守りたいもの
今、美理子達の目の前に、アルビネット・サタンがいる。
その顔は、険しい表情をしていた。
身長180㎝、がっちりとした体型で、肩幅が広い。服で隠れているが、胸板も厚いだろう。
髪はオールバック。目は大きくつり上がっている。片耳にピアスをしているのが特徴的だ。
アージェスは、どちらかというと母親似の、スマートな美形だ。
アルビネットが気を溜める。
前に、アージェスの体を借りて作った、あの黒い銃が現れた。
これがアルビネットの武器らしい。
美理子に向けて構える。
息子の心を奪った娘。
敵国の女王として、アージェスと付き合うのは、許されない。
「mirikoworldの女王美理子。お前にアージェスは渡さない」
弾丸が発射された。
美理子は大地剣を構える。
「はっ!」
軌道を読み、弾丸を真っ二つに斬り裂いた。
しかし彼女は忘れていた。
この弾丸、爆発するという事を。
バン!
地面に弾丸が落ちて爆発した瞬間、小石が彼女の顔めがけて飛んで来た。
「キャッ」
思わず両手でガードする。
アルビネットには、それが好機とうつった。
すかさず二度目の弾丸を放つ。
「美理子!」
小人達がミラクルハリケーンで、弾丸を飛ばした。弾丸は強風ごと邪兵士の群れに当たる。
数人の邪兵士が倒れた。
「おのれ、よくも!」
アルビネットの怒りが増す。
彼は銃の形を変える。
どうやら闇を錬成して、いろいろな種類の銃を造る事ができるみたいだ。
まるで錬金術のよう。
今度は散弾銃の形になった。
「デス・レイン!」
飛び散る銃弾が血の雨のよう。
美理子は優しさのオーラで、美衣子は胸のファイヤーストーンで、バリアーを張った。
バチバチバチッ。
あられのように弾が弾けていく。
この弾丸は爆発はしないようだ。
アルビネットが邪兵士に、一斉にダークエナジーをバリアーに当てろと命令した。
邪兵士達はそれを受け、両手を前に突き出す。
黒い気が一つとなり、バリアーを押した。
美理子達の力が弱まっていく。
それを見て、またもやアルビネットが銃の形を変えた。
より強力な武器に。
大きなバズーカが、肩に固定された。
「ブラックバズーカ!」
バリアーは粉砕し、美理子達は城の壁に激突した。
その破壊力は凄い。
激戦をくぐり抜けて来た戦士達も、すぐには立てなかった。
「うう……」
アルビネットが美理子の顎をクイッと持ち上げる。
その目は非常に冷たい。
「アージェスは、どこだ?」
その眼差しに恐怖を感じながらも、美理子は黙ったまま、答えない。
「フンッ」
アルビネットが美理子の頬を拳で殴った。
倒れ込む彼女の胸ぐらを掴み、もう一発。
美理子は口から血を流す。
「美理子っ!」
女王を助けようとする戦士達だが、邪兵士達が邪魔をする。
まず彼らを先に倒さないと。
その間にも、アルビネットは、美理子に迫っていた。
「さあ、アージェスの居場所を言え」
それでも美理子は、アージェスの居どころを喋ろうとはしない。それどころか、アルビネットの顔をキッと睨んでいる。
アルビネットは業を煮やした。
武器は最初の小型の銃に戻っている。
それを美理子の額に当てた。
「ならば、死ね」
冷たく言い放つ。
その時ーー、
「待ってくれ、父上!」
アージェスが、城の中から飛び出した。
大切な、自分が好きになった者が殺されそうになっている事が、我慢できなかったのだ。
しかも、自分の父親の手で。
アージェスを見張っていた兵士達が追いかける。
「アージェス君、行ってはいけない。戻るんだ!」
腕を掴むが、笑って振りほどかれる。
「ありがとう。でも俺は大丈夫です」
顔は笑っているが、その目は諦めと悲しみの色が混じっていた。
まるで、死を覚悟した目。
アージェスはゆっくりとアルビネットに近づく。
アルビネットは、美理子を離し息子を見た。
「アージェス……」
アージェスは父親の前にひざまずく。
「父上。俺がダーク帝国に帰ります。ですからこれ以上、この者達を傷つけないで下さい」
「何!?」
丁寧な口調で願い出る。
アージェスは本気だ。
自分がダーク帝国に帰る事で、美理子達が傷つかないなら、たとえ罰を受けても構わない。
アルビネットが唇を噛む。
「それが、お前の本心か?」
「はい」
「この者達を守ろうと言うのか?」
「俺は気づいたんです。大切な、守りたい存在に。だけど、それを父上が壊そうとするなら、俺がダーク帝国に帰るしかない」
「むううううう……」
アルビネットの邪悪な気が膨らんでいく。
怒りがさらに増しているようだ。
目が充血し、拳に力が入る。
「許さん、許さんぞ!」
アージェスの服を掴み、立たせる。
そのまま彼が放ったパンチが、アージェスのボディに決まる。
「うっ」
足がもつれ、倒れそうになるが、何とか踏ん張る。
だが、
「まだだ!」
わき腹への強烈なキック。
さすがにこれには耐えられない。
地面に手をつく。
アルビネットが、背中に足を乗せた。
力を込め押し潰される。
「うわああああっ!」
苦しい。
背中の骨がギシギシと音を立てている。
このままじゃ、折られる。
アージェスも体に力を込め、起き上がろうとする。
「無駄だ。身長も筋肉の量も、わたしの方が上。アージェス。お前がわたしに敵うとは思えん」
「それでも、俺は……」
「むっ」
体勢を変え、アルビネットの足から抜けた。
それでも、動けるまで時間がかかりそうだ。
「ほら見ろ。体がまともに動かないじゃないか」
「はあはあ……」
呼吸が早いアージェスを、アルビネットが持ち上げる。
そこで一瞬、優しい顔になる。
「勿論、お前はこのままダーク帝国に連れ帰る。ただ、な……」
美理子達の方に視線をやった。
「お前の心を乱したこいつらを、わたしはどうしても許す事ができないのだ!」
気が溜まり、マシンガンが現れる。
デス・レインを撃つ気だ。
「美理子、逃げろ!」
アージェスの叫び。
邪兵士達を片付けた水仙人達が、女王を守ろうと駆けつける。
「スーパーウインド!」
「グレート・シー・ラビリンス!」
「フレィムガン!」
聖戦士達の魔法が炸裂。
デス・レインは消え去った。
さらに、綾乃の鞭が伸びて来る。
「ウェイビーストーム!」
アルビネットの手から、アージェスを奪い返す。
鞭で優しくアージェスを抱え、自分たちの後ろに降ろす。
「綾乃、何をする!」
「お黙りなさい! アルビネット。アージェスは、あなたの道具ではないのですよ!」
「何!?」
「彼は自らの意思で、女王様を守ろうとしました。それはアージェスが、愛を知ったという事。彼は闇から、逃れようとしているのです!」
「ええぃ、黙れ!」
アルビネットが綾乃に気をぶつける。
綾乃は顔をしかめて尻餅をついた。
水仙人が支える。
「綾乃、大丈夫かの?」
「はい」
水仙人は杖を構えながらアルビネットを見つめる。
アルビネットの方も。
空気が、緊迫していた。




