美理子。みんな……。わしは、幸せじゃ。こんなにわしの事を思ってくれる者達に囲まれて、逝く事が……、できるのじゃから……」
「水仙人様、待って、待って下さい!」
「最後まで、共に戦えんで、すまんな……。聖剣は、全部揃った。後は……、綾乃、頼むぞ……」
「はい……」
「アージェス。美理子。幸せにおなり……」
水仙人は目を閉じた。
アージェスは、堪えきれず泣き出す。
戦士達の嗚咽が響いた。
(ここは?)
水仙人は幻を見ていた。
光の中、ミーアノーア、サイーダ、そして、前の大戦で水仙人と共に戦い、ダークキングに殺された親友ドラミールが、彼を手招きする。
(迎えに来て、くれたんだな)
水仙人は若かりし頃の姿である、スゥイに戻っていた。
水仙人と名を変える前の自分に。
ミーアノーアの騎士として、夫として彼女を支えていた頃に。
(スゥイ。お疲れ様。あなたは良くやったわ。もう、休んで)
(ミーアノーア……)
(お父様。これからはまた、ずっと一緒ですよ)
(サイーダ……)
(スゥイ。遅くなってすまない。君とまた会えて嬉しいよ)
(ドラミール……)
三人の魂に導かれ、水仙人は天に昇って行った。
穏やかな、死に顔だった。
「逝ったようだな。水仙人とやらは」
アルビネットが、残った者を倒そうと構えていた。
アージェスがキッと決意を固め、アルビネットに向かう。
「父上、もう止めてくれ!」
「アージェス、お前はまだ……!」
「うるさい!」
水仙人が示してくれた事。自分ができる事をアージェスは考えた。そして、アルビネットの腕を掴む。
両腕を捕まれたアルビネットは、美衣子達に攻撃する事はできない。
アージェスは気を溜める。
「俺の闇の力でも、ダーク帝国に帰る事ぐらいはできるはず。父上、このまま俺と帰ってくれ!」
「アージェス!」
美理子が叫んだ。
アージェスは振り向く。
「美理子。ダーク帝国で、待ってる」
「待って、アージェス!」
「ウオオオオオッ!」
アージェスの気が、闇が、大きくなっていく。
黒い闇の玉が、父子を包んだ。
フッ。
笑いながら、アージェスは消えた。
アルビネットを連れて。
mirikoworldの戦士を守る為に、彼は行動を起こしたのだ。
「美理子……」
美衣子が、美理子の肩を抱く。
「みーこ。わたし、ダーク帝国に行くわ。アージェスの為に。水仙人様の為に」
「うん」
そこにいた全員が頷いた。
思いは、きっとみんな同じ。
戦いは、ダーク帝国へと移って行くのだった。




