アージェスとの再戦
ビュッ。
美衣子の剣がアージェスの頬をかすめる。
負けじとアージェスも反撃。
二本の剣を巧みに操り、美衣子と美理子を攻撃してくる。
美衣子達は剣にはまだ慣れていないが、得意の魔法を使って補っていた。
さらに美衣子には格闘術がある。
強気な発言をしたアージェスだが、彼女達に致命傷を与える事はできていない。
彼自身もほぼ無傷だが。
お互い手の内を知っているという事か。
このままでは埒があかない。
アージェスはふと立ち止まった。
美衣子と美理子、そして他の戦士達はじっと彼の様子を伺う。
何を仕掛けてくるか。
「フッ」
アージェスが少し笑った。
美理子は目を離さない。
「このままではきりがない。無駄な体力を使うのは止めて、そろそろ本気で決着をつけるぞ!」
そして彼は自分の持っている剣を、いきなり空中へ放り投げた。
「えっ!?」
驚く美理子達を尻目に、自らも空中へジャンプする。
アージェスは普通の人より跳躍力が優れている。だから、より高く飛ぶ事ができる。
これもダーク帝国に入ってからの訓練の賜物か。
「まずい! 空中から切り込むつもりだ。二人とも逃げろ!」
ジースが美衣子と美理子に向かって言う。
しかし一足早く、空中のアージェスは二本の剣をキャッチして、十字に構える。
「行くぞ! ブラッディ・クロス!」
「くっ……!」
ジースが駆け出した。
周囲に砂煙と土を巻き散らし、ブラッディ・クロスは激突した。
「みーこ! 美理子!」
パンパン達の悲痛な叫び。
砂煙は晴れ、太陽の光が当たった。
大きく開いた穴の中心に、美衣子、美理子、そしてジースの姿があった。
すでに着地していたアージェスからため息が漏れる。
「ちっ」
ジースが彼女達を助けていたのだ。
「大丈夫か? 二人とも」
ジースが美衣子達を見つめて尋ねる。
「ええ、何とか。ありがとうジース」
「そうか。無事で良かった。でも次からは気をつけてくれよ。俺もいつでも君達を助けるってのはできないからさ」
「分かったわ。気をつけます」
ジースは優しく注意を促すと、その場から去った。
何も言わなかったが、まだ体が回復していないのだろう。
美理子達もそれは理解していた。
だからこそ自分たちでアージェスを止めようと思い、彼の方に向きを替えた。
剣を構えたままのアージェス。
美理子と美衣子は一斉に駆け出す。
ダッ!
風を切る音が響く。
彼女達は同時に剣を振り下ろした。
聖麗剣と大地剣がアージェスの頭上に近づく。
アージェスは両手を上に上げ、彼女達の剣を受け止めた。
ガキッ。
剣がぶつかる高い音。
そのままアージェスは二人の剣をはね飛ばした。
「あっ!」
跳ね飛ばされ、足元に刺さった剣を拾う間もなく、アージェスが迫って来た。
ダッ!
アージェスの繰り出す剣を避けながら、美衣子達は上手く自分たちの剣を掴む。
そして美理子は、アージェスの背後に回り込んだ。
「何ッ!」
急いで振り向こうとするアージェスだったが、美理子は彼の背中に向かい、思い切り大地剣を振り下ろした。
「うっ……」
前に倒れ込むアージェスだが、まだ意識はあり、顔だけ上げた。
そのアージェスの首元約1㎝の所で、美衣子の剣が止まる。
少しでも動けば、刺さりそうな距離だ。
アージェスの額から、一筋の汗が流れる。
「何故、トドメを刺さない?」
剣を止めたまま動かない美衣子に、アージェスが質問する。
「あなたを殺す理由が、見つからないから」
躊躇したような顔で、その問いに答える美衣子。
「殺す理由だと? 馬鹿な。殺しに理由などない」
「確かにそうかもしれない。けれど、今ここであなたを倒してはいけない気がする」
「俺に対するお情けのつもりか?」
「いいえ」
「じゃあ何だ」
「綾乃さんから聞いたの。あなたの小さい頃の事。あなた、もともとは翼の国ウイングスに住んでいた人だったのね」
「!!」
「そして、三才の時にウイングスからダーク帝国へと連れ去られ、父親である国王、アルビネット・サタンによって、悪の王子へと変えられていった」
美衣子は切々と悲しげな目で話す。綾乃の時と同じように、アージェスの事も理解しようとしているのだろう。
美理子もアージェスの後ろから、美衣子の隣に来る。
「その後、ウイングスに残されたお母さんは病死し、それを知ったあなたは、心を閉ざし、全てを恨んで戦いに身を投じた」
「それがどうかしたか?」
「えっ?」
黙って聞いていたアージェスが反論する。
「俺の過去がどんな物であったかなんて、お前達には関係ない。アルビネット・サタンは国王であり、それ以上に俺の父親だ。父親のやるべき事に協力するのは、息子としての俺の誇りだ」
美衣子はそれでも、彼の心の隅にあるだろう光に訴えかける。
「その誇りは、はたして本物なのかしら?」
「何だと!?」
「わたし達がmirikoworldを離れて聖剣探しをしていた時に、この大地に攻め入ったあなたは、仲間を守ろうとした美理子の涙に心惹かれて、ダーク帝国に連れ戻されたそうね。その時あなたは美理子の涙の中に、母親のそれと同じ物を見たんじゃないのかしら」
「何が言いたい?」
「つまり、あなたはもう一度、母親の愛の中に抱かれたいと思っているの。誰かの、優しさの中にね」
「ふざけるな! 確かにあの時、俺は女王美理子の中に母の姿を見た。だがそれは一瞬の幻だ。今はそんな感情はない!」
「いいえ。表面上は闇の心に囚われてはいるけれど、あなたの心の奥底には、きっとまだお母さんの面影が残っている。だから、今ここで死ぬんじゃなくて、お母さんの為にも生きて正しい事をしてもらいたいと思うの」
「余計なお世話だ。その口黙らせてやる!」
「アージェス! お母さんはあなたが悪に染まるのを望んでいなかったはず。必死に手を伸ばして、あなたを取り戻そうとしていたと思う。きっと!」
「……うっ」
「目を覚まして、アージェス!」
アージェスは口をぐっとつぐみ、黙ってしまった。そして、深く息を吸うと、
「言いたい事はそれだけか?」
まるで意に介していないようで、すうっと立ち上がる。
邪気が辺りに広がった。
「残念だったな。俺は闇の洗礼を受けたと言っただろ。したがって、こんな事もできる」
彼が気を溜めると、背中の傷が塞がった。
二本の剣を構える。
美衣子達は恐怖を感じ、一歩後ろに下がった。
「俺がここに来たのは二つの目的がある。一つはお前達mirikoworldの戦士達を倒す事。もう一つは、そこにいる裏切り者を粛清する事だ」
そう言って、剣を綾乃の方に向ける。
「まさか!?」
「綾乃さんっ!」
美理子と美衣子が止めようとする。
アージェスは二人の頭の上を飛び越え、真っ直ぐ綾乃の元へ走った。
綾乃が鞭を取り出す。
「逃げて、綾乃さん!」
美衣子の叫びも、回りの戦士達の助けも断り、綾乃は一人前に出る。
裏切りの責任は、自分で取るという事か。
「いい度胸だ!」
アージェスが綾乃の元にたどり着くまで、あと少しーー。




